■北地蔵(北海道札幌市中央区)
札幌時計台裏のビルの1F。味のある藍染めのノレンの脇から店内を覗くと、一見しただけで
居心地の良さそうなゆったりとした時間が流れていることが分かる。細長いスぺースの手前と
奥にテーブル席、 真中にカウンター席。 入口近くに季節の花がたくさん活けられた大きな花
瓶、使い込まれたテーブルやカウンターの板、トーネット風で座面が皮張の椅子、照度を落と
した照明、 ミルクコーヒーの美味しさ、 オマケでつけてくれる自家製の素朴なパン、一人でも
気がねなく過ごせる雰囲気。そして何より、心から滲み出る店員の優しい笑顔と暖かい接客。
心底コーヒーが美味しく感じられる北国の冷涼な気候と相まって、これは芸術だ! とさえ言っ
てしまおう、札幌の名店。
200509
■ドルチェ(東京都青梅市)
東京の奥座敷、奥多摩方面への起点となる青梅市。 バブル絶頂期にはこんな郊外にまでマ
ンション建設の嵐が吹き荒れ、 山里には不似合いな高層建築が点在するのが残念だが、ピ
リっと張りつめた空気と清冽な渓流は、まだまだ豊かな自然を感じさせてくれる。
古き良き日本を感じさせる和の風情が漂う町の中にあって、駅前のビル2Fにあるこの店は、
モノトーン色調でスマートな雰囲気の異色の喫茶店。 店内にはグランドピアノがあり、 サロン
コンサートも開催されるようだ。BGMはクラシック。シャープな内装だが心落ちつく店。
■香咲(東京都渋谷区神宮前)
古いビルの1Fにあり、路地の入口にある「美味しい珈琲と焼きたてのケーキをどうぞ」 という
立て看板が目印。奥に細長い店で、最奥の2テーブルは他から仕切られた感じの特等席。薄
暗くアンティーク風で落ち着いた雰囲気だが客層はリベラル。近くに勤務するスノッブな人々や
ファッション関係者が多数出入りする。 多種類のケーキはすべてホームメイドで、焼きたての
ホカホカが供され大感激。店の入口の北欧風のランプや、スウェーデン製の紅茶ポットなども
センス抜群。 店員のおニイさんは美形かつフレンドリーで、ついつい通いつめてしまう都会の
オアシス。
■はせがわ(栃木県足利市)
室町時代に造られた日本最古の高等教育機関として名を馳せる”足利学校”そばにある古い
喫茶店。昭和初め頃の建物と思われる端正な洋風建築に陽が当たって、セピア色にきらめく
夕刻の風情は筆舌に尽くしがたい。 店内に入るとまずカウンター席があり、 一貫した美学を
持っていそうな店長が客を迎える。 地元のオーケストラやブラスバンドの演奏会のポスターが
貼られた壁の向こうが喫茶室になっており、 古い建物と、クラシックなテーブルセット、エキゾ
チックな調度品、 大きな花瓶に活けられた花束などの調和が素晴らしい。 コーヒーの味はも
ちろん、デザートの味や盛り付けのセンスの良さにもこの店の非凡さを感じる。
■六曜館珈琲店(山梨県甲府市)
ケヤキ並木が美しい駅前通りを進み、 県庁前の信号を右に折れると、整然とした町並みとは
雰囲気を異にする、今にも蔦に埋もれてしまいそうな古い建物が現れる。 テーブル4卓とカウ
ンター席のみの小さな店だが、 甲府の文化と時の流れを凝縮したかのような、重厚で格調高
い店内に心を奪われる。 客層は、岡島 (甲府が誇る老舗百貨店)について熱く語るハイソな
中年グループや、一人で読書を楽しむ知能指数が高そうなおじさんが主。甲府市民の上品さ
や文化度の高さ、コーヒーを飲みながらの議論から始まったというカフェの原点を思う。
また、ママのいわくありげな美しさが、神秘的な店内により一層の現実離れ感を生む。
コーヒーを飲み終えて外に出ると、 午後の日差しがサンサンと降りそそぐ、いつもと変わらぬ
丸の内の一角。ああ、まるで白昼夢のようだなぁ、六曜館は。
200509
■丸山珈琲(長野県北佐久郡軽井沢町)
旧軽井沢は今や原宿状態。新幹線が開通し、プリンスホテルのアウトレットモールがオープン
してからの凋落は凄じく、もはや上流階級のリゾート地というイメージからは完全に遠ざかって
しまった感があるが、線路の南側はかろうじて閑静な別荘地帯を保っているように思われる。
その南ヶ丘地区にある自家焙煎の喫茶店がここ。 同建物内では織物や陶芸も行われていて
一種の芸術家村的雰囲気。 手作りのカップ味わうコーヒーは格別で、 この店で焙煎された豆
は軽井沢各地の喫茶店で使われている人気の品らしい。
■コーヒーショップ花月(長野県松本市)
松本のホテルの草分けとされる ”松本ホテル花月”1Fにあるコーヒーショップ。重厚な松本民
芸家具で統一された店内は居心地が良く、 濃茶色の格子の窓枠や、幾何学模様が配された
天井の梁、タイル張りの床など、 アルプスの玄関松本に相応しい山小屋風の内装が情緒的。
店員の知的でサッパリした接客に応えるべく、客層も知的でクール。上品な紳士のグループが
コーヒーカップ片手に討論している様子に、教育県で議論好きな信州人の真髄を見る。 松本
市内には、老舗割烹や寿司屋、素晴らしい近代建築が多く、センスの良い紳士服の店も多い。
城下町の味と技と粋と精神性の集積。 リベラルで文化度の高い市民の様子は羨ましい限り。
あがたの森の旧制高等学校記念館内にも、松本民芸家具で統一の雰囲気の良い支店あり。
200510
■ぼたん(石川県金沢市)
歴史ある落ち着いた町並みが好きな私にとって、金沢はとても魅力的な土地である。陶磁器、
織物、食べ物、和菓子はどれも素晴らしく、兼六園や美術館などの見どころにも事欠かない。
同じ金沢ながら、横浜市の金沢区とはどうしてこうも違うのか。さて、金沢市の繁華街”片町”
の金沢プリンスホテル脇にある「ぼたん」はその昔三島由紀夫も通ったといわれる店。なるほ
ど祝日にはちゃんと国旗を掲揚していて、右翼の三島がお気に入りだったのも頷ける。 戦後
まもなく築の建物は格調高く、レトロな看板は今の時代には返って斬新でおしゃれ。喫茶以外
にもカツ丼などのランチメニューが揃っていてオールマイティーなニーズに対応。
■チャペック(石川県金沢市)
金沢市の台所、近江町市場そばにある小さな店。自家焙煎の超有名なコーヒー店で、銀座の
”ランブル詣で”とともに喫茶店業界人の”チャペック詣で”が頻繁に行われている。 金沢に行
くとチャペックのコーヒー豆を買ってくるという一般のファンも多い。有名店とは思えない古びた
さりげない外装、コーヒーは多種多様だが値段は安く、確かブレンドは300円台だ。食べ物は
トーストのみ。本当のコーヒー専門店とはかくあるべきという強烈な哲学と美学を感じる。
■喫茶稲垣(富山県富山市)
富山はイメージの薄い市だったが、雨のそぼ降る新緑の富山城址公園の美しさと、その向か
いにあるこの喫茶店を見つけてからは、大好きな町の一つになった。 ”稲垣は”真っ白いビル
の2Fにあり、真ん中が階段、左右が喫茶室になっている。右側の部屋にはキッチンがあり店
員がいるが、左側はお客だけのスペースで完全な無法地帯。長時間粘れる。天井が高く大き
な絵画がかかる明るい店内で、町行く人を眺めながらダラダラ過ごすコーヒータイムは最高。
尚、 歴史ある地方都市では繁華街と駅が離れていることが多い。 金沢は ”香林坊” 京都は
”四条河原町” 福岡では ”天神”など趣のある名前が付けられているが、 富山市の繁華街は
”総曲輪”と書いて<そうがわ>と読む。
■Ritzコーヒー店(静岡県静岡市)
50万都市、静岡。 周辺市町村からの集客力はものすごく、あまりの人出に日曜日の東海道
線は遅れが生じるほど。駅前は、駅ビル、デパート、商店街、地下街が軒を連ね、活気に満ち
満ちている。 静岡駅近くの繁華街。古い茶色のビルの中にあるRitzコーヒー店。何の変哲も
ない店なのにひっきりなしにお客がやってくる。人気の秘密はひとえに店長の人柄でしょうね。
元気で感じがいい。バイトへの教育や指示が行き届いている。心が洗われるような爽やかさ。
さらに驚くのは、テーブル数がかなりあるのに伝票を持ってこない。 つまり客が何を頼んだか
全て把握している!これぞプロの技。せっかく喫茶店をやるのなら、気取った店作りなどに腐
心せず接客力一本で勝負。それを地で行く尊敬すべき店。もちろんコーヒーの味も最高です。
■邪宗門(静岡県下田市)
伊豆地方独特のなまこ壁が美しい古い喫茶店。店に入ると右に番台のようなスペースがあり
頑固そうな店主が座っている。蔵を改造した薄暗い店内には、古時計や鉄道部品、大福帳な
どが並べられ博物館的様相。特に圧巻なのは4畳半くらいの広くて骨董品屋のようなトイレ。
このトイレなら泊まってもいいと思うほどの素晴らしさでついつい時を忘れてしまう。食べ物は
前述のチャペックと同じくトーストしかないこだわりのコーヒー店。 ”邪宗門”とは異教徒という
意味で、鎌倉や国立にも同名の店がある。精神的なつながりを持つ姉妹店らしい。
■ギャラリー蔵の中(愛知県東加茂郡足助町)
中京の紅葉の名所、香嵐渓。シーズンには見物客でごった返す界隈も、オフ時には時が止ま
ったかのような静けさに包まれる。足助は江戸時代に三河の塩を運ぶ中馬街道の要衝として
栄えた山間の町。観光地化されておらず江戸時代の町並みと風情がそのまま残る。
関東大震災と戦災に見舞われ、 明治や大正はおろか昭和20年以前の建物にはほとんど接
することの出来ない神奈川県民にとって、 古い町並みがごく自然に残されている愛知や岐阜
の郊外にはとても驚かされる。 町のなかほどには以前銀行として使われていた蔵が。今は小
さな足助町だが昔は銀行を持つほどの栄華を誇っていたことに思いを馳せる。
さて蔵の中は、地元の作家の工芸品の展示即売場を兼ねた喫茶店。 レベルの高い鉄製品、
織物、陶器に囲まれた、静かで哲学的な店内で楽しむコーヒーは格別。
■茉奈莉花(愛知県半田市)
洋風建築の中でもハーフティンバーという様式が大好きな私は、 ドイツ山荘風の華麗な洋館
”旧中埜家住宅”がどうしても見たくて半田市を訪れた。 愛知県の知多半島にある半田市は、
酒や酢の醸造所の黒板張りの建物が川沿いにつづく情緒あふれる町。 関東で言えば、栃木
や佐倉のイメージか。 昔は、このような醸造品製造の他に、 江戸回船の基点として繁栄した
らしく、新しい文化がいち早く導入されて洋風建築が建ち並んだようだ。 そんな町を歩いてい
て目に飛び込んできたのがこの店。土蔵を改造したイタリアンレストランで、インテリアセンス、
雰囲気、 味、 量、ホスピタリティともに全く非の打ちどころのない名店。 湘南や三浦半島とい
えどもこれほどレベルの高い店には巡り会ったことはない。半田市においでの際はぜひとも。
■Bank(岐阜県多治見市)
多治見は陶器の町として有名だが、日本3大修道院のひとつ 「真言会多治見修道院」もまた
市が誇る観光スポットである。(あと2つの修道院がどこなのかは謎。ぜひ案内書に記載して
ください。 ) 北海道のトラピスト修道院は、 レンガ造りの強固でロマンチックな外装が北国の
冷涼な気候風土にマッチしていて荘厳な気持ちにさせられるが、 多治見修道院は雰囲気が
全く違う。 真っ白い壁にオレンジ色の瓦屋根をいただいたスペインのビラ風なのだ。このよう
な南国的なロケーションの中では、 修道院に入る気にはならないのでは? といらぬ心配。
さて帰り道、 坂を下るとこの店にぶつかる。 ラテン系で開放的な店構えに誘われ、 ついつい
店内へ。 質の高いイタリアンレストランで、パスタはフライパンごとでてきて大感激。 他にパス
タが鍋ごとでてくる店は、 鎌倉に1軒あるのみだ。 百戦錬磨の評論家も唸る岐阜県の名店。
P.S. 日本3大修道院は以下の通りだそうです。(Thank you for 柴田さん)
@聖ベネディクト女子修道会 札幌修道院(北海道)、Aフランシスコ会 長崎修道院(長崎)、
B真言会多治見修道院(多治見市・岐阜)
■こいぬ(山口県下関市)
本州最西端の山口県。県内からは日本国政を牛耳る重要人物を多数輩出しており、県民の
プライドは高い。 そんな気概の長州人をも満足させる「こいぬ」は、下関市内の老舗喫茶店。
いわゆる昔の名曲喫茶風でBGMはクラシックonly。 赤いビロード張りの高級ソファが一層の
品格を際立たせる。 薄暗い片隅に陣取り、名曲を聴きながら思索にふける休日の昼下がり
は格別。 さあ、コーヒーを飲んでリフレッシュしたら町を歩いてみよう。山口県はSunday's sun
(ファミレス)やユニクロの創業地。また関釜フェリーが発着する市内には、日本語とハングル
併記の道路標識も多い。 進取の気風と異国情緒をあなたも感じることができるだろうか。
そして海の向こうは九州。 関門トンネルには人道があるので、門司まで歩いてみるのも一興。
ああ九州に来たなという感慨もひとしおである。
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