今日はちょっと忙しい。昼には出かけなくてはならないのだ。行き先がどこだって? そんなこと聞くなって。

それで普段は明るいときにしか乗らないパパチャリにLDライトを光らせて飯山街道を走らせる。昨日来の雨は上がり、半分の月の光が青く照らす山々では雲が空間に吸い込まれるように薄くなっていくのが分かる。風を冷たく感じるのは露に冷やされた夜が明けていないこともあるが、秋になった季節が次の季節の準備を始めているからだというのは風の言葉を聞かなくとも分かることだ。
そんな北風に押し返されペダルは重い。おまけにパパチャリの変速機はずいぶん前から壊れていて一番重たいギアに入ったままなので坂ではハンドルを引っ張り、腰を上げて全体重をこめて踏まないとペダルは回っていかないのだ。その間、腕はペダルを踏む力の反作用を受けて一回一回が腕立て伏せ状態になるのだが、自宅から煤ヶ谷までは一体何回くらい腕立て伏せを行う事になるのだろうか。久しぶりのパパチャリと言うこともあり、あさっては胸の周りの筋肉がピリピリ痛むんだろうな。筋肉を酷使することは控えなさいと言われていても、現実はそうは問屋が卸さないのだ。
出かけるときには真っ暗だったのが清川村に入ったあたりから徐々に明るくなり、八太郎川鱒釣り場からの坂を自転車を降りて押して歩く頃にはすっかり朝になっていた。予想より15分程度遅く、車で来た人とほぼ同時に林道終点に着く。今日は先々週に引き続きである。目的は不動尻の沢の本流、白滝を見に行くことになる。
白滝を見るのなら、それに対峙する黒滝って言うのがあるだろう。これがそれに当たるだろうと言うのが、歩き出して十数分の場所で橋を右岸に渡った位置にある小沢を200mほど奥まった場所の滝である。高度差は最初にこの滝を見たときには二十数mと思えたのが、何回か見に行く度に低くなり、最近では十五mくらいかなと考えているが、測距離紐を垂らして実際に計ったことはないので正確なところは分からないが、麓に近く、登山道から5分の近場にあることから考えても、固有名詞があって当然の滝だと思う。岩は黒々として周辺まで広がって鬱蒼としているので、これを仮称(今日のところは)黒滝としておこう。
そいつを見る。まだ朝の光が差し込まず、暗黒の黒い岩肌を這いずり流れ落ちる水の様は漆黒のおろちがのたうち回るようでもあり、滝の名は黒蛇滝としても今の時間なら許されるだろう。
登山道に戻り、不動尻から不動の沢に入る。
不動の滝を見学したら、上流に急ぐ。
出会いのナメ滝の中間点(下から見えるよりはナメ滝は長い)
左俣との分岐にかかるナメ滝は流れの左側から緩やかに登り、途中で流れ右に移って上を目指す。フリクションは良いのだが、ホールドは冷たく、水の中に手を入れると手が悴んで来そうでゆっくりと登ってはいられない。下からは十m程に見えるそのナメ滝は途中に小段を入れて実際の所は高度差十数m、登高距離は二十mという程度だろうか。
滝上のナメを通過すると小滝状に石が重なる。それを右に避けて小尾根を登ると7m程の滝が眼下に見える。7m滝直下から左手に派生した小窪がルンゼ状の滝となって、それは、今歩いている尾根の上方と一体になるザレ露岩帯につながる。その露岩帯の所々から水が噴き出したのがルンゼ状の滝となって落ちているのだ。
7m直瀑 この上が白滝になる
7m滝の上に別の大きな滝が重なる。あれが白滝らしい。だが7m滝の落ち口に朝日が当たり始めているではないか。あちゃ〜10分遅れた。これでは白滝は陰陽差のない凡庸な写真しかとれないではないか。遅い自転車、それに途中の道草を15分喰ったのがここでしっぺ返しを喰うのだ。
小尾根をそのまま登っても露岩帯に阻まれて登れない。下の小滝状の滑り降り、7m滝左の小窪を5m程登ってから右の7m滝の落ち口にでる。
さて白滝である。
一枚の広い岩肌を左手上の落ち口から大きな ノ の字をゆったりとしたカーブで描いて水が舐めるように流れ落ちる。確かに岩の上を流れ落ちる水が、見方によっては白い龍が駆け上るようにも思える立派な滝である。日が燦々と当たる中だからこそ白い流れを強調しているのだから、あながち日が当たって良い写真が撮れないと言ってぼやく必要はないのかも知れない。
右手の岩場の間に伸びる砂地を灌木と根っこを頼りに上を目指して登る。灌木や根っ子に腐っているのが混じっているから気が抜けない。落ち口より幾分か高く登ったら滝方向に踏み跡を追って歩き、5m程下って沢床に戻ることになる。
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白滝(日が当たりコントラストがなく見にくいかも)
その戻った地点は湧き水噴出帯に囲まれている。小さく浸み出すポイントは除いても、噴流口は少なくとも9個はある。噴流口に囲まれた洗車場水とも、その一個一個がまるでビルに備え付けられている消火栓の接続口のかたまりのようにも思える。その中の一つに口を付けて飲む。少し川を下った八太郎川の沢水は魚臭がするが、ここではそんな匂いは微塵も感じない何もなく冷たくてすっきりとした水である。ここに名水汲み上げ施設を作ったらたくさんの人が集まるだろうか。
しかし、大量の水を吐く湧水帯があるということは、ここから上流には水が無いことを意味する。その推測通りに左の湧水帯を巻き込むと全くの水無しとなり、7m程の凹状滝である。傾斜も緩く左右の岩を使えば簡単に登れる。
そして、短くゴーロを挟むと青苔に覆われた一枚岩が連続して棚状になっている地点にさしかかる。最初の3mはフリクションで易しく登る。次の6mは逆層であることから登ろうか登れまいかの端境のような傾斜である。下にはとんがった石はなく滑り台のランデングバーン状態だから滑ってもたいしたことはない。そこは前回は登ったと思うが、今では無理だ。ギリギリのフリクションや指先一本だけで全体重を支えきるなんてことは、とうの昔の事になっている。左岸の岩の間のバンドに入り下流方向に10m程進んでから根っ子頼りに上に登る。続く3mは易しい。
ここから先はゴーロになる。上に稜線が見え始める頃にあるには4mのスラブ滝だ。左上に上がるランペが付いた簡単な滝である。
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水は無くなり 苔の這えるスラブ岩を登る(少々きつい滑り台だ)
やがて、沢の中にジュースの空き缶が目立つようになる。最初はチラ ホラ だったのがアッチにもこっちにも、ラーメンの空袋も混じり始め、コンビニ袋に入ったガスボンベにビールの缶も数え切れない程と増えてくる。そんな状況からは上に休憩所があることが容易に推測される。多くの人が自然を大切にとか言っているけど、それは人の目がある所の話しであり、他人の目がないとは平気のへいざな人が多いアカシであり、多くの登山者が歩く稜線下は公共のゴミ捨て場とでも言うことだろう。
傾斜がきつくなるころ、右手の斜面に入って一登りすると予測どおりに唐沢峠の東屋にぴったしの位置で登り着く。そしてデジカメ電源もここまでで切れる。なぜか持ちが悪い。
唐沢峠からは稜線伝いに三峰山に行く。登山道は無いことになっているが、歩く人が増えたのか、殆ど登山道と遜色ない踏み跡が緩やかなアップダウンの藪の少ない山稜に続いている。(反対側から来た場合、一箇所だけ注意が必要である。その地点には古いが封鎖のロープが張ってあるがそれを見逃して尾根伝いに行ってしまうと唐沢川に降りてしまう箇所がある。ロープ地点からは30°左側に進むのが本来のコース 唐沢峠から三峰へ進む場合は間違うような場所はない)
山頂から降りてきた紅葉は1000m以上は既に枯れ葉になって終わり、ちょうど今歩いている800m〜600m程度が盛りといった状態である。でも、今年は寒さがまばらに緩やかだったので、それでなくとも赤・黄色が同時に色づくなんてことの少ない丹沢の木々は、今回はますますてんでんバラバラの状態となって色づき、早いのはとっくに枯れ葉に切り替わり、遅いのはこれから色づくのもあり、一山一斉の美は期待してはダメである。それでも、暖かくなった緩やかな山稜を足元を気にすることなく歩く気分は良い。
三峯山頂までもう一息の地点で、以前に女郎小屋の頭あたりで出会い、帰りに「車に乗って生きませんか」と声をかけていただいた川崎の人にまたまた会う。早朝、林道終点にほぼ同時に車で着いたのだという。「これはこれは挨拶もせず、無礼で申し訳ない」 彼はこれから大山〜北尾根下降だという。
日の当たる山頂から300m戻り、P777mへの尾根にするかどうか躊躇してから大小屋の沢右岸尾根(境界尾根と称するらしい)に入る。境界尾根の所以は境界を標示する神奈川県と記載された石の杭が終着を稜線のNo33として、下るに従って32→31、30と刻まれていることによるのだろう。石標No27(鹿柵あり)の小ピークでは、大小屋沢出会いに下るのが右だったか左だったか思い出せず、どっちも下ったことあることから「どっちでもイイヤ」と鹿柵を左に見て下る。
これは失敗だった。本来は鹿柵を右手に見て下れば大小屋沢出会い(八太郎川林道終点の駐車場付近)に着くのが本来の経路である。境界杭もそっちに下っていくのである。分岐で右を選んで進んでずいぶんと行ってから「こっちは下が面倒だ」って気がついたんだ。だけど、一回振ったサイコロのめはオメオメと変えられない。戻って振り直してもいい目がでるなんて神でもなければ誰が言えるんだ。行くしかないのだ。
間違ってそれを外したこともあり、下部は尾根が踏み跡が不鮮明になり、急な露岩帯をトラバースして小尾根に戻るなどして、不動尻に近いところで不動尻〜煤ヶ谷の登山道に降り立つ。予定より10分ほど時間がかかったことになるが、戻るよりはずっと早いのは分かっていること。こっちのルートはこれはこれでも仕事道なんだ。
自宅5:20〜八太郎川林道〜駐車場(自転車デポ)6:20〜黒龍滝見学6:30_40〜不動尻6:55〜不動の沢(本流)〜二俣7:20〜白龍滝7:45_8:00〜湧泉水帯8:10〜唐沢峠東屋8:45〜川崎の○○さんと出会う〜三峰9:20頃〜大小屋沢右岸尾根(境界尾根)〜八太郎川(不動尻h付近)10:00頃〜駐車場10:20〜緑小学校10:30〜自宅11:00 2006/11/12 風がフッと冷たく空は青に澄む秋の一日
白滝の紹介(既報ですが改めて)
厚木市の広報から
[厚木市平成15年6月15日第921号]のトップに全面で以下のような文(あらまし)と写真(著作権の関係から割愛します)が掲載されている。場所は無用な人が立ち入るのを恐れたのか記述されていない。
大事にしていきたい自然
幻の滝「白滝」
七沢の初夏の風を感じながら山深く分け入り、道無き斜面を進むと緑に抱かれた美しい滝が目前に迫る。
地元では「白滝」として知られ、場所がわかりずらいことから別名「幻の滝」と呼ばれる。大山の中腹に位置し、その流れは清川村の八太郎川に注ぐ。滝の高さは二十bほどだが、その姿は神秘的である。
白滝への道のりは険しく、先導無しでは訪れることはできない。この日も、写真だけでも紹介したいと、地元の能条勲さんにお願いして案内してもらった。
「この自然を貴重な財産として守り続けたい。また迷ってしまう危険もあるため不用意に山に踏み入らないでほしい」と能条さん。
人の浸入を拒むかのように七沢の奥地にある幻の滝は、幾重にも絹を引くように水を落とし、間断なく岩をたたく。
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