−8−

 @ ラストプレイ

 後半も終盤です。一進一退で進んでいた。と言っても点差が30点ほどあるので面如技の
絶対的有利です。
 それでも果敢に挑んでくる相手さん。さすが全国区。その先頭を切っているのがみどりさん
です。それはもう怖いぐらい私に向かってきます。っていうか怖いです(涙)
 がんばってみどりの攻撃を防ぐ私。とにかく動いて動いて動きまくりでした。
 みどりのシュートを阻むたびに上がるみどりの殺気。だからって手を抜けない。やっぱり
勝負ってそういうものだと思うしね。

 面如技ゴール下。相手さんの鋭いパスがみどりに通った。私はみどりの背中に密着マーク。
腰を落として縦でも横でもすぐに対応できるように身構えた。
 ボールをキープしたままみどりは背中で私を押してきた。反則になるかならないかの瀬戸際。
わざと倒れてファールをもらう・・・出来ません。演技力に自信無しなんです。
 ふっと私にかかる圧力が無くなって、素早いみどりのターン。ほんとに速くて、少し反応が
遅れた。みどりのジャンプシュート。みどりの打点も4番さんに負けないぐらい高い。一瞬遅れた
私のブロックは間に合わなかった。さわれなかった。
 ぱさりとネットが揺れた。
 自陣の方に引き上げるみどりと目があった。「負けないよ」と真剣な瞳が語っていた。真詩子さん
の殺気を帯びまくった目とは違う。純粋な真剣な目。
 でも私もひるめない。だって、私だって負けるのは好きじゃない。こんなにすごいみどりにも勝ち
たいと思っている。
「ラストプレイになるかもね」
 ふと横に来た真詩子さん。確かにもうほとんどタイムアップ間近。点差は未だに30点付近で
揺らいでいる。もう面如技の勝ちはほぼ確定。
 ボールがコートに入った。一度中継して真詩子さんに渡る。相手さんは隙無く自陣を死守している。
この時間帯では絶対的な点差も十分承知だろう。それなのにゆるみない気迫は練習試合だから・・・
じゃない。試合だから・・・でもない。
 真剣勝負だから。だと思う。張りつめる緊張。不安に興奮も混じった空気。
「最後もあの6番に勝ってきなよ」
 真詩子さんの言葉。でも私の返答を待たないで、真詩子さんは一気に駆け出す。私も返答よりも先に
同じく走り出す。
(そうだね・・・勝ちたい。でもね・・・)
 真詩子さんの背中。それに面如技の他のみんなの顔を私は意識した。
 みどりにも、4番さんにも勝ちたい。でもこれは個人戦じゃない。
(・・・みんなで勝ちたいね)
 やっぱ、そうでしょ?


「・・・!ッ」
 まさに壁(失礼)の4番さんのブロック。私のファンタスティックパスが面如技の6番さんに通って、その
シュートがブロックされました。
 すごいです。復調してからの4番さんはまさに羅神のごとき勢いで(失礼)ゴール前に立ちはだかって
いた。
 打ち返されたボールは狙ったように相手さんのフリーの人に。いえ、狙ったんですよね。そんなレベルの
人たちだ。
 しかしそこはラストプレイの予感でヤケに気合いの入っている真詩子様がそのパス?を阻んだ。いったい
どこから飛んできたのでしょうか。すごい瞬発力。そして刹那に判断している私。自陣に戻りかけた体勢を
踏ん張って反転させて、再び相手ゴールに向く。
 カウンターダッシュが速すぎてそれが仇になったみどりは私の背中。目の前には4番さん。そんですぐに
飛んでくる真詩子さんからのパス。受け取る私。つまり・・・

 ラストプレイ!

 ほぼフリースローラインで待ちかまえる4番さん。お目目ぎらぎら。オーラ最大。
 怖い? ううん・・・ワクワクです。
 少しでも有利に・・・少しでも速く・・・
 立ち止まることなく私は左にズバッと抜く・・・4番さんもすごい速さで反応、その体に似合わない(非常に
失礼)体重移動の速さで、ぴったりと私の動きについてきた。
 しかしです! そんな強者の4番さんの股の間にボールを打ちました。いえ、ぶつけたワケじゃなくて、
足の間を通してバウンドさせたのです。つまり・・・有名な股抜き? 
 そんな感じのヤツです。そして私は4番さんが驚くよりも速く身を返して、また重心移動してしまう前に
逆側から4番さんを抜いた。そしてすぐに背後の気配を伺う。
 みどりの気配。まだ背中。もうゴールまで相手さんはいません。スピードゆるめるつもりはない。このまま
一気に!
「つかさー! いけー!」
「ダンク! ダンク!」
 出来ませんってば(涙)
 激なる応援が飛ぶなか、私は相手ゴールを見据える。
 ド・リ・ブ・ル・・・シュート!
 ジャンプ。
「させない!」
 影。
「・・・え?」
 頭が真っ白になった。私の前に飛び込んできたのは・・・みどり!
 そんな! 追いつけるような距離じゃ・・・はっとした!
 またみどりはわざとスピードを緩めていたのだ。私に気づかれるかどうかのギリギリの位置で。4番さんと
対決する前からだ。少し前の教訓で、4番さんに突っかかるときからみどりとの間合いを意識していた。
 みどりが後ろにいるから、立ち止まりたくなくて、強引に抜きにかかった。
 みどりが初めから全力で間合いを詰めていたら、4番さんと私を挟み撃ちにすることも出来たかもしれない。
でもその場合は私にパスという選択肢もあった。
 4番さんが防いでくれると信じていた?
 それとも4番さんが抜かれると予想していた?
 答えは分からない。でも、どっちにしろそれはみどりの意地だ。チームの勝敗以前に私との勝負。私も分かる。
 だって・・・みどりとの勝負、楽しいから!
 ボールを持つ手から、ボールが離れてリングに到達するまでの線。みどりの手はそれをしっかりと塞いでいる。
ドキドキと一緒に戦慄が走る。もうジャンプしていてシュート体勢。後戻りできない。
 直感。このままじゃ・・・防がれる・・・負け・・・る・・・
 やだ・・・
(負けたくない!)

 エッヘンブルグ様ー!

 くわっと目を見開く。瞬間、ボールを放つはずだった動作を、もう片手でボールを押さえ込み、中断。頭の中に
声が響いた。懐かしいような遠い声。ボールを持つ手をすっと下ろし、すぐに迫ってきたみどりの手を体をひねって
やり過ごす。女の子の声のような気がする。でも知っている人の声じゃない。好美のような明るさも、佐恵子の
ような真摯さも含んでいるようなそんな・・・声。
 滞空の頂点から下降。刹那の行動。このまま着地したら反則・・・だったような? でもそれは気にする必要は
なかった。体に力が沸いて、自然に動いていた。
 ほとんどゴールリングなんか見えない。みどりのブロックを体ごとやり過ごした後の無理な体勢。私は背中に
放り投げるような感じでボールを投げた。
 そして着地。同時にボールはゴールのボードに当たる。と、きゅるっと鋭くはじけて跳ねる方向が変わった。
少し内側に・・・
 着地して私がゴールリングに目を向けると同時にぱさり・・・と音。
 私が笑顔になると同時にごわっと会場が沸いた。
 同じく着地していたみどりも呆然としている。
 同時に笛。試合終了のです。ほんとにギリギリのプレイだったようです。
 その時にはあの声のことは私はすっかり忘れていた。それでも何とも言いようのないドキドキは体に残った
ままだった。
 不思議な声の記憶は・・・
「う、わ、つかさーーーー!!!」
 どかっ!っと真詩子さんの凶悪なタックル(抱きつき)によって遠い彼方へ。
 すんごい笑顔です。たぶん私もだったと思う。
 真詩子さんに続いて続々と集まってくる面如技選手。後の方もタックルしてくるかと身構えたけど、大丈夫
でした。肩をたたき合い、握手したり。
「勝ったーーーーー!」
 雄叫び。面如技ベンチから。この瞬間が何とも言えない。スポーツと言うより、勝負事の醍醐味でしょう。
 私も心からほほえ・・・・み・・・
 思い出しました。勝利の笑みとはうってかわって絶望的な表情になって私はゆっくりととある人物を見る。
 その人はずずんと重い空気を全身にまといながら、ぺたりとフロアに女の子座りでへたれこんでしまった。
 血の気が引く私。悪寒が背中を駆け抜ける。その子は相手さんのユニフォームを着て背中には6番と数字。
そう、みどりさんです。
 ただならぬ気配を察して静まる会場。
 みどりの目にはもう殺気はない。でもそれ以上にやっかいな物がうかんでいた。
 涙。大涙。滝涙。もう3才ぐらいの子供が泣きじゃくるような表情。その視線はまっすぐ私を向いている。私は
この後どうなるかもう知っている。覚悟している。
 でも逃げられません。逃げたらどうなるかも知っているから・・・
 もう完全に子供。みどりのそれを知らない人は「?」の顔で見ている。それを知っているだろうみどりのチームの
人はと言うと・・・何ですか、あの期待に満ちた目は! 楽しみにしていらっしゃったようです(涙) よく見ると
味方のはずの佐恵子まで(涙)
 さらに幼児のそれで、みどりさんは両手の稿を目元に当てる。
「ふ、ふわあああん(号泣)! 負けたぁ、つ、つ、つかさの・・・ばかぁああ!!!」
 大声で泣き叫び、また泣くみどり。
(ひえええ!)
 そりゃのけぞりますって!
 みどりの欠点。極度の負けず嫌い。そして最大の欠点はそんな意地になってしまう相手に負けたとき、張りつめて
いた糸が切れたように、一気に泣き出す。もう子供のそれで。泣きじゃくり、ばたばたと暴れ、負けた相手をバカ
呼ばわり。
 今まで聞いた中では「おんこなす」「かあちゃんでべそ」「みそっかす」エトセトラとある。まさかそんなみどりの
暴言(?)が私に来るとは・・・私も泣きたいです。
 会場はあっけにとられて静まっている。みどりの泣き声を除いて。
 私がなだめても駄目。自然に泣きやむか、強制的に退席させるしかない。
 この会場の皆さんが取った行動は・・・様子見。ほ、放置ですか??
 すみません。みどりが泣きやむまでしばらくお待ちください。
 私の精神力がもつか自信ないですが・・・


 やっとの事で、両チームのメンバーがコート中央に整列した。
 主に皆すっきりとした顔。爽やか系スポーツ少女のそれ。でも私はまだ青い顔。微妙に口元も引きつっている。
みどりさんのあの泣きべそは本当に精神的に辛い。普段はきりりとしていて、優しいし、面倒見もいい、とても
素敵な子なのに・・・あのギャップは反則です。心身共に疲労がすごい私。
 みどりさんはもう泣きやんでいて、まだ笑顔は出ないものの、もう平常通りだ。涙の跡がまだ残ってるけど、
すぐに元に戻るでしょう。
 主審により、面如技の勝利が告げられ、両陣営から拍手。そして礼をして、選手同士も握手する。何はとも
あれ、すごくいい試合だったと思う。
「あなたには負けたわ」
 と私の前に手を差し出す4番さん。うれしかった私は笑顔で握手に応じた。
「そんな! 私こそ生意気言ってしまってすみませんでした!」
 試合中とはいえ、相手チームのキャプテンさんにあんな事・・・
「謝るぐらいだったらもっと早く言ってくれたらいいのに。そうしたらこんな点差・・・ううん、ウチが勝ってたのに」
 なんて仰います。私は内心涙。でも本当にそうなる可能性もあった。それくらい復活してからの4番さんは
すごかった。対戦相手でも素直に尊敬できた。
「公式戦で雪辱させてもらうわ」
 4番さんの挑戦的な笑み。私もきりりと顔を引き締める。「私こそ。負けません!」と言いそうになって慌てて
口をつぐんだ。や、やばかった! 忘れてました!
「すみません、それは適わないです。私はただの助っ人ですから」
 そう、そうですよ! 私はなぎなた部なんです! バスケ部じゃないんです!
「助っ人?」
「はい。本業はなぎなた部なんです」
 それを聞いて4番さんは唖然として、それから一息。で、すごく脱力。もっとお堅い厳格な人かと思ったら
結構茶目っ気もありそうな人だ。すごく好感が持てた。
「バスケ素人なの? そんな子に負けるなんて・・・完敗ね」
 最後にすっきりしたような笑顔になった4番さん。
「そんな、私なんてただ走ってばかりでしたから」
 真詩子様にこき使われて(涙)。ちらりと真詩子の方を見ると、すっかり回復したみどりと何か話していた。
真詩子さんの視線も和らいでいるから私も安心。
「そんなことない。あなたの力は大きかったわよ。現世つかさ さん」
 名前、覚えられました。なんかうれしかった。じーんとこみ上げるものがあって、つい言ってしまった。
「ありがとうございます。お滝さん・・・」
 瞬間。ぴきん!と音。目の前の人の雰囲気が変わった。なんか・・・殺気?
「そのあだ名、だ・れ・に・聞いたのかなぁ?」
 ものすごい引きつった笑顔で4番さんは私を見た。焦る私。あれ? 地雷?
 戸惑う私を見て4番さんは何かに気がついたように、ゆっくりと視線を巡らして、ぎょっとしてこっちを見て
いたみどりをとらえた。真詩子も不思議そうな、でもちょっとびびった顔でこっちを見ている。
「みどり・・・こっちに来なさい」
 ドスのすごく効いた声。試合中にも見せなかったような異質のオーラをまとった4番さん。マジ怖いです。
何となく予感はあるものの、苦笑いで誤魔化す私。
「私は言ってません! ご、誤解です!」
 どうして4番さんがご立腹なのか十分承知しているみどりの顔。後ずさる。冷や汗に血の気引き引き。
4番さんは拳を握ってぽきぽきと音を立てる・・・ような仕草。
「あんた以外に誰がいるのよ! 覚悟しなさい!」
「ひー! つ、つかさ! 覚えてなさいよ!」
 と悲鳴を上げて、みどりは逃げた。それを追いかける4番さん。
 激闘が終わった後なのに、なんか元気だなぁと私は思った。
 みどり・・・ごめん!


 @幕です

 死闘は終わりました。
 両校の代表が集まり試合するA戦が終わり、2軍や1年生達にも試合の機会が与えられるB戦も滞り
なく終わりました。
『じゃ、B戦も助っ人よろしく!』
 と言う真詩子さんをどうにかするので忙しかったです。がんばりました。
 休憩しながらB戦を観戦しました。
 さすがというか、B戦も白熱してそっちも激戦になった。両校なにげに層が厚いようで、レベルはすごく
高かったんじゃないかな? 私の助っ人が本当に必要だったのかマジで疑問です。
 私にバッシュを貸してくれた文美部員も出場する機会が与えられて、まだぎこちなかったけどがんばって
いた。あ、バッシュはちゃんと返しました。
 文美ちゃんはまだ一年生だけど、周りをよく見ていて、技術が付いたらすごい人になりそう。司令塔向き
かもしれない。がんばって欲しいものです。でもお願いだから間違っても真詩子のような人にはならないで
ください。
 そのB戦の軍配は相手さんに上がった。勝ち負けはいろいろでもすごく楽しい試合だったと思う。すごい
疲労ですが(涙)
 そのあとシャワータイムして、私も解放された。
 応援してくれた佐恵子や好美と連れだって私はお馴染みの喫茶店ちょめこに行った。
 そしてなぜか真詩子まで付いてきた。バスケ部は明日休みだとか。確かにあんな激闘のあとだし、休養は
必要でしょう。私も頷く。なんか忘れているような気もしますが。
 6人用のゆったり席に行って、くつろぐ私と皆さん。お馴染みのものパフェを頼みました。やっぱこれっすよ!
 真詩子はアイスコーヒー。佐恵子はアイスティー。好美もコーヒーです。
 お腹空いたけど、ここはパフェでがんばります。
 と、そんなタイミングでもう一人お客様が訪れた。
 びっくりしました。いつの間にアポを取ったのか、なんとみどりさんです。
 制服姿のみどり。セーラー服姿がすごくカワイイ。背が高くて男の子みたいだけど、人当たり柔らかいし、
素のみどりはほんといい子なんですよ。
「呼ばれました〜」
 と、笑顔で登場です。声をかけたのは真詩子さんのよう。広がる友達の輪。
「お疲れ〜」
 私も笑顔で迎えました。もちろん大歓迎です。久しぶりに会ったわけだしね!
 私、好美で片側に座り、真詩子と佐恵子が向かい側。みどりは真詩子の隣に着席。
 ほとんど初対面なはずの好美がにこにこ笑顔でみどりを見た。
「みどりちゃんもお疲れさま〜」
 一瞬止まる時間。みどりはびっくりして好美を見た。好美は純粋な「?」の顔でみどりの視線を受け止める。
でもすぐにみどりも笑顔になってありがとうと言った。
 そうです。これが好美の怖いところです。人見知りしなさ過ぎというか、打ち解けやすさマックスというか。
たとえ初対面でも好美が気に入ればみんなちゃん付けになります。年上の人とか、男の人はさすがに気を
付けますが、無邪気に素直にあっさりちゃん付けになります。
 そしていきなりそう呼ばれても、ま、いいかと思えてしまう憎めない愛らしさ。それを意識しない天然さ。
恐ろしいです。
 私も好美と初対面のとき自己紹介をして、次の瞬間から「つかさちゃん」になっていました。もちろん悪い
気はしないで、すぐに自然になりました。
 一通りお疲れ挨拶をしてすぐに談笑が始まる。女の子達の風景。
「ほんと、今日は参ったよ。計算違いもいいトコ」
 と仰ったのはみどり。注文の品はレモンティー。あとショートケーキ。
「計算違い?」
 聞き返す私。パフェ・・・おいしいよう・・・
「面如技ってさ、守り重視のチームなのよね」
 みどりの言葉に真詩子も頷く。死闘の後に両校のエースガードさんが対談している。すごい風景。
「面如技の鷲名野さんって、ウチの滝さんみたいに鉄壁なディフェンスが有名なのよね」
 真面目な顔のみどりさん。
 ここで思い出し補足です。
 相手さんのキャプテン滝さん(4番さん)は小さい頃、時代劇の悪役の女性で「お滝」という女性がいて、
そのおかげで、ずいぶんとからかわれたとか。当時は気も弱くて、繊細だった滝さんは深く傷つき、プチ
トラウマになって、体も気持ちも強くなった今では「お滝さん」は逆鱗のためのスイッチだとか。もちろん
そんなこと知らない。知ってたら言うはずないじゃないですか。
 お怒りを鎮めようとあの後、ものすごく謝った。4番さんが本気で暴れたら止められる人はいません。
でも、すぐに機嫌を直してくれた。わざとじゃないの分かってたみたいだし、いい試合の後で気分も良かった
からだろう。その分、みどりに責められましたが(涙)
 えーと、みどりさんのお話の続きです。
「ウチも鷲名野さん攻略のために、いろいろフォーメーション練習していたのにその人が欠席っていうじゃ
ない。しめたと思ったよ。鷲名野さん対策のために攻撃重視の布陣にしてたのに、さらに守りが薄くなった
わけだからね。大量得点行けるかもって」
 みどりさん、対戦相手の真詩子もいるのに容赦無しです。でも正直な感想。真詩子も別に気分を害しないで
聞いている。っていうか笑顔です。
「それなのにさ・・・」
 みどりさんため息。で、なぜか私の方を見る。どきりとしてパフェのスプーンが止まる。
「まさか、つかさが立ちはだかるなんて! 全く予想外!」
 叫びます。私は涙しながら、
「私も予想外です」
「予定通りです」
 真詩子。言い切られました。利用された私(涙)
「キャプテンがね、私の代わりにはあの子がいいって言ってね。練習試合だし、おもしろそうでしょって・・・」
 私は助っ人と言うよりピエロだったようです。怒る前に情けなくなりました。と好美がそんな私を元気づける
ように、
「でもつかさちゃんが協力するんだもん。みんな安心だったと思うよ」
 じーんと来た。好美の笑顔。続いて真詩子。
「そうそう。ただでさえ全国クラスの強豪相手に大黒柱が抜けて、すごいみんな不安だったもん。そこに
面如技で絶大な信頼度を誇るつかさを起用。みんな不安なんて吹っ飛んでたよ」
 真詩子の言葉に好美も佐恵子も頷いた。佐恵子と好美はずっと面如技のベンチにいたから、現場の
心情は私よりも身近だ。みどりさんはというとまたため息。
「おかげでこっちはさんざんだったよ。つかさの能力の高さを改めて実感したよ。泣かされたしね」
 と言って睨んできます。私はひたすら苦笑。好きで泣かしたわけじゃないです。ていうか精神的にすごい
ダメージ食らいました。あの件だけなら痛み分けだと思います。
「正式なバスケ部員じゃないのにあんな動けるなんて、中学の時と同じじゃない」
 私と佐恵子とみどりは同じ中学だった。いろいろありました(涙)
「面如技の絶対無敵守護神だもんねー!」
 にっこにこで好美。その名を呼ぶのは好美だけです。広まったら嫌なのでやめてください。そんな好美を
見てみどりがクスッと笑う。
「高校じゃそう呼ばれてるんだ。中学の時は『運動部の黒船』だったのにね」
「うわ、みどり!」
 思わず叫んでしまう。せっかく忘れかけていたのに。ちらりと見るともう遅かった。その事情を知らない
好美と真詩子の好奇心の目がみどりに。
「黒船?」
「うん。荷担した部活に必ず勝利をもたらすところから命名されたの」
 みどりの笑顔の説明青ざめる私。好美と真詩子さん吹き出して笑う。
「あはははは! そ、それ、いい! いただき! あははは」
「つかさちゃん最高だよー!」
 佐恵子まで顔を伏せて間違いなく含み笑い。
 むっとした私はパフェに逃げる。皆さん言いたい放題です。
「と、とにかく今回は特別だったんだからね!」
 強調する私。そう言っておかないとまた拉致されます。私はなぎなた部なんです!
 ん? なにか忘れているような・・・?
「私もそうして欲しい。公式戦なんかに出てこられると怖すぎ」
 みどりさん。援護射撃。うれしいかどうか微妙でしたが。
「あきらめてバスケ部にきなよ。こき使いますから」
 と真詩子さん。絶対に行きたくないです。鬼がいますから。
「つかさ、バレー部の試合も近いよ」
 佐恵子さん。なぜか運動部の試合スケジュールに詳しい。って、私に行けと?
「テニスとー、あと柔道もあるよー!」
 好美。笑顔が今は恐ろしい。
「ちょっと! 私は関係ないでしょ!」
 慌ててストップをかける。各部の猛者の顔を思い浮かべて私は戦慄した。真詩子さんみたいな
鬼が私の周りにはいっぱいいるのです。
「つかさって、中学の時から断るの下手だったもんね。また押し切られるんじゃないの?」
 みどりの鋭い指摘。ぐっさりと胸に突き刺さる。佐恵子が私を見て、
「ま。それはまだ先のことだからね。とりあえずは明日でしょ」
「だねー!」
 と好美。私はきょとんとして、
「明日?」
 そんな私を見て好美と佐恵子は顔を見合わせる。そして笑う。真詩子さんも。
「まさか忘れてるとはね。つかさらしいと言えばそうだけど・・・」
 佐恵子の言葉を私は考えた。
 明日・・・あした・・あし・・・・・・・・・・・・・ん? なぎなた?・・・あ!
「あーーーーーーッ!!!」
 思わず席を立って絶叫する私。喫茶店内の人の目が私に集中。でもそれを意識できる余裕なんか
無くて、絶望的な表情で今度は力無くソファに沈む。
 わ、忘れてました。明日は私の正式な所属部のなぎなた部の・・・試合!
「あ、明日試合だ・・・」
 焦点の合わない目で私はテーブルを見る。
「試合? なぎなたの?」
 みどり。力無くも私は頷く。みどり苦笑。
「あらら、ご愁傷様」
「どーしよ。ものすごく疲れてるんですが」
 さっきまであまり意識しなかった疲労がここぞとばかりに主張してくる。今日の試合が全国級の実力同士
の試合だったように、明日の試合もなぎなた界では強豪同士の試合。
 すごい猛者達がやってくるのです。
「つかさすごいがんばってたもんね。フル出場で」
 真詩子さん。いえ、それはあなたのせいですから! 休ませてくれなかった真詩子。でも責められない。
だって、めいっぱい楽しんでいたから。バスケの試合中は明日の事なんて考えていなかった。
 いえ、すっかり忘れていた。
「なぎなたの試合か・・・私も明日休みだし、応援に来るよ」
 と、みどり、それはそれでちょっとうれしかった。真詩子さんまで、
「あ、ウチもすでにつかさ応援団ができてたよ。一年生が中心だけど、垂れ幕を一生懸命作ってた」
 文美ちゃん達かな? なんか元気出てきた。
「家帰ったら即寝だね・・・」
 疲労回復には寝るのが一番。あ、もちろんお風呂とかご飯とかのあとですよ?
「明日も死ぬ気でがんばらないとね!」
 と真詩子さん。笑顔が眩しい。すでに他人事のようなのは気のせいでしょうか。
 なんでこんなハードスケジュールに・・・
 謎です。誰か教えてください。
「つかさちゃんなら大丈夫だよ! 毎日試合でもへっちゃらだよ!」
 好美。ちっともへっちゃらじゃありません。
「つかさの場合、試合の体力は別腹だからね。問題なし」
 佐恵子。むちゃくちゃです。
 素敵な友人に囲まれる私。波瀾万丈はたまにでいいんです。
「へ、平穏をください・・・」
 涙です。切実です。そんな私にあたたかい声をかけてくれる友人達・・・
「だめ」
 真詩子さん。
「望み薄ね」
 みどりさん。
「無理よ」
 佐恵子さん。
「ムリムリー!」
 好美。なぜかすっごい笑顔です。
 全然励まされてませんが、明日もがんばろう。そう心に思った。
「悲しいよう・・・」
 私のための平穏、いつやってくるのでしょうか?
 なるべく早めにお願いします。マジで!


                                おわり