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Happy Party
PAGE 1 その名も「読み物クラブ」
桜、舞い…
私にとっては二度目の春…
二度目の四月…
季節の変わり目のたびに思ってしまう。
毎年同じ季節は巡ってきても、私のための春はなぜ巡ってこないのか…
「そりゃ、おめーがモテないだけだ」
「なんですって!」
それはそれは思い切りよく、怒り顔の少女は手に持った鞄を振り回して、隣の少年にぶち当てた。
一応学校内。放課後の風景。
「ってーな、暴力女! そんなんでよくモテようなんて思えるな」
背の低い少年は怒鳴る。
「あんたにはこのぐらいでいいのよ。このバカとんちき!……あ、あとチビ助!」
「んだとー! バカナのくせに人をバカにすんじゃねぇ!」
「バカナって言うな!」
瞬間、少女はものすごい早さで少年の懐に飛び込み、右手で少年の左腕の手首をつかみ、左手で同じく左腕の肘あたりをつかんだ。そのまま柔道の背負い投げのように投げながら、左足で少年の体重の乗った左足を刈り上げる…
柔道界で幻の技、山嵐。
と、なげられるよりも速く、少年は必死に捕まれた左腕を振りほどく。
不発に終わって少女は前によろけた。
「ちぃ!」
「ちぃ!じゃねえ! こんな廊下で投げ技出すな!」
「あんたは少しくらい頭ぶつけた方がいいのよ」
ぷぷぷと意地悪く笑う少女。
「てめー、やんのか、コラァ!」
「かかってらっしゃい、おチビさん」
激突必至。…と、そこで、いたのかってくらい今頃、第三者が仲裁に入った。
「先輩、やめましょーよ」
これはこれで気弱そうな声。
対峙する二人の人間の間に健気に立って、仲裁にはいる。
水野川優といい、。ここ森中島高校の一年生。
そして今ケンカして(じゃれ合って)いた少年は、三剣はじめ、二年。少女は村場加奈、同じく二年。
三人は部活のため、廊下を歩いていたのだ。
彼らの向かう先は、部活棟。文化部、運動部と混ざってはいるが、グランドからややはなれているため、主に文化系の部室が多い。
文化系。
「読み物クラブ」。
それが彼らの所属している部活だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちわーす」
「読み物クラブ」の扉を加奈が開けた。つづいてはじめ。優はいなかった。
「いらっしゃい」
と、中にいた女生徒が優しく返した。
「早いですね! 薄さん。石塔先輩、こんにちわ」
と加奈。挨拶一つも元気がみなぎっていた。
森野川薄。優の姉。三年生で、このクラブの部長。見るからに優しい風貌で、面倒見もよく、みんなに慕われていた。
石塔宗司。同じく読み物クラブの部員で、三年。副部長もかねている。長髪でその甘いマスクは女子の魂を揺さぶってたまらない…のだが、謎の多い人物。
「あれ、優はまだなの?」
薄が加奈に。部室に入ってきたのは加奈とはじめだけだったからだ。いつもは優も入れて三人できていたのだ。
「それが…」
ちらっと加奈がはじめをにらみつける。視線に気づいてむすっとした。
「なんだよ?」
「なんだよ、じゃないでしょ。薄さん。こいつが「ちょい暑いな」なんていうから、ゆーくんが「じゃ、僕ジュース買ってきます」って言って…」
加奈がじろりとはじめをにらむ。
「んだよ。問題ねーじゃねーか」
「いつもゆーくん使っちゃって、少しは先輩らしいとこ見せなさいよ。こっから自動販売機までだって近くないんだから、遠慮くらいしなさい」
「どっちがだ、てめーだって「ゆーくん、闘拳美茶もお願い」ってほざいたくせに!」
「うっ!」
とか言って加奈は後ずさる。そういやそんなこと言ったような覚えを思い出していた。
「てめーのこと棚に上げて置いてだな…このばか女」
「なんですって!」
「おおう!?」
と、再びバトルになろうとしたとき、がらがらっと扉が開いて、話題中のゆーくんこと優が顔をのぞかせた。はあはあ、とやや荒い息だ。
「お待たせしました。あ、こんにちわです。ハイ」
といって優は手に持ったスポーツドリンクをはじめに、闘拳美茶を加奈に渡した。
「さんきゅ。走ってきたのか?」
「ありがと。ゆーくん」
優はうれしそうに笑った。あどけなくもいい笑顔だ。と中の二人の先輩を見て、
「ああっ!」
と優はびっくりしたように声を上げた。加奈にはじめも、薄に石塔も同じく驚いて優を見た。優はきょろきょろと部室を見回して、
「石塔先輩と、おねー…森野川先輩の分忘れてましたー」
すごい慌てようで、薄や加奈が止めるよりも速く、ダッシュで飛び出ていった。健気な少年である。
「もう、優ったら…」
と薄がはじけるように笑った。姉としてでも、後輩としてでも素直にカワイイと思えた。加奈もそんな感じで薄と一緒に笑い出した。
はじめに笑顔はなく、ため息ついて優が飛び出ていった廊下を眺める。
「やれやれ・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ということで夏に向けて本格的に作業を進めてください」
部室内の一同を見渡して、薄がしっかりと言った。
読み物クラブ、部室。
余った机と椅子を並べてちょっとした会議室のようになっていた。薄の持参した白をベースにしたテーブルクロスがしかれている。中央には造花が飾られて殺風景からは免れている。当然本棚も多数。本も多数。部員、少々。
そんな部室に真剣な空気がみなぎる。
「サークル取れたらいいですね」
ガッツポーズで加奈。
「そうね。でもまだわからない。抽選ってやっぱりドキドキする…」
薄は深く息を吸った。はやる気持ち卯を落ち着かせるように。
毎年夏に開かれる東京での一大イベント、コミケと呼ばれるイベントに参加しようと部として計画していた。もちろん、読み物クラブだし、小説がメインだ。
サークルという形で参加するのだが、希望者が多いため、参加できるかどうかは抽選となっていた。
「今年はどうするんだい?」
それまで一番遠い席にいた。石塔が言った。どうとは作品の方向性だ。
「個人の一つの作品をそれぞれ載せていくと、ページも多くなって大変だから、リレー小説にしようと思うの」
「リレー小説ですか?」
加奈。顔が輝いている。こういう創作活動になるとなかなかにテンションが高くなるらしい。
「うん。ジャンルはまだ決めてないけど、一人あたり六から八ページを目安でまとめるつもり。それと…エッセイかな」
「な! エッセイ??」
声を上げたのははじめ。それまで黙っていたから、薄もびっくりした。
「うん。はじめ君もたまには書いてみなよ」
「あ、でもエッセイなんて…その、苦手だし…」
先ほどとは変わって弱った声で薄に答えた。その横で加奈がくすくすと笑っていた。はじめは相手が薄だと、どうも小さくなるのだ。
苦手のようだけど、一度加奈が「薄さんのこと好きなんでしょ?」とからかったら、「そんなんじゃない!」と強く否定してきた。いつも弟の優を引っかき回しているから、後ろめたいのかな?と加奈は思った。
でもこの場合、はじめも加奈もなかなかに鈍いということだろう。
「いいじゃない。エッセイ。書きなさいよー」
にやりとした眼差しで加奈がはじめに。からかいモードだ。
「うるせー」
とはじめは小さく怒鳴った。
「大丈夫だよ。はじめ君も文章うまいんだし、それに楽しみ」
薄はにっこりとはじめに笑いかけた。はじめは唸ったがそれで撃沈。
うなだれて下を向く。
「僕も参加ですか?」
いつもながらおとなしい優。
優は今年入ったばかりの新入生だ。薄が答えるよりに先に加奈が、
「もちろん。ゆーくんも参加。ですよね。薄さん」
楽しそうに代弁した。
「うん。優は初めてだけど、参加よ」
姉の笑みに、逆にちょっと不安そうな顔になる優。
「大丈夫かな…」
優はちらとはじめの方を見た。優の視線にはじめはもうやけになって、
「俺の足をひっぱんじゃねーぞ、優」
とまたもやはじめは強気に出た。
「どっちがよ!」
すかさず加奈がつっこんだ。
いつもながらのいつもの啖呵。そんな騒がしくも楽しい風景。
薄は吹き出した。

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