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  @つかさ対あの子

「よっしゃー、いいねいいね、いい感じ!」
 真詩子のテンションの高い声。真詩子さんすごい上機嫌です。
 と言っても私も悪い気分じゃないけど。点差も一気に30点も付いてしまった。
 残り時間も少ないし、油断しなければ勝てるでしょう。そこで私は・・・
「じゃ、後続のみなさん、あとよろしくお願いします。私の出番はここまでで・・・」
「だめ」
 一刀両断! やっぱりダメでした(涙)
 そして真詩子がすっと表情を引き締めた。
「つかさ、次の作戦なんだけど」
 私も気を引き締めた。というか、休ませてくれる気全然無いんですね。そんな優しすぎる
真詩子に、私の方から提案した。
「あのさ、真詩子」
「ん?」
「向こうの全体的な作戦まではわからないけど、約1名の行動ならわかるんですけど」
 ちらりと私は相手さんのベンチを見てしまう。ちょっと青い顔で。
「どういう事?」
 さしもの策士、真詩子でもわからないだろう。あの子のあの癖だけは・・・

 そして・・・試合再開。

 私にパスが渡った。
 すぐにそばに来る異様な殺気、闘気。ちなみに4番さんじゃない。でもあの人並みに威圧感
さえ醸し出している。
 やっぱりこうなりました。なんと、みどりが私に張り付いてきました。すごい形相。真詩子とマッチ
アップしていたときとは比べモノにならないほど。
 これが彼女の長所であり、欠点でもあった。
 簡単に言うとものすごく負けず嫌い。自分が負けたくないと思った相手がいると執拗にこだわって
くる。まるで仇敵を見るような眼差しで挑んでくるのだ。
 今まで端から見てるだけだったのに、自分がみどりに追われるとは思わなかった。
 はっきり言って怖いです。
 試合再開する前に真詩子に説明したとおりの展開になった。
『みどりはたぶん、私に張り付いてくると思うです』
 たはははと苦笑いの私。いかにみどりが負けず嫌いか説明して、
『ふーん、そっか、なるほど。でもなんか辛いかな』
『なんで?』
『だってさ、それって実際に公式戦でマッチアップしそうな私は眼中にないって事でしょう?』
『真詩子・・・』
 確かにそうです。あくまで正式にはみどりの相手は真詩子になるのだ。公式戦ならなおさらだ。
少し浮かれていたから私は反省した。
『でも、これってやっぱり、つかさはバスケ部に入れ!ってことなんじゃないの? きっとそうよ!』
『真詩子さん・・・(涙)』
 ・・・こんなやりとりがあった。一瞬でも真詩子に同情した自分が悲しかったです。
「真詩子!」
 みどりとの間を切ろうと私は真詩子にパス! でも瞬間的に手が伸びてきてブロックされた。みどりだ。
 ボールは壁に弾かれたように方向を折り返してタッチラインを割った。
 油断したパスなんかじゃなかった。相手はあのみどりだ。でも防がれた。
 これもみどりの怖いところで、どんなに殺気むき出しになっても、プレイ中の集中力は少しも影響されていない。
つまり怒って相手にムキになっても冷静に動いている。
 手強いのです。みどりさんは・・・
 そしてみどりは4番さんより、スピードがある。4番さんとのマッチアップで私の利点はスピードだった。
 みどりとだと五分かもしれない。4番さんよりもやっかいな相手だ。
 面如技ボール。それでも私は相手陣地に走る。4番さんは私の代わりにセンター的ポジションになった
面如技の6番に張り付いている。
 私にパスが来た。まだ半円のちょっと中。みどりが腰を低く構える。
 思い切って私はみどりの左側をズバッと抜く。刹那の反応。でもみどりもすごく反応が早かった。
 ピタリと私の横に。ターンして抜こうにも全然隙がなくて、どんどん私はサイドライン際まで追いつめられてしまう。
 こういときやっぱり思ってしまう。私は助っ人になってない助っ人だ。ただの身体能力でぶいぶいできるのは限界がある。
こういうとき何よりもものを言うのは経験だ。何をしたらいい?どうすればいい?というのは試行錯誤の繰り返しで、有効な
手を見つけて蓄積していく。
 でも私はなぎなた部だ。バスケの試合の経験なんてほとんど無い。みどりや4番さんみたいな猛者相手なんてさらに
経験がない。だから・・・
「つかさ!」
 声! 真詩子が半円を沿うようにして回り込んできた。マークさんもご一緒だけど。
 みどりの視線が動いた。瞬間、私はみどりの脇を抜いていた。
 なんだかんだ言ってこういう隙にはきちんと反応してしまう私がちょっと悲しい。
 真詩子に注意がそれた一瞬の隙で抜かれたみどりも、すぐに身を返してダッシュ。
 一歩・・・ないかな、半歩ぐらい差を付けて、目指すはゴール。
 でも忘れちゃいけません。ゴール下のはあの4番さんがいるんです。4番さんとみどりに挟まれたら一瞬でぺちゃんこです。
それは嫌なので、私はすぐにシュート体制に入った。
 もし4番さんがブロックに飛んできたら、フリーになった面如技の6番の人にパス!
 これでばっちり!・・・なのだけど。
 なんと4番さんは私には向かってこないで、6番さんのマークに集中していた。私の目の前に障害物はなかった。
 ほとんどフリーのシュートになった。
 でも違った。手が伸びてきた。半歩でも差を付けたみどりの手が。さらに違う。リードはあっという間になくなっていた。つまり、
私がシュートにジャンプしたと同時に、みどりは急加速して、半歩のリードを無効にして素早くブロックに飛んだ。
 野球には打たせて取ると言う作戦があるけれど、シュート体制に入らせてブロックする。まさにそれだった。
 私が放ってしまったシュートはばっちりみどりの手に防がれ、弾かれる。しかも、今度は待機していた4番さんのところに
向かって。
 4番さんが動かなかったのもみどりのブロックを信じてのことだろう。
 着地したときにはもう相手の速攻が始まっていた。
(くやしい)
 うつむく。自分がバスケ経験不足だっていうのは十分わかっていたはず。相手が全国大会に出てしまうほどの猛者の集まり
だっていうのもわかっていたはず。中学時代でもみどりのバスケの実力はものすごく理解していたはず。
 それでも私はたった半歩のリードでみどりの存在より4番さんの存在を優先した。
 バカだよ、私・・・
 ちやほやされて・・・浮かれて・・・
 みどりがシュート体制に入った。止めに入った真詩子を素早いターンでかわして。
 くやしい、だから!
「おりゃー!」
 ジャンプ一番、乙女の叫び。
 やられたらやり返す。これ勝負事の基本。みどりの驚愕の顔。フルダッシュで回り込むようにして、ギリギリ追いついた。
 手のひらに衝撃。右手、ブロックできた。そのまま弾かないで何とかがんばって両手でホールドして着地。
 なんと、、真詩子さんがもう相手陣地に向かってダッシュしています。私は前方に大きくパス。スタートの速さで後続に
差を付けた真詩子は受け取ってそのままドリブルシュート! サッカーならオフサイドだろうけどバスケなら問題なし!
 と言うことで、面如技のゴールとなった!
「ナーイスブロック!(好美)」
「せんぱーい、素敵です!」
「つかさ先輩! らぶりー!」
「らぶりー!??」
 唖然とする背中が叩かれた。振り向くと真詩子さんの満面の笑み。
「ナイスブロック!」
「おーう!」
 私も笑顔。経験を補うのはとにかく動くしかない。いい加減めちゃめちゃ疲れてますが、がんばります。でも考えてみれば
真詩子も私と同じぐらい動いてて休憩無しだ。この子もやっぱりすごいです。
 そしてまたレベルアップするみどりさんの殺気。ダメです。ああなったら手が付けられません。たぶん、『みどりって中2の
頃までクマさんパンツはいてたよね?』とかいっても全然動揺しないです。試合終わった後でボコられるとは思いますが。
 そして私とみどりのマッチアップはさらに加速していく。もう、みどりを簡単に抜けなかった。隙がないんです。その代わり
私もディフェンスでは必死にみどりに食らいついた。
 私たちが一進一退すると、チームのムードも一進一退で、無得点時間が流れた。
 これがチームのエースの使命であり宿命。でも忘れちゃいけません。私はなぎなた部なんです。
 中央に切り込んでくるみどり。私もがんばってとおせんぽ。腰を落として抜かれないことが最優先。相手はみどり。慣れない
私のカットなんて通じません。
 みどりのフェイント。右からと見せかけて左、でも読んで・・・
 踏ん張った私の右膝がくっと揺れた。体制が崩れた。そんな隙を逃すみどりじゃない。
 素早く身を返して反対から抜こうと・・・でも負けません! 私もわずかに出足で負けてもすぐに追う。みどり、ジャンプした。
 シュートだ!
「とう!」
 私もフルジャンプ。あちらの4番さんに匹敵してしまった私の高さ!
 でもね、その時にはすでにみどりはボールを持っていなかった。やられました。ジャンプさせられて、その隙にパスを出された。
 ボールは4番さんの手にあった。どっしりと面如技のゴール下。マークは面如技の6番さん。強引に身を返す。反則すれすれの
チャージ。圧される6番さん。あの重量(失礼)に対抗するのは大変なんです。お互いフルジャンプ。でもやや4番さんの方が高い。
 放ったボールは・・・あっ!
「リバウンド!!!」
 叫んで、すぐに私は駆け出す。4番さんのシュートかすかに6番さんの指に触れた。みどりも全く遅れずに駆け出す。
 リバウンド合戦に私たちも乱入です。
 が!っと予想通りボールはゴールリングに当たって跳ねた。
 ボールの落下予想点。ベストポジションに滑り込んだのはなんと真詩子! 私は予感して刹那踏みとどまる。
 ジャンプする真詩子。他のみみなさんもジャンプするけど、地理的優位を得た真詩子には届かない。ジャンプ前に視線で脅して
いた可能性も捨てきれません。
 ばし!っと真詩子はボールを手のひらで打った。は、はたいたよ!あの子!
 ボールは弧を描いて飛んでいく。なかなかの勢いでセンターサークル付近まで飛びそうだ。一瞬別世界の出来事のようにボールを
見守ってしまうコート上の人たち。
 ダム!ッとボールが弾む音で我に返る。飛んでいったボールに一番近いのはガード的ポジションになった私。そして全く同列でみどり。
 と言うことは・・・です。
「よーい!」
 遠くでかすかに聞こえる好美の声。
 私、腰を落とす。みどりも。
「どん!」
 ダッシュ!
 ほぼ同時のスタート。みどりと私のガチンコスピード対決。みどりはすごく足が速い。私も悲しいけど自信あります。陸上部に拉致され
そうになったこともあるほどです(涙)。
 みどりが取ればもう一度攻撃のチャンス。私が取ればそのまま反撃のチャンス。
 負けられません!
 そしてリードを勝ち取ったのは・・・私です!
 でもまた半歩ほど。弾みが小さくなったボールを指先で強く押す。と、バウンドが大きくなって、すぐにドリブル開始。
 でも一瞬も気を緩めない。わずか後ろにすごい殺気のみどりがいます。逃げるようにドリブルです。
 トップスピードのままドリブルシュート! みどりもブロックでとんできたけどそれを片手で制して。だからみどりのブロックも届かない。
 ダッシュの割に抑えの効いたシュートはきれいに・・・ぱさり・・・になった。
「よっさーー!」
 なんだかんだでも勝負に勝つってやっぱりうれしい。にこにこな私。
 えーと後ろは見ないよ? もちろん。
 知らぬが仏って言うじゃないですか。
「つーかーさー」
 背後から声。ごめんなさい。見ちゃいました。
「ぎゃー!」
 涙目。唇ぎりり。こめかみぴくぴく。憤怒のオーラ最大。
 みどりさん・・・(号泣)
 今日、無事で帰れる自信なくなりました。

 つづく