予約&注文つけまくり
港灣壹號がChef's Tableをやっているらしい。
物好きな私たちではあるが、この時ばかりは躊躇してしまった。
何しろこの店は新婚旅行初日の記念すべき夕食で苦渋を舐めて以来、幸せな気分で帰れたためしがない。
星の数ほどある香港のレストランの中でも私たちとは天敵とも言えるほど最も相性の悪い店なのである。
よりによって港灣壹號でChef's Tableとは、下手をすれば大金をドブに捨てることになる。
しかし店側にとっては名誉挽回の絶好のチャンスではないか(え?言い過ぎ?)。
数日ウダウダと考えた末、よしっ!と思い切った。
これでマズイ料理を出したりサービスに不手際があったら、その時は特集でボコボコに叩いてやろうという魂胆である。
とりあえずメールで問い合わせをしたのだが、これが速攻で丁寧な返事が来たのには正直言って仰天した。
しかも(高いことは高いのだが)巷で言われている価格よりお値打ちな設定である。
これに気をよくして速攻で昼食の予約を入れることにした。
さて、Chef's Tableでは客のワガママが通ると固く信じている私たち、メニューの組み立てについて何度もワガママをぶつけてみた。
どうやらマネージャ氏は大変マメな人らしく、何度もメニューを書き換えて送ってくれた。
しかもレスポンスが速く、応対が実に丁寧なのである(しかし真夜中にFAXを流すのだけはやめてほしい)。
5回ほどメニューの書き換えをしてもらった上、前日にマネージャ氏に会ってメニューの確認をすることにして、とりあえず一段落。
香港に到着した後Chef's Tableの前日に直接店へ出向き、マネージャ氏と少しだけメニューの手直しをして、あとは当日のお楽しみとなった。
練りに練った末、コースの内容は次のように決着した。
◆點心拼盤(点心4品)
◆海膽白玉海虎翅(ウニのせトウガンとフカヒレのスープ)
◆紅酒龍蝦球(イセエビの紅米酒風味炒め)
◆白菌西冷巻伴娃娃菜(マッシュルームのサーロイン巻き天津白菜添え)
◆薑米雞粒蒸香苗(ショウガ風味みじん切り鶏肉のせ蒸しご飯)
◆特式甜品(デザート3品)
いよいよ入店 そして厨房見学
入口で名前を告げると、マネージャ氏が応対に出てくる。
まずはマネージャ氏の案内で厨房の見学だ。
高級レストランの厨房に入るのは初めてではないが、この店の厨房もやはり清潔であった。
日本の、いわゆる中華料理屋の厨房を想像していたら大間違いである。
油を使うのにコンロ近くの壁も換気扇もピカピカ、床にはゴミ1つ落ちていない。
調理台には材料や調味料が整然と並べられ、これなら効率よく仕事ができるだろうと思わせる。
我が家の台所とは比較にならないほど整理整頓されていて、グータラメチャクチャ主婦のKeiはちょっぴり反省…まぁすぐ忘れてしまうのだが。
厨房見学の折に各担当部署のチーフシェフを紹介されたが、何と!この日は総料理長が休みだそうだ。
どうやら私たちに恐れをなして敵前逃亡したらしい。
代わりに紹介された副料理長のオジサンは失礼ながら何とも頼りない雰囲気の人。
これで満足なChef's Tableになるのか大いに不安になってしまった。
さて、厨房脇の奥まったところにChef's Table用の部屋がある。
内装は薄いグレーとオフホワイトでまとめられ、中央には丸テーブルが置かれていて、ここで食事をすることになっている。
壁際の机にはノートパソコンが1台、鍵のかけられた戸棚には干しアワビやツバメの巣などの乾物類を入れたコンテナがズラリと並んでいる。
普段は料理長がオフィス代わりに使っているとのことだが、毎日Chef's Tableをやっていたらデスクワークは無理ではないか?と余計な心配。
ちなみに食器は例のイタリアのブランド品ではなく、シンプルな白の食器であった。
テーブルの上には美しいカリグラフィーで書かれたメニューが置いてあり、食事中は1人の店員が専属でサービスを担当してくれることに。

點心拼盤
腿茸燕窩蝦餃(ツバメの巣と金華ハムのみじん切りのせエビギョウザ)、黄金鮑粒蒸粉果(アワビ入りギョウザ)、帶子釀燒賣(貝柱のせシュウマイ)、川汁海鮮包(海鮮入りギョウザ)の4品。
4種類の点心が初めから1つのセイロに盛りつけられて出てきた。
「色も形もまぁまぁだね~」と余裕綽々、ところが食べてみてビックリ。
ウ~ム、余程気合を入れて作ったのだろうか、ウマイではないか!
単純に材料がよければウマイはずというのを超えて、完成度が極めて高い。
おなじみの量産型点心とは雲泥の差だ。
こんなものを作ることができるなんて、普段は手抜きをしているとしか思えない。
どの点心も海鮮を土台にしているのだが、それぞれ違った味と食感を楽しめる。
とりわけ川汁海鮮包はピリリとした辛さとコリアンダーの風味が絶妙で、コリアンダー好きの私たちにとってはたまらない。
…いきなりカウンターパンチを食らった格好になってしまった。
海膽白玉海虎翅
トウガンのスープと言えばトウガンをくり抜いて二重蒸しにしたものを想像してしまうが、供されたのは大根の煮もののようなものだった。
中央部をくり抜いたトウガンの上にフカヒレと生ウニとカニ肉がテンコ盛りになっている。
個人的な好みを言えば、ウニよりもカニの卵の方が相性がいいようだ。
それにしてもトウガンはスープがジックリと染みていて、そしてそのスープときたら目からウロコと言っていいほど研ぎ澄まされた味なのだ。
フカヒレも繊維の1本1本が太くて長く、質も申し分ない。
久しぶりに美味なるフカヒレスープに出会ったような気がした。
紅酒龍蝦球 オオッ!この味は一体…?
てっきり赤ワイン風味の炒めものと思い込んでいたのだが、色も違うし味付けもワインらしくない。
しかも濃い色の見た目に反してイセエビのおいしさを生かした淡白な味付けである。 火の通し方も絶妙で、イセエビの食感と甘味を楽しめる。 ほのかに酸味のある未知の風味に、謎解きをしながら食べるのも楽しい。 謎解きをしながらもパクパク食べてしまって、あっという間になくなってしまったのだった。
後でシェフに尋ねたら、赤ワインではなく紅米酒(赤い米で作った中国酒)で風味を付けて炒めたものだということがわかった。
メニューを組む段階でイセエビ料理が組み込まれているのを見た時は、正直な話、「あ~またか」と思ってしまった。
ただ赤ワイン風味のイセエビ料理は初めてだったので、あえて変更はしてもらわなかった。
そして実際食べてみて、初めて味わう新鮮な味付けに幸福感がいや増したのである。
変更してもらわなくて正解であった。
白菌西冷巻伴娃娃菜
生のホワイトマッシュルームを牛肉で巻いて甘辛味のソースを絡めたものだ。
この料理のどこが中国料理なのか理解に苦しむが、味は悪くない。
ソースが少々濃い目で、さながら照り焼きソースだったのが難点と言えば難点か。
発想そのものも特別奇抜ではないが、牛肉の質がよかったのが非常に印象的だった。
一般には香港の牛肉は水牛の肉で、風味や旨味が乏しいのだが、この料理で使っていた牛肉は上質の和牛かと思うほど軟らかく、風味豊かであった。
付け合わせの野菜は天津白菜の芯の柔らかい部分をスープで煮込んだもので、とろけるような味わいだった。
薑米雞粒蒸香苗
ご飯の上に鶏肉とショウガのあんをかけてセイロ蒸しにしたもの。
刻みネギとクコの実をトッピングにしている。
蒸すことで下に敷いたハスの葉の香りがご飯に移るようになっていて、香り高い一品になった。 「ハスの葉はお盆用品売り場で買えるよね~」と、季節柄不謹慎な発言も出たりして…。 この時点でかなり満腹だったが、セイロが小さかったのが幸いして何とかクリアできた。
特式甜品
香芒凍布甸(マンゴープリン)、迷你蛋撻仔(ミニエッグタルト)、五色豆甜粥(五目豆のお汁粉)の3品…さすがの私たちも1人でデザートを3品も食べたことはないし、いわんや満腹状態で、である。
マンゴープリンは当初ミニサイズという話だったのだが、レギュラーサイズで出てきたので一瞬後ずさりしてしまう私たち。
マネージャ氏曰く、「ちょっと手違いで…」だそうだが、かなり嬉しい。
しかも今回はイチゴを忘れなかったらしい、上出来だ。
イチゴをのせるのを忘れたら厨房に乗り込んで一番大粒のを取ってくるつもりでいたが、それは必要なかった。
さて、かねてからこの店のマンゴープリンは香港屈指のおいしさと評判なのだが、果たしてこの日のものはまさに評判どおりという感じだった。
完熟のフィリピンマンゴーを使っているらしく、透明感のある濃いオレンジ色の果肉がふんだんに入っている。
生の果実にしては色が美しすぎる…美しく仕上げるために色紅を使うという話は聞いたことがある…まぁそんな推論はさておき、このマンゴープリン、甘味と酸味のバランスが素晴らしく、今回の旅行では2位以下を大きく引き離したブッちぎりのマンゴープリンであった。
普段何度もマンゴープリンを作っては思い通りの味に仕上がらず、その難しさをイヤと言うほど知っているKeiは、このマンゴープリンのおいしさに感嘆するばかりであった。
さて、ミニエッグタルトはビスケット生地、普通のエッグタルトには違いないのだが、「たった今オーブンから出しました!」と言うが如く、ヤケドしそうなほどアツアツだったのがポイント高し。
さすがはChef's
Table、厨房との距離が近い。
そして五目豆のお汁粉。
いろいろな種類の豆とハスの実などを煮込んで、ほんのり甘く仕上げたお汁粉である。
それぞれの豆の風味と食感を楽しむことができる。
豆好きな私たちにとっては嬉しいデザートであった。
デザートまで辿り着くと、さすがの私たちも超満腹、青息吐息であった(しかしもちろん完食したのだった)。
やればできる!
コースは前日までいろいろ手直ししたおかげで非常に満足度の高いものになった。
これで巨額を投じて挑戦した甲斐もあったというものだ。
オシャレだけが取柄のレストランと侮っていたのだが、このChef's
Tableに限って言えばかなりの実力を感じ取ることができた。
マジメにやればできるじゃないか!港灣壹號!!
Chef's Tableということもあるだろうが、とにかく徹底して感じられたのはシェフの気合である。
実に細やかに神経が行き渡っていて、1皿1皿の出来に隙がないのだ。
残念ながら、「この店の味の路線は…」と表現できる明快な決め手は欠くものの、往々にして高級レストランで感じる脆弱さがなく、鋭い刃物でスッパリ切ったような思い切りのよさ、伸びやかさを感じた。
また、厨房の横の個室で食事をしているため、料理が全く冷めていない状態で、しかも1皿1皿が絶妙なタイミングで運ばれて来たのも重要なポイントだ。
しかし、食事中にホテルの飲食部門のエライ人が入れ代わり立ち代わり挨拶に来てくれて、フツーの旅行者の私たちとしては焦ることしきり。
下手な英語を必死で繰り出さなくてはならなかったのは、かなりつらかった。
在住のお金持ちならば、名刺を受け取って「来月もお願いしますよ」などとカッコよく言えるのかもしれないが、次回がいつになるのかサッパリわからない一見客の私たちは、恐縮しまくった末にかなりチビッコになってしまったのである。
帰り際、「次回も是非どうぞ」と言われたので、「もちろん違うメニューを組んで下さるんですよね?」と尋ねたら、「もちろんですよ!」という頼もしい答えが返って来た。
機会があれば、またお願いしたいものだ。
【2002年8月】
◆港灣壹號 香港灣仔君悦酒店(℡25881234)
|
|