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このページは、母みちこのエッセイを掲載しています。
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スダチ
今年も、わが家の畑に、スダチがたくさん実をつけた。
このスダチは、農協から十年前に苗木を買ったものである。おひたしに、てんぷらにと、その甘酸っぱい香りは、食卓をうるおしてくれる。
娘はスダチが好物である。大学時代、神戸の下宿へ、米や野菜の荷の中へ入れて送ってあげていた。<母からのすだちは使はぬ日のなくて>、これは娘の作った俳句である。
大学4年間を、勉学のかたわら、明石にある”バンビ”という画廊喫茶で娘はアルバイトをしていた。
おばあさん、ご主人、奥さん、三人の息子さんの六人家族。店は奥さんがきりもりしていた。夕食は奥さんの作った家族と同じ料理を食べさせてくれたそうだ。
奥さんもスダチが好物で、娘は私がおくったものの中から、おすそ分けをしてあげていたようである。
私が甘やかして育てたせいか、娘は何もできなかった。そんな娘を奥さんは叱りながら、いろんな事を教えてくれた。<もう奥さんが留守でも、店を預けれるようになったのよ>。いつだったか娘が私に電話で話してくれた。
娘は次第に奥さんのことを、自分の母と同じくらいに慕うようになっていったのである。
卒業式の数日前、奥さんは
「わたしに女の子がいたら、同じくらいきびしく育てていたでしょう。いい娘になってよかった」
と言ってくれたという。
このことを私は、”もうひとりの母”と題した娘の書いた随筆で知り、バンビの奥様に心から感謝した。この随筆は一昨年、RNCラジオで放送された。放送を聞いたという知人から、奥さんの娘に対するあたたかい心に涙した、という電話を何本かもらった。
卒業してふるさとに帰ってきた娘は、農協で注文していたスダチの苗木を三本、奥さんに送ってあげた。
<毎年、スダチがすずなりになる頃、わたしのことを思い出してほしいから>だそうだ。
娘は、てんぷらにスダチの汁をかけながら、バンビのスダチも実をつけている頃だろうとなつかしそうに言う。
娘のもうひとつのふるさと明石は、人情豊かな町と聞く。
あれから娘は仕事が忙しく、バンビを訪ねていない。
私は一度、奥様にお会いしてお礼を申さねばと思う。その時に、娘の随筆を納めたテープも聞いていただけたらと思っている。
奥さんからは毎年、手作りのいかなごのくぎ煮が届けられている。娘の弁当に少しづつ入れている、奥さんの作ったくぎ煮は、しょうががたっぷり入っており、これにスダチの汁をかけていだどくと、とてもおいしい。
1993年 秋
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