前回はシンガーをかなり否定的な切り口で書いた。
それだけだとちょっと不公平な気もするので、少し好意的に書いてみたい。
メーカ(あるいは商品)にとって、「ブランド」は重要な資産だ。
・倒産した「パンナム(PAN-AM)」ブランドは高値で取引された。
・樹木希林は「悠木千帆」を5万円で売った。(確か酒席での賭けに負けたはず)
「シンガー」ブランドを維持発展させようとする関係者の気持ちは十分理解できる。
事実上倒産したからと言って、ゼロから新しいブランドを育てる必要はない。
腐っても鯛。シンガーの名声はいまだに相当な競争力を持つ。
ハッピー工業はシンガーブランドのOEM供給元である。
ハッピー工業が生産したミシンに「シンガー」の名前をつけて売っているのだ。
当然、ハッピーというブランドに知名度はない。シンガーの名前を前面に出すのは
マーケティング見地から当然である。
このOEM体制によって、シンガーに対する印象が悪くなるとしたら心外だ。
何となく、自分の会社で作っていた方が信頼できる気がするかもしれないが、
その考えは、現代経済社会では限りなく誤解に近い。
あなたは、パソコンメーカの「エーサー(Acer)」を知っているだろうか?
「最近パソコンを買ってメールはじめました!」というレベルの人は知らないかも
しれないが、エーサーは世界最大手のパソコンOEMメーカである。
そんな人でも、NEC、富士通、IBMといったパソコンがあることは知っているはずだ。
あなたが持っている(例えば富士通の)パソコンは、エーサーが作っていたりする。
シンガーとハッピーの関係と同じである。
ブランドの強さを持つ会社が販売し、無名ブランドだがコストパフォーマンスの良い
会社が生産する。マーケティング戦略としては極めてリーズナブルである。
(かつてのマイクロソフトだって同じだった)
従って、「シンガーが潰れた」という表現は適切ではない。
シンガーは残っている。ブランドマーケティング上は何も間違っていない。
僕がシンガーの首脳部にいたとしても、おそらく同じ戦略を取ったと思う。
今後のハッピー工業には、2つの選択肢があると思う。
ひとつは、シンガーブランドの再興に向けてOEM供給元の立場で踏ん張ること。
もうひとつは、然るべき時期に自社ブランドで打って出ること。
(マイクロソフトと同じ方法だ)
いずれにせよ、ブランドマーケティングではなく、プロダクトマーケティングに
注力しなければならない。簡単に言えば良い商品を作ることである。
残念ながら、現在のシンガーミシンは商品として見るべきところがないと思う。
使い物にならないとかボロボロだと言うつもりはない。もちろん普通に使える。
しかし「それなり」なのだ。特に悪くはないが、敢えて買う必要もない。
様々なマーケティング手法によって、拡販の方法はいくつか思い当たる。
ある特定の販売チャネルへのサポートを強化することで、売上を確保することは
可能かもしれない。
特に家庭用ミシンの売上は、高額なコンピュータミシンの販売台数がモノを言う。
十分な販売部隊を持つ販売店(仮にそこがおとり販売主体だとしても)との
付き合いを強化することで、かなりの売上は作れるだろう。
しかし、その先はどうする?
家庭用ミシン市場そのものは縮小しているのだ。
現状の延長線上には、事業縮小しか残っていないはずである。
メーカの命題は、とにもかくにも優れた商品を作ることだ。
その点を是非肝に銘じてほしい。
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