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最初に出会った猫 (1979ごろ〜?) 美しさ、賢さ、優しさ、不思議さ、野生性 猫の魅力のすべてを教えてくれた |
| ルンナは野良猫だと思っていたが、飼い猫だったのかもしれない。 よく晴れた秋の日、ブロックを積み上げた近所の門の上に「番猫」のようにちょこんと座っているルンナを発見した。「ルンナちゃん」と声をかけたが、私をちらっと見ただけで同じ姿勢で鎮座ましている。なんだか迷惑そうだったので、声をかけるのをやめ、私は足早に家に向かった。 しばらくして、「ニアャーン」と高くよくとおる声がドア越しに響いた。ルンナは何事もなかったように、ドアから飛び込んできた。そして、いつもように食事をし、いつものように本棚に駆け上がり、「なんだ、こんなもの」というように本を次々落とし、いつものように私のそばで眠った。 ルンナは全体にグレーぽっい色の猫で、手足とおなかはシマ模様だった。目は深いエメラルドグリーン。長い脚(手足)を交互に踏み出して堂々と歩く姿はなんとも優雅である。これが「キャットウォーク」なのだろう。それまで、猫といえばみな同じに見えていた。 初めて美しい猫がいることを知った。 彼女に出会うまで、私は猫が苦手だった。犬と比べると陰気で、何を考えているかわからない。切れ長でつり上がった目で見つめられると、ただただ怖かった。 幼いころ、飼い猫にひっかかれ傷だらけになり、セーターを猫の毛だらけにしながら、それでも猫をかわいがっている女の子がいた。その子の気持ちがルンナに出会い、やっと理解できた。傷や毛にまさるなにかが猫にはあるのだ。 私は子どものころ犬を飼っていて、犬のかわいさ、賢さは十分知っているつもりだ。犬は子どもの友達であり、理解者でもある。しかし、猫は、また、犬とはまったく違ういきものなのだ。ひとの心をとらえる不思議な魅力があり、気がつけば、猫好きの仲間入りをさせられているのである。 初めて出会ったとき、ルンナは中猫(成猫でないが子猫でもない)だった。 早春の夜、外で猫の鳴き声がした。ケンカをしているようであり、求愛をしているようでもあり、かなりうるさい鳴き声だった。暇をもてあましていた私は、急いで冷蔵庫にあったボンレスハムをつかんで、アパートの階段をサンダルの音を立てながら駆け下りた。 4、5匹の猫がいた。ハムを顔の前にかざすと、数匹があわててくわえ走り去る。ルンナだけはひと慣れしているのか、そばで食べていた。 そんなことを繰り返しているうちにルンナとすっかり仲良しになり、当時住んでいたアパートに招待した。招待といっても煮干しとちくわを出しただけだけど。彼女は1時間ほどいて食事をし、部屋を少し探検し、満足げに帰っていった。 翌日も翌々日も、その次の日も彼女は訪ねてきた。それもきまって夜8時すぎに。最初に招待した時間ときっかり同じだ。「アーン」と高い声で一度鳴くと、顔をまっすぐ上げ両足をきちっとそろえて座り、ドアが開くのを待っている。そのうち泊まっていくようになり、帰らなくなってしまった。 「ルンナ」という名はそのころ走っていた競走馬から付けた。黒光りの馬体に深紅のマスク。スラッと伸びた脚が印象的な馬だった。強くもなかったけど、そんなに弱くもなかったと思う。そういえば、昔々『白馬のルンナ』という歌もあった(年齢がわかってしまうけど)。 ルンナは狩りの名手だった。 毎朝、ネズミをくわえて朝帰りをする。ときには小鳥のときもあり、なんと生きたコウモリのときもあった。コウモリが狭い部屋の中を飛び回り、ルンナが追いつめる光景は、かなりショックだった。本来の野生の姿を見せつけられ、「獣」なのだ、と改めて認識させられた。 1年ほど一緒に暮らしただろうか。ルンナと別れる日がやってきた。通勤に便利な所に引っ越すことになったのだ。当然のようにペット禁止のマンションだったので、彼女は実家に連れていくことにした。しかし、これが彼女にとって良かったかどうか。いま思うと、冒頭に書いたように、ルンナはうちのほか、別宅があったことはほぼ間違いなかったと思えるから。 ルンナと再会したのは、実家近くのお寺の境内。ネズミ取りの腕前を見込まれて、お寺の養女(猫)になっていた。久しぶりに会う彼女はお寺の奥さんの腕に抱かれて現れた。私と目が合うと「ニャー」と小さな声で鳴いたあと、奥さんの胸に顔を埋め甘えていた。なんだかすねているように見えた。住職が「ミイコは島倉千代子みたいに良い声をしている」と話しかける。いつのまにかルンナは、「ミズタニミイコ」になっていたのだった。 これがルンナを見た最後になった。 その後、ルンナはお寺の住職を辞したミズタニさん夫妻と、伊丹で4年ほど幸せに暮らしたらしい。ある日突然家に帰ってこなくなり、ミズタニさんが方々手を尽くして捜したが見つからなかったという。 お寺の境内に続く石畳で、奥さんに抱きかかえられながら顔の真横に手(足?)持ち上げてもらい、恥ずかしそうに振ってくれたルンナの姿を、いまでも思い出す。 |