連載 私の教材開発物語 第3回

 「地域の『元気』を探す 〜イワガキ養殖の教材化〜」

        佐藤 正寿(岩手県・宮古市立高浜小学校) 
 
                       
■大いなる楽しみ・教材開発のスタート
 

 5年生社会の水産業の単元。
 我が町宮古を素材にできる単元である。
 「港の様子」「働いている人々の様子」「宮古の水産業の現状」
といったように、素材は一通りある。

 「きっといろいろなおもしろい事実と出会うであろう」と期待を
こめて単元に入る3週間ほど前から、下調べを始める。これが、私
にとって大いなる楽しみである。
 調べることによって、新しい発見がある。自分の知識も広がる。
実際にいろいろな人と出会って、その人から感動を分けてもらうこ
とができる・・・・今までの教材研究でそのような経験を繰り返し
てきた。
 その感動が次回の教材開発への意欲につながる。
 この水産業の時の教材開発もそんなことを期待して、行動を始め
た。
 まずは、入手できる資料で調べる。漁協のパンフレット、宮古市
の資料、インターネット資料と簡単に入手できるものから始める。
以前からとっておいたものもある。市の広報紙である。「その日」
に備えていろいろとストックはしている。とにかく、いろいろと目
を通してみた。

 しかし、調べれば調べるほど、宮古の水産業の現状は厳しいとい
うことがわかった。
 漁獲高の減少、そして働く人の減少。あまり景気のいい話はない。
そもそも市全体も元気がない。進む一方の過疎、水産関連の工場の
倒産も耳にしている。
 初めて宮古に来て2年あまりの時のことであったが、水産業業界
の厳しさを資料から改めて感じた。

「この現状は現状である程度、教えなければいけないであろう。」
と思いつつ、「でも、それだけで終わってしまっては、子供たちは
『宮古の未来は暗い』と思うだろう」と考えた。

 地元宮古の水産業で誇れるものはないか。
 宮古の水産業のために、工夫して働いている人はいないか。

 今度は、その視点から教材探しを始めた。
 
■飛び込んできた新聞のタイトル

 宮古の水産業で有名なのは、サケである。市でも宮古を「サーモ
ン・ランド」と呼び、いろいろなイベントを展開している。
 最初は、宮古の誇りをこのサケにしようと考えた。サケの漁獲高
を高めるための努力も行われているし、いろいろな商品化もさかん
だ。
「サケの中骨」という缶詰やサケの皮の財布も作られている。実物
を示せば子供たちは、食いついてくるであろう。
 また、サケ博士で有名な方を教室に呼ぶこともできる。
 そんな授業展開が構想できてきた。

 ところが、あと1週間ぐらいで単元に入ろうとしていた時、何げ
なく職場で見ていた地元新聞の記事が目に入ってきた。
 「イワガキ養殖へ推進協」(岩手日報・2000年5月19日朝
刊)というタイトルの小さな記事である。
 ふだんだったら見逃すかもしれない記事なのに、水産業の教材開
発をしていたからだろうか。タイトルが目に飛び込んできた。
 教材開発をしている時はそんなものである。ふだんは見逃すもの
でも、見えてくることがある。だから、より多くの教材開発テーマ
を教師自身が常に持っていることが大切なのであろう。

 さて、イワガキの記事である。
 日本海が主産地のイワガキを、太平洋で4年前から養殖試験を始
めており、ある程度出荷できるようになってきた。イワガキの養殖
技術の確立と普及を図るために推進協議会を設立するというもので
ある。
 宮古にとっては、間違いなく明るい話題である。
 読んだと同時に、「これは教材になる!」と直感した。

■教師の「驚き・感動」が出発点

 サケの構想はひとまず置いて、さっそくイワガキについて、イン
ターネットで調べ始める。私自身がよくわからないからだ。
 次々とイワガキ出てくるイワガキの通信販売。
 そこを読むと、いろいろな事実がわかってくる。

・イワガキは主に夏場で獲れること
・冬のマガキに比べ粒が大きく、高価格で取引されること
・日本海側が主産地であること(通信販売業者さんは日本海側の地
方ばかり)

 太平洋側では、ほとんど獲れないイワガキ。きっといろいろな条
件あってそうなったのだろうと予想する。
 それでいながら、我が宮古ではイワガキを養殖しようとしている。
いくら高価格で取引できると言っても、成功しなければ意味がない。
でも、その困難なことにチャレンジしようとしている人がいるのだ。
 そう思うと、取り組んでいる人の話が聞きたくなった。
 すぐに宮古漁協に電話する。翌日、担当している水産研究所に授
業を終えてからすぐに取材に伺った。
 担当は芳賀さんという30代の方である。
 こちらが質問をする事に、自信を持って語ってくれる。
 次のようなことがわかった。

・イワガキ養殖に取り組むきっかけは、利潤をあげたい、名産にし
たい、新しい活動に取り組みたいという理由だった。
・日本海にしかいないと思っていたイワガキが、岩手県沿岸にも分
布していることが県の調査でわかり、本格的に取り組めると思った。
・養殖を始めての4年間は試行錯誤の連続だった。太平洋側で取り
組むことの困難さを感じた。
・しかしながら、ようやく試験出荷できる段階になり、自分も期待
している。

 これらの話は驚きと感動の連続であった。
「身近なところ(水産所は学区にあった)に、このようなパイオニ
アがいる」という感動である。
 どんな時代、どんな場所にも、新しい道を開く先人がいる。芳賀
さんは、その人だと感じた。
 「このイワガキは元気の出る教材になりうる」ーそう考えて、教
材化することにした。

■「元気の出る事実」を教材化する

 「元気の出る事実」をどう教材化するか。
 ここからは教師の腕である。
 ポイントと具体的な取り組み方法は次のようにしようと考えた。

☆日本海が主産地のイワガキを太平洋で養殖しようとしている価値
 →主産地の地図と宮古での養殖に関わる新聞記事を資料として追
 究させる。
☆イワガキ養殖の試行錯誤の物語
 →芳賀さんから借りた写真や資料から追究させる
☆実際にイワガキ養殖に取り組んでいる人々の誇りと願い
 →芳賀さんにゲスティーチャ―として、教室に来ていただき、話
をしていただく。

 結局、私自身の取材した過程そのものの再現が授業となった。
(授業の指示や発問は、私のホームページの「イワガキ大作戦」を
参照していただきたい。)
http://homepage2.nifty.com/masa555satou/iwagakidaisakusen.htm

 2時間の授業で、子供たちは、宮古でイワガキを養殖して育てる
ことに共感したようであった。「宮古でもこういうことに取り組ん
でいると思わなかった」「イワガキの養殖が、これからの宮古に大
切なことがわかった」「この養殖のことを、もっと全国に伝えれば
いいのにと思った」といった感想を書いていた。
 
 ちょっとした新聞記事からスタートしたこのイワガキ養殖の教材
化。この例から、私は「地域の元気な事例」を探し出す意義と楽し
みを学んだ。この教材開発から1年が過ぎた今も、「地域の元気さ
がし」は続いている。

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