転置行列1

定義(対角成分,非対角成分) n次正方行列の左上から右下への対角線上にある成分,すなわち a11, a22, ..., ann対角成分(diagonal element)といい,それ以外の成分を非対角成分という.
定義(対角行列) 非対角成分がすべて0である行列を対角行列(diagonal matrix)という.
定義(単位行列) 全ての対角成分が1である対角行列を単位行列(unit matrix, identity matrix)といい,しばしばIまたはEで表す.
定理 A,Bが共にn次の対角行列であるとき,積 AB および BA もまた対角行列であり
AB=BA
が成り立つ.
証明 A=(aij),B=(bij) とする.明らかに AB および BA はともにn次の正方行列であり,それぞれ AB=(cij),BA=(dij) とする.i≠j のとき,
より,AB,BA はともに対角行列である.さらに
より,AB=BA が示された.証明おしまい
定理 Im,In をそれぞれm次とn次の単位行列とする.このとき(m,n)型の行列Aに対して
ImA=AIn=A
が成り立つ.
証明 簡単だから省略.証明おしまい
Aが正方行列であるとき,積 AA,AAA,などが定義できて,これらは A と同じ型の正方行列となる.一般にAのp個の積を Ap で表し,特に A0=I (単位行列) と定義する.
定義(転置行列) aij を (i,j) 成分とする (m,n)型の行列 A=(aij) に対して,aji を (i,j) 成分とする (n,m)型の行列をAの転置行列(transposed matrix)といい,A,または tA で表す.
命題 転置行列について次の関係が成り立つ

 (1)  (cA)=cA

 (2)  (A+B)=A+B

 (3)  (A)=A

 (4)  (AB)=B
証明 (1)から(3)は簡単なので省略する.(4)について,まず,A=(ai,j),B=(bj,k) とすると,(AB) の (i,k) 成分は
となる.一方,Bの (k,j) 成分は bj,k,Aの (j,i) 成分は ai,j となるので,(k,i) 成分は
となり,これらが一致することがわかる.
定義(対称行列,交代行列) A=A となる正方行列を対称行列(symmetric matrix)といい,A=−A となる正方行列を交代行列(skew symmetric matrix)という.
命題 任意の正則行列Aは対称行列と交代行列の和で一意に表すことができる.
証明 (存在について)正則行列B,Cを
B=(A+A)/2 , C=(A−A)/2
ととれば,Bは対称行列,Cは交代行列となり,明らかに
A=B+C
である.

(一意性について)AがB,Cと異なる対称行列B',交代行列C' で
A=B'+C'
と書けるとすると,
=B'+C'=B'−C'
となり,従って
B'=(A+A)/2=B ,C'=(A−A)/2=C
となり矛盾する.
定義(複素共役行列) 行列 A=(ai,j) について,ai,j の複素共役を(i,j)成分とする行列をAの複素共役行列(complex conjugate matrix)といい,で表す.
定義(共役転置行列) 行列Aの複素共役行列の転置行列をAの共役転置行列(conjugate transposed matrix)といい,A で表す.
命題 共役転置行列について,転置行列と同様の次の関係が成り立つ

 (1)  (cA)

 (2)  (A+B)=A+B

 (3)  (A)=A

 (4)  (AB)=B
定義(エルミート行列) A=A となる正方行列をエルミート行列(Hermitian matrix)という.また,A=−Aとなる正方行列を歪エルミート行列(skew-Hermitian matrix)という.
定理 行列Aが実数行列のとき,
および
が成り立つ.
証明 定義から明らか.