早期前立腺癌の治療法

 ここ数年、PSA検診と超音波ガイド下生検の普及により早期前立腺癌が急増しています。前立腺癌の進行は緩徐なため、その中には、生涯治療を要しない症例を少なからず含んでいること、高齢者に好発するために年齢によっては根治療法が必要でないこと、手術だけでなく他の治療法の選択肢があることなどから、患者ならびに医者双方が治療法選択に悩むことがしばしばあります。

 早期癌の治療法として、前立腺全摘除術、放射線療法、内分泌療法および無治療経過観察があげられ、年齢、PSA値、癌の顔つきの悪さ(Gleason Score)に応じてこれらの治療法から選択をします。各種治療法の治療成績、治療に伴う合併症について十分に時間をかけ理解した上で治療法を決定するのが理想であります。しかしながらこれがなかなか難しいです。治療成績自体公表している病院はほとんどなく、また海外の報告でも治療法を比較した大規模な研究試験が少なく、上記4種の治療成績についてはおおまかにしか提示できません。合併症については出現する合併症が治療法により異なり、比較することは困難です。したがって医者によって治療方針が異なる可能性はあり、明確な治療指診というのがないのが現状です。以下にそれぞれの治療法の適応などについて述べます。

 早期癌に対する内分泌療法に関しては、日本では一般的ですが欧米のガイドラインには記載されていません。その理由は、内分泌療法は早期に開始しても予後延長に寄与するという証拠がないことや長期間投与となるため、副作用や経済性の問題が生じるからであります。無治療経過観察は70歳以上の高齢者で、PSAが10以下、高分化癌の患者さんでは第一選択になります。しかしながら日本では実践されている施設は少ないのが現状です。放射線療法は根治性の点で前立腺全摘除術より劣ると考えられ、やや進行した場合や高齢者で根治療法を必要とする患者さんに対して施行される傾向があります。放射線治療の場合、癌の状態によっては内分泌療法を2-3年併用したほうがより効果が上がるといわれています。また最近では組織内照射IMRTという放射線治療により前立腺全摘除術に近い根治性を得ることができるようになってきました。ただし組織内照射の適応となるのはPSAが10以下の高分化癌であり、早期癌であれば誰もが受けることができる治療ではありません。

 前立腺全摘除術の適応になる癌は、潜在癌に近い癌であり、それらは前立腺全摘除術をしなくても予後良好な群であります。前立腺全摘除術は10-15年先の前立腺癌死を未然に防ぐ保険のような手術であるという認識が必要です。PSAが20-30ng/mlを超えるような癌や直腸指診で突出する硬結を触知するような本当に治療を必要とする患者さんでは、前立腺全摘除術で根治することは困難であります。欧米では多数の前立腺全摘除術症例を解析し、術前のPSA、臨床病期および組織学的分化度から術後の再発率を推測するノモグラムを作成し、手術適応や患者説明に使用しています。一般に前立腺全摘除術の適応は70歳以下で長期生存が期待でき、病理学的に局所限局性前立腺癌である確率の比較的高い患者さんであります。高齢者の高分化癌はどの治療法を選択しても生存率に影響を与える事は少ないと考えます。他の癌と比較して、早期前立腺癌の自然史は非常に良好であり、このため治療法については議論の多いところであります。したがって、十分に時間をかけQOLを考慮に入れた過不足のない治療を選択する事が重要であると考えます。

 さらに専門的な詳しい解説を望まれるかたは、論文の部分を参考にしてください。