[ルンナ][マリ][クリ][リリ&ルルillustration] [トップページ]
| 2000年5月ごろ生まれた姉妹猫 |
| 2004年7月永眠 |
リリの分まで生きるよ |
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| 2001年5月3日、突然その猫はやってきた。 お昼前、同じマンションのTさんから電話があった。「例の猫を助けたんだけど、引き取る気はない? すごくかわいいの」。少し遠慮がちの、それでいて心なしか弾んだ声が受話器から聞こえてくる。 Tさんはいままでも捨て犬や捨て猫を保護して自宅で飼ったり、里親をさがす活動をしている。2、3年前にもカラスに襲われ、傷ついてマンションの玄関でうずくまっていた猫を保護した。すぐにマンションの掲示板に引き取り手を求める張り紙を出したが、結局引き取り手は現れず、自宅で飼うことになったのだが。 「朝出かけるとき、その子はじっと玄関先に座っていたの。気になったけど急いでいたのでそのまま出かけたのよ。でも、夕方、帰ってきたときも同じ場所に座っていたの。同じ場所によ。何人も出入りしたはずなのに、だれも何もしなかったのね」 Tさんは自腹を切って野良猫に避妊・去勢手術させたりもしている。なんとか「地域猫」として、住人に認めてもらい、野良であっても幸せな人生(猫生)を生きてほしいと望んでいるからだ。猫好きでも、そこまではやるひとはめったにいない。 そんなイイヒトであるTさんから頼まれると、ふつうのひとは断れない。で、私はとりあえず猫を見に行った。 玄関先に置かれた小型の檻のようなケースの中に、キジトラの、小さな猫がうずくまっていた。 「ねっ、可愛い顔しているでしょ」。Tさんの言葉に思わずうなずいたが、猫は顔を隠すように下を向いているので、もうひとつよく見えない。からだの向きを変えたとき一瞬顔が見えたが、あのクリの愛くるしさには、とうていかなわないように思えた。 自宅にもどり、同居人に「猫を引き取ろうかな。クリが死んで3カ月だし」と切り出した。同居人は猫を飼うのはもう少し先でいい、と言う。「猫がいたこの22年間、旅行するにもペットシッターを頼まなければならなかった。安心してゆっくり旅行もできなかったので、夏が過ぎてからでも遅くないのでは」というのが理由だった。 「その猫は避妊の手術をすませてTさん宅で療養しているの。でもいつまでもTさんが面倒を見るわけにもいかないから、私たちが引き取らなければ、野良猫になってしまうよ」「避妊手術をもう受けさせる必要もないから、かわいそうな姿を見る必要がないし」「手術費が節約できる」など、いろいろ言い立てると、同居人も渋々同意した。「それにしても、うちにはまともな猫は来たことないなぁ」とため息をつきながら・・・・・・。 本当にうちには「まともな猫」が来たことがない。全部が全部、拾ったというか保護したタダの猫だ。どこの「猫の骨」かわからない猫ばかりである。お金を出して猫を買うという考えが、私にはまったく欠落している。ケチなのかもしれないけど、商品として猫を考えたことがないのだ。 とにもかくにも、猫はやって来た。それも、いままでで一番大変な猫である。 マリもクリもうちに来たときは生後3カ月くらいの子猫だった。野良猫の子とはいっても小さかったので、さわることも抱き上げることも簡単にできた。トイレの場所、爪とぎの場所、やってはいけないことなどもすぐ覚えた。でも、今度の猫は・・・・・・。 その猫は、私の住んでいるマンションの駐輪場のドライエリアで生まれた。そこは四方を高いコンクリートの塀で囲まれているので、鍵をもっている管理人しか入れない。めったにひとが入らないので、野良猫にとっては比較的安全な場所である。 2000年の夏、ここで野良猫が子猫を育てているのを見つけたTさんたちが、エサを塀の上から投げ入れたりしていた。なかには雨傘を猫にめがけて投げ込み、驚いて逃げるのを見て喜んでいる子どももいた。子猫は生後2、3カ月で、キジトラが3匹と黒いのが1匹、全部で4匹だった。 子猫が大きくなるにつれて母乳では足りなくなり、母猫はどこからか残飯を運んできていたという。魚やチキンの骨が残っていたというから、近くのレストランのゴミ置き場からもってきていたのだろう。 そのうち秋も深まった。 母猫はTさんたちに、後のことはよろしく、とでもいうように、塀を駆け上がったきり、二度と子どもたちのもとへ帰ってこなくなった。 残された4匹の子猫はからだを寄せ合って、塀の上から落ちてくるエサを待つようになった。マンションの清掃係のひとにも猫好きがいて、そのひともこっそりエサを与えていたらしい。 12月になって、2匹の猫がいなくなっていることにTさんは気づいた。 母猫の真似をして、毎日必死でジャンプの練習をしていた2匹は、ついに塀を駆け上り、外へ出たのだ。残ったのはキジトラと黒の2匹。本格的な寒さがくる前に巣立ってほしい、ここでは冬を迎えるには寒すぎる、とTさんは思っていたが、2匹にとって塀はあまりにも高すぎた。 2匹は出ていく気配もなく、塀の上からパラパラと降ってくる木の葉を集め寝床を作り、そこに眠った。心優しいひとが2匹のために毛布を投げ入れてやった。 厳しい冬が到来した。 翌年の1月、清掃係のひとが黒色の猫がいないことに気がついた。 クロもやっと塀を越えることができたんだ、とTさんたちは思った。しかし、数日後、塀の中でクロの死体が見つかった。数日前に押し寄せた寒波に、幼いクロは耐えきれなかったのだろう。 キジトラの猫が1匹だけ残された。もう、からだを温め合う兄弟はいない。 Tさんたちはキジトラをなんとか救おうと何度か試みた。しかし、失敗の連続だった。人間を警戒するあまり、隠れて出てこないのだ。 私が、そんな猫がいることを知ったのは4月の中ごろだった。ペットの飼育について話し合う会合が終わったとき、Tさんから聞いたのだ。そんなかわいそうな猫が自分の身近にいたなんて・・・・・・。それからずっと、気にかかっていた。 春になり、子猫も1歳を迎えようとしている。意を決してTさんたちは立ち上がった。 朝5時に管理人に鍵を開けてもらい、塀の中に入り、猫をエサを入れた檻におびき出した。最後のチャンスかもしれないので、檻をつり上げるときも慎重に事を運び、やっと救出に成功した。 その足で獣医に連れて行き避妊の手術を受けさせた。4月29日のことである。 Tさんたちが手術を受けさせた猫たちは、右耳の先端をVの字に5ミリくらいカットされている。そうしないと野良猫の場合、2回も3回もおなかを開かれた例が何件もあるらしい。この猫も例外ではない。区別をつけるためとはいえ、Tさんに、猫は耳が痛くないのかしら、と聞くと「大丈夫よ。人間のピアスの穴と同じようなもの」とサラッと言う。 猫に避妊・去勢手術を受けさせるのは、人間の身勝手だというひとがいる。 猫にも子どもを産んで育てる権利はある。猫だけでなく、犬にも羊にもワニだってカバだって、ヒトだって、どんな生き物にも当然、権利はある。けれども現実に一緒に暮らしている猫がシーズンがくるたびに出産するはめになったら、生まれてくる子猫を、いったいどうしたらいいのだろうか? 手元で育てるにも限界がある。 割り切れない思いは残るが、避妊・去勢の手術以外の手だてをいまは思いつかないでいる。 その猫を「リリ」と名付けた。 マリの「リ」とクリの「リ」をとったのだ。最初、マリとクリの最初の1字をとって「クマ」や、ルンナの1字を入れて「ルリ」という案もあった。でも、クマはうら若き乙女(古い!)にはかわいそうだし、ルリは石坂浩二さんに一方的に別れを通告されたイメージの浅丘ルリ子さんを彷彿させたので、なんとなく立ち消えになってしまった。 こうして、リリちゃんとの新しい暮らしが始まった……。 |
| ルルちゃん、あなたについてはまだよくわからない。 リリの後に来たから「ルル」と名付けたのだが……。 ルルはリリの姉妹だという。ということは、2000年末、冬がくる前に高いコンクリート塀を乗り越えて外の世界へ出た2匹のうちの1匹ということになる。道理でからだが大きいはずだ。リリと比べると1.5倍近くある。骨太で跳躍力が勝っていたから、あの塀を越えられたのだ。 ルルは2001年5月29日に、正式にわが家に来た。 本当は27日からいたのだけれど、28日に、いったんTさんに返しに行ったのだった。 ルルはリリを見たとたん、姉妹とわかったようだった。さかんに「ルルルルウ・・・」と呼びかけたが、リリは拒否した。それどころか、リリを見るとパニックを起こして卒倒しかけた。リリにしてみれば、1年ぶりにコンクリートの穴蔵から出て安心して暮らせる所をみつけた矢先だったのに、新入りに縄張りをあらされるのが不安だったに違いない。仮にルルが姉妹だとわかっていたとしても、自分を塀の中に置き去りにしたルルが許せなかったのだろう。 5カ月近くの野良暮らしで、ひとりで生きるすべを学び始めたルルには、リリとはまた違った人生(猫生)があるのかもしれない。 ルルを招き入れたために、リリがひがんでグレた猫になったら、本末転倒である。こんなに仲が悪い2匹を一緒に住まわせるわけにはいかない。私も成猫になりかけた1歳の猫たちを仲良くさせる自信がない。いろいろ言い訳をしがら、リリを保護して避妊手術をさせ、家に来るまで静養させていたTさんにルルを返しに行ったのだが・・・・・・。 しかし、何か心にひっかるものがあった。 マリとクリの例もある。1匹でマンション・箱入り猫になるより、2匹で遊び、寝て、留守番するほうが、楽しいはずだ。心強くもあるだろう。私たちも安心して外出できる。ましてリリとルルは、マリとクリのように他人(他猫)ではなく姉妹なのである。時間はかかっても、いずれ仲良くなるだろう。 考えた末、翌朝、ルルをもう一度引き取りに行った。 結果的に連れ帰ったとはいえ、ルルをまるで商品のように簡単に返したことを、いまでは悪かったと思っている。 ルルがなつかないのは、まだ、このことを許していないからだ。許してくれたときが、からだにさわらせてもらえるときだと思う。 その日が来るのを楽しみに待ちながら、ルルに嫌われてもいいから、うるさがられてもいいから、毎日少しずつ話かけていこう。 ルルちゃん、仲良くしようね。 (2001年5月末記す) |
| こうして、リリとルルは再び一緒に暮らしはじめた。 ひとの心配をよそに、すぐに2匹は仲良くなった。 しかし、姉妹水入らずの暮らしは長くは続かなかった。 2004年7月12日、リリは悪性腫瘍のため永眠した。 4歳という若さだった。 |