不動尻の沢X(丹沢三峰)

 椎の木の葉が風にあおられて裏返る。最初の一枚があおられて間髪を入れずに枝から木全体の葉っぱがうねる。谷の頂点にあった一本の木に当たった風は隣の木に伝播し次から次へとリレーを繰り返しあっと云う間に沢の中腹までの大きな波になりさっと消える。そして今度は隣との沢の小尾根を起点として山腹を風の波が横断していく。梅雨も直前のこの時期は青葉の爽やかさが最高潮に達し、茨の木々も棘も軟らかく不明瞭な踏み跡緑を分け入ってもそこそこ歩けるから山を歩く事の楽しさを倍増させてくれるし、何より日々変化する様に見える植生が大地が生きている事を実感させるから好きだ。


 ここのところ、業績好調の日産カルロス・ゴーン最高経営責任者の向こうを張ってセブンイレブン勤務が続いているから土曜日の朝早く起きるのは本当はちょっと苦痛だ。しかし、セブンイレブンをやっているからこそ土曜日に自由時間が確保できるのだし、折角の一日は長く使わなくってはもったいない。でもアプローチでは仕事の段取りの事ばっかり考えている。何しろ平日は朝から夜中まで会議ばっかりやっていてその中身も会して議せずの懐疑が大半だから実際の業務に取り組める時間はわずかだ。だから夜半や土日はその遅れを取り戻す方法を無い頭で考えると格好な時間なのだ。でも今度の業務は先が長いから、残業が社内に公表出来ない程に突出しようが臨戦態勢はまだ何としても避けよう。そんなこんなでアプローチではまともに目が開かなくって、瞼を思い切りつむってパッと見開く事を何回も何回も繰り返しながら居眠り自転車漕ぎを防止する。広沢寺の駐車場からの歩行の長さも目をこすりこすりあっと云う間に時間が過ぎてしまう。
 不動尻キャンプ場から山腹の道で最初に青大将が日向で体温を暖め終わったところに歓迎してくれた。丁度お腹をすかしているところなのかヤケに攻撃的になって猿を威嚇し、道を渡らせてくれない。次に迎えてくれたのは丸々の灰色のまだ小さいカモシカだ。その子は驚いて下の沢に飛び降りて上流に向かって行ったから、結局F1の滝壺の所で合流してしまい逃げ場を失い、やむを得ずからか突進してきて危うく行きすぎていった。
 
 F1からナメ滝前の分岐まで行き、前回の右俣に別れて左俣に入る。
低灌木帯のゴーロを行くと1:3に沢が分岐する。右が本流なのは明白でそこには7m程60〜70゜の滝がある。それでも左の沢もなかなか魅惑的に思えたのでまずは左のゴーロに行ってみる。
ゴーロは暫く続くが左に小沢を分けるところで右に曲がって6m50゜程のなめ滝になる。ナメ滝は一見簡単そうに思えたが途中まで登ってみると流れの中に踏み込まないと登れ無いことが分かった。まだ濡れる気にもなれず下に下り左から捲いて落ち口に付く。その上は右岸から水がφ100程の口径2カ所から吐き出されているゴルジュで水たまりになっている。せっかく水に濡れないように捲いてきたのだからとゴルジュは左岸の泥付着壁を若い草の根子を掴んで水たまりにずり落ちないように通過するのだがその上はもう水は無い涸沢になって十数m、その上に更に2段ほどの涸滝を積み重ねて尾根に付き上げていくように見える。
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 先程の水たまりに流木を積み重ねそれを伝って今度はトラバースをせずに下降する。

 本流に戻り、7mの滝を左から入り、水際の岩がヌメルので足は慎重にホールドを捜すが大きなホールドを掴みガバッガバッと登る。右側から入るともう少し立っているしホールドも小さいから少しだけ難しくでも楽しい登りだろう。流れが左に向いて5m二つ割りの凹状滝となる。左側壁から脆い岩をヘツリ、凹状に達したら水中に一歩足を置いてから右側壁に足を渡して水中のホールドを探って登る。まだ水がすこし冷たい。ナメの簡単な5m滝を経てやがて半円形の数カ所の露岩から水が吐き出されそれぞれ小さな滝になっている水の広場になる。その吐き出し方に勢いがあり源がどうなっているのかをチェックせずにはおられずガレを登って際左端の吐出口から一個々々を見て徐々に右の本流沿いに渡って行く。その肝心の本流の落ち口を右目に見渡すのだが傾斜がきつすぎてトラバースできず、『まあいいや』と急な灌木を上に見える露岩の下まで攀じり行ってそれから右に灌木を掴んで横断し沢床に戻る。沢に戻るとさっき見上げた物とは違う滝の落ち口になっていて上から覗くが急で下方の先に先程のナメ滝の辺りはわかるがこの滝がどうなっているのかは不明である。急だからとても下れそうもなくロープが有れば躊躇なく出して懸垂下降をしたいところである。この滝がどうなっているのかを確認するためと先程のナメ滝を登らなかったこともあり、再び先程の巻き道を更に露岩の先にある小尾根まで緊張する横断してナメ滝の下まで戻る。
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 ナメ滝下部は流れの右側から10m程簡単に登り、上部は少し傾斜がきついのとナメの中の小さなホールドが剥離するので緊張して登る。いくらナメとはいえ落ちたら大怪我をするなあとやっとこのナメ滝を越すと上部はすごく暗く狭いゴルジュ状に2段15mが引き続く。左右はスラブになっていて逃げる事は出来ないし、下降するにも覚悟が必要だ。中段の部分からは先程のガレよりもっと細くもっと勢いよく水がはじき出ている。幸い荒いツブツブの岩はフリクションは利くし、外傾しているがホールドもある。またゴルジュ状だからフェースのような高度感もない。右から下部5mを登り、よじれた滝の途中で噴流口の水で喉を潤し、フリクションを利かせて最後の5mを快適に登ると水は無くなる。
 久しぶりに何も考える事無く、ただ目の前にある登りをどうするかだけに没頭している空白の時間だった。

 続く小滝を簡単に越すと暫くはゴーロの登りとなる。次のスラブ滝ではホールドが少なく1.5m程は朽ち木を滝に立てかけて踏み台にして登る。次もホールドが剥がれて緊張する登りとなる。続けて右上する凹状の岩溝がある15m滝である。この凹状はかなり立っていておまけに下部の取り付きはホールドはなくて難しい。下部3m登っても上のホールドは丸みを持っていてまた傾斜もきついので確保無しでは易しくはない。調子に乗って取り付いてしまうがノンビレーなのだから本当はまいて登る滝だ。

 そしてまたゴーロが続く。左の小尾根はそぐそこにあり、もうそちらに移っても尾根歩きをしても良いのだろうがいつもの癖で行けるところまでは沢の中に行く。急なゴーロを振り向くと鐘ヶ岳が沢に覆い被さる梢の正面に見える。稜線が見える下で小滝を二つほど越し、詰めにあるチムニー滝をバック&ニー、体のフリクションで越すと小尾根の稜線になっていてそこから30mも行かないうちに鎖のはってある登山道の通行人に出くわす。短いが登ったりくだったり、一寸滑ったり転けたりしてなかなか登りがいのある沢でした。
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 大山方向に歩き神奈川県の水源保護林の有る看板まで行って(境界杭No53)から再び戻り、左手に鎖のあるザレを通過して先程の所へ戻りきる少し手前の小ピークから広沢寺に下る尾根道に入る。(入り口の反対側の大木に鉈目で大きく切れ目が入っているが標識は無い。でもちゃんと見ていると良い道があることはっきり分かる。この道は途中不動尻のキャンプ場にも鐘が岳にもつながっているらしいが旧来は広沢寺に下る道である)あまり歩かれていないらしいこの道は堅い路面は露出しておらず歩きやすい。途中、東屋があり不動尻 ”巨木の森”に行く道が分かれ、そこから数十m先に鐘が岳への案内標識がある。その右手にある鹿柵をくぐる踏み跡には何の案内もないが直感的にそれが広沢寺に降りる道で有ることが分かる。少し頼りなかった道は沢沿いに下るとちゃんとした登山道になり、沢沿いの平坦な道を広沢寺に出ることになる。この沢沿いの道はこの下に厚木市教育委員会がキャンプ場を設けてからキャンプ場に入る人以外を意識的に排除しようと整備を怠っているように思うのはマシラの考え過ぎか。ちょっと前(5年ほど前)、キャンプ場の奥で遊んでいたら管理人につきまとわれ追い出された嫌な思い出がある。公権力が管理できるところにだけに金を掛けるのは世の常道だろうが厚木市は自然への情操教育には熱心だと聞くが愛川町が管理している登山道に比べると山道の整備に十分手を下しているとはとうてい思えないな。山を下った水辺の広場(キャンプ場の奥1km程の所)と称する平坦地の奥に20m程の立派な滝が一つと小滝がある。登山道からはこの部分への入り口のナメが見えるだけで滝を見るためにはすこし薮をかき分けるか山裾の登山道から林間を下る必要がある。

広沢寺弁天岩で数えたら今日38人がそれぞれクライミングを行っていた。でもクライミングを考えると今日の人々のありかたには強い違和感が感じられた。遊びに成ってしまっていてクライミングの持つ創造性はどこに行ってしまったのだろう。詳細は別項

自宅6:55〜広沢寺駐車場7:25〜不動尻キャンプ場入り口8:05〜不動尻の沢X入り口8:15〜不動尻の沢_行ったり来たり〜稜線10:55〜下山開始11:08〜キャンプ場12:05〜駐車場12:45〜自宅13:10 2001/06/02 晴れ晴れとした晴(最近行き詰まっているグチマシラ)


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