外に出ると雨粒を感じた。
 と言っても薄い霧が少しばかり通り過ぎていくほどの僅かな湿り気に触れた程度なのだが。
 「雨が降ったら途中でも帰ってくるから」と言って家を出る。これって先週もそうだったような気がする。バスに乗ると、もう少し雨脚が強まったようにも見えたが、上空を見上げれば雲の間に青空が垣間見え、この先の天気がそれほど悪くはならないだろうと思えたのだ。
 それは結果からは間違いだった。青空のあったことより、その隣にムクムクと動く黒い大きな雲が漂っていたのを問題とすべき所を、自分に取って都合の良い部分であった天空のごく一部の青の部分を拡大解釈して判断してしまうという何時もの癖が出てしまったのだ。この癖、その都度反省しようとは思うのだが、なかなかそうは行かないのがマシラの悪いところだ。
 大雨の場合は、危険なので沢の中を歩かない方が良いというのは当然として、ところで少しくらいの雨が降ったとして山遊びにどのような影響があるかと言えば、今の時期なら、殆ど何も変わらない。
 どうせ行く場所は沢である。遡行の中で水には濡れるのは当然だろう。たとえ渓流の水で濡れなくとも歩けば汗をかいて体も衣服も濡れる。だからといって、それと雨で濡れるのは同じかと言えば意識的にはずいぶん違っていて、出来るだけそんな状態を避けようとはする。それが雨の場合は最初から濡れるのが分かっているのだ。だから自ずと雨の日は無理には山遊びには行かないのだ。
 しかし、あくまでも少しくらいの天候の読みの違いに限定してみれば、いざ出発してしまえば少しくらいの天候の読み違いは気にしてもしょうがない。
 それでも煤ヶ谷で降りる頃は、霧雨だが、まだ小雨と言う程でもないというレベルだった。自宅を出た瞬間がこれくらいなら、おそらくそこで山遊びを中止していたと思う。

 清川村リバーランド入り口と道を挟んだ反対側が不動沢の入り口となる。
 そこに少し前まで立っていた「不動の滝周遊コース」の標識は倒され、草木の中に朽ちた残骸が少しだけ見える。その入り口は道路からは少し隠された感じがするが、一歩杉の林に入れば導水菅沿いに道が沢に沿って伸びているのが見える。
 道は砂防堤のところで一反途切れる。堤の上の砂地を対岸に移ると崩壊している古いブル道があり、残置されたユンボが道の中央を占めている。その先に例の山荘ログハウスが建っているのだ。
 このログハウス付近に人を見たことは今までは無いが、軒先も玄関も水場も整理が行き届いている思えるから時々は使われているらしい。それにしても下流にまともな道無く、杉の木立の中でもあり、見晴らしが良いのでもなく、使うには決して便利とは思え無いけれど、おそらく限られた人々が部外者から隔絶した場所での野外バーベキューの場として使用されるんだろうな。
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不動沢入り口 清川リバーランド(家族ずれが多くにげわっている)
 さて、そこから周遊コースは左岸に移る。道の各所に観光用看板も立つが、一般向けには使われなくなって長く経つ道らしく、斜面では路肩は土石に埋まり、所々は踏み跡程度の不安定さだが、ともかくも忠実に跡をたどれば『不動の滝』の祠に着く。
 『不動の滝』は名前から想像するほどの落差は持たないが、下から見上げると落ち口の上に位置する小さな社を含めた周囲が強いアクセントを放ち、かっての修験の業を想定させるには十分だ。祠に備えられているビール缶は前回と同じ物であり、新たに加えられた供え物は無い。
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山荘ログハウス(結構綺麗だが結構不気味)
 左岸の祠から暫くして右岸に移った道をたどる。小さな滝に何カ所かの岩床の流れがある。
 左に鋭く曲がって直ぐの所にある4m樋状滝は、手前で小尾根に上がっていたので、沢に戻るのが面倒くさく尾根上の踏み跡をそのまま進んでパスする。パスする横手には天井を張れば直ぐにでも使えそうな中規模な炭焼窯の跡があった。
 それ以外にはこれといった目立った滝場も見せ場もなく、徐々に形跡が薄くなる道を滑らないように注意して淡々と続く。

不動の滝 (正式呼称は 『ガンマンの滝』 と呼ぶ 清川村地名抄
 やがて沢の中に滝が見えてくる。道なりに沢の中に戻ると目の前に幅広の一枚岩10m程の滝が待つ。水量豊富と言うほどでもないが、何回か訪れた中ではやや多めだろうと思う。
 この滝、トップロープならフリクションを期待してトライすれば登るのは可能だと思うが、今日もここは左側に引かれた巻き道を登る。
 直ぐに次の10m滝だ。二条に別れて水が流れ落ちている。こちらは前のよりは傾斜が緩く、中央を登る。砂の固まったような岩でしっかりしていると見えるが、手を掛けるとバカッと剥げるホールドもあり、一回そんな目に遭うと易しい見てくれなのだが、次からは慎重になる。
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小さな滝
 その滝を登り終えて、さて周囲を見渡すと暗い。
 決して狭い沢ではなく、上空も見えているのだが、先ほど夜が明けたと言わんばかりの薄暗さである。さっきまではこうではなかった。
 覚悟していたので沢の中に入ってから、ここまで少しも雨を気にはしていなかったが、この薄暗さとともに、遠くに飛行機が飛んでいるような音も気になる。それは雷鳴かも知れない。直ぐそこまで本格的な雨が迫っている。

スラブの10m滝 直登は少し難しいと思う
 そんな風に感じた。
 急がねば。沢の中で直接雷に打たれるなんてことは少ないだろうが、雷雨の雨が集まって狭い沢の中に出来る大水に遭うなんてまっぴらだ。

続く10mの滝(傾斜が緩く流れの右側は登れる)
 先ほどの滝を登ると直ぐに二俣となる。
 左の平坦な流れが本流であり、右側は3m+6m程の滝で本流に合流している。雨が気になっていることもあり、稜線が少しでも近いはずの右俣を進む。(ここに入るのは二回目もしくは三回目)6m滝は逆層なのでダイレクトには登れず、岩の左側を登る。
 沢は左に曲がり(本流と平行な方向だと思う)そこに簡単な滝がかかる。この滝、見覚えあるような無いような(この時点では過去に右俣に入った記憶が思い出せなかった)
 暫く間を開け、次は緩いカーブを描く一枚スラブの6m滝だ。傾斜はきつく、滝の部分は登れず左を巻く。このころ、ようやく何となく以前に同じように登ったことがあるような気がしてきた。
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右俣入り口の滝 周囲がグンと暗くなる。雨が本降りになる。
 ついに来た。
 パラパラと葉を打つ雨の音をさっきから感じてはいたが、そこからは葉っぱを突き刺してダイレクトに降ってきた。
 大雨にならないうちに沢の部分を終えてしまいたい。
 必然的に歩くスピードを上げようとするが、傾斜が徐々にきつくなり、思った程には速く歩くことは出来ない。速く行こう。
 だが、沢はガラガラ石から岩床に替わり、小滝が連続している中なので雨を気にするよりは、まず安全に登ることが先だった。
 小滝の終わりは3m程のスラブ滝である。そこからは雨が降っていなければガラガラの石の中を稜線に詰め上がる事になる。しかし、今はそこに水が染み出し流れが出来ている。6mの二条滝は砂岩の上に先ほどからの雨の水が加わって流れ、それによって砂粒のフリクションが更に良くなっtれ中目の粗さの砥石の上を登るような快適な登りだ。3mのスラブ滝は左から巻く。
 そして狭いルンゼ状の登りが始まる。何カ所かチムニー滝状の部分もあり、バック&フットで登る。フリクションが良いので傾斜を怖がらずにすみ、それに触っている岩がしっかり固定してさえいれば登るのは易しい。
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狭いチムニー登りもあるルンゼをたどる
 幸いに上半身はしっかり濡れたが、雨脚はそれ以上は強くならなかった。

 チムニー状を二箇所くらい登ると、沢の形状は笹藪の中に消え、密生(と言っても数m先まで見通せる程度の)する藪笹を手がかりにしてひと登りすると登山道にポカンと出た。(物見峠まで約500mの北の標高760m地点)
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雨・雨・雨 稜線まで距離100m
 本来なら、このまま登山道を突っ切って桶嵐沢を二分する中央尾根を桶嵐沢二俣に下降する予定だったが、大雨とは言えないが雨が降っていて、万が一の大雨になる前に下山した方が良いだろうと思った。
 そもそもユミコちゃんに「雨が本格的に降ったら直ぐに止めて帰ってくるから」と約束して家を出てきたのだ。
 物見峠側に百mくらい歩くと登山標識があり、それが見知った八丁経路の入り口である。直線上に寺家に下降するこの径路は踏み跡明瞭で、いつものように370mの小ピーク付近からは水の尻沢『平成の森』の東屋付近に下降する仕事道を降る。
 それから帰宅するまで雨脚は強くもならず弱くもならずの状態であった。

写真集です



自宅6:45〜千頭橋7:07神奈中バス〜煤ヶ谷7:30〜不動沢7:40〜不動の滝8:00〜二俣9:00〜稜線9:55〜八丁経路9:55〜水の尻沢ダム10:25〜煤ヶ谷10:35〜上舟沢11:10バス〜千頭橋で下車〜自宅11:45 2008/09/21 雨(霧雨〜本雨)
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