【家族の肖像】米国留学曼荼羅−58

アメリカは土地が死ぬほど余っている。
だからショッピング モールだって平屋建てで横にだだっ広いし、大学のキャンパスだってヘタをすれば10分の休憩時間じゃ教室を移動することができない。とにかく横に横に広げて行くのだ。これと対照的に日本では縦に伸びるしか方法が無い。道だってそうだ。アメリカでは道を作ってから建物を作る。だから比較的道が東西南北に綺麗に延びている。これと同じような道の構造は日本では札幌とか京都とかだろう。アメリカでは3回曲がれば元来た道にほぼ戻ることができる。

大学から右(東)に行けばいつも車で走りに行ってた山がある。この山は比較的道幅が広く、夜になれば交通量も少ないので全開で飛ばすにはもってこいだった。実は左(西)に行っても山道はある。むしろこっちの方が近い。だがこの道は生活道路であり、夜でも車が通ったりする。しかも道幅がかなり狭くて見通しの悪いカーブが連続した崖道に毛がはえたような道なので全開で走行することができない。中でも山の表側から裏側に差しかかる場所はブラインドのヘアピン カーブであり、ここでコケたりすると崖下に直行するのだ。そこから駆け降りる道もジェット コースターのようであった。

「うぉ!アブねぇ…クソ対向車め」
私は平日の昼間、スーパー カローラでこの西の山道を走っていた。
「負け造さん、この道は強烈ですよね…」
同乗者のMが体を支えるために車内の取っ手を握りながらつぶやいた。今日は日本から来たこいつを連れて行く場所があるのだ。Mは3ヶ月間の短期滞在で遊びに来ていた野郎であった。
「だろ?これでも生活道路だからな」
「で、どこに行くんですか?」
「まずはだな…俺も1回しか行ったことが無い場所だ」
「どこなんですか?」
「うるせぇ、喋ってると舌を噛むぞ!うぉ!」
路面が荒れているので車が跳ねた。
そして山道を駆け降りるとT字路で止まり、ここを左に曲がった。

「で、ここは何ですか?」
私達は目的地に到着した。
「昔の西部劇の映画はここで撮影されたんだ」
「は?」
「全部じゃねーけどな…良くある西部劇の決闘シーンなんかこの場所で撮影されたって話だ」

その場所は一応さびれた観光地になっているのでまばら観光客と一緒にしばらくその場所でうだうだした。ここにあるセットの町並みでは西部劇のシーンとかが再現されていたりする。だが、あまりこれと言った面白いものは無い。
「負け造さん…この場所…飽きたんですけど…」
「何だとォ!あの場所に行って写真でも撮ってきやがれ!」
「…」
Mは渋々金を払って写真を撮りに行った。

しばらくしたらMが戻って来た。
「負け造さん、こんなの作ってもらって来ました」
と、Mがその写真入りの紙を差し出した。その紙にはMの顔写真が貼り付けてあり、写真の下には"WANTED"と書いてあった。よく西部劇に出てくるベタベタの犯罪手配書だった。
「けっ!相変わらずつまらん写真だ」
「負け造さんが撮れって…」
「よし、ここはもういい。次だ」
私はMを車に押し込むと次の目的地へ出発した。

「今度はどこへ…うぉ!」
私は容赦無くアクセルを踏んだ。後輪が意味も無く空転して悲鳴を上げた。
「今度はだな…ひひひ」
元来た道を戻って行った。この道はかなり曲がりくねっている。中でも一箇所はラグナセカ(サーキット)の"コークスクリュー"みたいに急激に下りながら尚且つキツいカーブになっていた。この道を初めて走った時に調子こいてこのカーブに突っ込み、前輪が浮きかけて青くなった。

しばらく走ると次の目的地の駐車場に到着した。
「ここは…」
「お前は動物は好きか?」
「ええ、まぁ…」
「よし、ここは砂漠でしか見られない動物がいる動物園みたいな場所だ」
「は、はぁ…」
私は強引にMを連れて中に入った。

「見てみろ、あれが噂のプレイリードッグだ」
「…」
「あのマヌケなしぐさは周囲を警戒しているんだ」
「…」
「ま、ネズミの親玉っつーか、陸にいるビーバーって感じだ」
「…」
「地面に穴を掘って暮らしてるんだが、西部開拓時代に牧場の中まで穴だらけにしてな、牛が穴に足を突っ込んで骨折しまくったもんだから牧場主達が怒って薬でほとんど皆殺しにして…そしたら牛どもが地面を踏み固めて草が生えなくなって…実はこのネズミ野郎どもが地面を耕してたってわけだ…どうだ?ためになる話だろ?」
「…」
「その他にもだな、ギラ モンスターとか…おっと毒トカゲね…色々いるわけだ。ん?やっぱりつまらんか?そりゃそうだろ。けけけ」
「…」
まぁ、あまり野郎2人で行くような場所では無いことは確かだった。
案の定、Mの野郎は飽きたようだった。

そして私はMを家まで送って行った。
「負け造さん、今日はありがとうございます…で、今度はどこに?」
「以上で終りだ」
「は?でも他にも…」
「そんな場所は無い!」
「え?そうなんですか?」
「そうだ。この街はもう見るところなんか無い!」
「…」

こんなさびれた街の観光案内なんかを私に頼むとこうなる。

米国留学曼荼羅−59→
←米国留学曼荼羅−57

日記風味 ギャンブル 国家中枢 家族の肖像 自慢の品 写真 用語集 掲示板 泥沼の館 home