ホーム

関連本の世界

2002年4月以降に出版された本

『指輪物語』中つ国の歩き方
『指輪物語』その旅を最高に愉しむ本
イン・ドリームズ/メイ・イット・ビー(楽譜)
トールキンによる『指輪物語』の図像世界


『指輪物語』中つ国の歩き方
 書 名 :『指輪物語』中つ国の歩き方
 著 者 :柊美郷とファンタジー研究会
 発 行 :青春出版社
 価 格 :1100円+税
 版 型 :A5版245頁



 対 象 :初心者

 極めて正統派な『指輪物語』の解説本です。キャラクター解説、あらすじ、歴史、用語集、果ては読了する為のアドバイス、と必要な物はあらかた揃っています。解説本としては後発の為、映画から入った人への配慮もなされています(ストライダー、韋駄天など)。指輪を良く知っているファンには目新しい情報は何もありませんが、初心者にとっては良心的な解説本と言えそうです。

 初心者に判り易く、というコンセプトを強く感じる本書ですが、各記述は実はそれほど詳細という訳ではありません。例えば用語集の「ルシアン」の項を見ると、エルフの王シンゴルとメリアンの娘で、ベレンの妻。美しい娘で、ベレンにティヌゥヴィエル(小夜啼鳥)と呼ばれたとあります。ファンの方なら判るでしょうが、重要な情報がいくつか抜けており、これではアラゴルンとアルウェンの関係から「ルシアン」に辿りついた初心者はかえって混乱しそうです。が、まあスペースの都合もありますし、いっそネタばれを避けていると解釈すれば納得できるレベルであろうと思われます。

 解説に徹している為か、記述はそっけなく参考書の感が強い本です。この先は既に『指輪』を読了している人間のたわごとですが、この「参考書感」はかえってマイナスな気がします。本を読むのは娯楽の為なのですから、無味乾燥な参考書を手にしながら『指輪』を読むという光景には違和感を覚えるのです。本書は、『指輪』の各種設定を伝えてはくれますが、『指輪』の面白さは伝わってこないのです。初心者にアピールするには、もっと「この小説はこんなに魅力的なのだ」という点をアピールして欲しかった気がします。個人的な感情論ですが…。

 とはいえ、良心的な解説本であることは確かです。小説の楽しさは読者本人が感じるものだという見地に立てば、解説本のそっけなさなど瑕疵にはならないでしょう。


『指輪物語』その旅を最高に愉しむ本
 書 名 :『指輪物語』その旅を最高に愉しむ本
 著 者 :吉田浩
 発 行 :三笠書房
 価 格 :495円+税
 版 型 :文庫版254頁



 対 象 :初心者

 かなり後発な『指輪』解説本です。内容は、キャラクター紹介、あらすじ、辞典、年表、コラム、といった標準的なところ。巻末の参考文献を見れば明らかですが、現在書店で容易に入手できる基本的な本を底に敷いた解説ですので、『指輪』のファンだという人にとって目新しい情報はありません。正直、何故今更この程度の本を出すのか? という疑問を感じます(文庫で安価という利点が売りかも知れません)。

 帯には大長編『指輪物語』が3時間で読める!と有り、この売り文句が、ある意味本書を集約しています。本書を読めば、「一応」他人と『指輪』の会話を交わせる程度の教養が得られます。何の為にそんな教養が必要なのかは不明ですが…。もちろん『指輪』を3時間で読める訳は無いのであって、本書のあらすじ紹介には思いっきり省略が効いています。ファンならば「最も省いてはいけない点が省略されている!」と怒るかも知れません。そう、つまり、陳腐を承知で言ってしまいますが、省略されているのは「感動」です。

 本を読むのは、極論すれば「感動」を得るためではないのか? 単に『指輪』の知識を入手することに意味があるのか? それはただの「ネタばれ」ではないか? どうも納まりの悪さを感じるのですが、もしかしたら単なるファンの愚痴であるのかも知れません。私が無知なだけで世間的にはこういう需要があるのかも知れません。例えば上司が『指輪』ファンで、話くらい合わせないと人間関係にヒビが入るけど、本編を読むほど熱心になれない人には有用なのでしょう。たぶん…。

 まあ、手っ取り早く『指輪』の知識が得られる本なのは確かです。ただし面白くはありません。それはもちろん『指輪』の所為では無く、本書の罪ですらないのでしょう。本書は『指輪』の知識を与える為の実用書であり、その目的は「感動」と最も遠い所にあるのですから。


イン・ドリームズ/メイ・イット・ビー(楽譜)
 書 名 :イン・ドリームズ/メイ・イット・ビー(楽譜)
 著 者 :森乃リコ(編曲)
 発 行 :ヤマハ音楽振興会
 価 格 :650円+税
 版 型 :菊倍判縦12頁



 対 象 :ピアノの素養がある方

 えーと…、楽譜です。ピアノ編曲された『In Dreams』の弾き語りと『May It Be』のソロ/やさしいソロの計3種の楽譜、歌詞が収録されています。ヤマハHPの情報によるとオフィシャルスコアだそうですが、どの辺が“オフィシャル”なのかは、門外漢の私には良く判りません(“編曲”とか書いてあるのですよね…)。

 とりあえず、ピアノも音楽も判らない身としては、余計な事を言わずに、ただ情報のみを提供しておくことにします。それにしても私は、何がやりたくて読めもしない楽譜など買ったのか…?

 他に『ピアノソロ・弾き語り・コーラス「ロード・オブ・ザ・リング」サウンドトラック厳選アルバム』の楽譜もあるそうです。


トールキンによる『指輪物語』の図像世界
 書 名 :トールキンによる『指輪物語』の図像世界
 著 者 :W.G.ハモンド C.スカル 井辻朱美訳
 発 行 :原書房
 価 格 :3800円+税
 版 型 :A5版350頁ハードカバー



 対 象 :中級者以上

 トールキンの残した「文字でない」創作物、イラスト、スケッチ、落書き(!)などの紹介と解説書です。これまで、日本で見られるトールキン教授の絵としては、(既に別のものに差替えられていますが)『指輪物語』や『シルマリルの物語』の表紙を初めとする数点のみであったことを考えれば本書の訳出は大きな前進です(まあ『ブリスさん』等もありますが)。

 トールキンと言えば、「文字で」世界を創造した人物というイメージが強いのですが、本書を見るとヴィジュアル面でも強いイメージを確立しようとしていた一面があることが判ります。ただ問題(と言って良いのかは微妙ですが)な事に、トールキンの絵は決して写実的ではありませんので、これをオフィシャルな中つ国の情景と捉えるのはやや危険です。やはりここは表題どおりイメージ(図像世界)と捕らえるべきかもしれません。

 考えてみれば、トールキンの文章も決して写実的ではありません。例えば有名なエルロンドの外見描写のシーンを引用しましょう。

 エルロンドの顔は、若くもなく、年老いてもおらず、年齢がありません。とはいえそこには、記憶に残る喜びと悲しみの数々が書きこまれていたのです。夕闇の影のようなその黒髪には銀の飾り環がはめられていました。目の色は晴れた夕暮れの灰色、そしてその目に浮かぶ光は、星々の光にまがうほどでした。
『指輪物語 旅の仲』より

 美しいものを「美しい」と書いてはいけない。文字の間から読者自身に「美」を感じ取らせる点にこそトールキンの筆致の冴が光るのです。氏の絵が今一つ日陰の扱いを受けてきたのは、文字で世界を表現する能力程には(残念ながら)絵で世界を表現する能力は評価されていないという事実があってのことでしょう。また、本書にはキャラクターのイラストはほとんど収録されていません。御本人が人物像が苦手だったというのがその理由のようですが、「絵にも描けない」という事実はある意味「らしい」とも言えます。トールキン自身の創作姿勢も「中つ国を創る」のではなく「中つ国を探索する」というものであったようです。してみれば「絵に描けない」という事そのものがある種のイメージを喚起してくれます。我々とて、遥か昔の人物の肖像を描く事は叶わないのですから。

 本の内容に話を戻しましょう。典型的なファンの為の本というのが正しい位置付けでしょう。ご本人も既に亡くなられ、「オフィシャルの」情報に飢えている我々日本語オンリーなファンにとっては必須の書と言えるでしょう。


ホーム

『関連本の世界』へ戻る