【家族の肖像】米国留学曼荼羅−3

さらに時はスティーブと出会った頃に遡る。

大学のキャンパスには映画館があった。この映画館は学生証があれば$2程度で1ヶ月遅れくらいの映画を見る事ができた。当然字幕なんて気の効いたものは無く、英語の理解力も無かった私は他のアメリカ人が笑う局面で笑う事ができないのでイライラした覚えがある。 私はスティーブとジョーに誘われて夜のキャンパス映画館に行った。

私達が映画館に到着した時にはすでに長蛇の列になっていた。私達の前には100人くらい列を作っていた。そしたらスティーブが私の英語の練習も兼ねて、列の前に行く言い方があるから試して来いと私に言った。私がスティーブと出会った時、彼は英語を話せない東洋人を見るのを珍しく思い、親切に発音を一から叩き込んでくれた。私は結構いいヤツだと思ってスティーブの言いなりになっていた。

私は何度と無く言い方を繰り返して覚えると、列の最前列で待っている見知らぬ学生に話しかけた。
「Can I cut in?」
見知らぬ学生は私を怪訝そうに見て言った。
「Get lost, d●ck head! (あっち行け、このチ●コ野郎!)」
私は言い方が悪かったと思い、2番目で待ってる学生に同じく尋ねた。
「Who the f●ck are you? (テメーはどこのクソ野郎だ?)」
これも言い方が悪かったと思って3番目で待ってる学生にしつこく尋ねた。
そしたらその学生は何も言わずに私に中指を立ててくれた。
そこでようやく私はスティーブに騙されたことに気がついた。

私が激怒しながらスティーブとジョーがいる場所まで戻り、結果を話すとヤツらは腹を抱えて笑った。
私が意味を尋ねたら「ここに割り込んでもいいですか?」だった。
頭に来た私はヤツらに飛び掛かかろうと思ったが、結果は火を見るより明らかなのでポップコーン1袋で手を打った。そしてバターまみれのポップコーンを頬張りながら映画を見た。映画館内はやかましかった。学生の半分くらいは映画館内に持ち込みを禁じられている酒を飲んでいた。
通路では空のビール瓶を利用してボーリングを楽しんでるヤツもいた。あまりにうるさいので映画の声が聞こえなかった。そしたら後ろの学生が「音量をデカくしろ、このクソ野郎が!」と映写室に向かって叫んだ。叫んだ学生は皆に拍手で誉められた。
すると映画の音量が突然大きくなった。

そうこうしてスティーブ達と遊んでいたら10月も終わる頃になっていた。スティーブはハロウィーンを知ってるかと私に尋ねてきたが、私は実際に何をどうやるかは知らなかった。そしたらスティーブは「その日は仮装してキャンパスを歩く日だ」と教えてくれた。私は悩んだ。ここで一発かまさないことにはヤツらに舐められる。私はショッピング モールに買い物に行った。

買い物を終えた私は仮装に取りかかった。テーマは「クレイジー ドクター」であった。下半身は短パンとサンダル、上半身は素肌に実験用白衣のみをまとった。それで鏡を見たら何か足らないような気がした。そうだ、髪の毛だ。私は髪の毛をディップで固めて逆立てた。もう一度鏡を見た。まだ足らない。 私はヘア スプレーを使って髪の毛を真っ赤に染めた。どうだ?これならオッケーか?私は自信を持ってスティーブの部屋に行った。スティーブは親指を立てて「グッド」のサインをくれた。

そして私は夕方のキャンパスに繰り出した。そしたら仮装してる学生どもが山ほどいた。カフェテリアで働いているオヤジやオバチャンまで仮装していた。しかも平然と仕事を続けている。私は周囲に溶け込んでしまっている自分を発見した。早い話がまったく目立っていなかったのである。"絶対の自信"が揺らいだ一瞬であった。しかし私が住んでいた寮のウィングにおける私の評判は上がった。

そして冬になったら私達の部屋とスティーブ達の部屋で"シェービング クリーム戦争"が勃発した。スティーブ&アンディと私&キースはお互いの部屋のベッドにシェービング クリームをまき散らして遊び始めた。要は互いの部屋のルーム メイト同士で連携して相手の部屋を撃破するのだ。最初は4人でやっていたが、よせばいいのにスティーブがウィング全体を巻き込む大戦争に発展させやがった。しかしそのうち私とキースの2人では勝てないことが判明した。特にスティーブとアンディはデカい体を利用し、こちらが押さえているドアを無理矢理こじ開けて侵入してくる。この攻撃には非力な私とキースは無力であった。 連戦連敗した。これではいけないと思い、私は作戦を考えた。

私達は深夜、スティーブが帰ってくるのを廊下で隠れて待ち受けた。そしてスティーブが帰ってくるなりシェービング クリームをぶっかけてやった。スティーブがひるんだ隙に私達は脱兎のごとく自分達の部屋に逃げ戻って鍵をかけた。これからが作戦の本番になる。

各部屋の廊下に面した側の上部には通風口があった。この通風口の大きさは丁度私の腕が通るくらいのスペースであった。何とか踏み台を利用すればこの通風口から廊下へ腕を出すことができる。これを利用することにしたのだ。

しばらくおとなしくしてるとドアが破壊されそうな勢いで叩かれた。私とキースは顔を見合わせて「バカめ!」と笑いながら作戦を実行に移した。私はキースの机を踏み台にして通風口から手を伸ばした。もちろん手にはシェービング クリームの缶が握られている。この高い位置からドアを叩いているスティーブにシェービング クリームをかけてやれば死角になる。つまり二段構えの攻撃である。私は思う存分シェービング クリーム1缶全部をぶっかけてやった。
「ざまあ見ろ、スティーブめ!がはは」
と私とキースは大笑いしながらドアを開けた。そこには頭からシェービング クリームまみれになっているR.A.(ウィングの責任者)が立っていた。彼は夜中にうるさい私達に注意をしにやってきたのだった。

私は青くなって謝り倒した。R.A.の後ろには涙を流しながら笑い転げるスティーブとアンディが見えた。そして私達の部屋とスティーブ達の部屋は"要注意人物の住居"となった。

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