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ご無沙汰いたしました。

 5月の初めから僕はT町に住んでいます。
以前から、ここの高原のような朝夕きりりとした空気が好きで
住んでみたいと思っていましたが、やっと実現しました。
まだポツリポツリと家が建っているだけで寂しいのですが、
毎日気持ちよくすごしています。

 たしか2年前でしたか、T町の街外れにある病院に半年ほど
入院していたことがありましたね。
あの時の、隅に押しやられたような息苦しさとは、まるで違います。
日陰の黒く汚れた残雪が、汚く消えていくかのような
寂しさを感じたのですが、それも、ここ6月の高原には微塵もなく
僕にはとても嬉しいのです。

 療養中に何回かお会いしたあの公園には、
今も買出しの時に寄るのですが、あの時と同じとは思えないほど、
青い空が大きく広がり、日差しも強く、僕の顔や半袖の腕を
戯れて過ぎる風のせいか、すべてが心地よく感じます。
ベンチに腰を下ろし、のんびりと考え事をします。
たとえば、春先から花の色がたくさん目に飛び込んできて、
毎年こんなにも花が咲いていただろうかとか、
今頃になると、とても素敵な香りが漂い始めるので
立ち止まりあたりを探してみるのですが、
今年こそはどんな草か花なのかを調べてみようとか。

 僕の顔を覗く人は、人生に疲れて行末のことでも
考えていると思うらしく、不安げな顔をして通りすぎていくのが
内心とてもおかしいのですよ。
 今こんな田舎で暮らしているのは、都会での競争に
負けたからですが、それが逆に、本来の自分を取りもどすため
静かな暮らしを求めたからに他なりません。
自分らしく生きることがいかに大切なことかが、わかったからです。

 あなたはいつ頃こちらへいらっしゃいますか。
僕はほとんど毎日のようにあなたのことを考えます。
昔の写真を見ることもあります。
あなたと入った喫茶店は今でも残っていますよ。
一言も話さずに出てきたこともありましたね。
ああ、なんと沢山の事が思い出されることか。
でも僕は本当はそんなに悲しくないんですよ。
 ここの高原は生きることの楽しさを与えてくれます。
朝の小鳥のさえずりに始まり、小さな虫たちや木々のざわめき、
軽やかな小川のせせらぎ、花の咲き誇る野原、
あらゆるものが僕を応援してくれます。
昔の汚れた街では味わうことのできないさわやかな楽しさを。

 でも一体いつ、あなたは来るのですか。
その日まであなたの写真を見ることを、そして思い出の公園で
あなたを思うことをお許しください。
今では、道ばたの花も、小川を渡る踏み石も、
すべてが僕の一部となっていて、もはや切り離せないように、
あなたを待つことが自然であり、喜びなのです。

 あなたとお会いしたなら、この、Webサイトを消してしまうつもりです。
このサイトには、あなたのことは一言も載せていません。
あなたと僕の共同サイトを立ち上げるのが、夢なのですから。

 では、さようなら

                H14-6 T町にて