TUKASA
 〜平穏をください〜

 −1−

 @ 私は策士

 あむあむあむ・・・
 口いっぱいに広がる甘い味。冷たいアイスの触感も絶品だ。
 私こと、現世つかさは今、某喫茶店でパフェ中なのだ。
 水曜日の放課後。水曜は部活が休みでまさに天国。
「つかさ、おいしい?」

 4人用のボックス席。私の隣は親友の佐恵子。そして目の前には今日の私のスポンサー
の真詩子。その隣に同じく親友の好美。
「うん。おいしいおいしい。ホント、ごちそうさまです」
 パフェ中の私は非常にご機嫌だ。あーおいしー。
「よかった。でもつかさの応援頼めるならこれでも安いぐらいかもね」
 安堵したように笑う真詩子嬢。私は内心にやりとしても、顔には出さない。
 よし、ここでいったん状況を整理してみましょう。
 あむあむ・・・おいしいよう(涙)
 私たち四人は同じ面如技(もにょぎ)女子高等学校の第二学年生。うら若き乙女。
 水曜日の放課後。部活のない私を同じく部活のない(サボリくさいのだけど)真詩子が喫茶
店に誘ってきた。もともと佐恵子や好美と帰ろうとしていた私はまあ、良いかなと連れ立ってき
たのだ。
 喫茶店は「ちょめこ」。店名にやや難があるけど、それを補ってあまりあるぐらい良質の味と、
良質の値段。そして斬新なメニューたち。
 でもひっそりと存在しているので穴場要素が強いお店。ここが私たちのよくたむろするお店
ナンバーワンなのだ。そして私は現在ちょめこにてチョコレートパフェを食べている。
 私だけなんと真詩子さんからの奢りで。
 しかしこの世にタダより高いモノはない。当然この賄賂にも含みがあって、今からそのバトル
が繰り広げられようとしている。
 キーワードは「応援」。別に私は応援団ではない。それどころか、私はなぎなた部。正面の真
詩子さんはバスケットボール部。畑違いも良いところのバスケ部に何で私の応援が必要なのか。
ホント、誰か優しく諭してあげてよ、マジで。
「でも、私が助っ人に行ってもあまり意味ないんじゃない? 畑違いもいいトコでしょ」 ずぶ!っと
フォークがパフェのメインであるバナナに突き刺さる。
 対する真詩子は笑顔で、
「大丈夫。問題ないよ。つかさの畑にはね、いろんなスポーツがたわわに実ってるから」
 すごくにっこりです。むむむとうなる私。そんな分かりやすいような分かりにくいようなたとえ
使わないでよ。
「でもバスケットボールなんて体育の授業ぐらいだよ?」
「いいのいいいの。100M走県内記録と、垂直跳び校内トップと、校内腕相撲チャンプの能力
生かしてさ、お願いしますよ」
 顔の前で手のひらを合わせてまさに拝むように懇願の真詩子さん。
「な、なんの事でしょう?」
 うろたえる私。そんな並び立てなくったっていいでしょう!
 100M記録だって正式じゃない。ただ、陸上部のホープさんと試しに競走してみたら私が
勝っちゃって、そのタイムが県内記録より速かっただけじゃない。非公式なの!
 垂直跳びだってご丁寧にスポーツテストの記録整理した人が広めたデマなの!実際の記
録のチャートも一緒に張り出されていたけど、それでもデマなの! たぶん・・・
 腕相撲だって、重量級の女子柔道部の主将さんのチャレンジを受けて立って返り討ちした
だけで、あの主将さんが校内チャンプだからって訳じゃない。そんな大会なかったでしょ?たっ
た一人に勝ったからってチャンプだなんて・・・
 でも私はその言葉を口には出せない。同じような状況が前にもあってそのときに、
「充分でしょ!」
 と一言で一蹴されたから。涙でパフェが見えません。
「みんなつかさに期待してるんだからね」
 と真詩子さん。たぶん譲歩する気は毛ほどもないだろう。強敵です。
 私はあくまでなぎなた部だから、できるだけ自分の部活に専念したい。でも運動部の練習
試合がいくつも入ってくる時期だと、真詩子のように私を拉致しようとする輩が増えて仕方が
ない。困ったもんです。
 今回はパフェという賄賂がありながらも比較的私の方も参加の方向で一応話が進んでいる。
本音は疲れるだけだし遠慮願いたい。そしてそのための切り札も用意してある。
 だから私もうふふで応対していられるのだ。
「でもこれだけはお願いだけど、練習だけの日ならまだいいけど、もしなぎなた部の試合が
入ったらそっちを優先するからね」
 私はきっぱり言った。確かにそれだけは譲れない。これでも高校なぎなた界では一目置か
れる存在なのだ。全国大会を制覇しちゃったような気もするけど・・・
 と、今までじっと話を聞いていた隣の佐恵子があきれ顔で何か言いたそうにするけど、私が
目でそれを制する。私の切り札は佐恵子も知っている。ここで使用はまだ早い。
「もちろん。つかさはなぎなた部だもん、それでいいと思うよ」
 うんと、頷く真詩子。さすが同じ運動部人。わかってらっしゃる。
「試合の時じゃなければいいんだよね」
「うん。でも今回は特別だからね」
 と、私は釘もさした。私がバスケ部に譲歩したと知れたら同じ事を考える人が後を絶ちそう
にない。ぶるぶる・・・考えただけでもいやすぎっす。
「ああ! 試合が待ち遠しいわ!」
 はしっと手を合わせてうるうるの瞳。そ、そこまで期待されても・・・
 しかししかし! 私はここで必殺の切り札を使う。
「あああっ! 試合日曜だっけ? ごっめーん、真詩子」
 私も手をぱちりと合わせて、真詩子にすまなそうな顔を見せてあげる。しかし心境は「これで
もくらいな! フッ」って感じだ。
 バスケの試合は今度の日曜。その日はなぎなた部の練習もあったけど、前言通りただの
練習日ならバスケットの助っ人はOK。でも・・・
「ホント、ごめん! 土曜なぎなたの試合だったんだけどね、なんか変更になっちゃって、日曜
になったの。だから助っ人できなくなっちゃった」
 ぺろっと舌を出す。もちろん心の中で。予定の変更は嘘じゃない。今日の帰りに鬼顧問の
先生から直接聞いたのだ。そう。これが切り札。
 ぱちくりおめめの真詩子さん。始めに言わなかったのはこのパフェをゲットするためだ。とい
ってもさすがに悪いからあとで自分でお金を出すけどね。
「ごめん、言うの遅れちゃった」
 好美と佐恵子は黙って私と真詩子を見ていた。この勝負、もらった!と思ったとき、真詩子
もなんだか謝るように私に向かって手を合わせた。
「ごっめーん」
 謝罪の言葉でも中身はなんだか楽しそうな感じ。さっきの私と同じだ。いやな予感・・・
「ウチもね、なんだか都合悪くなっちゃって、向こうさんと相談で、土曜に予定が変わったの」
「え?」
 な、なに、どういうこと?
「ごめんね、私も言うの遅れちゃった」
 ぺろっと舌を出す真詩子さん。隣で好美がたまらず吹き出して笑う。佐恵子は苦笑。じっと
私を見る。絶対知ってたって顔だ、アレは。
 ぽかんと口を開けたまま、私は整理する。なぎなた部の試合が土曜から日曜に。バスケ部
の試合が日曜だったから参加できないと思ったら、バスケ部の予定も変わって試合が日曜
から土曜に。つまり・・・
「つかさちゃんの負けー!」
 ずばっと好美。とてもとても良い笑顔だ。
「つかさは頭脳戦には向いてないね」
 とぽんぽんと肩をたたいてくれる佐恵子。
「よ・ろ・し・く・ね!」
 ぱちりとウインク真詩子さん。威嚇の真詩子の異名が泣くほどかわいいじゃないか(涙)。
「ぎゃふん!」
 私は敗北しました。
 こうして土日の連休は素敵な友達のおかげですっごいハードになりました。涙。


 @ 試合当日・・・さぼってもいい?

 朝、起きる。目覚ましなる前にオフボタンを押す。
 そとは快晴。爽やかな朝。
「いつもながら何でこういう日ばかり寝覚めが良いのかな?」
 とりあえずベッドから出る。
 たしかにそう。普段の登校の時はどうも起きても瞼が重重なのだけど、こういう試合の日と
か休みの時はもういきなりしゃきってしてくる。我ながら分かりやすぎである。
 とんとんとん、と階段を下りて、乙女のたしなみシャワーです。
「あ、おはよ、つかさ。休みなのになんか早いね」
 歯ブラシ片手にお姉さまの登場。名前、奏(かなで)。現世 奏。
 ポニテ愛好家の私と違って、腰まであるロングはマジかいってほどきれい。でも騙されちゃあ、
いけません。中身はひじょーにやっかいなタチしてます。出かける用事があるのか、スーツ姿
だ。ちなみに大学生です。
「はよ〜、ちょっとね、試合があるの」
「へ? 明日って言ってなかったっけ」
「ば、バスケのだよ」
 むっとする私。本当に不本意なんですよ、お姉さま!
「な、なるほど〜、あははは、高校でもつかさってやっぱりそうなんだ、あははは」
 とても楽しそうに笑うお姉さま。私、涙。
「姉さんは?」
「私も試合・・・もとい、発表会」
 そういって姉は歯ブラシを手にバイオリンを弾く仕草。
 そうなんです。姉はその道ではかなり有名なバイオリニストで、大学も都内の有名音大。
頭も切れるし、うらやましばかりの才女だ。ちくしょう。
「あっそう、がんばって」
 何、この格の違い。方や運動部にこき使われるかわいそうな乙女。方や華やかな舞台で
数々の祝福を受ける淑女。年の差、約3年。
「つかさもね。いいなあ、私としては飛んだり跳ねたりがすごい方がうらやましいな」
 あの、そんなお転婆娘みたいにいわなくっても・・・
「よくない! 全く人の気も・・・」
「月曜はラブレターの嵐だね。女の子からの」
「姉さん!」
 ぎろっと姉をにらむ私! 姉さんはきゃーとか言いながら逃げた。かわいいしぐさが似合わ
ないのは佐恵子と同じだ。
 バスルームに入り、一生懸命脱ぐ私。そう、早くシャワーを浴びないと・・・
 姉さんとのバトルだか、口論だか、からかわれだかで時間食った。
 内心焦る。試合の時間? ううん、全然余裕だよ?
 私が急いでいる理由は一つ。
 ぐぅ・・・
 とてもとてもお腹が空いていたのだ。

 来ちゃったよぅ・・・
 目の前には校門。県立面如技女子高等学校のでんとした文字。
「新しい伝説の始まりだねー」
 と制服姿の好美。この子もやけに元気だ。
「まあ、あきらめないさいな」
 諭すように優しい口調の佐恵子。同じく制服姿。手に持っている一眼レフカメラがものすごく
気になる。
「ねえ、さぼってもいい?」
 一縷の望みをかけて私が振り向いたとき、
「もちろんダメ。ダメすぎ!」
 がしっと私の両肩が背後から捕まれる。ぎこちない笑顔で振り返ると、バスケ部のジャージ
姿の真詩子様。ご、ごきげんよう。
「おはよー!」
「おはよ」
 好美と佐恵子が私のことをほったらかして挨拶を交わす。私の一縷の望みはすでに遠い山
の彼方だ。
「がんばろう。つかさ!」
 楽しそうに、面白そうに。真詩子。
「あいあいさ・・・(感涙)」

「あ、つかさ、体育館こっちだよ?」
 知ってますって! 私は苦笑して。
「うん、ちょっと教室に寄ってから行くよ」
 校内に入った私は直接体育館に向かわずに、昇降口に向かう。
「でも・・・」
 心配そうな真詩子。そんな真詩子に、
「大丈夫。つかさちゃん逃げたりしないよ。私たちも一緒に行って来るよ」
 好美。私もまあ、ここまで来たからには逃げようとは思っていない。たぶん。
「首に縄つけて、引きずってでも連れて行くから」
 と佐恵子。あのー、物騒なこと言わないでください。
「ホント? お願い!」
 マジで佐恵子にすがりつく真詩子。好美爆笑。私はがっくり肩を落とした。
 真詩子と別れて教室に向かう。私も佐恵子も好美もある同じモノを取りに来たのだ。
 これがないとね。
 で、すぐに体育館に向かう。相手チームももう来ているようで、軽く練習の時とのこと。
 しかも相手チームは県内でもなかなかの強豪とのこと。
 そんな相手に素人の私が出て大丈夫なのかな。
 なぎなたとバスケ。動き方も力の使い方もルールもまるで違う。それなのに・・・
「つかさちゃんなら楽勝だよー」
「バスケは格闘技。問題なし」
 佐恵子と好美の暖かいお言葉。
 体育館に着きました。佐恵子に手を引かれ、好美に背中を押されながら。
 もう後には引けない。
 どうなっても知らないからね、真詩子。

 @ え? いいでしょ、これでも

「あー、つかさ先輩!」
「お! 噂の守護神だ」
「来てくれたんですね!」
「すごい! もう勝ったのも同然ですよ!」
「わーわー!」
 入った瞬間、沸き上がる声たち。顔にたて筋。なんかすごい言われようなんですけど?
「つかさ!」
 真詩子さん、満面の笑顔。
「すぐに着替えてアップよ!」
 もうなかなかのテンションだ。元気でよろしい。うなずく私に真詩子はユニフォームを投げて
よこした。紺をベースにしたなかなか地味っぽい代物。むむむとした私の目に飛び込んでくる
数字。びっくり。
「ちょっと! 「4」ってなに!」
 私の記憶が確かなら、4はバスケですごい重要な番号のはず。サッカーで言うなら10。
なぎなたで言うなら・・・あ、ないか。
「いいの。今日はキャプテンの代理なんだから」
 ね、ととんでもないことを言う真詩子。
「キャプテンって、何でそんな重要なところに私なのよ!」
 もう汗汗っす。さも当然のように真詩子は、
「いいのいいの。それにキャプテンたってのご指名なんだから文句ないでしょ?」
 真詩子もジャージを脱ぐ。この子もスタメンで背番号は7。視線(ガンつけ)の怖さから威嚇の
真詩子と異名を持つ。
「そんな、それに先輩だっていらっしゃるのに!」
 そうそう!私も真詩子も二年生なのだ。上にまだ引退していない三年生がいる。
「先輩もつかさが見たいんだって。そうですよねー?」
 とそばにいる三年生方にお伺いを立てる真詩子。
「おー! 見たいぞ!」
「ごーごー」
「守護神の活躍はおいそれとはみれないからね」
「法事でこれないキャプテンが泣いて悔しがっていたよ」
「眼福眼福」
「・・・と、仰っております」
 にっこり真詩子。ダメだ。完全に三年生の皆様方は意思が統一してあるようだ。
「更衣室はこちらです」
 ひょこっと来て私の手を取るバスケ部のマネージャーさん。
「行って来ます(涙)」
 背番号4。本来ならありがたいのだけど、みんなの妙な思惑が込められていて、なんだか
とても情けなかった。

「ただいま」
 着替えて戻ってきた私。すっきり笑顔。もうくよくよ?しないことにした。
「おかえりー」
 好美。今日もここから応援するようで、その笑顔は心強いばかりだ。
「撮影は任せて」
 と佐恵子。あの、任せたくないんですけど・・・
「じゃ、練習し開始。ってつかさ!」
「はい?」
 コートに入ったところで呼び止められた。相手チームはもう反対側で練習している。
 ダムダムとおなじみの音が所々で響いていた。
「何よ、それ!」
 と真詩子が私の足下を指さす。まあ、言わんとすることは分かったので、
「え? いいでしょ、これでも」
「よくない! 何で体育館シューズなのよ!」
 そう、背番号4のユニフォーム、すらりと足、その先にあるのは緑線の学校指定体育館
シューズだった。好美と佐恵子とこれを取りに教室に行っていたのだ。
「バッシュは?」
 バスケットボールシューズ。あのなんか重そうなごつい靴。
「ん? もってないよ」
「なんで!」
「なんでって、バスケ部じゃないもん」
 肩をすくめる私。そうでしょ? 普段も履く人もいるみたいだけど、それでも私は持っていない。
どちらかというと控えめな(?)靴の方が好みだからだ。
「信じられない! ああ、もう!」
 だんだん!と、床を踏みしめて叫ぶ真詩子。なんかキャラ違ってませんか?
 ちょっとたじろいだ私に、
「待ってなさい!」
 ギロリ!とにらんできた。異名通りの素敵な視線に私は大人しくする。
 真詩子はしばらく考えてからベンチの向こうで控えている一年生の名前を呼んだ。
「文美、ちょっと来て」
 はい!といい返事がしてひょこっと女の子が出てきた。私と同じぐらいの背に胸。控えめで
す。将来に期待ですね。あ、自爆だ(涙)
「つかさ」
 真詩子が手招き。そばによると、今度は文美ちゃんの方を向く。
「悪いけどつかさにバッシュ貸してあげてくれないかな?」
「え?」
 じっと私を見つめる真詩子。私はあきらめて、
「お願いします」
 とその子にぺこりと頭を下げた。あまりのことに、一瞬で真っ赤になって、
「は、は、はいぃ!」
 とやや裏返った声で恐縮しまくりの返事になってしまったよう。
 ぷぷと吹き出す真詩子先輩(性悪)。そしてユニフォームの交換ならぬ、シューズの交換に
なった。
 どこでどう情報を仕入れたのか、サイズはぴったりだった。代わりに私の体育館シューズを
履く羽目になった文美部員。でもなんだかうれしそう。
 ベンチの後ろの元のところに戻った文美部員は同じ一年生の部員に「いいなぁ、うらやまし
い」と声をかけられていたのを私の地獄耳はとらえてしまった。いったいバスケ部内で私はど
んな風に伝わっているのか恐ろしくなってきた。「ぶい!」と文美部員。
「どうしたの?」
 真詩子が優しく。私は一息ついて、
「なんでもないよぉ」
 とやっぱり涙の巻。


−つづく−