ミシンは家庭用と工業用に分類できる。
家庭用は文字通り家で個人的に使うミシンで、工業用はプロが使うミシンである。
ユニクロの工場はほとんど中国だったと思うが、そこには工業用ミシンがズラッと
並んでいるはずだ。
この文章を読んでくれているほとんどの人の認識は、「ミシン = 家庭用」だろう。
それは僕にとっても同じだし、この「ミシンの迷信」で取り上げているのは、基本的に
家庭用ミシンのみである。
しかし、ミシン業界の人にとっては、家庭用はあくまで一部分でしかないはずだ。
特に家庭用と工業用の両方を開発生産しているメーカにとっては、工業用が重要で
家庭用はあまり重要ではないだろうと思う。
なぜなら、ミシン全体の売上のうち、家庭用ミシンが占める割合は25%程度で
しかないからだ。さらに日本国内生産分に限って言えば(台湾製などを除くということ)、
工業用が85%を占め、家庭用は15%に過ぎない。
家庭用しか扱っていないメーカもあるわけだから、「家庭用なんてどうでもいい」とは
言えないだろう。しかし、家庭用ミシンでしばしば不誠実な販売手法が取られるのは、
このあたりに遠因があるのかもしれない。
では、日本国内市場における家庭用ミシンと工業用ミシンの市場規模を見てみよう。
データは1999年の実績で、ソースは通産省生産動向実態統計と大蔵省通関統計
である。統計上、ロックミシンは工業用に分類したが、大勢に影響はない。
<台数規模>
台数は家庭用の方が多い。
これだけ見ると家庭用が重要なように思えるが、実際はそうとは言いにくい。
金額で見ると状況は一変する。金額では圧倒的に工業用の規模が大きいのである。
家庭用は単価が安く、工業用は単価が高いからだ。
<金額規模>
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家庭用ミシン |
220億円 | |
工業用ミシン |
850億円 |
この数字だけ見ると、工業用ミシンの方が商売としての旨味が多いように思われる。
しかし、工業用の方が圧倒的に儲かるかというと、必ずしもそうではないのだろう。
家庭用を作っているメーカより、工業用を作っているメーカの方が数が多いからだ。
市場規模は大きいが、それだけ競合も多いわけで、それほど楽な話ではあるまい。
それでも工業用の方が商売としてはずっとマシだと思う。
なぜなら、工業用ミシンは生産財であり、ユーザ(縫製業社など)の要求が明確だと
思うからだ。もちろん価格競争もあるだろうが、基本的には値段を叩いて売り込む
タイプの商品ではない。商品がユーザニーズに応えられるかどうかがポイントだろう。
将来性を考えても、アパレル産業が一気に衰退するとは考えにくい。
(売り先は日本ではなく中国にシフトするだろうが)
一方、家庭用はどうだろうか?
環境要因を考えた場合、家庭用ミシン市場に将来性があるとはとても言えない。
日本人が裕福になるに従って、洋服を繕ったり、洋裁したりする人が減っている。
ツギハギだらけのズボンやお母さん手作りの洋服を見る機会は非常に少なくなった。
経済的環境が好転しただけでなく、衣料品の低価格化も進んでいる。
洋服が破れたら、直さずにユニクロで新しいものを買った方が安いかもしれない。
あるいは、捨てるには惜しい高価なブランド物の服が破れでもしたら、自分で繕わず、
専門の業者に依頼する人が多いだろう。
こういった環境を考えると、家庭用ミシンの使い道は非常に限定されてくる。
子供が学校に持って行く物に名前を刺繍したり、ちょっとした小物入れを作ったり。
その程度の用途であれば、家庭用ミシンの低価格化が進むのは必然である。
何十万円の投資に見合うほどの使い道がないのだ。
ただ、低価格化だけが生き残る道かといえばそうではないだろう。
「あまり使わないからこそ、簡単操作が求められる」というのも真実だと思う。
その意味では、コンピュータミシンのように自動化を進めるのも一方法だろうし、
刺繍に様々なキャラクターを取り入れるのも、子供用の物を作るには悪くない。
僕は業界の人間ではないので、入手できるデータは限られている。
メーカの担当者はもっと詳細なデータを持って、様々な戦略を考えているのだろう。
僕には想像もできないような問題点や業界の慣習もあるのかもしれない。
それでも、現代の一般的な家庭において、ミシンが必需品でないことは確かだと思う。
その前提に立てば、マーケティング視点で考えられることは似たようなものだろう。
⇒あまり必要性がなくても手が届く価格を設定し、家電製品として売るか?
⇒自動化や高付加価値性を追求し、高額でも買ってもらえる製品で展開するか?
⇒洋裁に興味を持つ一部のユーザ層に向けたプロ寄りの商品を投入するか?
いずれにせよ、絶対的な妙手はないように思う。
戦略は複合せざるを得ないし、今の混沌とした状態が加速するかもしれない。
メーカの「あがき」や販売店の淘汰など、しばらくは色々なことが起こるのだろう。
(名門シンガーの没落はそれを象徴している)
果たして家庭用ミシンはどこに向かうのだろう?
残念ながら、僕はまだその答えを持たない。
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