|
サンクスギビングなるものがあった。由来なんか知る気もなかった。ただアメリカ人が珍しく一斉に故郷等に向かって移動を始めることと、その日は休みであることぐらいは知っていた。
キースとアパートに住んでいた頃、朝っぱらスティーブから電話がかかってきた。
「負け造、七面鳥を買って来い」
「何でだよ?」
「サンクスギビングに七面鳥を食わないとお前はアメリカ人になれない」
「アメリカ人になんかなりたかねぇよ」
「うるせぇ、とにかく七面鳥を丸々1匹買っておけ。その後に俺様を迎えに来い」
「何だとぉ!てめー、いい加減に…ちっ、電話を切りやがった」
私とキースは顔を見合わせた。一度言い出したらきかないスティーブだ。仕方なく七面鳥を買いに行った。
とりあえずスティーブに言われた食材を購入し、それらを冷蔵庫にぶち込んでスティーブを迎えに行った。
「スティーブ、七面鳥は買って来たぜ」
「よおし、じゃあ負け造のところに行って料理開始だ」
と、私達のアパートに向かった。
「いいか負け造、サンクスギビングにはバーボンを飲むんだ」
と言いながらスティーブは紙袋から"ワイルド ターキー"を出した。
「その酒は七面鳥(ターキー)と関係あるのか?」
「そうだ。サンクスギビングに飲む酒は"ワイルド ターキー"って決まってる」
「本当か?キース?」
とキースに尋ねる。
「そんな話は聞いたことが無い」
と、キース。
「ハワイ人に何がわかる!けっ!」
と、スティーブ。
スティーブはワイルド ターキーの封を開けてラッパ飲みを始めた。
(このクソアル中め!)
3人で七面鳥の料理を始めることにした。
「さて君たち、それでは七面鳥の料理を始めよう」
「はじめよう。スティーブ」
「はじめよう。スティーブ」
「負け造、電話を貸してくれ」
「オッケー。スティーブ」
とスティーブは電話をとって何やらダイヤルをして話し始めた。
「あ、おふくろいる?…そ、俺、スティーブ…え?元気だよ…あ、おふくろ?…突然だけどさ、七面鳥ってどうやって料理するんだ?…そりゃそうさ、俺は子供の頃おふくろが料理するところしか見てねぇもの…あ、ちょっと待って…おいキース!紙と鉛筆をよこせ!」
「…」
「…」
「キース、紙と鉛筆をよこせって言ってるのが聞こえねぇのか!」
キースが仕方なく紙と鉛筆をスティーブに渡す。
「あ、ちょっと待ってくれ…もう一度最初から頼むわ…オーブンの温度が何度だって?…ふんふん…多分大丈夫だ…よぉし、わかった…何だ、案外簡単なんだ…そ、クリスマスには帰るから…じゃあね、あ、オヤジは…やっぱどうでもいいや…バイバイ」
「てめー、七面鳥の料理方法をまったく知らなかったのか!」
「それがどうした?」
「…何て野郎だ」
「大丈夫だ、作り方は今おふくろに聞いた。これで完璧だ。とりあえず俺は酒でも飲みながらお前達に指示する」
「…」
私とキースは呆れて言い返す言葉が見つからなかった。
「よぉし、負け造。飛ばしてある首のつけ根からクルトンをガンガンぶち込め!」
「どっちが首だかわかんねぇよ」
「ケツの穴の反対側だ!足の向きを見りゃわかるだろーが!」
「何だと!じゃあテメーがやれや!」
いきなり最初からモメ出した。
すると、それを見ていたキースが一言。
「俺も手伝おうか?」
「うるせぇ、ハワイ人はスッこんでろ!」
と、スティーブ。
「そうだ、そうだ、ハワイ人は邪魔だ!」
と、イライラしてる私。
「…」
と、不満そうな顔のキース。
ともあれ七面鳥をオーブンにぶち込むとこまでは終了した。
「諸君、良くやってくれた。オーブンにぶち込めばもう勝ったも同然だ」
スティーブはまるで自分が料理したかのように勝ち誇っていた。
「…」
「…」
「後はだな…寝て待つだけだ…んーと、あと6時間ってとこだな」
「何だと!スティーブ!6時間も待てってのか!」
「そんなに待てねぇぞ!朝から何も食ってねぇんだ!」
とは言え、どうにもならないので仕方なく6時間待つことにした。
「6時間もいったいどうするんだ?キースよ」
「そんなの知るか、そこにいるスティーブに聞いてくれ」
と、キースはいびきをかいて寝ているスティーブを指差した。
…続く…
米国留学曼荼羅−46→
←米国留学曼荼羅−44
|