連載 私の教材開発物語 第2回

 「『もの・こと・ひと』で考える 〜チリ地震津波の教材化〜」

         佐藤 正寿(岩手県・宮古市立高浜小学校) 

                        
■「もの・こと・ひと」という視点

  「これはおもしろいネタだ。」
  いろいろな場面でそう思うことがある。しかし、そのままでは
 そのネタはあくまでも素材にすぎない。その素材をどう教材化す
 るか。それが教材開発の楽しみである。
  その教材化の視点として私が基本的に設定しているのが、「も
 の・こと・ひと」である。

  □どのような「もの」(子供たちが追究できる実物や資料)が
  あるか。
  □どんな「こと」(学習内容)があるか。
  □関わりのあるどのような「ひと」がいるか。

  私が勤務する宮古市立高浜小学校は海の見える小学校である。
  教室から眺めるその景色はまさに絶景である。その海では、古
 くから牡蠣漁、潮干狩り等が行われており、海の恵みを受けてい
 る。
  一方、その海は過去の歴史では、「恐怖の海」でもあった。津
 波が襲ってくるからである。学区では、昭和35年のチリ地震津
 波で壊滅的な被害を受けている。
  この津波を総合的な学習の対象にしたいと考えた。そして、先
 の「もの・こと・ひと」の視点で教材化しようとした。

■どのような「もの」があるか

  どんなにおもしろいネタでも、子供たちが興味を示し、追究す
 るに値するような実物や資料がなければ授業では扱うことができ
 ない。
  それがこの場合の「もの」である。

  昭和35年のチリ地震津波やいろいろな津波に関わる資料は、
 数多くあった。特に、地元自治会が編集した冊子の中にあったチ
 リ津波地震の被害の様子を写した写真は、子供たちに津波につ
 いて考えさせるのにインパクトがあるものであった。
  また、現在取り組んでいる防潮堤作りの見学や市の消防署の
 津波対策の資料といったように、子供たちが追究できるものもあ
 る。これによって、子供たちなりの「津波防災プラン」もできそ
 うだ。

  しかし、写真や資料よりも、より強烈なのは直接体験であろう。
 むろん津波を直接体験をすることは不可能である。ただ、その威
 力を擬似的に想像できる「もの」はないだろうか。そう考えた。
  そこで思いついたのが、簡単な実験である。
  大きめの水槽、土、砂、水等が使う「もの」である。水槽の中
 に、津波の被害を受けた宮古湾と似た地形を土と砂で作る。そこ
 に水を入れる。そして、水槽を持ち、地震と同じような揺れを起
 こす。
  これで、ミニチュアの津波シーンが再現できるのはないかと考
 えた。

 ■どんな「こと」があるか

  津波や地震のような防災教育の場合、多くの例は「その怖さを
 伝えていくこと」に主眼が置かれている。
  これは当然である。それがメインの「こと」(学習内容)にな
 る。
  このチリ地震津波の場合もそうだった。

  しかし、学習を進めていくうちに、岩田アイさんという津波体
 験者が書かれたある文章が目に飛び込んできた。
  それは、「津波の恐ろしさ」だけではなく、津波の後に奉仕活
 動に取り組んだ中学生・高校生のこと、助けてくれた神父さんの
 こと等、「大変な事態の中での助け合い」「人間のすばらしさ」
 について書いたものであった。
  チリ地震津波は、昭和35年である。今とは違って情報量も少
 なく、ボランティアもシステム化していない時代である。そのよ
 うな人々の励ましによって、高浜は復興する。
  それらはまさに「人間の誇り」「地域の誇り」である。
  「津波の怖さを伝える」という「こと」の他にも、「助け合っ
 た人々」というもう一つの「こと」が、この総合的な学習での中
 心となったのである。

 ■どんな「ひと」がいるか

  この教材に関わる人はいろいろと思われた。
  「津波体験者」「津波についての専門家」「津波対策の仕事に
 取り組んでいる人」等である。
  事実、資料を調べると、数多くの人が宮古市内にいることがわ
 かった。単元に入る前に、津波体験者、防潮堤作成に関わってい
 る人、消防署の方等から、電話で話を伺ったり、資料をいただい
 たりした。

  この中で、一番子供たちの学習に強い印象を与えそうなのが、
 やはり津波の体験者と思われた。子供たちも、単元の1時間目に
 チリ地震津波の写真を見せた時に、「津波にあった人の話を聞き
 たい」と言っていたことも、その理由である。
  子供たちの家族で体験者がいないかどうか聞く。祖父母を含め
 半分近くの家で体験者がいることがわかった。
  同僚にも聞く。地元の老人クラブの皆さんがお勧めだというこ
 とであった。(今までも学校でお呼びしたことがあった。)
  このように体験者はいたものの、「決定的」という方はいなか
 った。

  再度、津波関連の「もの」にあたった。
  市立図書館に出向き、チリ地震津波関係の冊子を幅広く探す。
  すると、地元のミニコミ誌のバックナンバーに、先の「こと」
 で述べた岩田アイさんの文章が目に入ってきたのである。
  「津波の怖さ」だけではなく、極限の中での 「人間の誇り」
 「地域の誇り」といった「プラス・アルファ」の世界に、子供た
 ちの視野を広げ ることができる・・・そう考えた。

  事実、岩田アイさんをゲスト・ティーチャ―として招いた時に
 は、事前に子供たちに、「津波の怖さだけではなく、大変な中で
 の助け合いの話を聞いてください。」と言っていたので、その面
 でも多くの質問が出た。

 Q「中学生や高校生はどんなふうに助けてくれたのですか。」
 A「5〜6人で1軒の家をそうじしてくれました。かべをふいた
 り、衣類を洗ったりしてくれました。子供たちが、がんばるのを
 見て私たちもがんばらなければと思いました。」
 Q「神父さんに助けてもらったと作文に書いていましたが、どん
 な感じだったのですか。」
 A「神父さんは、スイスから多くの衣類を送ってくれました。そ
 の時代に外国の物が届いたことに驚きました。その中に、ブルー
 のガウンがあり、ずっと大切に使わせてもらいました。ガウンと
 同じ色の目をした神父さんの笑顔も忘れられません。」
 Q「助けてもらった時の気持ちはどのようなものでしたか。」
 A「本当にありがたいという気持ちでした。いつか恩返しをしよ
 うと思いました。」
  このような話を聞いて、「こんなにいっぱいの人に助けられた
 のを知ってびっくりした」「いい話をぼくたちも伝えたい」とい
 った率直な感想を子供たちはもった。
  「ひと」から学ぶメリットは、「リアリティの凄さ」に触れる
 ことである。
  そのよさが出たゲスト・ティーチャ―との授業になった。

 ■最終的にはこのような総合的な学習に

  「もの」「こと」「ひと」の観点で教材開発で、最終的には、
 次のような単元構成となった。

  □単元名「伝えよう!津波のことを」(全13時間)
  □主な学習活動
   ・津波被害の写真からの話し合い
   ・津波のメカニズムの実験
   ・過去の津波の歴史や被害についての資料収集
   ・津波体験者からの聞き取り
   ・津波を防ぐしくみの調査と自分たちの防災プランの作成
   ・津波のことを伝える発信活動

  「もの」をフルに使い、「ひと」から直接大事な「こと」を子
 供たちは学んだ・・・そんな総合的な学習になったと思っている。

★なお、この津波の歴史を伝えていくために私のホームページ上に
「高浜バーチャル津波資料館」をオープンさせた。ご覧いただけれ
 ば幸いである。