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 @真詩子さんの策

「つかさ!」
 真詩子さんからのパスを受け取る私。で、すぐ目の前には例により4番さん。鬼気迫り、
私はくるりとターン。素早く、素早く。一度ダムッとボールをついて、びよ〜んジャンプ、それ
で・・・ぱさり。
 疲れもあるんだろうけど、4番さんの動きが妙に悪くなっていた。確かに瞬発力じゃ私に
分があって有利なんだけど、それでもあの方のブロックは広く大きくて油断ならない。
 でもそのブロックのタイミングがちょっと遅くなっていた。
 原因はたぶん、焦り。すごく焦っていた。分からないわけじゃない。全国レベルなセンターの
4番さん。そのタイマンで出てきたのは、センターにはまるで似合わない小さな私。動きは
早くてもまるで素人だからと思っていたのに、実際は違った。
 そして油断無しに相手してもなかなか止められない。
 って、自分で自分を過大評価しちゃったけど、たぶんそんな感じなのだろう。
 ちょっとかわいそうな気もする。でもだからって手を抜けない。自分だけじゃない、面如技
のみんなのため。
 と、審判さんの笛の音。切れる集中。
 前半が終わりました。
 お互いのベンチに戻る戦士達。女の子だよ?
「ないっしゅー! つかさちゃん!」
 初めに満面の笑みで迎えてくれたのは好美。マイペースっ子で、いろいろ困ることもある
けど、好美の笑顔ってほんと元気出る。ピース!と応える私。
 タオルをくれたのは佐恵子。
「お疲れ」
 一言。でもうれしい。佐恵子にも笑みを返す。でもきらりと光る一眼レフカメラにたらりと
冷や汗。いったいいくつシャッターを切ったのでしょうか・・・(涙)
「先輩!」
 と背後から声!
「は、はい!」
 びくっとして振り向く。集中の切れたあとだから余計びっくりした。見るとバスケ部一年生の
文美部員。
「す、すごかったです」
 必死に訴えるように。私はうれしくなって文美ちゃんにもピースを贈る。
「ありがとう。このバッシュも。なんかいいね、そんなに重くないし、良く飛び跳ねられたし、
でも結構無茶しちゃったから」
 そういえば借り物のバッシュなのに、私は全力で動きまくっていた。
「洗って返すよ」
 身体は汗ほかほか。したがって・・・と思ったら、文美ちゃんは赤くなって首を振った。
「だ! 大丈夫です! 平気です!」
 力説。拳も握ってます。と、脇から好美が、
「文美ちゃん、つかさ汁いっぱいだよ? いいの?」
 とまじめに聞く好美。たらりと私は汗。
「変な言い方しないでよ!」
 と私は慌ててつっこむ。我ながら元気だなぁと思った。
「い、いえ、大丈夫です。むしろ、うれ・・・」
 もじもじと文美ちゃんがなんだか聞き捨てならないセリフを言いかけたとき、
「つかさ」
 と名を呼ばれた。むむと振り向くと真詩子。なんとメンバー集まって会議ならぬミーティングを
していた。やるなと思った・・・けど、考えてみたら当然のことで、たぶんいきなり和みムードに
なっている私の方が変なのだろう。反省。
 でも私を呼んだ声に怒気はないようだったので怒られたんじゃないみたい。
「先輩!」
 またちょっと慌てたような叫び声のような声。また文美ちゃんかと思ったけど、バスケ部の
マネージャーさん。両手で紙コップを神妙に持って私に指しだしていた。中身はスポーツ
ドリンク。
「さんきゅ」
 とにっこりと受け取る。その私のぷりちーな笑顔で緊張が解けたのか、笑顔が戻った。
 っていうか、なんでそれだけであんなにがちがちに緊張するんだろう? 
 もしかして私怖がられてる? 妙な噂流していないかと、あとで真詩子を問いつめなければ
ならないなと私は決めた。
 そして私も作戦会議の輪の中に加わった。
「つかさ、後半なんだけど」
 真剣そのものの顔で真詩子さんは切り出した。私も気を引き締める。
「またスタートからがんがん飛ばしてね!」
「・・・・・・・・・・」
 鬼です。ヤツは鬼です。
「あの、真詩子さん」
「何?」
 汗の表情の私と違って、真詩子はすっきり顔。
「10点も差がついたんだから、少し私も休みたいなって・・・」
「却下」
 そう、私のがんばりで、面如技は一気に逆転。さらに10点も勝ち越したのだ。
 私のエンジンが一気にかかったのと、相手チームの4番さんの不調が大きな原因。
 って、一言で却下された(涙)。
「でもさ、バスケッ何度も交代していいんだよね? だから・・・」
「ボツ」
「あう・・・(涙)」
 肩を落とす私。もともと助っ人をハナから全力で酷使するような人だから何となく無理そう
だなとは思っていたのだけど・・・あんまりです。
「いい? つかさ」
 きりりと真面目な顔で真詩子さん。
「前半と同じようにつかさがガンガンシュートする。するとね、相手は・・・」


 後半スタート。
 すぐにコートに広がる闘気、ある意味殺気。でも女の子ばかりです。
 相手のパスミスから、後半早々速攻のチャンス。司令塔の真詩子にボールが渡り、私は
前半と全く変わらないパターン、相手陣地のゴールの下に向かってダッシュした。
 ええ。後半も容赦なく走らされそうです。
 真詩子に対峙するみどり。ガード対決。視線(ガン付け)と性格の悪さなら圧倒的に真詩子に
分がある。だんだんみどりの方がプレーで真詩子を圧してきていた。中学時代もそう。
 みどりはすごくスロースターターなのだ。
 ただでさえうまい方だから、あまり気付かれていないだけなのだ。
 でも真詩子さん、がんばってみどりの隙をついて、中にボールを放り込んだ。
 ボールは計ったように私に。でも真詩子が少し足止めされたせいで、私の背後にあの
威圧感。4番さん。
 受け取ってちょいと左に行く素振りを見せて、すぐに反転。右から抜く。・・・やっぱり後半も
前半の不調を引きずっているよう。簡単に抜けた。一歩二歩、三歩。抜き去ってすぐにドリブル
シュー・・・
 どか!
 吹っ飛ぶ私。体当たりみたいなブロックが後ろから飛んできて、シュート体制のまま弾かれ
てしまった。ボールは同然コートの外に飛んでって、私は受け身ままならずコートに倒れ込
んでしまった。ピー!ッと審判の笛。
「つかさ!」
 真詩子の声。倒れたといってもそこまで勢いよく倒れなかったし、痛いところはなかった。
 体を起こして真詩子に大丈夫と目線を贈る。とその視線と4番さんの視線が一瞬交わる。
でも4番さんはうつむいたまますぐに視線を逸らしてしまった。
 私に反則シュートブロックアタック(つかさ命名)を食らわしたのにごめんも無しかよ!とは
別に思わないけど、ちょっと気になった。
 ハーフタイムの休憩のあとのすぐの今なのに、もう肩で息をしていた。体力がないと言う
よりも焦ってうまく身体が動かないのだろう。
 面如技側にしてみたらこれほど好都合はない。相手の大黒柱の不調。
(でも、なんかもったいないよね)
 そう思ってしまう。この4番さんは本当にすごい人だから。今はこの人の不調で一気に私が
勝ち越してしまったけど、あちらが本調子だったらこうはならなかったはずだ。
 面如技のためならこのままの方がいいに決まっている。でも・・・
 すっくと私は立ち上がって、軽くほこりを払う。4番さんは背中を向けたまま。
「あの、4番さん」
 言ってからしまったと思った。滝さんって名前があったのに(汗)。私の声に振り向く4番さん。
 視線に覇気が薄い。私は笑顔で、
「練習試合だからとか、公式戦じゃないからとかじゃなくて、もっと勝負を楽しみません?」
 と、そんな私の言葉を聞いて、4番さんは目を丸くする。さすがに思いの外の言葉だったの
だろう。でも私に応えることなくまた背中を向けて4番さん入ってしまった。
(まずい・・・火に油だったかな・・・)
 たらりと汗。でもまあ、すんだことは仕方ないと思っているうちに、私は相手コートのフリー
スローラインに立たされてしまう。
 で、手渡されるボール。
 そうなのです。さっきシュート体制の時に反則食らったから、誰にも邪魔されないで2本
シュートを打ち直せるのです。フリースローラインからだけど。このシュートは一本1点。
だから2本決めても2点。
 でもこれがね・・・プレッシャーなんです。だって他の選手は相手さんも含めて、みんな
並んでみているのですよ。ただ並ぶんじゃなくて、私とゴールを線で結んだとして、その両脇に
一列ずつ、敵味方と交互に位置して並んでいるのです。
 そんなみんなの視線がすべて私に。
 相手チームの「外せ〜」光線に、味方の「外すな〜」光線は容赦なくひり注ぎます。しかも
真詩子さんの最高の視線まで私に。なんで味方のはずの私をそんなに睨むんでしょうか(涙)。
 邪魔されないフリースローなのに、目に見えないもので邪魔されまくってます。
 ぴっと審判さんの許可の笛。ダムダムと、二回ボールをつく。息を吸って。
「たりゃ!」
 シュートを放つ。ガン!・・・はずれ(涙) 集中しなきゃ!
 あともう一本。そしてこれはさっきと違って、2本目はシュートが決まるか、コートの外に
はずれるかしない限り、即試合スタートになる。つまりさっきみたいにガンとゴールリングに
当たって跳ね返ったら、いきなりリバウンド合戦スタートなのです。
 明らかに雰囲気が変わる両脇のみなさん。心なしかさっきよりも数倍怖いです(涙)。
 ぴっと審判さんの笛。息をのむ私。静まる会場。
「ほい!」
 放つ。ボールは弧を描いて・・・・・・・・・・・・・ぱさり。
 成功! ほっと一息・・・を飲み込むように会場が沸く。
「ないしゅー!」
 味方さんからの賛美。私も笑顔になって自陣に引き上げる。相手ボールからのスタートです。
速攻でみどりにボールが渡り、駆け出すみどり。すぐに真詩子さんがチェックに向かう。
 私が目指すのは4番さん。
(上がりが早!)
 びっくりした。今までにないような鋭い上がり。慌てて私はマークにつく。面如技のゴール下
間近。でもまだパスはこない。真詩子がうまくみどりの足止めをしていた。
 速攻は防げたけど、相手も5人全員が相手陣地に入って攻撃態勢万全になってしまう。
 番さんの背中に私。下手に前に出て裏をかかれるよりこのほうがいい。
 タイミングを間違わなければ、高さで勝てないまでも十分に対抗できる自信があった。
 いや、もし4番さんがまだ不調ならブロックできる自信もある。
 そんな私に声。4番さんの。
「・・・あなたって本当に変わってる。敵を調子づかせてどうするのよ。こうなったらとことん
勝負を楽しんでやるから」
 心なしか弾んだような声。一瞬きょとんとしてから、私も心から、
「はい。私こそ!」
 と言い放った。そんな4番さんので中に、またあのすごい威圧感が戻る。心持ち一つで
こうも変わる。ぞくりと私の背中に悪寒が走る。でももしかしたらワクワクかもしれない。
 さあ、勝負です。

 つづく