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このページは、母みちこのエッセイを掲載しています。
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秋 天


 10月26日は、高浜年尾先生のご命日である。
 年尾先生がお亡くなりになられてから。10年の歳月が流れ、年尾忌という言葉も今では、すっかり呼びなれたものになった。
 私は、年尾先生にはお目もじの叶わぬじまいであったが、ご生前の先生は、おおらかで明るいおかたであられたとのことである。
 それ故か、先生のご命日には、きまってすばらしい秋晴れを賜わるのだといわれている。
 この、抜けるような高い秋の空を見るたびに、私には忘れられない思い出がある。

 毎年、年尾忌には菩提寺である、鎌倉の壽福寺では、法要につづいて先生を偲んで句会が催される。
 その年の年尾忌の朝も、昨夜の雨のあとの美しい空が広がっていた。
 主人と長男を会社へ送り出すと、私は、車をかけて空港へ向かった。
 朝の通勤ラッシュの中を、高松空港についたのは、搭乗案内のアナウンスが流れているときで、私はすぐ空席待ちを申し込んだ。
 空席がなければ引き返すほかはないと、半ばあきらめかけていると、私の番号が呼ばれ、切符を手にした時の感動を <年尾忌の空席切符しかと手に> と、句帳にしたためた。

 そして、私を乗せた飛行機は、雲一つない秋天に向かってとびたった。
 機窓からは、輝く海の色や小さな建物にいたるまでもくっきりと見え、あっという間に羽田空港に着陸した。
 このとき私には、秋天をこの飛行機が、まるで、高松空港から羽田空港までを一またぎしたように感じたので <秋天を一またぎして着陸す> と、作句した。
 四百名に近い大句会で、互選の披講のあと、稲畑汀子先生ご選の披講がはじめられたが、初心者の私の句が入選するはずがないと思い、私は参加
できたことだけで満足していた。
 いよいよ最後に、特選句十句が披講されたが、驚いたことに、その中に私の句があったのである。
 私は、名乗りの声がうれしさでふるえるのをどうすることもできなかった。
 そのうえ、何度かお会いしてごあいさつした私のことを覚えていてくださって、
  「逢坂さんは、はるばる高松からお越しになられました」
 という、ねぎらいのお言葉を大勢の前で、句評とともにいただいたのである。
 <俳句は作るものではなく、授かるものである>と、常々、合田丁字路先生は私たちを導いてくださっているが、まさにこの句は授かった句であったと思う。

 すでに、空は夏のにごりを消しはじめ、澄みきった秋天を作りつつある。
 そして、今年もまだ、年尾忌が近づいてきた。
 

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