いざ実験
以前豪華なコースを組むという無謀な計画を実行した一方で、HamとKei、今度は同じ店でお値打ちコースに挑戦する計画を温めていた。
とかく高いと噂されるこの店で、お値打ちかつ満足感のあるディナーを楽しむことができるのかどうかを検証してみることにしたのである。
しかも単価の安い昼の点心に頼らずに一品料理のみを組み立ててのお値打ちディナーである。
幸いにも香港在住の知人がこの実験に協力してくれることになり、満を持して実行に移すこととなった。
注文
席につくと顔見知りのオネエサンがグランドメニューと小さな紙のメニューを渡してくれる。
お目当てはこの小さな紙のメニューである。
このメニューには小菜(惣菜)がたくさん載っているのだが、これこそ安くて美味なる料理の宝庫なのである(但し最後ページの「名厨精選」の料理は高いので無視する)。
今回は1品HK$150を上限として3人分のメニューを組んでみることにした。
◆是日老火湯(日替わりスープ)
◆葱花皮蛋圍蝦炒滑蛋(ネギ・ピータン・エビ入りスクランブルエッグ)
◆椒鹽吊片排骨(イカとスペアリブのチリ・ガーリック揚げ)
◆當紅脆皮雞・半隻(トリの丸揚げ・半羽)
◆海味粉絲什菜煲(イカと干し貝柱入り五目野菜と春雨の土鍋煮込み)
◆芒果布甸(マンゴープリン)
3人なので1品減らしてもよかったのだが、何しろ久しぶりの福臨門なので、ついつい欲張って注文してしまった。
ドカドカ注文する悪い癖は相変わらずである。
是日老火湯
グランドメニューから選んだもので、普通は「例湯(日替わりスープ)」と呼ぶ。
医食同源の世界を垣間見ることができて面白いので、私たちはどの店でも大抵注文する。
これは鯪魚(コイ科の魚)と小豆と豚バラ肉の入ったスープで、具とスープは別々にして供される。
主にスープを味わい、具は醤油につけて食べる…とはいえ旨味はほとんどスープに流れ出ているので、具はカスカスのことが多い。
それにしても、この店のスープは他の店の例湯と比べて格段に濃い。
あまりにも濃いので、化学調味料を使っているのかと疑う(ちなみにこの店は化学調味料を使用していることになっている)。
葱花皮蛋圍蝦炒滑蛋
冷蔵庫の残り物を溶き卵で炒めたと言ったら語弊があるだろうか、かなり普通っぽい料理だ。
小口切りにしたネギとピータンとエビとを溶き卵で包み込むようにして仕上げただけのシンプルなもの。
こういう普通っぽいものでも立派な広東料理として通用するのだ。
真似して我が家で作っても中国語の名前が付くのだろうか?
しかし、エビは新鮮なゆでエビでおなじみの基圍蝦、卵はふんわりクリーミーに仕上がっているところはさすがプロである。
思わず白飯と白粥を追加注文してしまった。
パラパラとしたご飯とトロリとした卵との相性が二重丸、本当は行儀が悪いのだろうが、ご飯にのせて食べずにはいられない。
椒鹽吊片排骨
スパイス味の効いたイカとスペアリブの唐揚げを相盛りにしたものだが、何となく居酒屋にありそうな料理だと思ってしまう。
見た目に反して味は薄味。
そして見た目に反して中身は軟らかかった。
ここでビールと合わせたくなるのは日本人の性<さが>だろう。
しかし、これをビールなしで平気で食べ続けられるのが香港人なのだ。
當紅脆皮雞
グランドメニューから選んだもの。
4人ぐらいまでなら半羽で十分である。
これは鹽焗鷄(塩蒸し鶏)と並んで、鶏肉本来のおいしさを楽しむことのできる料理の一つではないかと思っている。
パリパリの皮とムッチリとした肉とのダブルの食感がたまらない。
こういうおいしさを知ってしまうと、例えばササミなどの皮なし肉が妙に味気なく思えてくる。
鶏の皮というものは諸刃の剣というか、おいしく料理されると病み付きになるものだが、下手に料理されると皮だけ剥がして皿の端に置いておきたくなるものだ。
皮がおいしさの決め手なのかもしれない…と、鶏の皮について熱く語ったりする。
さて、この料理、別皿でソースが供されるが、下味がついているので、そのままでも十分においしい。
でも以前の感動はいずこ?という思いは否めない。
海味粉絲什菜 煲
肉料理は注文を忘れても、野菜料理は必ず注文するHamとKei。
土鍋煮込み好きもあって、野菜の土鍋煮込みである。
この店のものは非常に薄味で、料理のシメにはちょうどよい。
ただ、マッシュルームが缶詰なのはいただけない。
シイタケの方がずっといいような気がする。
芒果布甸
昔はもっとおいしかったような気がするのだが、単なる気のせいか?
以前は器に入れて固めたものだったが、これは型から取り出したものなので少々硬めである。
軟らかいのが好きなHamとKeiにとっては少し不満。
凋落の兆し
…気のせいだろうか、全般的に以前に比べて味に精彩を欠いているような印象を受けた。
これは単価の安い料理ばかりをオーダーしたからではないだろう。
単価の安い料理は材料費が安いだけのことであって、調理のテクニックは同じはずだ。
もちろん一流店ならではのおいしさは十分に感じられたし、今でも香港一のレストランという認識は変わらない。
しかし!である。
クラシック音楽のコンクールのように「1位なしの2位」というか、他店に背中を捕まえられそうというか、香港一のレストランという不動の地位が危惧される部分を端々で感じてしまった。
香港一のレストランであってほしいという気持ちとは裏腹に、この店は少しずつ私たちの思いと逆の方向へ歩き始めているような気がした。
さて、今日の支払いはサービス料を含めHK$980。
チップを置いてHK$1,000として1人当たりHK$330、HamとKeiが大喰らいであることを考慮すれば量的には4人前なので、概ね1人当たりHK$250くらいというところか。
価格的には中級店と大差ないレベルに抑えることができたので初期の目的は達成することができたのだが、味の方まで中級店との差が縮まったような気がして、結果的にはかなり不満の残る実験となってしまった。
「香港の広東料理店の頂点が低くなったおかげでピラミッドがなだらかな丘になりつつある」とはHamの言。
とかくサービスの悪さや従業員の態度の悪さが取り沙汰されることが多いのだが、汗だくのHamの顔を見るや「ここの席の方が涼しいから」とエアコンのよく効いた席に案内してくれたり、料理が運ばれる度にわざわざ隣のテーブルに料理を置いて写真を撮りやすくしてくれたりと、フレンドリーで行き届いたサービスという点については全く変わる事がないのがせめてもの救いであった。
【2002年8月】
◆福臨門魚翅海鮮酒家 九龍尖沙咀金巴利道53-59號(℡23660286)
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