ノルム空間

■ 距離空間と距離関数

定義(距離空間,距離関数) 空間Xの点 x,y,z に対して,X×X上の実数値関数d(x,y)が存在して,以下の距離の公理を満たすものとする
(1) d(x,y)≧0
(2) x=y のときにのみ d(x,y)=0
(3) d(x,y)=d(y,x)
(4) d(x,y)≦d(x,y)+d(y,z)
このとき,d(x,y) は x と y の距離(distance)または距離関数(distance function)といわれ,このようなdが定義される空間を距離空間(metric space,distance space)といい,(X,d)などと表される.
定義(点列) (X,d)を距離関数dをもつ距離空間とする.いま自然数nにXの点pnを対応させる写像 npn をXの点列(point sequence, sequence of points)と呼び,一般に{pn} (n=1,2,・・・) などとかく.また,点列{pn} に対して適当な n'∈N を抜き出して得られる点列 {pn'} を {pn}の部分点列(subsequence),または部分列という.
定義(収束) 距離空間(X,d)上の点列{pn}について,任意のε>0 に対し,ある自然数Nが存在して n≧N のとき,
d(pn,p)<ε
が成り立つとき,点列{pn}はXの点p収束(converge(to),convergence)するという.点列{pn}がpに収束するとき,{pn}はp極限(limit)または極限値(limit value)にもつ,という
定理(極限の一意性) 距離空間において収束する点列の極限は一意である.
証明 Xを距離空間とする.2点 q1,q2 がともに点列{pn}の極限であるとすると,任意のε>0 に対してある自然数Nが存在し,n>N とすると,

   d(q1,q2)≦ d(q1,pn)+d(pn,q2)
< 2ε
となる.ε は任意であったので d(q1,q2)=0 ,すなわち q1q2 である.

■ ノルム空間

定義(ノルム) 線形空間から,非負実数の集合 R+=[0,∞) への写像:
‖・‖ : u∈X‖u‖∈R+
が次の性質 (1), (2), (3)を満たすとき,ノルム(norm)であるという.すなわち,
(1) ‖u‖≧0 かつ ‖u‖=0 u=0
(2) α∈K , u∈Xに対して,‖αu‖=|α|‖u‖ (斉次性)
(3) u,v∈X に対し,‖u+v‖≦‖u‖+‖v‖ (三角不等式)
 三番目の三角不等式(triangle inequality)は特に重要である.ただし,Kは実数体や複素数体などの係数体である.
定義(ノルム空間) 線形空間Xとその上のノルム‖・‖が与えられたとき,この組(X,‖・‖)線形ノルム空間(normed linear space)または単にノルム空間(normed space)とよぶ.つまりノルムが定義されている線形空間をノルム空間という.
命題 ノルム空間Xの元 x1,x2,・・・,xn に対して,
が成立する.
証明 三角不等式から明らか.
定義(収束) Xをノルム空間とし,X上の点列{xn}が x にXで収束(converge(to), convergence)するとは,n→∞ のとき,‖x−xn‖→0 が成立することである.このとき距離空間の場合と同様に xn極限(limit)または極限値(limit value)が x であるといい,
と表される.Xにいろいろな位相を導入する際には,このようなノルムによる収束をとくに強収束(strong convergence)といい,その極限を強極限(strong limit)という.,これを区別のために
とかくこともある.
定義(集積点) ノルム空間Xの部分集合Mについて,x∈Xに収束するようなxと異なるMの元からなる点列が存在するとき,xはMの集積点(accumulating point)であるという.
定義(閉包) ノルム空間Xの部分集合Mについて,Mの集積点全体の集合をMの閉包(closure)という.
命題 ノルム空間Xにおいて,u および点列 {un} , n=1,2,・・・ について
となる.すなわち,un は有界である.
証明 まず,三角不等式から

   ‖un‖−‖u‖‖un−u+u‖−‖u‖
‖un−u‖+‖u‖−‖u‖
‖un−u‖

となり,同様に
‖u‖−‖un‖≦‖u−un
がそれぞれ示される.従って,
|‖u‖−‖un‖|≦‖u−un‖→0
が得られる.これからたちに命題が示される.
定理 ノルム空間において線形演算は連続である.
証明 (加法の連続性) un∈X, vn∈X かつ,unu0,vnv0 (n→0) として,
unvnu0v0 (n→∞)
を示せばよい.三角不等式より,
   ‖(un+vn)−(u0+v0)‖‖(un−u0)+(vn−v0)‖
‖un−u0‖+‖vn−v0
となり示される.

(スカラー乗法の連続性) αn∈K , αn→α0 (n→∞)
かつ,un∈X,unu0 (n→∞) を仮定して,
αnun → α0u0
を示せばよい.
αnun−α0u0=(αn−α0)un+α0(un−u0)
より,
‖αnun−α0u0‖≦|αn−α0|‖un‖+|α0|‖un−u0‖→0
となり示される.
命題 ノルム空間は距離空間である.
証明 いま,空間Xをノルム空間とし,そのノルムを‖‖で表す.このとき,任意の x,y Xに対して関数dを
d(x,y)=‖x−y‖
で定めると,明らかにdはX上の距離関数である.
定義(有界) ノルム空間Xの部分集合Sに対して,正の定数Mが存在し,任意の元 x∈S に対して x‖≦M が成り立つとき,集合Sは有界(bounded)であるという.
定義(最大値ノルム) 区間[a,b]上で定義された連続関数の全体からなる空間C[a,b]上の任意の元 x に対してノルムを
で定義すると,これはノルムの定義を満たしている.これを最大値ノルム(maximum norm)といい,しばしば‖x‖などと書かれる.
命題(C[a,b]) 閉区間[a,b]で定義された連続関数の集合 C[a,b] は最大値ノルムによってノルム空間となる.すなわち, x(t)∈C[a,b] についてノルムを
とするとこれはノルムの公理を満たす.
証明 簡単なので省略.
命題 最大値ノルムにおける関数列の収束は,微分積分学での区間[a,b]上での一様収束と一致する.
証明 一様収束の定義そのものと一致している.
定義(同値なノルム) ノルム空間Xで二つのノルム‖・‖1,‖・‖2 が定義されているとする.このとき,x∈X に対して,
a‖x‖2≦‖x‖1≦b‖x‖2
となる正の定数 a,b が存在するとき,これらのノルムは同値(equivalent)であるという.
定義(直積) X,Yをノルム空間とし,ノルムをそれぞれ‖・‖,‖・‖ とし,X,Yはともに係数体Kをもつものとする.いま,xX,yY の対 [x,y] の全体について線形演算およびノルムを次のように定義する:
1) [x1,y1]+[x2,y2]=[x1+x2, y1+y2]  (x1,x2X, y1,y2Y)
2) a[x1,y1]=[ax1, ay1]  (aK,x1X, y1Y)
3) ‖[x,y]‖=‖x‖+‖y‖ (xX,yY)
このとき,この集合はノルム空間となり,これをXとYの直積空間(product space)といい X×Y などとかく.

■ 半ノルム

定義(半ノルム) Xを係数体K上の線形空間とする.このとき,関数 p(・):X→R が3つの条件
(1) p(ax)=|a|p(x) (a∈K,x∈X)
(2) p(x+y)≦p(x)+p(y) (x,y∈X)
を満たすとき,pはXの半ノルムまたはセミノルム(semi-norm)であるという.
(注意) 半ノルムpは
p(x)=0 x=0
を満たさないことに注意する.
命題 線形空間X上の半ノルムpについて,次の性質が成り立つ.
(1) p(x)≧0
(2) p(0)=0
(3) |p(x)−p(y)|≦p(x−y)
を満たさないことに注意する.
証明 半ノルムの定義から,
p(0)=p(0x)=0p(x)=0.
よって,(2)が示された.次に
p(x)=p(y+x−y)≦p(y)+p(x−y),
p(y)=p(x+y−x)≦p(x)+p(y−x),
である.ここで,
p(x−y)=p(-(x−y))=|-1|p(y−x)=p(y−x),
より,
p(x)−p(y)≦p(x−y),
p(y)−p(x)≦p(x−y).
つまり,(3) が示された.(1) は (3) で y=0 の場合を考えると,(2) の主張から
0≦|p(x)|≦p(x)
である.