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PAGE 3 ささやかなプレゼント
「ようこそ。読み物クラブへ」
加奈が笑顔で部室の扉の前で振り返った。学食を小夜とともに過ごした日の放課後。
慣れない展開に戸惑いの小夜にうれしさ満点の加奈。それをあきれ顔で見るはじめ。その
脇に優。
「悪徳勧誘め…」
ぼぞっと隣ではじめ。
「そこうるさい」
つっこむ加奈に小夜は笑った。さっきまではどうしようもなくがちがちに緊張していたのに
自然にほぐれていった。
昼休みのあと放課後。待ち合わせて今に至る。
まだ何も慣れない夜はためらっていたが、やはり興味がわいたようで、素直に応じた
「こんにちわ」
加奈がためらいなく、とびらを開ける。
小夜は中を軽く見渡した。
読み物クラブ。文化部の部室でも前の学校よりも部室は広いように思えた。ひと教室の
半分ほどだろうか。中央に八つ個人サイズの机が並べられていて、きれいなテーブルク
ロスが敷かれている。真ん中に花瓶があって、花が生けられている。。
壁の周りにはスチール製の本棚がいくつも並んでいた。
いずれの棚にも本がびっしりと並べられて、ちょっとした図書館のような感じがした。
入り口から正面の窓側には腰ぐらいの高さの横長の本棚があって、同じく本がたくさん
並べられていた。
窓を遮っていないので外の明かりも十分入ってきている。その横長の本棚の上に手荷
物が置かれていた。その右手の角の所にはスチール製のパソコンラックがあって、古い
型のパソコンが置かれていた。
床には段ボール箱もいくつかあり、ふたの開いた箱からは本の表示がのぞいていた。
きっと本棚に収まらなかった本も多いのだろう。
「いらっしゃい」
と薄は笑顔で三人を迎えた。
「あ、君は。なるほど、ようこそ」
手にしていた本を閉じて、石塔は小夜に声をかけた。
「はい。お邪魔します」
動揺しつつ、小夜はぺこっと頭を下げた。
「小夜ちゃん、こっち」
と加奈が小夜の手を引っ張り、薄の隣に座らせる。で、自分は小夜を挟むようにとなり
に座る。向かいには石塔がいた。
「すみません、突然」
ぺこっと薄に。薄がこのクラブの部長だとはすでに加奈に聞いて知っていた。人となり
も。聞いた以上に優しそうで、きれいな人だと小夜は思った。
「気にしないで。遊びに来てくれてありがとう」
にっこり笑った。思わず赤くなる小夜。薄の笑顔は同性異性関係なくほっとする暖か
さがある。
「私が目をつけてきたんですよー」
と、得意げに加奈が胸を張る。
「威張るな、ぽん引きが」
ご多分に漏れずはじめ。
「何ですって!」
加奈がむきーっとなる。さっきまでの静けさはあっけなく喧噪に変わりそうだ。
二人の言い合いにまだ慣れていない小夜はあたふたしている。
「森野川薄。よろしくね」
と加奈とはじめの口げんかをまったく気にせず、薄は小夜に自己紹介した。
「は、はい。秋名小夜です。よろしくお願いします」
ぺこり。
「石塔宗司。よろしく」
学食で一応名乗っていたが、石塔は改めて言った。
「森野川優です。よろしくお願いします」
パソコンのところに移動した優も元気に名乗った。
「三剣はじめ。こいつは村場加奈。通称「バカナ」だ」
と加奈が口を開くより速くはじめ。
「バカナ言うな!」
机を挟んでいるので得意の山嵐はできない。ので左ストレートをはじめにたたき込む。
気持ちのいい音が響き、小夜はまたもや動揺した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「びっくりしました」
胸に手を当てて小夜は深く息をした。
「まあ、そのうち慣れるよ」
ほほえむ薄に「そういう問題なのでしょうか」と心の中で言ってみた。
今はおとなしく加奈もはじめも自分の仕事に取りかかっていた。
先ほど薄に簡単に教えてもらった。
「読み物クラブはね。名前のとおり本を読むのが主な活動なの。でもそれだけじゃなくて、
それぞれ書いてみたいものがあったら書いてみるの。ジャンルはいろいろ。ミステリーや
ファンタジーや、SF。ホラーや時代物や、ノンフィクション。エッセイや、詩や短歌俳句でも
いいの。自分の想像を形にすることが大事だと思うのよね」
続けて薄。
「もちろん強制じゃないし、読むだけでもいいんだけど、それだけじゃ「部活動」として物足り
ないでしょ? だから学期ごとに一冊は部活動として大学ノートに書いてもらってるの。まあ、
好きな人はそれ以外にも書いてきたりするんだけどね。部活動としての本を「定期作」、個
人的なものを「自由作」って呼んでるけどね。でもおおむね自由だから、もし定期作ができ
あがらなくても特別何かある訳じゃないし、本が好きでいてくれたらそれでいいと思うの」
小夜は素直に感心した。考えてるんだなぁと感じた。それに下手なりに自分でも書いて
いるので共感がもてたし、興味もわいてきた。
「皆さんの作品も、もうあるんですか?」
「うん。あるよ。優はまだ入ったばかりだから一冊だけどね。あ、そうだ、私の読んでみる?」
ぱちりと手を叩く薄。薄も机に大学ノートを開いて、辞書を傍らに置いて少しずつ書いて
いたようだ。
「いいんですか?」
びっくりした。正式な部員じゃないから
「もちろん」
にっこりと薄。そして机の脇にかけてあった手提げ鞄から大学ノートを一冊とりだした。
それを小夜に手渡した。大学ノートには「風とうたた寝」と書いてあった。
「あー!薄さん、定期作もう書き上げたんですか?」
いきなりの声。薄の方を見ていたため、ほとんど後ろから急に大きな声で小夜はびっくり
した。加奈だった。
「うん。でも今日は秋名さんはお客様だから特別にね」
「そっかー、いいなー小夜ちゃん」
と加奈は言っておとなしく着席。
「本当はね、書き上げた作品は部員優先なの」
「え、そんな。いいんですか?」
小夜はノートを大事そうに持って薄を見た。
「いいよ。その代わりちゃんと感想書いてね」
薄はまた一枚の紙を取り出して小夜に渡す。
紙には読んだ日、学年、クラス、名前を書く欄があって、感想を書く欄も大きくとられて
いる。
「はい」
素直に小夜はうなずいた。薄もうれしそうに笑う。
感想の紙を机の上に置いて、小夜は手にあるノートを見つめる。
直筆の字も薄らしく優しい感じだ。
ぺらっとノートを開く。
「あ、あの、秋名さん」
急に薄が赤い顔であわてていた。
「やっぱり、自分の作品をそばで読まれるとその、恥ずかしいから、あとでゆっくり読んで
ね」
「あ、はい」
と答えて小夜はくすくすっと笑った。薄も恥ずかしそうに笑う。その表情はかわいらしくも
あった。
「こういうの……いいですよね」
小夜はノートを優しく抱いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風とうたた寝
sukki
洗濯日和
晴れた日に外に出かける。
今日はいい青空。それに優しい風。
風と一緒にお散歩だと我ながら子供っぽいなと感じながら、靴を履き空の下に出る。
空も海だ。
そう思えるほど真っ青な水面。
私の家の近くには土手があって、舗装されたジョギングコースがあるから散歩に適して
いる。
風も気持ちがいいし、晴れた空は見ているだけで気分まで晴れる。
昨日までの思案ごとを心の中のタンスに「えいや」と押し込んで、空の青さと風をいっぱい
とりこもう。
自分が洗濯物になったような気分で少し笑った。
むこうには
「なんか、薄先輩らしいな…」
小夜は視線をノートからはずした。
今は自宅。あれから読み物クラブの部室内の本を読ませてもらって、加奈や薄としゃべっ
たりして少し早めにあがらせてもらった。
他のみんなはそれ以後も残るようだった。皆さんはまだあれからやることがあったようだ。
さすがにすごい本の数で、知っている本も知らない本もたくさんあった。本が好きな人なら
飽きないだろうなと感じた。
とても面白いクラブだと思った。一部ハラハラするやりとりもあったけど、薄さん曰く慣れの
問題(?)のようだし、まだ部活動を決めていない小夜にとって魅力のあるクラブだ。
それに…
小夜は赤くなる。出会いが強烈だったからか、石塔のことを妙に気にしていた。
どきどきしてくる。
「風とうたた寝」。
薄の書いたエッセイ集だ。「sukki」というのはペンネームだと聞いた。
そっちも可愛いなと小夜は思った。
内容はもっと可愛い…というか自然で豊かだった。薄の感性の良さがよく伝わってくる。
もう三回は読み返していた。
大学ノートに鉛筆書き。直筆でここまで書くのは大変だろうけど、筆跡には疲れは見え
ない。むしろ踊るような軽快さが感じられた。
小夜も同じようにノートに書き連ねた物語があるから、よくわかる。でも薄のこの作品と
比べると、ジャンルは違っても、自分の作品がいかに稚拙で荒いかもわかってしまって
ちょっとショックも受けていた。
今まで他人と比べたことがないから、初めて目にする他人の自作の物語。
書いているときは夢中で、自分でもびっくりするくらいうまく書けたところもあると思って
いたけど、自信がなくなってきた。
(…でも)
小夜はもう一度薄のノートを見る。
丁寧で優しい字。
(私もこんな風に書けるようになりたい)
小夜は机の引き出しから大学ノートを一冊取り出す。
表紙には「秋名小夜」と署名があり、「深遠なる森人」と書いてある。
もう何回見直したかわからないノートをまた開いてみた。
同じ鉛筆書きで、ぎっしりと書かれた文面。ときおり荒くなったところは消しゴムで直し
てまた直してと繰り返したところだ。
これを書き始めたときは寝る間も惜しんで…というくらい集中して熱中して書いていた。
頭の中にある物語を記す。簡単なようでまったく難しい。
時々悩んで苦しくなってやめようともしたけど、頭の中にまた物語の風景が浮かぶと書き
たくなる。頭の中からなにかに物語をうつしたとき、それがまた新たな命を得る…そんな
気がした。
(大丈夫だよね)
小夜は大切そうに薄のノートと、そして自分のそのノートを鞄にしまった。
胸が高鳴っていた。

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