結婚披露宴「食」レポート
突然の招待
8月に香港へ行った最終日の夜、9月に結婚を控えている友人2人と宵夜(夜食)に出かけた時のことである。
ひとしきり世間話をした後、いきなり「結婚披露宴に来てくれない?」と切り出され、HamとKei、ビックリして鼻でジュースを飲んでしまった。
突然の嬉しい招待に「うん!いいよ!」と言いたかったのだが、結婚式は三連休の真っ最中である。
あと1ヶ月しかないのにチケットが取れるのだろうか(しかも無料か格安でなければならぬ)?
即答しかねて翌日に帰国した。
ところが帰宅してJALのサイトを見ると、普段よりも少ないマイルで無料航空券と交換できるというキャンペーン中で、貯まっていたマイルギリギリで無料航空券と交換できてしまったのである(交換したら残りは300マイルだった、ひぇ~)。
神様は義理人情に厚い私たちに味方してくださったのだろうか…これで背中を押された気がした。
それからしばらくして真っ赤な封筒に入った招待状が届く。
結婚披露宴の場所は、何と半島酒店の嘉麟樓(すげー!!)。
以前、美心大酒樓での結婚披露宴に出た時は悲しいぐらい料理がおいしくなかったのだが、嘉麟樓ならおいしいものを期待できるかもしれない…ちょっぴりウキウキの私たちであった。


宴の前
受付で記帳をした後は新郎新婦と記念撮影をして披露宴の始まりを待つ。
さすがに高級店、マージャンやスイカの種は登場せず(当たり前か)、ソフトドリンクのみが用意されていた。
余談だが、ドリンクコーナーに置いてあったオレンジジュースは果肉タップリでまことに美味であった。
さて、友人は近親者と親しい友人のみを招待したらしく、2階の個室にテーブルを4卓並べただけの、いかにも身内の食事会という趣向である。
1卓に14人ぐらいが着席できるようになっているテーブルには、真紅のクロスがかけられ、同色のナプキンが銀色のセットプレートの上に置かれている。
中央の回転盆には生花が豪勢にアレンジされていて、とかくキッチュ指向の香港においてはかなりハイセンスだ。


          

テーブルに置かれたメニューによると、
◆大紅片皮乳豬(仔豚の丸焼き)
◆紅燒蟹肉翅(カニ肉入りフカヒレのスープ)
◆鴛鴦玉帶子(貝柱のミントはさみ揚げと炒めものの盛り合わせ)
◆清蒸海星斑(ハタの姿蒸し)
皇扣鮑魚(アワビのオイスターソース煮込み)
◆紅梅脆皮
(プラムソース風味の鶏の丸揚げ)
◆菰瑶撈生
(シイタケと干し貝柱のあえそば)
◆上湯水餃皇(エビギョウザ入りスープ)
◆羊城雙美點(小菓子2種)
◆蓮子百合紅豆沙(ユリ根とハスの実入り小豆のお汁粉)
◆合時鮮果盤(果物盛り合わせ)
…こ、こんなにたくさん食べられるだろうか?
席に着くと、飲み物を尋ねられる。
見回すと、「食事は食事、宴会は宴会」と割り切る香港人、宴会のことを「飮酒」というだけあって、各々の席にはビールや赤ワインが置かれている。
少し飲んだだけで真っ赤になるHamはオレンジジュースを、どんなに飲んでも顔色一つ変わらないKeiは赤ワインを注文した。


大紅片皮乳豬
トップバッターは、披露宴には欠かせない仔豚の丸焼きである(純潔の象徴らしい)。
目の部分に赤色の豆電球がはめこまれて点滅しているのがお約束だ。
さすがに1卓に1匹だと1人2切れしか当たらない。
少々物足りないような気がするのだが、何しろ宴会料理は10品以上もあるし…というわけで、2切れの仔豚の皮をジックリ味わう。
噛むとパリパリとよい音をたて、口の中で皮が砕ける。
砕ける皮からジワリと脂が溶け出る。
食感と脂の甘さがたまらない。
添えられた甘味噌が更に旨味を引き立てている。

紅燒蟹肉翅
次も定番・フカヒレスープである(富裕の象徴らしい)。
スープは全ての材料の味が渾然一体となっていて、何とも深みのある味わいだ。
そして特筆すべきはフカヒレである。
太いものは5㎜ほどあり、長さもこれまた10㎝はあるかと思う立派なものがビッシリ入っている。
これはフカヒレのスープと言うよりフカヒレのスープあえと言う方が適当かもしれない。
逆にフカヒレの迫力に圧倒されてカニ肉の存在は感じられないのだが、個人的にカニ肉は必要ないように思う。
あまりに立派なフカヒレなので箸を使って食べる。
あ~極楽極楽。


鴛鴦玉帶子
貝柱の真ん中にペパーミントの葉の細切りを挟み、春巻の皮を細く切ったものをまぶしつけて揚げたものと、貝柱の素炒めの2種盛りである。
揚げものの方は見るからにヘビーな感じなのだが、ペパーミントの爽やかさが意外な好相性で、非常に軽い味わいに仕上がっている。
素炒めの方は厚みのある貝柱を微妙な火加減で仕上げてあり、中心部をレアに仕上げた貝柱の甘味が口の中で広がる。
好みで干し貝柱入りのオイスターソースをつけるが、そのままでも十分美味。
添えられたアスパラガスの歯触りも素晴らしく、1品でいろいろな食感を楽しめる料理。


清蒸海星斑
体長50㎝以上もある巨大な東星斑の姿蒸しである。
ここまで大きいものになると、さすがに身は大味になるのだが、これは仕方のないことだ。
しかし、さすがに巨大な東星斑だけのことはある。
普通ならほんのひとかけらしかない頬肉もまた、とんでもない量だった。
感心したのは蒸し加減である。
こんな大きなものなら、蒸し過ぎてパサパサになるか、蒸し足りなくて生になる部分ができてもよさそうなものだが、それがない。
こういうところに一流店の凄さを垣間見ることができるのだ。
同じテーブルに着いていた人たちが、「頬の肉は食家(グルメ)が食べるんですよ」と言いながらHamにすすめてくれた。
Hamは単なる「爲食(食いしん坊)」なのだが、周囲のご好意に甘え、ありがたく頂戴した。


皇扣鮑魚
アワビのオイスターソース煮込み。
丁寧に仕上げてあるため、缶詰独特の臭みが極力抑えてある。
しかし、特大サイズが災いして、最後の方で缶詰独特の臭みが気になってきたのが残念。
名前ばかりの干しアワビを食べて大枚はたくぐらいなら、これぐらいのアワビを食べる方が満足感が高いし経済的だと思う。
高嶺の花の禾麻鮑(青森県大間産干しアワビ)や吉品鮑(岩手県吉浜産干しアワビ)が口に入らないのなら、いっそ庶民の私たちは鮮鮑(缶詰アワビ)どころか、トコブシで十分だ


紅梅脆皮雞
梅風味の下味をつけた丸鶏を揚げたもので、好みでプラムソースをつけて食べる。
表面のパリパリ感、身のジューシー感に加え、皮の端に残った脂肪の甘いこと!
普通なら臭くて避けてしまう鶏の脂肪が何とおいしいのだろう!
肉も弾力があり、肉汁が口の中にジワリと広がり、ほのかに梅の爽やかな香りがする。
プラムソースとの相性もバッチリだ。
さて、ここでお茶の登場。
サーブしてくれた店の人曰く「鶏肉の脂肪分をお茶で流すんですよ」だそうだ。
お茶の登場で、アルコール類はここでおしまいとなる。


菰瑶撈生麵
シイタケも干し貝柱も具としてはそれほど主張していないのだが、旨味は粗麺(幅広麺)にしっかり絡んでいる。
ここまでのどちらかと言えば派手な料理から一転して、シンプルの極致のような料理だ。
味付けは淡白なのだが、いかんせんテンコ盛りなので、満腹に近い身としては途中で疲れる。


上湯水餃皇
大ぶりのエビ2匹に潰したエビがつなぎに入ったギョウザは、噛むとエビの甘味が口いっぱいに広がる。
スープも軽い塩味でギョウザと見事にマッチしている。
満腹でも食べられる料理を作れるところは、さすが一流店だ。
これはお代わりしたいぐらいおいしかった。

羊城雙美點
蛋撻仔(エッグタルト)と煎堆仔(ゴマ団子)の盛り合わせ。
エッグタルトのフィリングは白色がかっている。
個人的な好みとしては、黄身のしっかりと入った茶餐廳で売っているようなものの方がいい。
一方、ゴマ団子の中身はハスの実のあんである。
残念ながら、どちらの中国菓子も私たちの好物ではない。
満腹ということもあって可もなく不可もないという印象に落ち着いた。


蓮子百合紅豆沙
小豆の形の残っていないタイプのお汁粉が多い中で、これは珍しく小豆の形が残っていた。
ハスの実とユリ根が入り、ほのかに陳皮(干したミカンの皮)の香りがする。
最後まで「紅」という縁起にこだわるところに感心するが、このあたりは中国式宴会料理の定番とも言えるだろう。
ここまでくると満腹かそうでないかわからない無我の境地に入る。


合時鮮果盤
これも定番の果物盛り合わせ。
香港の果物はおしなべて水っぽく甘味に乏しく、一流店といえども、例に漏れずという感じであった。
無我の境地のHamは辛うじて完食、Keiはリタイア、2人とも瀕死の状態であった。


宴の後
宴会料理だけに、普段一品料理を注文するようにいかないのは当然だ。
しかし、宴会料理ということを差し引いても、一流店の力量を堪能させてもらえたと思う。
お腹も心もフルに楽しませてもらった。
食事が終わると招待客は三々五々帰って行く。
普通は招待客にケーキのチケットが返礼として配られるらしいが、私たちには嘉麟樓の月餅をシコタマ持たせてくれた。
礼を言って帰ろうとしたところ、「二次会も来てねー」というシアワセいっぱいの新郎新婦の突然(また突然だ!)かつありがたいお誘い。
"No."と言えぬ典型的日本人2人は、満腹のオナカを抱え(しかもKeiはすっかり出来上がっている)、二次会会場の翡翠酒樓へ向かうべく、彌敦道をヨロヨロと歩いて行ったのであった。
【2002年9月】


◆嘉麟樓  九龍尖沙咀半島酒店(℡23153160)