【家族の肖像】救急外来−終

私たちは結婚後、引っ越しをした。
引っ越しする際に住む場所の条件の中に"大病院に近い場所"を入れた。
当然の選択であった。

「どうしたのよ?」
「…あ、頭が割れるようだ」
「また偏頭痛じゃ無いの?」
「…これは違う。かつてない痛みだ」
「頭痛薬飲んだ?」
「…とっくに飲んでる」
「寝てたら?」
「…救急外来だ」
「ま、またぁ?」

例によって深夜、私はどろみんの肩を借りて病院の救急外来まで歩いた。
「ど、どうされました?」
看護婦数人が駆け寄って来た。
「…あ、頭にヒビが入ったように…」
私は待合室の椅子に崩れ落ちた。
そこには頭から血を流している人や、高熱で苦しんでいる人々がいた。

「負け造さん?負け造さん?わかりますか?」
「…」
医師の問いかけに私は答える元気もなかった。
「すぐに検査だ」
私は並み居る重病人たちの頭を越え、その深刻な症状から優先的に病室に運びこまれた。

「負け造さん、検査しますからね」
医師は私の両足の裏を器具で引っかいて、反応を見た。
「こ、これは…」
医師の顔色が変わった。
「奥さんですね。これからCTスキャンで検査をします」
「どうしたんですか?」
「足の反射反応が普通とは違うのです」
「ど、どーろみーん…」
私は脳の障害を覚悟した。

看護婦は私の横たわるベッドを全力疾走でCTスキャン検査室まで走らせてくれた。
「すぐに済みますからね」
検査技師が急いで検査をしてくれた。

検査を終えた私は病室で点滴を打たれていた。
(あ、あぁぁ。きっと脳味噌が…)
私は意識が遠のいていった。

気がつくとどろみんと医師が横に座っていた。
「負け造さん、良かったですね。脳に異常はありません」
「…」
「でも驚きましたよ。足の反射反応が変でしたからね」
「…」
「ま、偏頭痛でしょう。では後で薬をもらってください」
医師は立ち去った。

「どろみん、困ったな」
「何がよ?」
「元気になっちまった」
「またぁ?」
「それにしても脳味噌が無事で良かった」
「でも反射反応が変だったのは何でかしら?」
「…あれか?」
「何でよ?」
「実はな、足の裏を引っかくもんだからくすぐったくて…」
「それで変な方向に足の指を曲げたのね!」
「その通りだ…こんなの医者に言えるか」

看護婦がまた入れ代わり私の様子を見に来ていた。
ここであまりにも元気な姿を見せるわけにはいかない。
「良かったですね。元気になって」
「いやあ、脳味噌の血管が切れたかと思いましたよ。がはは」
「ずいぶんと元気になられたようで…」
(あ、やべぇ。)

また頭痛薬をもらって私達は家路についた。

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