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「ちっくしょぉー、イカだ。またイカに当たった」
私は結婚する前のどろみんのマンションのトイレで悶絶していた。以前に当たったことをすっかり忘れてまた同じ食堂のイカを食ったのだった。
「大丈夫?」
どろみんがトイレの外から声をかけて来た。
「こ、このくらい…うぉ、ほ、ほげぇぇぇ」
おまけに嘔吐までしてしまった。上から下から大騒ぎ状態である。
「もう1時間もトイレに入ってるわよ」
「…くっ、だ、ダメだ」
「救急車を呼ぶ?」
「そ、そうだな。きゅ、救急外来に…うぉっ」
しかしそのマンションは大病院から1kmくらいの距離であった。これならタクシーで行った方が早いということになった。
深夜の路上で運良くタクシーを捕まえた。
「なんたら病院までお願いします」
どろみんは運転手に告げた。
「うぉっ、まだか?病院は?…」
私は5分の距離が4時間くらいに感じた。
タクシーは病院の駐車場の入り口までしか入れなかった。
したがって私はそこから100m以上歩かなければならない。
「う、ほ、ぐげぇぇ」
私は10m歩いて力尽きた。
「あともう少しよ」
どろみんが肩を貸してくれた。
そして私はどろみんに引きずられるように救急外来に到着した。
「ど、どうしました?」
医師は今にも死にそうな私を見て言った。
「食中毒だと思います」
と、どろみんが答えたのを最後に私はしゃべる元気が無くなった。
「はい、それではそこに横になってください」
若い女医は私をベッドに寝かせた。
「はい、では横を向いてください」
女医は私の大嫌いな背後からの治療を行おうとしていた。
いくら元気の無い私でも黙っているわけにはいかない。
「…ま、待ってください」
「大丈夫です。すぐ終わります」
「せ、先生。私は後ろが見えないので…」
「あんた静かにしなさいよ!」
"神取忍"にそっくりの看護婦に怒られたが、そんなの聞く訳にはいかない。
「…ちゅ、注射ですか?注射なら私の見える場所で…」
「暴れるんじゃ無いわよ!大丈夫よ!」
再び"神取忍"が怒った。
「ど、どろみん。本当に注射なのか?」
「そうよ」
「…ば、場所はどこだ?」
「右の上腕部よ」
「…ほ、本当なのか?実は脊髄注射じゃないのか?」
「右腕だわよ!」
「…じゃあ、何で背中が丸出しなんだ?」
「…そ、そんなの…」
「ほーら見ろ、やっぱり背中に注射を打つんだな?」
「あんたねぇ」
「俺様を騙そうったってそうはいかねぇぞ…腕に注射を打つと見せかけて…」
「…そろそろよろしいですか?」
女医は呆れてどろみんに尋ねた。
「ええ、気にしないでください」
女医は私の右腕に針を突き立てた。
その後私は病室に運び込まれて点滴を受けた。
当然意識を失った。
気がつくとどろみんが横に座っていた。
「大丈夫」
「おおよ。元気一杯だぜ」
「…ったくねぇ。あんたが2時間も寝てる間、待ってた私は恥ずかしかったわよ」
「何の事だ?」
「看護婦さんが入れ代わり様子を見に来てくれてね…」
「で?」
「どの看護婦さんも"大変ですね、っぷぷ。"って同情してくれたわよ」
「…」
「まったく"ゴルゴ13"じゃないんだから背後に人が立ったからって…」
「ふん」
具合の悪いことに、病院に入って来た時は瀕死の重体だった私も出る時にはピンピンして全力疾走ができるくらいまで回復していた。
「参ったな」
「何がよ?」
「神取忍らがいる詰め所を通らなければならない」
「それが?」
「…俺様が笑われてしまうでは無いか!」
「私は散々笑われたわよ」
「…」
案の定、詰め所を通った私は笑われた。
「…お大事に、っぷぷ」
「お騒がせしました。へへへ」
いつものように私は翌朝元気になった。
しかし仕事に行く気はなかったので、勤務先に休むとの電話を入れた。
「さてと、どろみんはどうする?」
「どうするってどういう意味よ?」
「重病人を一人で置いて行くのは心配では無いのか?」
「…あんたね」
どろみんは私に巻き込まれて休暇届けを出す羽目になった。
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