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            楽器屋さんとの上手な付き合い方

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【楽器屋さんとの上手な付き合い方】

 最近、楽器屋によく行く。生徒が楽器を買い換えることが多くなったこともあるし、いろいろと相談を持ちかけられることも増えたからなのだが、自分にとっても勉強になるので、生徒や相談者にはできるだけ同行するようにしている。必ず最初は私が同行する理由はもう一つある。楽器屋と「シロウト」が付き合うのはとても難しい場合があるからだ。

 楽器屋にまつわる相談も多いので、何回かに分けて楽器屋とのことを書き綴ってみようと思う。「どこどこの楽器屋は信用できますか?」という質問を良く受けるが、もちろん、特定の楽器屋を誹謗したりPRしたりする意図ではないことはお断りしておく。すべての楽器屋は、特定できる既述を排して書くつもりである。その点、ご了解ください。

 残念ながら、楽器屋すべてが信用できるとは限らない。恐ろしいことだが、プロやベテランのアマチュアでもだまされてしまうことがある。世間でどれだけトラブルが起きたのかわからないが、泣き寝入りをしている人も多いだろう。ここでは、私が直接当事者と話をしたケースの一部を取り上げる。

 もちろん、良心的な楽器屋も少なくない。信頼に足る職人さんもたくさんいる。しかし、少数(であることを祈りたいが・・)の悪徳、ないし能力のない楽器屋が、「楽器屋は信用できないもの」と見られる状況を作り出していることは、とても残念である。

 連載は、以下のような構成を考えている。当初は書籍にする予定だったものであるが、出版社側の事情で取りやめになってしまった経緯がある。それを簡略化したものを連載する。簡略化された項目は以下のとおり。

第一章 トラブルの実例・・楽器屋とユーザーの関係を探る
1) トラブルの実例と分類
2) トラブルが起こる原因を探る
3) どうすればトラブルを回避できるか
第二章 楽器屋とは何か・・その成立と種類
1) 楽器屋の源流と日本的な発展
2) 楽器屋の種類とその判断法
3) 楽器屋の内情、しくみと販売方法
第三章 失敗しない楽器選びと楽器店との付き合い方
1) 楽器を買う前に知っておくべきこと
2) 楽器選びは「楽器屋選び」である
3) 「相場」と「値引き」・・楽器の値段の不思議
4) どんな楽器屋が自分に合っているかを知る
第四章 楽器屋さんとの付き合い方

 ご意見、ご質問、また情報などがありましたら、掲示板やメールでお知らせください。

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第一章 トラブルの実例・・楽器屋とユーザーの関係を探る

 初めに、実際に起きたトラブルを元に、楽器屋とユーザーがどのような関係にあるのかを理解したい。冒頭に記したように、ここに取り上げたトラブルは私が直接当事者と話をしたものの一部である。間接的に聞こえてきた事例には、もっと悲惨なものも少なくない。

(1)トラブルの実例と分類

 楽器屋にまつわるトラブルは多岐にわたるが、典型的なケースをいくつかに分類して取り上げてみたい。

1) 楽器や弓に欠陥があったケース

● 楽器の内部に大きな傷があった
 200万と値段がついたイタリアのモダンヴァイオリンのケース。当時(10年以上前)としては相場だと思われた。音にやや不ぞろいなところがあり、買おうとした人が他の楽器屋に持ち込んで調べてもらったところ、裏に大きな傷があり、「売り物にはならないはず」とされてしまった。これは借りた楽器を返却することで未然に被害は防ぐことができた。
● 楽器が虫食い状態だったケース
 古いフレンチの楽器。150万で購入した人がその後、裏板が剥がれたために他の楽器屋に修理に出して判明した。販売した楽器屋は店を閉じてしまったので、補償されず。他の楽器に買い換えるときに下取りしてもらおうとしたが、引き取ってくれる楽器屋は見つからず。結局知り合いに15万で譲ることになった。
● 弓に修復痕があった
 フレンチの弓。値段は相応だったが、弓先に折れて継いだ痕があった。購入者は気づかず、指摘されて楽器屋と交渉するも、以前の弓と交換を条件にされる。楽器屋は「気がつかなかった」と主張。トラブルで精神的に追い詰められて、本人はヴァイオリンをやめてしまった。
● フロッグを外したら大規模な補修がしてあった
 フレンチのオールド・ボウ。一週間ほど弾いていたときは調子が良く、相場と思われる額で購入。半年ほどで弓にゆがみが生じた。楽器屋には「古い弓だからそういうこともある。そりを直すなら熱でやるしかない」と言われた。他の楽器屋に持っていったところ、フロッグの下に新しい補修がしてあってバランスが壊れている状態だと言われた。購入した楽器屋にクレームをつけると、「フロッグのところはそもそも痛みやすく古いものは補修がしてあるのが常識。そんなことで弓の価値が下がるわけではないし、自分のところの補修に問題があるわけではない。弓のゆがみは他の原因だろう」。結局、弓の補修が上手な楽器屋を紹介されて一月以上かけて修理。なんとか使える状態になったが、「弓としての価値はほとんどなく、売り物にはならない」と言われた。
● 熱処理? 高価な弓があっという間に
 これもフレンチのオールド。やはり相場と思われる額で購入。三ヶ月ほどでゆがみが生じ、使い物にならなくなる。購入先の楽器屋は「寿命かもしれない」と主張。当然買戻しには応じない。他の楽器屋に相談したところ、熱処理をしたか、何らかの方法で歪んでいた弓を一時的に補正したのだろうと言われた。

 この他にも、量産品の駒が逆についていたり、駒足が楽器に合っていないなどの小さなケースも何件か実際に見たことがある。前者については、地方の弦楽器専門ではない楽器店で買ったケースが2件、後者は弦楽器専門店で買ったものにも3件出会った。間接的に聞いた話を書き始めると収拾がつかないほど事例は多い。

2) 楽器や弓がニセモノである可能性が強いケース

● モダンイタリアンとされた楽器
 15年以上前にモダンイタリアンという触れ込みで130万で買った楽器。買い換えるということで、転勤先の楽器屋に下取りしてもらおうとしたところ、本物であれば現在の相場は4〜500万の楽器なのだが、ニセモノで60万と言われた。売った楽器屋に下取りをしてもらおうとしたところ、その店で買い換えるなら100万で下取りするが、そうでなければ買い取りはしないと言われた。
● これもモダン・イタリアンがらみ
 最近の話である。誰もが知っている有名作家の楽器が、相場の3割ほど安い値段で売られていた。買おうと思った人が何人かに相談。これはあやしいかも、ということで、他の楽器屋二軒で見てもらう。ほぼ間違いなく違うもの、とされ購入を断念。未然に被害を防ぐことができた。
● 200年以上前のモノとされたフレンチ
 これも最近の話。ある楽器屋で200年以上前のフレンチという触れ込みで売られていたノーラヴェルの楽器を購入。その後、知り合いが「これはもう100年ほど若い楽器ではないか?」と言われて、他の楽器屋で見てもらう。見てもらった楽器屋の見解は、1900年代初頭のフレンチで、工房も特定できた。購入した楽器屋にクレームをつけたところ「私たちはラヴェルで売っているのではなく、その金額に見合った楽器だというトータルの判断で売った。仮にそれが100年前のものでも、その価値のある楽器だから売った金額には自信がある」との回答。買い換えるなら売値で下取るが、買い戻すなら2、3割と言われた。

 楽器の真贋をはっきりさせることは難しい。もちろん、シロウトにできることではない。しかし、楽器屋すべてに鑑定の能力があるわけでもないし、楽器屋にすべて責任があるわけではないケースもある。また、楽器の価値は作家の名前だけで決まるものでもなく、非常に「曖昧な」ものである。楽器屋に悪意がないのにニセモノを売ってしまうこともあるだろう。だからこそ、慎重な検討が必要である。

3) 修理にまつわるトラブル

● 勝手に楽器をいじられてしまったケース
 この手の話は、たくさん聞いた。というか、私もやられてしまった経験がある。はがれを直すために飛び込んだ楽器屋(職人一人の店)で、「はがれだけ直してください。他は手をつけないで下さい」とお願いしたのに、「バランスが悪かったのでネックを少し上げておきました」とのこと。職人さんは、自分が気に入った調整状態でないと手を入れたくなるもの。
 このくらいなら簡単に再調整できるので実害はそれほど大きくはないが、頼みもしないのに「少し厚すぎるから」と裏板を削られてしまった人もいる。こうなると元に戻すことが不可能で、大問題である。無断で楽器に手を入れる楽器屋ほど、クレームをつけると「シロウトが何を言うか。プロの自分がそう判断したのだから黙ってしたがえばよい」という態度を取りがちである。
● 正体不明の修理費
 修理費にまつわるトラブルも多い。楽器の修理は、何をやったかがシロウトにはわからないことが多いために、楽器屋の言い値を支払うしかないからである。後から他の人に聞いて「あれっ」と思って初めて気がつくことも多い。しかし、楽器屋にも事情がある場合も多い。楽器の修理は、かかる手間に比べて費用が低く設定されていることが多いからだ。こうした場合、良心的な楽器屋だと、むしろ修理を断ることも少なくない。このあたりのことは、まとめて別項にする。
● 本当に修理をしたの?
 私のところに来た生徒さんのケース。家で死蔵されていた古い鈴木ヴァイオリンを弾ける状態にしてもらうために、ある楽器屋に調整を依頼した。金額はなんと10万円! 何も知らないこの生徒さんは、言い値を支払った。生徒さんがその後始めて私のところに来たときに、私は楽器を見て「これは調整してもらわないといけないかもしれないね」と言ったところ、以上のような経緯を話してくれた。駒足も合っておらず、傷だらけの表面もそのまま。何もやっていないのは歴然としていた。これで10万円も取れるなら、どんな修理も断らないはずだ。過去にも、これに近い例をいくつか目にしたことがある。

 楽器店とのトラブルで典型的だと思われるものの例を挙げた。「そんな馬鹿な」と思われる例もあったかもしれないが、実際に起きているトラブル例はさらに多岐にわたっており、深刻なケースもある。次回は、これらのトラブルが起こる原因を考えてみる。

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