私房菜食べ歩き-囍宴廚藝
3度目の正直
「香港食家私房菜大全」というサイトがある。
このサイトでは私房菜の人気投票を行っていて、常にそのトップを走り続けているのがこの囍宴廚藝だ。
以前から是非行ってみたいと何度も電話をしてみたのだが、「極難訂位(予約を取るのが非常に難しい)」という言葉どおり、いつも予約が詰まっていてダメ。
しかも人数は最低6人、値段の高さも手伝ってハードルの高い私房菜だった。
半ば諦めかけていたところ、GWに香港に滞在していた時にふと思いついて電話をかけてみたら、アッサリ予約が取れてしまった。
それからが大変、もともと旅行の予定もないのに勢いで予約を入れてしまったものだから、航空券の手配だのメンバーを集めるだの大騒ぎをして、やっとその日を迎えたのだった。
メンバーは梓桐堂の時のメンバーを中心に大人10人プラス幼児。
エレベーターを降りると、オシャレな雰囲気の室内には丸テーブルが4つ。
私たちが一番乗りであったが、やがてすべて埋まっていった。
見ると誕生日のお祝いと思しきグループが2つ。
それぞれのグループが取り出していたケーキが高級ホテルのものばかりで目を見張る。
しかもいわゆる「ギョーカイ人」よろしく垢抜けた感じの人ばかり、実際芸能人やモデルも混じっているらしい。
普通のレストランでは食事をしにくい、そういった人たちが落ち着いて食べることができるという点で私房菜はありがたい存在なのだろう。
いささか雰囲気に気圧されながらのスタートだ。
テーブルに置かれた手書きのメニューによれば、最初から4品が頭盤(前菜)、それより後が主菜(メイン)の12品構成である。
こちらは飲み物のリストがちゃんとあってお茶も有料、サービスの人が何人かいて、いささかビジネスライクな感じ。
今回は週末だったので平日より高い海鮮餐(海鮮コース)。
さて、吉と出るか凶と出るか?
◆双味凍龍蝦(イセエビの冷たい前菜2色ソース)
◆海胆凍豆腐(ウニのせ冷奴)
◆胡麻温室茄(温室トマトのゴマソース)
◆桂花燻蛋(キンモクセイ風味の卵の薫製)
◆梅子軟殻蟹(ソフトシェルクラブの梅ソースがけ)
◆口水鷄(鶏の辛味ソースがけ)
◆蟹黄糯米飯(蟹入りおこわ)
◆香茅蝦膏炸鮮斑(ハタの丸揚げレモングラスとエビみそ風味)
◆梅子石榴(グァバの梅風味)
◆冬茸海皇羹(トウガンと海鮮のスープ)
◆金鈎白絲(中国野菜の細切り炒め)
◆柑桔蜜茉莉茶雪(ジャスミンティーのアイスクリーム柑橘シロップがけ)

双味凍龍蝦
豪勢な盛り付けに歓声が上がる。
青マンゴー風味とミント風味の2種類のソースが用意されて、ゆでたイセエビにつけて食べるというもの。
タイ料理に似たエスニック風味で面白い。
細かいところを見ると、イセエビの足は全て切り取られていて少々不自然に映る。
それはともかくとして、味は悪くないしプレゼンテーションとしてはトップバッターを飾るのにふさわしいものであった。

海胆凍豆腐
要するに巨大な豆腐の上にウニがタップリのせてあって、中華風のタレがかけてあるというもの。
イセエビに続いて食材としては贅沢な一品ではあるし、中華風の冷奴というのは悪くはない。
ところが「このタレの味、どこかで食べなかった?」という話になり、メンバーの1人の「これ、冷やし中華のタレだよ!」という、ある意味率直すぎる発言によって全員が一気に引いてしまった。
そして「せっかくのウニなのに惜しい使い方をしている」「こんなの誰でも作れそう」という発言も出る。
この贅沢な一品は残念ながら日本人の私たちには向いていないようだ。

胡麻温室茄
「エッ?何これ?」出された時には一瞬よくわからなかった。
食べてみて納得、湯むきしたトマトに白ゴマのソースがかかっているというシンプルなもの。

日本から輸入したという高級トマトとのことであるが、残念ながら我が家の近所のスーパーでも、もっとおいしいものを売っている。
それだけ生のトマトは手に入れにくいものだということだろうが、わざわざ香港で日本産の青っぽいトマトを口にすることになって、少し悲しくなってしまった。
考えてみると、これも家で簡単に作れそうだ。
ただ盛り付けに凝っただけで立派に見えるというお手本のような一品だった。
Keiは「これってさ、トマトの皮むいてバシバシ切って上からしゃぶしゃぶのタレかけたらOKって感じだよね」とニヤニヤしていた。

桂花燻蛋
ゆで卵の薫製の上にイクラとホタテか何かの珍味がのっているというもの。
まるで酒の肴のような一品。
そこらへんの居酒屋で出てきそうだ。
桂花(キンモクセイ)と名前に書いてあったので、きっと薫製にする時にキンモクセイの花を使っていると思うのだが、残念ながらその香りは感じられなかった。

梅子軟殻蟹
揚げたソフトシェルクラブに甘酸っぱい梅ソースがかけられているというもの。
ソフトシェルクラブはベトナム料理でもおなじみだが、殻ごと食べられるので、蟹みそや殻の旨味を味わえるのが嬉しい。
油でベタついたものが出てくることが多いのだが、こちらは揚げ具合も秀逸。
しかし、なぜ梅ソースなのだろう?
揚げものに甘いソースは少々くどさを感じてしまう。

口水鷄
今度は四川料理の登場。
先に辛さの度合いを尋ねられて、全員がオリジナルの味を希望したものだ。
蒸し鶏がほぼ丸ごと盛られていて、見るからに辛そうなソースがかかっている。
ソースはラー油に黒酢と山椒が入っているというかなり強烈なもの。
完全に鶏が沈むくらいタップリかかっているので、辛さから逃れる術はない。
昨日の亮明居に続いて今日も辛さにあえぐことになってしまった。
残念ながら辛味の中に旨味を感じるということもなく、ただただ感心したのは上に飾られた立派な唐辛子であった。

蟹黄糯米飯
蟹を丸ごと2ハイ分のせた蒸しおこわ。
見た目は立派だが、蟹ともち米の融和は感じられず、蟹をのせる必然性は不明。
蟹みそがタップリ入っているかと思いきや、そういうわけでもない。
もち米の色が少し黒っぽく仕上がっていたので、何かアイデアは凝らしたのだろうが、残念ながらシェフの真意は私たちに通じなかったようだ。

香茅蝦膏炸鮮斑
ハタの丸揚げの下に、ザボンの実をほぐしたものが敷いてある。
油っぽい魚をザボンでリセットしながら食べるという趣向なのだろう。
「香茅蝦膏」という文字から、もっとエスニック風味豊かなものを想像していたのだが、実際は魚の淡白さとザボンの甘味しか感じられなかった。
何かこう、あと一押し足りない。
輪郭がボヤけていて不満が残る。
いろいろと考えているようではあるが、「まぁこの程度ね」というレベル。

梅子石榴
グァバとレンブという果物が登場。
どちらもそのままではお世辞にもおいしいと思えない果物だ。
普通のコース料理では、こんなところで果物が登場することがないのだが、長々と続くコースの小休止といったところであろうか?
それほどおいしいと思えない果物ではあるが、甘酸っぱい梅ソースに漬けることでほどよい甘味が付いている。
サクサクとした食感も口直しにはよかったかもしれない。
「ウン、これはまともでおいしい」という力が抜けそうな発言も聞こえた一品であった。

冬茸海皇羹
海鮮入りトウガンのすり流しスープ。
具沢山であることはとりあえず評価しよう。
しかし化学調味料独特の後味が舌に残る。
このような薄味で仕上げる料理で化学調味料を使っていることが露骨にわかると途端に興醒めしてしまう。
Hamは苦渋の表情で全部食べ、Keiは具だけを食べてスープには一切手をつけなかった。

金鈎白絲
この時期だけに収穫される白」という上海地方原産の野菜を炒めたもの。
新ゴボウのような食感だ。
それをレア感のある干しエビとクコの実と一緒に軽く炒めてある。
先のスープで化学調味料を使っていることがわかってしまったためではないが、これも妙な後味が舌に残る。
珍しい野菜を使っているということを除けば、あまり魅力を感じなかった。

柑桔蜜茉莉茶雪

サッパリしたアイスクリームではあるが、ディナーの締めくくりかと思うと寂しくなるようなものだ。
アイスクリームはともかく、柑橘のシロップはアイスクリームの冷たさのせいで固まってしまい、食感が悪い。
添えられた仙草ゼリーは固すぎで好みではない。
いっそ糖水(中国風のお汁粉)か何かを出してくれた方が嬉しかった。

香港式fusion
今年の「美食之最大賞(香港美食大賞)」のテーマの一つにfusion(フュージョン)が挙げられているが、一つの流れとしてフュージョン料理が人気を集めているというのは確かなようだ。
しかし、そのレベルは残念ながらハワイのPacific Rim料理はもちろんのこと、日本のちょっと気の利いた居酒屋のレベルにも達していないのではないかと言ったら言いすぎだろうか?
もちろん、ウニのせ冷奴やらトマトのゴマソースやら卵の薫製といった私たち日本人にとって珍しくもない料理が続いたのが減点の理由になってしまったということは否めない。
しかし、調理も下こしらえに手間暇かけているとは思えないようなものが多く、素材遊びというか、小手先の捻りが少しあるだけ。
美しいと評判の盛り付けのセンスについても、それほどではないという感じ。
素人芸としては健闘していると思うのだが、残念ながらそれ以上のものを感じることはできなかった。
こちらのオーナーシェフは「美食之最大賞」のフュージョン部門で審査員を務めるそうだが、正直な話、不安になってしまった。
他の国の料理のエッセンスを取り入れるのは悪いことではないが、いたずらにそれらを追うのはいかがなものか?
それより広東料理の本場としての矜持をしっかりもってレベルの高い広東料理を生み出し続ける努力をしてもらいたい。
しかしながらこちらは香港人には大変好評であり、ことにフュージョン料理については香港人に人気だから日本人の私たちもおいしいと思うわけではないということについても認識を深めることができた。
HamとKeiにとって高い授業料だったが、いろいろと見えてくるものあって、それなりの収穫はあった。
そんな「授業」に快く付き合ってくださった皆さんにお詫びと感謝の気持ちでいっぱいである。
【2005年9月】

◆囍宴廚藝  香港灣仔皇后大道東231-233號