褐色脂肪(2)(週刊やさしいダイエット第92号より)


■はじめに

今日は前号の続きで、脂質を燃やす脂肪;褐色脂肪についてお話したいと思います。その前にもう一度今回のテーマの要点を書きますと、

・褐色脂肪には余分なカロリーを消費する働きがある
・その働きの鍵は「β(ベータ)3アドレナリン受容体」と「脱共役たんぱく質(UCP)」である
・肥満治療のため、現在これらの研究が進んでいる

となります。そして前号では一つ目の鍵「β3アドレナリン受容体」についてお話しましたので、今回はもう一つの鍵「脱共役たんぱく質」を取り上げたいと思います。

■脱共役たんぱく質(UCP)とは?

はじめに「脱共役たんぱく質(UCP)」は、褐色脂肪の(正確には褐色脂肪などの)細胞の中の「ミトコンドリア」に含まれるたんぱく質です。「脱共役」なんて聞きなれない言葉ですが、これはどう言う意味なのでしょう?

「脱共役たんぱく質」は英語でuncoupling protein(アンカップリング・プロテイン、略してUCP)と言います。「アン」は「アンビリーバボー」などの打消しのアンで、「カップリング」は「カップリングパーティー(お見合いパーティー)」などくっつけると言う意味。そしてプロテインはそのままたんぱく質ですので、UCPは「別れさせ屋のたんぱく質」と言うことになります(それを科学的に言えばun=脱、coupling=共役、protein=たんぱく質となります)。

■脱共役たんぱく質(UCP)の働き

ではUCPは一体何と何を別れさせるのでしょう?それは「パワーえさを作る歯車」と「脂質を燃やす歯車」です。前回ミトコンドリアは「パワーえさ生産工場」だとお話しましたが、この工場はいつも稼動しているわけではありません。人間が運動してパワーえさを消費し、パワーえさが足りなくなったら動き出すのです。つまり、運動せずパワーえさが足りている状態では歯車は動きません。

一方、ミトコンドリアにはパワーえさを作る他に、脂質を燃やす働きがあります。こちらの方がダイエットには重要なのですが、この歯車は何とパワーえさを作る歯車と連動しているのです。この為、パワーえさを作る歯車が動いていない時;すなわち運動していない時には、脂質も燃やされないのです。

しかし、UCPには先ほどもお話した通りこれら2つの歯車を別れさせることが出来ます。よってパワーえさを作る歯車が動いていない時;すなわち運動していない時でも、脂質を燃やす歯車だけグルグル動かし、脂質を燃やすことが出来るのです。そして燃えた脂質は熱エネルギーとなって体の外に出て行きます。

ちなみにUCPには現在4つのタイプがあることがわかっており、それぞれ次の場所にあると言われています(勿論これらの細胞のミトコンドリアの中にあると言うことです)。

UCP1:褐色脂肪
UCP2:全身(特に胃腸、脾臓、肺)
UCP3:骨格筋、心筋、褐色脂肪
UCP4:脳

■褐色脂肪に関する最近の研究

ここまで読んで、「まぁ、UCPって何て素晴らしいの?!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし実はβ3アドレナリン受容体のように、日本人の中にはUCPがうまく働かない人がいるのです。最近の研究によれば、日本人では24-25%の人にUCP1の不具合があり(正確に言えばUCP1の遺伝子に不具合があり)、その場合基礎代謝が約100kcalも低くなってしまうのだそうです。もしβ3アドレナリン受容体とUCPの両方に不具合があったら・・・と思うと、ちょっとぞっとしますよね(^^;)。

一方、人間は褐色脂肪を40gしか持っていません。そのため、ネズミのように体格に比べて褐色脂肪が多い動物はともかく、人間では褐色脂肪の働きはそれほど重要でないかもしれない、寧ろ別のタイプのUCPを持つ骨格筋の働きの方が重要ではないかと言う説もあります。

■おわりに

以上で褐色脂肪と、それに関連するβ3アドレナリン受容体やUCPのお話を終わりにします。最後になりますが、もし貴方がなかなか痩せられず、その原因がどうやらβ3アドレナリン受容体やUCPの不具合によるらしいと判ったら、貴方は一生痩せられないのでしょうか?また褐色脂肪を活性化すると宣伝されているサプリメントを飲めば、何とかなるのでしょうか?

実は、必ずしもそうではありません。大学病院の中には患者さんの遺伝子を調べ、β3アドレナリン受容体やUCPの不具合が見つかったら、それによって落ちているであろう基礎代謝の分だけ、最初からカロリー設定を低くして肥満治療に取り組んでいるところもあります。しかし、日本人の中には昔からある一定の割合で遺伝子の不具合を持つ人はいたはずなのに、肥満が問題となりだしたのはつい最近のことです。これは「遺伝子の不具合があっても、飽食や運動不足が無ければ肥満にはならない」と言うことを示しています。

また、現在β3アドレナリン受容体やUCPの働きを高める物質の研究が進められていますが、いまだに「これだ!」と言うものは見つかっていないようです。と言いますのも、肥満は糖尿病や高血圧など色々な生活習慣病を悪化させる原因ですので、もしその様な物質が見つかれば製薬会社がこぞって製品化し、全国の病院で使われるはずだからです。褐色脂肪を活性化するとうたわれるサプリメントは色々ありますが、そんなに良いものなら何故治療に使われないのか、慌てて買う前に考えてもらえたらと思います。


1つ前の号へトップページへ目次へ1つ後の号へ