連載 私の教材開発物語 第28回
「子ども向け料理番組を作ろう」
佐藤 正寿(岩手県・水沢市立水沢小学校)
■ メディアの「送り手」になる意義
ここ数年、高学年を担任した時には総合的な学習で「ビデオ番組作り」を行
っている。この学習に取り組む意義は大きい。
一番は、子どもたちがメディアの「送り手」の立場になるということである。
送り手になって初めて見えてくるものがある。たとえば、番組の構成・カメラ
の構図・キャッチコピーといったものである。メディアの見方が深まるのであ
る。
そして子どもたちが燃える。本当に番組作りのために全力投球をするのであ
る。
私自身、2年前に「宮古の自慢CMを作ろう」(以下のサイト参照)の学習
で痛感した。
http://homepage2.nifty.com/masa555satou/nhktvmokuji.htm
(なお、この実践はNHK教育番組として放映された。「コマーシャル制作に
挑戦!」 http://www.nhk.or.jp/abc/html/special_2.html )
しかしながら問題点もある。それは「時間がかかる」ということである。本
格的に行おうとすると10時間以上はかかる。総合的な学習で計画されていた
り、時間が確保されていたりすれば別だが、教科の中では難しいであろう。
さて、私が所属する「授業づくりネットワーク」で発行している雑誌の11
月号で「メディアリテラシー教育特集(子ども向け番組を扱う授業)」を企画
していることを知った。条件の中に短い時間で手軽にできることとある。
「これはチャンス」と思った。今までの自分の実践は長い時間をかけたもの
であった。「ビデオ番組作り」のよさを広めるためには、「手軽にできる」実
践を行うのも大切である。さっそく実践希望の立候補をした。
■ 手軽に行うための条件
子どもたちが取り組むテーマは「子ども向け料理番組を作ろう」というもの
である。次のようなプランを立てた。(5年生対象、共同企画者:中野敬子氏
・千葉大学学生)
□1時間目・番組「ひとりでできるもん」を分析すると共に、番組作りを自分
たちが行うことを知る。
□2〜3時間目・自分たちの意図を考え、「野菜サラダ」の番組を構成する。
□4〜5時間目・番組作りをする
□6時間目・作品発表会および交流会を行い、学びを振り返る
手軽に行うためにはいくつか条件がある。今回は次のようにした。
・料理は子どもたちが家庭科で作った経験のある野菜サラダとする。
・3つの班で一つの番組を作ることとする。一つの班が1〜2分程度。
(学級は36人の6班編成・二つの番組ができる。)
・番組で使う道具は改めて作らない。学校にあるものや持っているものを使う。
・カメラ撮影の基本は三脚で、アップは原則として使わない。(初心者でも上
手に撮影するために)
・順番通り録画をする完全パッケージ方式で、編集は行わない。テロップ、音
楽等も入れない。
・ビデオ撮影の役割分担も必要最小限のものとする。
■ 1時間目・作りたい!料理番組
授業の様子を紹介する。
最初に「料理番組で知っているものは何ですか?」と聞く。「どっちの料理
ショー」「3分クッキング」「ひとりでできるもん」等、どんどん出てくる。
一つの番組を子どもたちが発表するごとに「そうだ、そうだ」「うんうん」
と反応も豊かである。
「たくさん出ましたね。今日はそのうち、まず『3分クッキング』を見せま
す。」
この「3分クッキング」はメインではない。次のための伏線である。
「では次に『ひとりでできるもん(NHK教育)』を見ましょう。」事前に
「3分クッキング」を見ているだけに、子どもたちは「比較」の視点で自然と
見る。
「『ひとりでできるもん』を見て、気づいたこと、思ったことを発表しなさ
い。」と言うと、次のようなものが出てきた。
・楽しい
・キャラクターが出てきている
・子どもたちが喜ぶように歌や踊りがある
・3分クッキングが大人向けなら、こっちは子ども向け
・作り方が子どもたちにもわかりやすいようになっている
子どもたちは、「ひとりでできるもん」が子ども、それも幼稚園〜小学校低
学年をターゲットとしていることに気づいた。
ここで、子どもたちに自作ビデオを見せる。そこには、本校の1年生担任の
5年生への「お願い」が写っていた。「1年生に野菜嫌いな子がいる。ぜひ好
きになるような料理番組を作ってほしい」というものである。
これで今回の単元の目的が明確化した。「1年生のために料理番組を作る」
「イメージは『ひとりでできるもん』」。子どもたちも「1年生にもわかりや
すい番組をがんばって作りたい」「番組作りは初めてなのでとても楽しみ」と
いう感想を持った。
この後、班ごとに撮影する場面を選ぶ。Aチーム「作る前の場面」「作って
いる場面」「食べる場面」を3つの班が行う。Bチームも同様である。
■ 2〜3時間目・計画段階で壁にぶつかる
撮影の計画を立て練習をする時間である。
次の流れで行う。
・シナリオの「大まかな流れ」を決める
・「自分たちの工夫」を一つ決める
・役割分担(ディレクター、カメラマン、アシスタント、出演者)をする
・シナリオを作る
・練習や試しの撮影をする
このうち「大まかな流れ」から「シナリオ作り」まではスムーズに行った。
「工夫はキャラクターを使う。そのキャラクターがおなかをすかして倒れそ
う。何か食べたいと言うシーン。」といった感じである。
しかしいざ練習と試しの撮影となると子どもたちは壁にぶつかった。
まず、「構成」の問題である。3つのチームが一つのお話を作る。本来であ
れば、全体の流れがあるはずである。しかし今回は「短時間で」という制約が
あるので、全体の流れは私自身多少ちぐはぐでもいいと思っていた。むしろそ
の方が振り返りの時に「構成」の素材になると考えたのである。
ところが「食べる場面」の班が「前の2班の話に合わせないと変」と言って
きた。
子どもたちから「構成」を問題にしてきたのである。これは受けざるを得な
い。
また試しの撮影では、「声がよく聞こえない」「キャラクターが画面の中で
小さく写ってしまう」「人物がはみ出して撮影されている」といった技術的な
ミスが出てきた。子どもたちも簡単に考えていた撮影の難しさを改めて感じた。
■ 4〜5時間目・いざ撮影
子どもたちがぶつかった壁。授業時間はもうとれないので、休み時間や家で
シナリオを再構成したり、ビデオ撮影の練習を行ったりして本番を迎えた。
大まかな流れは次の通りである。(Aチームの例)
1 食べる前(1班)
おなかが減っているキャラクターが倒れる・校庭で撮影
2 作る(2班)
トマトとブロッコリーのサラダを歌・踊りつきで作る
3 食べる(3班)
キャラクターと子どもが食べて元気になる
ここでも子どもたちはトラブルにぶつかる。「逆光のために人物が暗く写っ
てしまう」「野菜を切っているシーンをずっと撮影をしているため、時間がか
かってしまう」「野菜サラダのアップがうまくいかない」・・・等。
しかし、それぞれ、「場所を変えたらいい」「途中でカットしよう」「ここ
はカメラを三脚からはずして近づいて撮影しよう」というように、自分たちで
話し合いをして解決をしていった。
このように子どもたちは「効果的な撮影方法」を体験から学んだ。それは同
時に「メディアの見方」も学んだことにもなったのである。
私が嬉しかったのは、子どもたちの意欲とたくましさである。失敗をしても
子どもたちが納得いくまで撮り直しをする。ふだん小さな声のディレクター役
の子が、「5・4・3・・・」と大声で指示をする。子どもたちの新たな一面
を見た思いであった。
この撮影当日の授業は、日本テレビの方や千葉大学の学生さん方が参観され
たのであるが、「子どもたちがはじめての番組づくりにもかかわらず、実際に
撮影を体験しながら成長していく、テレビの裏側に気付いていく姿をはっきり
と感じました。」という感想をいただいた。
■ 子どもたちの学び
子どもたちは今回の番組作りで何を学んだのか。感想を紹介する。
・番組作りは「かんたん」と思っていたけどむずかしかったです。
・何度も失敗したけど、自分たちで話し合って成功したのがよかったです。
・何回も練習したかいがありました。それにめずらしい体験ができた総合でし
た。1年生が野菜好きになればいいなと思います。
このような感想が大部分であるが、中にはメディアリテラシー的な見方が深
まった感想もあった。
・今まで何げなくテレビを見ていたけど、工夫をしていることがわかった。
・今度からテレビを見る時には撮影のしかたを少し考えて見てみたいと思いま
した。
このような感想の積み重ねが子どもたちのメディアの見方を育てることであ
ろう。
今週子どもたちは実際に1年生に番組を見せる(本校の夏休みは7月26日
から)。これもまた貴重な体験になることであろう。
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