福臨門で豪華ディナー! 
清水の舞台
「福臨門で一世一代の超豪華なコースに挑戦してみたい!」という思いをもつようになったのは、いつの頃からだろうか?
グルメでもないくせに、大胆にも「香港美食探訪」なるタイトルのサイトを開設してしまった行きがかり上、やはり最高級のフカヒレ・干しアワビ・ツバメの巣を組み込んだコースは、後学のために一度は経験した方がいいと思っていた。
そんな矢先、Keiが嬉しそうに預金通帳をヒラヒラさせている。
彼女は仕事を辞めてから、つもり貯金と称して、チマチマと小銭を貯めることを趣味にしていたらしく、それがかなりの金額になったらしい。
これを元手に無謀にも円安ドル高のご時世に、この計画を敢行することにした。
酔狂のためにHK$7,000も投資するなんて、ここまでくれば本望である。


下準備をする
まず、我らが師匠・施さんに電話をして、予算やメニューの組み方を指導していただく。
施さんから情報を授けていただいた後、食べたい料理の名前を書いて、福臨門魚翅海鮮酒家・九龍店にFAXを入れる。
念のため福臨門魚翅海鮮酒家大阪店にも予約確認の電話を入れておく。
大阪店には日本語が堪能な香港人スタッフが常駐しているので、細かい打ち合わせができて心強い。
時価も含めて食べたい料理の値段も教えてくれた。

店に行く&注文する
店の入口で予約をしてある旨を伝えて、店内へ。
禁煙席をリクエストしていたのだが、厨房近くのテーブルに案内されてしまった。
少々落ち着かない(が、料理長の顔やスタッフの動きを見ることができて面白かった)。
新顔の陳主任が応対してくれる。
余談だが、新顔の陳主任を含めて店の人の少し顔ぶれが変わったような気がする。
紙製の小菜(惣菜)メニューも体裁が変わったし…福臨門にも変化が???
さて、FAXを入れておいたのと、大阪店へフォローの連絡を入れておいたのがよかったのだろうか、スムーズに注文できる。
コースの内容は次の通りである。
◆清湯大散翅(フカヒレ入り澄ましスープ)
◆蠔皇17頭干鮑伴菜心(17頭干しアワビのオイスターソース煮、野菜添え)
◆豉汁炒龍蝦球(イセエビのぶつ切りトウチ炒め)
◆當紅脆皮雞・半隻(鶏の丸揚げ・半羽)
◆蟹皇扒時蔬(季節野菜の蟹肉と蟹ミソあんかけ)
◆瑶柱荷葉飯・小(干し貝柱入り蓮の葉包み蒸しご飯)
◆冰花燉官燕(ツバメの巣のシロップ煮)
サービス料込みでHK$7,000になるように組んでもらった。
予算がHK$6,000だと、干しアワビの大きさは23頭になるらしい。
干しアワビの大きさを表す「頭」というのは、1斤(600g)当たりのアワビの数を表す。
従って頭数が多くなればなるほど1個当たりのサイズは小さくなる。
17頭の場合は、600g÷17個=35.3g、調理すると約1.5倍の大きさになるらしい。


清湯大散翅
ウ~ム、大裙翅(背ビレ)を食べたかったのだが、いきなりコケてしまったらしい。
過去2回注文した雞燉頂裙翅(鶏肉入り最高級背ビレの澄ましスープ)は、もっと繊維の1本1本が長いような気がしたのだが…。
今日のフカヒレは、大散翅(腹ビレ)なので、繊維が少し短く、食感も幾分軟らかいような気がするが、シロウトの悲しさ、深く考えてもわからないので、これ以上考えないことにする。
それにしても、腹ビレと言っても、フカヒレの太さはハンパではない。
ところ天ほどの太さのフカヒレがギッシリ入っていて、フカヒレ入りスープではなくて、フカヒレの間をスープがつなぎで入っているという感じだ。
スープは感動するほどではないにしても、ホッとする味だ。


蠔皇17頭干鮑伴菜心
縦5cm×横7cmぐらいの干しアワビが1個HK$1530(時価)也!!!!!
顔見知りのオネエサンが、「まず、写真を撮りなさい」とおごそかにのたまう。
その後、オネエサンが土鍋をコンロにかけてソースをからめてから、それぞれ取り分けてくれる。
ヨダレがジワジワとわいて、出来上がりを待ちわびる様子は、まるで犬のようだ。
期待にワクワクしてガブリとやりたいところをナイフで薄く切って口に運ぶ。
一口噛むごとに馥郁たる滋味が口の中に溢れ、また一口噛むごとに更に馥郁たる滋味が口の中に溢れ、またまた一口噛むごとに更に更に馥郁たる滋味が口の中に溢れ…あれ?もう終わり???
おかしいなぁ…。
もう一口、やっぱりおかしいなぁ…。
今日は珍しくオヤツをガマンしたというのに、どうも変だ。
老香港酒家で食べさせてもらっている干しアワビは一口噛むごとに太陽の香りのような滋味が口の中にジワジワ溢れ出て、恍惚状態になるほど極上の美味なのだが、今日はとにかく首をかしげるだけなのである。
確かにおいしいことはおいしいのだが、旨味がいまひとつ後を引かないのだ。


豉汁炒龍蝦球
景気よく最高級魚の老鼠斑(サラサハタ)でも注文したいところだったが、さすがの私たちも絶対デザートにたどり着けないような気がして、今回ばかりは諦めた。
その代わりにスープ蒸しではなくて、趣向を変えてHamの大好きなトウチ炒めにしてもらう。
何の変哲もない料理だが、イセエビの炒めものは身が花のように開き、そこにソースがからむようになっている。


當紅脆皮雞・半隻
半羽でHK$130、1羽でHK$260と、とてもお値打ち。
5年前に食べた時は、さほどおいしいとも思わなかったのだが、師匠の「福臨門に100回行けば100回注文する」という言葉を思い出して注文した。
さて、一口食べて無言になってしまった。
ほのかな甘いスパイスの香りがして、皮はパリパリ、肉はジューシーで、余分な脂肪がないのに、肉はシットリと軟らかくて、噛めば噛むほど鶏肉の旨味が口の中に広がる。
そのままでも十分おいしいのだが、別添えのリーピリンソース(ウスターソースの一種)や、塩とレモン汁を合わせたソースをつけても、また格別のおいしさである。
2人とも無言で食べ続け、あっという間に半羽を平らげてしまった。
実は、Hamは大の鶏肉嫌いだったのだが、老香港酒家で龍崗鷄のローストを食べて以来、鶏肉のおいしさに開眼したらしい(だが、おいしい鶏肉しか食べないので面倒くさい)。
特に、この店のものは最高に気に入ったらしく、鶏肉大好きのKeiよりも、たくさん食べてしまったほどである。
やはり師匠を信じてよかったと思う。


蟹皇扒時蔬
今日はカニと相性のいいトウミョウを選んだ。
カニ肉とカニみそがトウミョウを覆ってしまうほどタップリとかかった贅沢な一品である。
とてもおいしいのだが、こんな贅沢な料理を食べ慣れていない私たちは、カニが多過ぎると感じるあたりが、まんま小市民である。
しかも、カニみそが多すぎるなどと文句を言ったりして、非常にビンボー臭い。
さらに、カニあんを白飯にかけて食べてみたいと思ったりして、やはり小市民なのだ。

瑶柱荷葉飯・小
一体、これのどこが「小」なんだ!と叫びそうになった。
何しろすごい大きさに、かなり満腹の私たちは思わず後ずさりしてしまう。
しかし完食主義を貫かねばならないので、覚悟を決めて食べることにする。
かなり満腹なのに、おいしいと思うところが、さすがは福臨門だ。
貝柱だけでなく、鶏肉やカニ肉などの具がギッシリ詰まり、ご飯はパラリと仕上がっていて、実においしいのだ。
満腹なのに、魔法にかかったように箸が動く。
おいしいのでお代わりしようとしたら、別の顔見知りのオネエサンが、「まだデザートがあるから持ち帰りなさい」と、有無を言わさず皿を引っ込めてしまった。
しばらくしてオネエサンは持ち帰り用に包んで持って来てくれた(これをホテルの冷蔵庫に入れておいて翌日の昼にスーツケースの中に入れて自宅に持ち帰った。そのまた翌日に蓮の葉に包んだまま電子レンジでチンして食べたのだが、かなり美味。次回からはお持ち帰りメニューに加えよう)。

冰花燉官燕
いきなりテーブルに置かれても食べ方がわからない…またもや小市民だ。
左のアンニンシロップと右のココナツミルクの好きな方をツバメのシロップ煮に入れて食べるらしい。
迷わずアンニンシロップをドカドカ入れて食べるKeiと、アンニンシロップとココナツミルクを交互にチマチマと入れて食べるHam。
ツバメの巣は無味無臭だと思っていたが、シロップ煮だけを食べてみると、わずかに硫黄のような独特の匂いがした。
それにしても、この店のツバメの巣は繊維がとても長い!
あまりに繊維が長いので、思わず箸を持って来てほしいと思った私たちであった。
しかし、ただでさえ大盛りのシロップ煮に、アンニンシロップだのココナツミルクだのを加えると、更にシロップの分量が増して全然減らない。
贅沢な話だが、食べても食べても減らないデザートに、しまいには2人とも閉口気味であった。
最後に、ダメ押しのゴマ団子がサービスで出てくる。
注文した料理の数が7皿だったので、気を利かしてくれたのだろうか?
満腹で死にかけていたが、ありがたく頂戴した。


宴の後
若干の手違いがあったが、これは私たちの詰めの甘さが悪かった。
せっかく奮発したのだから、念には念を入れるべきだった。
お金をかけたとか、有名店だからとか、そういうことを抜きに考えても少し不満が残ったのが残念である。
2人でHK$7,000も奮発したのに、結局心に残ったのはHK$130の鶏の丸揚げとHK$120の蓮の葉包み蒸しご飯であったのは悲しい。
大枚はたいて食べた干しアワビであったが、なぜそれほど感動しなかったのだろう?
実は、帰国後数日たってからふと思い出したのだ。
たまにしかチャンスがないが、老香港酒家で食べさせてもらっていた干しアワビは禾麻鮑(青森県大間産干しアワビ)だったような…。
今回食べたのは、吉品鮑(岩手県吉浜産干しアワビ)。
急いで師匠に電話をして確認したが、やはり老香港酒家で出している干しアワビは大間産とのことだ。
師匠によると、アワビのエサになるコンブの作柄がアワビの作柄を左右するらしいが、今年は吉浜もアワビ作柄がよかったらしいので味は悪くないらしい。
どちらがおいしいかということは一概に言えないが、師匠自身も大間産の方が旨味が勝ると思っているとのこと…安心した。
いずれにしても、こんな超豪華な夕食はもう十分だ。
シェフの腕もあるだろうが、高いものは材料代が高いので、おいしいのは当然だし、逆に少しでも期待どおりでないと、深い怨みになるから恐ろしい。
もしかしてリーズナブルな料理にこそ、この店の底力を汲み取れるのではないだろうか?
次回はお値打ちコースに挑戦してみよう。
あとチラッと感じたのだが、ほんの少し味が変わったような気がする。
私たちの好みが変わったのか、本当に味が変わったのか、その真偽についてはグレーにしておくことにする。
さて、最後に感じたことを少しだけ。
高級レストランで豪華な食事をしても、小さな食堂で質素な食事をしても、健康な食欲に支えられて、楽しく食べることができれば、もうそれだけで十分なのだ。
この際「何を食べるか」ということは、関係ない。
大好きな香港で、夫婦仲良く料理を分け合って食べる…これ以上の幸福がどこにあるというのだろう?
そして、いつも感謝して食べることも大切。
超豪華な晩餐を経験して、こんな枯れたことを感じてしまったとは、まだまだ若いつもりだったが、どうやら夫婦揃って老境に足を踏み入れてしまったらしい。
【2001年12月】

◆福臨門魚翅海鮮酒家  九龍尖沙咀金巴利道53-59號(℡23660286)