連載 私の教材開発物語 第16回
「やはり見学させたい!地域の工場」
佐藤 正寿(岩手県・水沢市立水沢小学校)
■ まさに「百聞は一見に如かず」
「おはようございます!」と工場で働いている人たちが子供たちに声をかけ
る。あわてて、「おはようございます」と挨拶を返す子供たち。いろいろな社会
科見学に行くが、こんなにあいさつをされたのは私自身初めてである。
見学担当の方に聞いたら、「よりよい職場」「働きがいのある職場」にするた
めに、あいさつを励行されているということ。「QCサークルによる提案活動」
「モラールの向上活動」も盛んだという説明を受けた。
実際に製品を作る機械を見る。コネクタは小さな部品であるが、その製品作
りのために大型の機械がどんどん動いている。
「こんなに大きな機械でできているんだ!」
と子供たち。
そうかと思えば、人が細かい部品の検査をしている。不良品の割合の低さに
子供たちは驚いていた。
地元宮古の工場見学の一コマ。まさに「百聞は一見に如かず」。
必死にメモをする子供たちの姿がそこにあった。
■ どんな部品工場を選ぶか
前任校の宮古市立高浜小学校の5年生を担任していた時のことである。
社会の教科書の工業産業は自動車工場の例が出されている。
岩手にも自動車工場はあるが、宮古からバスで片道3時間もかかる。自動車
の部品工場にしても似たようなものだ。
今はインターネットで「バーチャル工場見学」というサイトもある。それを
使って学習を進めようかとも考えた。しかしながら、やはり本物を見せたい。
本物でなければわからないこともあるはずだ。
では、地元宮古にはどんな工場があるのか。宮古は三陸海岸の漁業の町であ
る。水産業に関わる工場なら多いが、工業関係は少ない。同僚に聞いても「い
いものがないので、工場見学をしていない」とのこと。(私自身は宮古に住んで
3年目。)他の学校の社会科教師に聞いても、どうもピンと来ない。それどころ
か、この不況で倒産が相次いでいるとのことであった。
ここで頼りになるのは、インターネット検索である。地元宮古のことであっ
ても、浅い情報ならインターネットで調べた方が多くのものを集めることがで
きる。その中で見つけたのが「東北ヒロセ電機」である。ゲーム機や携帯電話
のコネクタを中心に作る工場である。
この工場名をキーワードに検索をする。「業績好調」の新聞記事。親会社のヒ
ロセ電機のホームページに掲載されている従業員の声。どちらも「宮古の工場」
とは思われなかった。「これだ!」と思わず、パソコンの前で呟いた。
■ 事前のフィールドワーク
すぐに連絡をとり、工場を見学させてもらう。すぐに目につく看板「目指せ、
世界一の工場」。担当の方からいろいろな話を聞かせてもらう。
□業績好調で、どんどん働く人が増えていること。
□部品はいったん横浜に送られ、海外にも輸出されているということ。
□働きがいのある会社にするために、仕事後のクラブ活動が盛んなこと。
□自分たちの技術が世の中のためになっているという誇りを持っているという
こと。
□宮古は首都圏から遠い(600km離れている)が、逆にそれが競合相手の
いない結果となり、労働力確保につながっているということ。
「宮古にも、このような工場があったのだ」という思いであった。この私が
感じた思いを、子供たちにも伝えたい。きっと子供たちも共感するはずだ。そ
う考えた。
実際に見せてもらった製品を借り、自分の教材開発までの素材をフル活用し
て授業を組み立てた。
■ 実際の授業
☆1時間目(見学の事前学習)の主な発問・指示
1 今は「不況」と言われています。どういう意味ですか。
2 「東北ヒロセ電機」は宮古市赤前にある工場です。(「業績好調」という新
聞記事を示して)気づいたことを発表しましょう。
3 東北ヒロセ電機にはスローガンがあります。「目指せ、( )一の工場」で
す。「何一」だと思いますか。
4 何を作っているのか説明をします。(工場から借りてきたコネクタの実物を
見せる。)
5 このような小さなものを作る時に難しいと思うのは何ですか。
6 これらのコネクタの部品はどこに送られていると思いますか。
7 不況でもこのような工場が宮古にあります。次の時間に見学をします。聞
きたいことを書きなさい。
「目指せ、世界一の工場」というスローガン、時代の先端を行く携帯電話の
部品、海外に輸出という事実に子供たちは一気に興味を示した。
☆2〜3時間目(見学学習)
冒頭に書いたように、子供たちは工場の様子を目の当たりにして、数多くの
発見をしていた。
☆4時間目(事後学習)の主な発問・指示
1 工場見学で、君たちが見つけた東北ヒロセ電機が元気な秘密を発表しなさ
い。
2 わざわざ宮古に工場を作った理由は何だと思いますか。
3 このような工場が宮古にあることをどう思いますか。
最後の発問で子供たちは、「この近くに、こんな優秀な工場があると思わなか
った。すごい。」「まだ、県内一ではないけど、やがて県内一になって、スロー
ガン通り世界一になってほしい。」という感想を持った。
■ 教師の役目
日本のもの作りの技術のすばらしさは世界的に有名である。
ぜひ日本一」「都道府県一」という技術を持つ工場を、子供たちに見学をさせ
たい。本物にしかない事実に圧倒されるはずである。
しかし、実際には時間的・物理的な制約上それは難しい場合が多いであろう。
ただ、どの地域でも、すばらしい工夫や努力をしている工場があるはずである。
それを探し出すのが教師の役目であろう。その対象を見つけ、フィールドワー
クをする過程で、その工場を対象としたオリジナルな授業プランは決まってい
く。
事実を学んだ子供たちは、「自分たちのまちにもこのような工場があるのだ」
という共感を持つようになるのである。
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