「小児科」

ストーリーダイジェスト

 

 

 

■主な登場人物

篠原美乃里(28)
桜台総合病院小児科医師。
病気(悪性リンパ腫)を抱えながらも医師を続けている。

○中村修一(38)
美乃里の上司。小児科医長。
美乃里の元主治医でもある。

 

 

■目 次

 

「小児科」あらすじ

ストーリーダイジェスト

 

1話・小児科閉鎖

2話・再発・離別

3話・告知・ターミナルケア

番外編1・今を生きる

5話・ハイリスク妊娠、そして死

6話・障害とともに生きる

7話・小児がんとの闘い

番外編2・プライド

 

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各話ダイジェスト

 

 

 1話・小児科閉鎖

 

 

中村「経営の問題ばかりじゃない。我々小児科医の激務の実態だって、君はイヤと言うほど思い知らされているだろう。年々小児科の医師は減り、仕事は益々激務になり、24時間どころか50時間60時間のぶっ続け勤務の中で、一体どうターミナルケアを施せって言うんだ。精神的にも肉体的にも限界に来ている小児科医は、ただひたすら、医療過誤を引き起こさないよう身を守ることすら難しいんだよ。目の前にいる患児や、低次元な親たちをさばいていくことだけで、それだけで精一杯なんだよ」

美乃里「確かに私たちの仕事は激務です。割に合わずやりきれない事ばかりです。でも! 子供たちには何の罪もないじゃないですか! 私たち小児科医は、一体何のために存在しているんですか? 小児科を存続させるために病気の子供達がないがしろにされるなんて、そんなことは本末転倒です! 私たち小児科医がこの状況を打開していかない限り、誰が小児医療を変えていくんですか!」

中村「だからそれが理想論だって言ってるんだ!」

美乃里「・・・・・・」

中村「それが出来れば苦労はしない。それが出来ないから、過労死や自殺にまで追い詰められる小児科医が後を絶たないんじゃないか・・・」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村「どうしてそんな所に飛ばされるのか、自分でも良く分かるだろう・・・。今のやり方を変えない限り、どの病院も、お前を受け入れてはくれない」

美乃里「・・・・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「お前は・・・、医者には向いていない・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「これがいい機会だ。さっさと医者を辞めて、違う仕事でも探すんだな」

美乃里「・・・・・・」

中村、立ち上がり、医師室を出て行く。

美乃里、思いつめた顔。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村「血液検査、してないそうだな」

美乃里「・・・・・・」

中村「腕出せ。採血するから」

中村、用意してきた採血セットを準備する。

美乃里「大丈夫です。ただの貧血ですから」

中村「何かあってからじゃ遅いだろう」

美乃里「自分のことは自分で管理します」

中村、準備が整い、

中村「腕出せ」

美乃里「大丈夫です」

中村「出せって言ってるだろう」

中村、美乃里の左腕を強引に掴む。

美乃里「(中村の手を払い)私のことは放って置いてください!」

中村「放って置けないから言ってるんだろう!!」

美乃里「・・・・・・」

中村「二年前の再発の時だって、何であんなにひどくなるまで無理をしていたんだ! 自分の命をすり減らしてまで、こんな仕事を続けることはないだろう!」

美乃里「・・・・・・」

中村「お前の体は普通じゃないんだ。もっと自分の体を大事にしろ!」

美乃里「・・・・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「・・・お前のリンパ腫が、完全に完治するまで、それまで俺は、お前の担当医だ・・・」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

祥子の母「美乃里先生のような、病院経営の足を引っ張る医者は、病気を持った医者は、病院からはじき出されてしまうんですか・・・。病院って、そういうものなんですか・・・」

中村「・・・・・・」

祥子の母「美乃里先生は、いつだって子供たちのために、誠心誠意尽くして下さって・・・。子供たちも、闘病を体験してきた美乃里先生だからこそ、心の痛みを分かってくれる美乃里先生だからこそ、心を開き、心を預けてきたんです。美乃里先生が側にいてくれるから、だから今日まで頑張ってこられたんです・・・」

中村「・・・・・・」

祥子の母「美乃里先生のようなお医者さんこそ、小児科の現場に必要な存在ではないんですか・・・」 

中村「・・・・・・」

  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

美乃里「先生は、今週いっぱいでお医者さんを辞めてしまうけど、先生はね、病気をしたことは絶対に無駄じゃなかったってそう信じてる。だからみんなも、病気に負けないで、この病気を無駄にしないで生きていって欲しい。きっとみんなも、病気をしたことに意味がある。だから病気に負けないで頑張って欲しいの」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

1話・小児科閉鎖

 

 

2話・再発・別離

 

 

速水「俺、篠原先生に惚れました」

中村「(驚く)・・・」

美乃里「アハハハ、そうでしょそうでしょ()

速水「いや、冗談じゃなくて、本気です」

美乃里「・・・・・・」

中村「・・・・・・」

速水「これからも、時々私と会って頂けませんか。いえ、毎日でもあなたにお会いしたい」

美乃里「アハハハ、真顔でそんなこと言ったら本気にしちゃいますよ」

速水「冗談なんかじゃありません!」

中村「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

速水「女性に対してこんな思いを抱いたのも、こうして自分の思いを伝えているのも、篠原先生が始めてです」

美乃里「・・・・・・」

速水「できることなら、篠原先生と結婚を前提にお付き合いをさせて頂きたい。私は本気です」

美乃里「・・・・・・」

中村「いい加減にしろよ・・・」

速水「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「口説くなら、シラフの時に口説いてやれ」

速水「・・・・・・」

中村「その気がないなら、こいつには手を出すな」

速水「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村「速水のことが、気に入ったのか・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「そりゃそうだよな・・・。あいつはいい男だし、俺より若いし、大病院の跡取り息子だもんな・・・。俺みたいな、しがない勤務医とは大違いだ・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「お前がいいと思うんだったら、速水と付き合えよ・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「決めちゃえ決めちゃえ・・・。結婚しろ結婚。速水と結婚しろ・・・」

美乃里「・・・・・・」

切ない顔の美乃里。

中村「良かったなー、願ってもない玉の輿に乗れて。これでお前も、将来安泰だ」

美乃里「・・・・・・」

中村「速水に感謝しろよ。お前みたいな女、本当だったら誰も嫁にもらってくれないんだ。お前みたいな病気持ちの女・・・」

美乃里「・・・・・・」

悲しい顔をする美乃里。

中村「この俺だってさ、ぶっちゃけた話、お前みたいな女と結婚する気にはならないんだから。だってそうだろう、いつ再発するか分からない女を嫁にもらったって、この先、足手まといになるのが目に見えてんだから・・・」

美乃里「・・・・・・」

美乃里、涙が零れ落ちる。

美乃里の涙に切ない顔の中村。

中村「俺はこの13年間、正直ウンザリしていたんだ・・・。ずっと、こうしてお前に付きまとわれて・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「お前の足に障害を残した責任上、ずっと側にいて支えてやるつもりだったけど、俺は正直言って荷が重かった・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「これで俺も、やっとお前から解放される・・・。これで俺も、病気持ちの女を嫁にもらわないで済んだ。ホント助かったよ・・・」

美乃里、泣いている。

切ない顔の中村。

中村「帰れよ・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「もう帰っていいよ・・・。明日速水に会うんだろう・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「あいつの所へ行きたいんだろう・・・。こんな俺の面倒を見ているよりも、速水と一緒にいたいんだろう」

美乃里「・・・・・・」

中村「さっさと帰れよ。速水の所にでも、どこにでも行けよ!」

美乃里「・・・・・・」

中村「出て行けよ! 出て行けって言ってんだよ!」

額のタオルを美乃里に投げつけ、

中村「出て行けよーッ!!」

美乃里、泣きながら立ちあがり、部屋を出ていってしまう。

中村、布団をかぶってしまう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

速水「中村先輩、本当は彼女のこと・・・」

中村「そんなこと、聞いてどうする・・・」

速水「正直に答えてください」

中村「・・・・・・」

速水「・・・・・・」

沈黙。

中村「好きだ・・・」

速水「(驚く)・・・」

中村「俺はあいつが好きだ。あいつのいない人生なんて、俺には考えられない。できることならずっとあいつの側にいたい」

速水「(驚いている)・・・」

中村「でもね・・・、俺には、あいつを幸せにしてやれる力がないんだよ・・・」

速水「幸せに、してやれる力がない・・・」

・・・()・・・

中村「そろそろ、解放してやらないといけないよな・・・。あいつの幸せを、第一に考えてやらないといけないよな・・・」

速水「・・・・・・」

中村「・・・・・・」

速水「・・・・・・」

中村「あいつのこと、よろしく頼むな・・・」

速水「・・・・・・」

中村「あいつはいい奴だぞ・・・。あんないい女、どこ探したって見つからないぞ・・・」

速水「ええ」

中村「あ、そうだ。あいつな、季節の変わり目に風邪を引き易いんだよ。昔喘息やったことがあるから、こじらせないようにみていてやってくれよな・・・。それとあいつ、薬をよく飲み忘れるから、うるさいようでも毎日ちゃんと確認してやってくれよ。それと、あいつな・・・」

中村、目が潤み、絶句してしまう。

速水「先輩・・・」

涙を必死で堪えている中村。

中村「あいつのこと・・・、大切にしてやってくれ・・・。頼む・・・」

中村、頭を下げる。

速水「分かりました。私が彼女を幸せにします。約束します」

中村、顔を上げ、微笑み頷く。

 

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看護師A「美乃里先生、ウェディングドレス着ないの?」

美乃里「・・・・・・」

速水「それが・・・着たくないって言うんです。ウェディングドレス」

看護師B「着たくないって、どうして?」

美乃里「・・・・・・」

思いつめた顔の美乃里。

美乃里を見ている中村。

美乃里の声「ねえねえ見て見て! このドレス、すごく素敵・・・」

(O・L)

(回想) 街 

ショーウインドウ内に、純白のウェディングドレスを着ているマネキン人形。

ドレスを見ている美乃里。その隣に中村の姿。

美乃里「いいなぁー、純白のウェディングドレス。私もこんなドレス着て結婚式挙げたいなぁー」

中村「そりゃ相手がいればの話だろう?」

美乃里「()いじわる」

二人、見合い笑う。

中村「純白のウェディングドレスかー。お前、似合うだろうな」

美乃里「えっ、なんか言った?」

中村「ううん。なんでもない」

美乃里「(ニンマリして)私、決めた。結婚式は純白のウェディングドレスにする。純白のウェディングドレスを着て、多くの人に祝福してもらうの!」

中村「(フッと笑う)・・・」

美乃里「なんで笑うのよ」

中村「別にぃー」

2人、見合い笑う。

(O・L)

元のイタリアンレストラン

美乃里を見ている中村。

美乃里、思いつめた顔をしている。

看護師A「見たかったのになー。美乃里先生のウェディングドレス姿・・・」

看護師B「なんだ残念・・・」

美乃里「・・・・・・」

思いつめた顔の美乃里。

美乃里を見ている中村。

 

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シャーカステンの前でX線フイルムを見ている飯島医師(38)

ノックの音、中村が入ってくる。

中村「どうした?」

飯島「悪いな、忙しいところ。ちょっと、このフイルムを見てくれないか」

中村、フイルムを見る。

中村「うーん、縦隔に影があるね・・・」

飯島「(検査データを渡し) これが血液データだ・・・」

中村「ずいぶん白血球が多いな・・・」

飯島「この白血球の分画結果なんだけど、異形リンパ球が70%以上を占めてるんだ」

中村「これ、誰の・・・?」

飯島「・・・篠原、美乃里・・・」

中村「(愕然)嘘だろう・・・」

 

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中村「篠原」

美乃里「はい」

中村「入院だ」

美乃里「救急外来の患児ですか?」

中村「違う。お前だ」

美乃里「・・・・・・」

中村「再発・・・してる・・・。それも、白血病化している・・・」

美乃里「そうですか・・・」

中村「そうですかって、お前、気付いていたのか!」

美乃里「・・・(気まずい顔)

中村「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ! どうして!」

美乃里「・・・・・・」

中村「とにかく今すぐ入院だ。この病院に入院するならベッドは確保してある。鹿児島の病院に入院するなら、今すぐ速水に連絡しないと」

美乃里「私は、入院しません」

中村「えっ」

美乃里「どうせ入院しても助からないんです。私はこのまま命ある限り、仕事を続けます」

中村「ちょっと待てよ。そんな体で仕事を続けられる訳がないだろう! それに、おまえの命が助からないと決まった訳じゃないんだ! 二年前の再発の時だって、寛解導入まで持ち込めたんだ! 今回だって!」

美乃里「今回はもう無理です。私は血液を専門に学んできました。自分の身体のことは、自分が一番良く分かってます」

中村「・・・・・・」

美乃里「私は患者さんを救うために医者になりました。私は命ある限り、医師として働きたいんです」

中村「お前、もうすぐ結婚するんだろう! 幸せになるんだろう! それなのに、お前の人生これで終わりにしてもいいのかよ! これで終わりにしてもいいのかよ!」

美乃里「私がどうなろうと、中村先生には関係ないでしょう!」

中村「関係ない訳がないだろう!! 俺がどんな思いでお前を諦めたと思ってるんだ!!」

美乃里「(驚く)・・・」

 

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同・小児病棟廊下(夕方)

ナースステーションは全て片付けられ、閑散としている。

中村、夕日の差し込んだ小児病棟の廊下を、切なく歩いている。

中村、大部屋病室をのぞく。

ベッドも何もない。

中村、切ない顔。

(O・L)

(回想)

大部屋病室で子供たちが走り回っている。

美乃里、子供を一人捕まえて、その場で聴診をしようとする。

その美乃里に子供達が群がって、聴診どころではない。

大笑いしている美乃里。

×  ×

廊下で子供たちと笑い合っている美乃里。

×  ×

ナースステーションで大笑いしている美乃里。

(O・L)

(現在)元の廊下

切ない顔の中村。

目が潤み、上を向く。

必死に涙をこらえている中村。

 

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美乃里「中村先生・・・、私の体、いつまで持つかな・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「私・・・、中村先生に看取られて死にたい・・・。先生が秋田に帰る前に死んでしまいたい・・・」

中村「なに馬鹿なこと言ってるんだ!」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

穏やかな顔で目を閉じる美乃里。

中村「退院したら、結婚しよう・・・」

嬉しそうに微笑む美乃里。

中村「お前にウェディングドレス買ってやる。純白の、ウェディングドレスだ」

涙がこぼれ落ちる美乃里。

中村「早く病気を治して、その姿を俺に見せてくれ・・・。早く病気を治して、俺たち、結婚しよう」

中村、美乃里の小指を取り、小指を絡める。

中村「約束だ。約束」

美乃里「・・・(微笑)」

強く結ばれている小指と小指・・・。

それも束の間、スーッと美乃里の指がほどけ、腕がベッドに落ちる。

中村「美乃里ちゃん?」

モニターの数値が低下する。

中村「美乃里? ・・・美乃里!!」

モニター数値が一気に落ち、『ピー』とアラーム音が鳴り響く。

中村驚き、ベッドに飛び乗り心臓マッサージを始める。

中村「美乃里! 目を開けて! 目を開けてくれ! 一緒に秋田に帰るんだろう! ずっと俺の側にいるって言ったじゃないか! 純白のウェディングドレス、俺に見せてくれるんだろう! 行くな! 逝くなよ美乃里! 目を開けてくれよ美乃里!」

必死に心臓マッサージを続けている中村。

中村「目を開けてくれ!! 目を開けてくれよ!! 美乃里―!!」

 

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2話・再発・別離

 

 

3話・告知・ターミナルケア

 

 

中村「俺、気付いたんだ。俺が目指しているターミナルケアは、ホスピス病院や緩和病棟の中での守られたケアじゃない。俺は、ターミナルケアを求めていながらも、それを受けることができない患児の為に、力を尽くしていきたいんだ。今、この現状の中でも救いを求めている子供たちは大勢いる。ターミナルケアを施してもらえる患児はいい。そうしたケアを求めていながら辛い思いをしている子供たちが一般病院にはたくさんいるんだよ」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

千尋「ねえ先生」

美乃里「なに?」

千尋「私、死ぬの?」

美乃里「・・・・・・」

千尋「自棄になって聞いているんじゃないの。私、本当のことが知りたいの。先生だったら、私のこの気持ち、分かってくれるよね」

美乃里「うん」

千尋「だったら教えて。私は助からないの? 本当は助からないんでしょう」

美乃里「・・・・・・」

千尋「・・・・・・」

美乃里「千尋ちゃんの病状は、確かに厳しい状態ね」

千尋「末期ってこと・・・?」

美乃里「・・・(頷く)」

静江「美乃里!」

美乃里「昼間も話したけど、私の病気はね、千尋ちゃんの病気よりももっと悪性で、病気もかなり進んでいてね、あとわずかしか生きられないって言われていたの。でもね、私はこうして生きている・・・。二年前にも再発を起こして、今度こそダメだと言われながらも、私は今、こうして生きてるの」

千尋「・・・・・・」

美乃里「運命はね、変えられるのよ千尋ちゃん。どんな運命でも、自分で変えていけるものなのよ」

千尋「・・・・・・」

美乃里「千尋ちゃんが、絶対に病気に勝ちたいという思いがあるのなら、千尋ちゃんの病気は絶対に治る。でもね、少しでも諦めたら、その時は宿命に飲み込まれてしまうのよ」

千尋「・・・・・・」

美乃里「分かるわよね。負けたらダメよ。千尋ちゃんなら乗り越えていける。絶対に勝って乗り越えていけるから」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

晴香「私の目、やっぱり治らないんだね・・・」

美乃里「・・・・・・」

晴香「そうなんでしょ? 小児科医の、篠原美乃里先生・・・」

美乃里「(驚く)・・・」

晴香「美乃里さん、ここの病院の先生でしょう・・・」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村、美乃里をガバッと抱く。

美乃里「やだーッ、なにすんのよーッ」

中村「解禁だよ解禁」

美乃里「やだってばーッ」

足をバタバタする美乃里。

中村「あっ!」

美乃里「えっ?」

中村「もしかして美乃里、処女?」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

晴香の父「晴香、帰ろう。他の病院で診てもらおう。晴香の病気は必ず治る。権威ある先生に診てもらえば必ず治るから。なっ、晴香。帰ろう」

父親、立ち上がる。

中村「そんなことをして何になるんですか」

晴香の父「・・・・・・」

中村「晴香さんは、自分の病気に気付いています。すべて気付いて、まわりの嘘に苦しんでいるんです。それならば全てを話して、楽にしてあげるべきじゃないんですか」

晴香の父「・・・・・・」

中村「嘘をつき続けられることの方が、辛いことだってあるんですよ、お父さん」

晴香の父「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

晴香「美乃里さん・・・、私、もう、思い残すことは、何も無い・・・」

美乃里「・・・・・・」

晴香「注射、打って、ください・・・」

美乃里「・・・でも、これを打ったら、意識が戻らないかもしれないのよ・・・」

晴香「うん。分かってる・・・」

美乃里「・・・・・・」

美乃里、両親を見る。

両親、頷く。

中村も頷く。

美乃里「・・・うん。分かった・・・」

美乃里、鎮静剤注射を準備する。

注射器のピストンが引かれ、薬液が入っていく。

美乃里「晴香さん、打つわよ・・・」

晴香「うん・・・」

 

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3話・告知・ターミナルケア

 

 

番外編1・今を生きる

 

 

トメ「実はね、婚約してるんだよ。この二人」

驚く飯島。

気まずい顔の美乃里と中村。

美乃里「い、いやだなぁ、もうおばあちゃんたら何勘違いしてんのよ。中村先生は私の上司。そんな関係じゃないんだってば。もう勝手に想像しないでよ」

トメ「だってあんた達、一緒に暮らして」

中村「(トメに)どうも始めまして! 中村と言います。お加減いかがですか」

トメ「始めましてって、どうしちゃったんだい中村先生」

美乃里「あ、中村先生、もう帰らないと」

中村「そ、そうだな」

美乃里「んじゃ気を付けて」

中村「それじゃ失礼します」

中村、そそくさと帰っていく。

飯島、からかうような目で美乃里を見ている。

美乃里、飯島の目に気付き苦笑する。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村「過去にも自殺企図?」

飯島「そうなんだよ。ひとつき前に俺が救急外来で彼を診てね。睡眠薬だった。それで精神科の熊谷先生に紹介してさ、しばらく外来にまじめに通っているって話を聞いていたんだよ。自殺をしない約束も取り付けて回復に向かっているって・・・」

中村「自殺企図のある患者は、主治医と約束をすることによって自殺防止になると言うからね。・・・熊谷先生も驚かれているんだろうな・・・」

美乃里「佐藤さんの息子さん、大学受験に失敗したとかって聞きましたけど、もしかしてそれが原因かな・・・」

飯島「そのようだね。挫折を知らずに生きてきた青年の、初めての挫折ってやつなんだろうな・・・」

美乃里「初めての挫折か・・・」

中村、ハックションとくしゃみをする。

中村「あぁー湯冷めしたかな」

美乃里「ちゃんと髪を乾かさないからですよ」

中村「バ、バカ!」

美乃里、ハッと気まずい顔。

飯島、二人の様子にニヤニヤ笑っている。

気まずい顔の美乃里と中村。

飯島「ふーん、やっぱりそういうことか()

中村「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

飯島「最近いっつも一緒だと思ってたけど、案外お前ら、同棲してたりして」

中村・美乃里「・・・・・・」

二人絶句。

飯島、からかうような目で二人を見ている。

中村、腕時計を見、

中村「あ、帰ろ。もうこんな時間だ。バスの時間が無くなる」

美乃里「私も帰ろ」

二人、そそくさと医局を出ていく。

飯島、笑っている。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村「まだ聞いてなかったのか・・・。亡くなったそうだよ、彼・・・」

美乃里「えっ・・・」

中村「彼が飲んだ農薬、パラコートだっただろう・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「パラコートは、数日経ってから徐々に呼吸器がやられていく、厄介な農薬だからね・・・」

美乃里「肺線維症による、呼吸不全・・・」

中村「うん・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「そうですか・・・。私たちは結局、彼を助けられなかったんですね・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「彼はさ、自分の命を絶つことで、現実の苦悩から断ち切ろうとしたけれど、だけど苦悩というものは、命を絶つことで断ち切れるものではないような、そんな気がするんだよ・・・。例えばさ、彼がまた、もしもまた人間として生まれ変わってこられるとしても、彼はきっとまた、同じことで行き詰まり、同じ悩みを抱えて苦しむだろうと思うんだ・・・。俺達が睡眠から目覚めるのと同じ様に、その人の境涯は、まったく何も変わっていないんだと思うんだよ・・・。今、生きている、この現実の苦しみを乗り越えない限り、彼の苦しみは、永遠に繰り返される・・・。今の自分を変えない限り、彼は、少しも前には進めないんだと、俺はそう思う・・・」

美乃里「現実の苦しみを乗り越えない限り、苦しみは、永遠に繰り返される・・・」

中村「うん」

美乃里「何とかして、彼の意識を変えてあげたかったですね。彼も、せっかくこの世に生を受けたのに、今を生きる意味や素晴らしさを知らないまま、命を絶ってしまうなんて・・・」

中村「今を生きるということは、とても素晴らしいことでもあるけれど、とても難しいことでもあるんだよ。心のあり方次第で、人生がどのようにも変わっていってしまうんだからね・・・」

美乃里「心のあり方次第・・・」

中村「幸せを感じるのも自分、不幸せを感じるのも自分自身だからね・・・。美乃里はさ、今、幸せ?」

美乃里「ええ。とても幸せです」

中村「何を幸せに思ってる?」

美乃里「もちろん中村先生の側にいられて、医師として働けることが一番の幸せですけど、今まで苦労してきたことも幸せだったと思ってるし、病気や障害を抱えたことも幸せだったと思ってます」

中村「普通だったら不幸だと思うことを、美乃里は幸せだと感じ、そのことに意味があったと思っている」

美乃里「ええ」

中村「それが、心のあり方なんだよ。苦しみや悲しみを意味あることと捉えて、それを幸せに変換していけるかどうか・・・。それが、『今を生きる意味』につながっていくんじゃないのかな・・・」

美乃里「今を生きる意味か・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

トメ「あ、そういえば、もうひとつ生き甲斐があったわ」

飯島「何です?」

トメ「美乃里と中村先生の赤ちゃん」

美乃里「え」

トメ「近いうちに二人の子供も見られそうだしなぁ」

驚く飯島。

美乃里「い、いやだなぁおばあちゃん! だから中村先生は私の上司で」

トメ 「あっ!」

美乃里「え?」

トメ 「内緒だったな。そのこと」

美乃里「(絶句)・・・」

 

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番外編1・今を生きる

 

 

5話・ハイリスク妊娠、そして死

 

 

景子「どうして避妊しなかったの」

美乃里「・・・・・・」

景子「中村先生も中村先生よ。美乃里の状況を十分に分かりきっているはずなのに・・・」

美乃里「中村先生は何も知らないの。私が中村先生に嘘を付いて、安全日だって嘘を付いて避妊しなかったの・・・。これで妊娠することができたら、運命の子だって、そう信じたかったの・・・」

景子「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

景子「悪いことは言わない。赤ちゃんは諦めた方がいい・・・」

美乃里「・・・・・・」

景子「血液を専門に学んできた美乃里が一番良く分かっていることだろうと思うけど、美乃里の患っているリンパ腫は悪性度が高いものよ。しかもまだ完全寛解に至っていない。化学療法をストップすればその分再発するリスクが高くなる。それにあれだけ強い薬を使っているのよ。胎児だってちゃんと生まれてくるかどうかどうか分からない。出産だって無事に済むとは思えない」

美乃里「・・・・・・」

景子「とにかく、私は産むことには反対よ」

美乃里「・・・・・・」

景子「絶対に反対だから」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

美乃里「私、産んでもいいですか・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里起き上がり、中村を見つめ、

美乃里「私、赤ちゃん産みたいの。せっかく授かった赤ちゃんなんだもん。運命の赤ちゃんなのよ、きっと」

中村「美乃里、ちょっと待って」

美乃里「私、産みたいの。絶対に産みたいの!」

中村「美乃里、少し冷静になろう。ゆっくり話し合ってからでも、結論を出すのは遅くないだろう」

美乃里「・・・・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

沈黙。

中村「俺もね、ここに来るまでの間、いろいろと考えた。冷静になって考えてきた・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「やっぱり、墜ろしたほうがいい・・・。産むにはリスクが大きすぎる・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「美乃里の気持ちを考えたら、墜ろすことなんてとてもできないだろうと思う。俺だって、こんなことは言いたくない。愛する美乃里に授かった、大切な俺たちの赤ちゃんなんだからな・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「でもね美乃里、子供を産むとなれば、美乃里の身体のことも再発のことも心配だ。お腹の子どもだって、ちゃんと生まれてくるかどうか分からない」

美乃里「たとえお腹の赤ちゃんに障害が見付かったとしても、私は堕ろすことなんて絶対に出来ない。せっかく授かった命なのよ。意味があって、意味があって私の元に授かった命なのよ」

中村「・・・・・・」

美乃里「私はイヤ。堕ろすなんて絶対にイヤ!」

中村「子どもの問題ばかりじゃない。美乃里のリンパ腫は、まだ完全寛解に至ってないんだよ。それも悪性度の高いものだ。化学療法をストップすれば再発のリスクが高くなる。母子共に出産を乗り越えられる保障はない。それは美乃里が一番良く分かっていることだろう」

美乃里「私はどうなってもいいの。たとえ再発しようとも赤ちゃんさえ助かればそれでいい!」

中村「美乃里は、京子さんの死を無駄にするつもりか・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「美乃里が今、こうして生きている意味は何だ? 医師として患者さんを救う使命があるからだろう。美乃里はいつもそう言ってたじゃないか・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「美乃里には、まだまだやらなればならないことがたくさんある。美乃里を必要としている子供達のためにも、美乃里は生き続けなければならないんだよ・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

景子「切迫流産です。何とか妊娠を維持していますが、予断を許さない状態です」

中村「・・・・・・」

景子「それと・・・、気になることがあるんですが・・・」

中村「なんでしょう・・・」

景子「これ、美乃里の血液データなんですが・・・」

景子、検査用紙を中村に渡す。

中村、データを見て驚く。

景子「もしかして、これは・・・」

中村「・・・・・・」

景子「・・・・・・」

中村「・・・おそらく、再発の兆候だと思います・・・」

景子「(驚く)・・・」

中村「・・・・・・」

景子「このままだと、美乃里も赤ちゃんも・・・」

中村「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

美乃里「先生は、生まれ変わりって信じますか・・・」

中村「え・・・」

美乃里「私たちの赤ちゃん・・・、ここでさよならしても、また私たちのところに、生まれてきてくれるかな・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「ここでさよならしても・・・、また3人で会えるよね・・・。会えるよね?」

中村「美乃里・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「いいのか、美乃里はそれで・・・」

美乃里「・・・イヤ・・・やっぱりイヤ。イヤ!!」

中村「美乃里・・・」

美乃里、突然お腹を抱え苦しみ出す。

美乃里「ううっっっ・・・」

腹部を押さえ痛がる美乃里。

中村「美乃里!!」

景子が入って来る。

景子「中村先生は廊下でお待ちください」

中村、後ろ髪を引かれる思いで外へ出る。

 

同・廊下

廊下に出て来る中村。

頭を抱えてしまう。

 

同・処置室〜廊下

苦しんでいる美乃里。

美乃里「私の赤ちゃん・・・、私の赤ちゃん・・・」

苦しみながら涙を流している美乃里。

美乃里「赤ちゃん・・・、赤ちゃん・・・」

赤ちゃんの声「・・・ママ・・・もういいよ・・・。もういい・・・」

驚く美乃里。

赤ちゃんの声「もう、がんばらなくていいよ。ママ・・・」

驚いている美乃里。

×  ×

驚いている中村。

赤ちゃんの声「パパ・・・、ママ・・・」

中村「・・・・・・」

赤ちゃんの声「ボク、ここでさよならしても、またパパとママに会えるよね・・・。また会えるよね・・・」

驚いている中村。

赤ちゃんの声「ボク、また、パパとママのところに生まれて来てもいい? またパパとママのところに生まれて来たいの。ね、いいでしょう・・・?」

中村、涙がこぼれ落ちる。

中村「ああ、もちろんだよ・・・。また私たちのところに生まれて来ておくれ・・・。私は、おまえに会える日を楽しみに待っている・・・。楽しみに待っているから・・・」

赤ちゃんの声「ウン・・・」

中村「それまで・・・少しの間・・・さよならだ・・・」

中村、涙がこぼれ落ちる。

× ×

美乃里、涙がこぼれ落ちる。

腹部を抱え痛み苦しんでいる美乃里。

赤ちゃんの声「さよなら・・・パパ・・・ママ・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5話・ハイリスク妊娠、そして死

 

 

6話・障害とともに生きる

 

 

響子「あの子の命は、もうそう長くはないわ・・・。彼女のリンパ腫は予後の悪いものよ。しかもまだ完全寛解に至っていないんでしょう? 再発するのは時間の問題だわ。修一だってそれくらいのこと分かってるはずでしょう」

中村「・・・・・・」

響子「いつ死ぬか分からないあんな子と結婚したって、修一が不幸になるだけじゃない。自分の人生を犠牲にしてまで、どうしてあなたが彼女の面倒を見なくちゃならないのよ。それが医師としての使命とでも思ってるわけ?」

中村「・・・・・・」

響子「まったく修一は優しすぎるのよ。人が善すぎるの。だから彼女にいつまでも付きまとわれるのよ。ちょっと頭を冷やしなさいよ、修一」

中村「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

美乃里「これは精神論だけで乗り越えられる問題じゃないのよ。バリアフリー、ノーマライゼーションと世間が叫んでも、現実問題、結局はどこかで壁にぶち当たる。現に私が新しい勤務先を探そうにも、環境が整ってないからと、どこも難色を示しているじゃない」

中村「・・・・・・」

美乃里「私たち障害者がどんな頑張ったって、前向きに生きたって、世間がそれを受け入れてくれないこともあるの。諦めなければならないことだってあるのよ」

中村「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

礼子「小児科の仕事って、子供だけでなく親とも向き合わなくちゃならないじゃないですか。それが辛いって言うか。だって今時の親って、自己中心的っていうか、治療をしてても治って当たり前、容態が悪くなればすごい剣幕で捲し立てられ、亡くなった時には医療過誤ですよ。これじゃ純粋に小児科医になりたいと思っても、他科に移りたくもなりますよ」

中村「・・・・・・」

礼子「こんな親たちが多いから、小児医療が衰退するんですよね」

中村「・・・・・・」

礼子「しかし小児科は待遇が悪いですよね。過酷な勤務な割に給料安いし、睡眠時間もとれないし。こんな疲れた体で医療ミスを起こした日には、訴訟沙汰ですからね」

中村「・・・・・・」

礼子「自分の人生、小児科に振り回されるのも、ちょっと考えちゃいますよね」

中村「・・・・・・」

礼子「『自分の命を犠牲にしてまで小児科を守ります!』 なーんて篠原先生みたいな生き方、私にはできそうにもありませんから。っていうか、それって偽善?って感じですよね。だって自分の人生、自分の為に生きるのが当たり前じゃないですか」

中村「・・・・・・」

中村、じっと礼子を見ている。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

礼子「病人や障害者と付き合うのって、結構難しい問題なのよね。例えば、別れ話。その人と別れたくなったとしても、『別れましょう』なんて言いづらいしね。別れたら別れたで『病人を捨てた!障害者を捨てた!残酷だ!』とか言われちゃったりするのよね。それが恐くて別れられなくなっちゃったりして。結局一生面倒を見させられることになったりするのよね」

美乃里「・・・・・・」

礼子「まあ、そういう人には始めから関わらないことが一番よね。あとあと困るのは健常者なんだから」

思いつめた顔をしている美乃里。

中村、美乃里の後ろ姿を見ている。

・・・()・・・

礼子「私ね、中村先生に聞いてみたかったんですけど、中村先生って、結婚する気はないんですか」

中村「別にないわけじゃないよ」

礼子「こう言っちゃ失礼ですけど、中村先生もいい歳なんですから、早く自分のお子さんが欲しいとかって思うでしょ?」

中村「そりゃまぁ、思うには思うけど・・・」

美乃里「・・・・・・」

礼子「だったら私と結婚しましょうよ。私だったら今すぐ元気な赤ちゃん産みますよー」

中村「・・・・・・」

礼子「私の家系、病気や癌を患った人はいないし、私自身も健康で障害などありませんからね。私だったら立派で健康な赤ちゃん生んでみせます! 保証します!」

思いつめた顔の美乃里。

美乃里を気にしている中村。

中村「宮原君」

礼子「はい」

中村「篠原がさ、病気を抱えていることを知ってて、どうしてそういう話をするかな・・・」

礼子「・・・・・・」

中村「篠原に障害があることを知ってて、どうしてそういう話をするわけ?」

礼子「・・・・・・」

中村「篠原に、何か恨みでもあるのか」

礼子「・・・・・・」

中村「恨みでもあるのかって聞いてんだ!」

皆驚く。

美乃里「やめてください! 私なら気にしてませんから」

中村「おまえは黙ってろ」

礼子「大切な秘蔵っ子篠原を、泣かすようなことはするな…ですか? 中村先生は篠原先生がお気に入りですものね。いつも仲がおよろしくて」

中村「(ムッとする)」

美乃里「もうやめましょうよ。せっかく楽しく飲んでるんですよ。ホラ、飲み直しましょうよ。ネッ!」

礼子「なによ、いい子ぶっちゃって」

美乃里「・・・・・・」

礼子「そういういい子ぶってるあんたが一番頭にくんのよ。目障りなのよあんたが」

美乃里「・・・・・・」

礼子「動きは鈍いわ要領悪いわ、大した仕事もできないくせして、自分の病気や障害を売り物にして、患者の気持ちを引いちゃってさ、『私は障害を抱えなからも頑張ってます。障害を乗り越えて頑張ってます』なんて格好付けちゃって、本当のところはどうよ。ちょっとしたことで傷ついちゃって、今にも泣きそうな顔しちゃってさ、何が『私みたいに強く生きてください』よ。何が『病気や障害に感謝しています』よ。言ってることとやってることがまったく違うじゃない! 馬鹿じゃないの! 格好付けんじゃないわよ」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

美乃里「私は内科スタッフの足手まといになっているんじゃないかって、ずっと悩んでいたんですよ。もうこの1ヶ月間、何度涙を流したか」

看護師G「またまたぁ」

美乃里「ホントですよ。みんなと動くペースが違うし、私の存在が邪魔になっているんじゃないかって、ずっと落ち込んでたんですから」

石崎「そうか。だとしたら申し訳ない事したな。そう思わせてしまった我々の責任だ。すまなかった」

飯島「悪かったな、篠原」

看護師G「すみませんでした美乃里先生」

スタッフ「すみませんでした!」

美乃里「いいえ、悪いのは私の方です。私が勝手に壁を作っていただけだったんです。『自分は障害者だ病人だ』って。でももう大丈夫。私は、障害とともに、病気とともに、生きていく決心をしましたから()

中村、微笑んでいる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

6話・障害とともに生きる

 

 

7話・小児がんとの闘い

 

 

優太「ボク、白血病なんでしょ」

中村「・・・・・・」

優太「本当は、白血病っていう病気なんでしょ? ボク、聞いちゃったんだ。お父さんとお母さんが内緒で話をしているの。ボクの病気は、急性リンパ性白血病だって、そう言ってた・・・」

中村「・・・・・・」

優太「ボクね、本で調べたんだ。白血病っていう病気。そうしたら、白血病っていう病気は、昔は死んじゃう病気だったけど、今は頑張って治療すれば治る病気だって、そう書いてあった」

中村「・・・・・・」

優太「昔白血病になった人に比べたら、ボクは幸せなんだよね・・・。昔の人のことを考えたら、治療がイヤだなんて、わがまま言ったらいけないよね・・・」

中村「優太君・・・」

優太「中村先生、ボク、頑張るよ。頑張って良くなって、早く学校に行く。ボク、病気に負けないよ。絶対に負けないから」

中村「偉いぞ優太君! 先生も頑張って優太君の病気を治すから、一緒に頑張ろうナ!」

優太「ウン」

微笑む二人。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村「子供の病気というものは、特に白血病は、同じ症状の子供に同じ治療を行っても、それぞれ辿る経過が違うんです。回復傾向に向かっていた子供が、急に悪化することもありますし、もう治療も限界だと思っていた子供が、回復に向かうケースもあります」

美智子「・・・・・・」

中村「ですから、優太君がこれからどういう状態になっていくのか、実は我々にも、先が見えないというのが現状なんです」

美智子「・・・・・・」

中村「優太君の病気とは少し違うんですが、予後の良くない血液の病気に侵されて、ひとつきは持たないだろうと診断されていた少女が、十三年も延命し、現在も元気に過ごしているケースもあります」

美智子「十三年も・・・」

中村「ええ。その少女は、私が受け持っていた患児なんですが、彼女は、何度も何度も生死の境をさまよい、再発をも乗り越え、現在では社会で立派に活躍しています」

美智子「・・・・・・」

中村「実は、その少女というのが、ウチの小児科医の、あの篠原なんです」

美智子「篠原先生が・・・」

中村「ええ。篠原は、十五歳の時に悪性リンパ腫という血液の病気を患いまして、実はあの足も、その病気の後遺症によるものなんです」

美智子「そうだったんですか・・・」

中村「篠原の病気は、発見された時にはすでに末期の状態で、ひとつきは持たないだろうと我々は診断していました。しかし彼女は、我々の見解を打ち破り、寛解まで辿り着き、入退院を繰り返したものの、約十年間、再発もせずに過ごしてきたんです。しかし・・・、二年前に再発を起こし、今度こそもう駄目だと、誰もがそう診断していたにもかかわらず、彼女はまた、見事に復活してくれたんです」

美智子「・・・・・・」

中村「篠原は、今もまだ化学療法を続けている身ではありますが、そのハンデを感じさせない働きをしてくれています」

美智子「・・・・・・」

中村「篠原は常々言っています。『運命というものは、心のあり方次第で、自在に変えていけるものなのかもしれない』と・・・。私も、篠原の闘病体験からそう感じています」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

新藤「優太君の腹部に出血が認められるとすれば、目の緑膿菌が腹部に回ったら命取りだぞ。薬が全く効かないこの状態で、敗血症を起こしたら・・・」

中村「・・・・・・」

新藤「今すぐにでも、目をどうにかしなければ」

中村「どうにかするって、目を取り出す訳にはいかないでしょう」

新藤「それしかないだろう・・・」

中村「えっ・・・」

新藤「両目を摘出するしかない。それしか方法がない」

中村「そんな・・・。それは最悪時の考えとして、他に方法を」

新藤「角膜潰瘍も、このままでは間違いなく失明する。どうせ失明するなら、早いうちに摘出した方がいい。このままずるずる放っておいたら、菌が血液に回って敗血症を起こすぞ」

中村「・・・・・・」

新藤「腹部に爆弾を抱えているんだ。敗血症を食い止める為には、眼球の摘出しかないだろう。どちらにしても失明は免れないんだ」

中村「まだ失明すると決まった訳じゃないじゃないですか。優太君は、絵を描くことを何よりも生き甲斐としているんです。両眼を失ってしまったら、優太君は絵が描けなくなってしまうじゃないですか。せめて片方の眼球だけでも残せるよう、もう少し様子を」

新藤「君は優太君を救う気があるのか? 君はこのまま、優太君の死を手をこまねいて見てろって言うのか!」

中村「・・・・・・」

新藤「感情論に走ったら、救える命も救えなくなるんだぞ! 時間がないんだよ中村!」

中村「・・・・・・」

思いつめた顔の中村。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

優太「治ったら早く絵が描きたいなぁー。今ね、描きかけの絵があるんだー。描きあがったら、中村先生にプレゼントしようと思ってるんだよ。中村先生、きっと喜んでくれると思うんだぁ。早く書き上げて先生にプレゼントするからね」

中村「ありがとう・・・。楽しみだな・・・」

今にも泣き出しそうな中村。

嬉しそうに微笑んでいる優太。

中村、切なさに堪え切れなくなって、

中村「優太君、先生またあとで来るからね」

優太「ウン」

中村、涙を堪え出ていく。

 

同・男子トイレ

中村、男子トイレ駆け込む。

個室に入る中村。

中村の嗚咽の声が聞こえてくる・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中村「今、新しい治療を始めています。それで効果が現れてくれるのを、待ちたいと思います」

美智子「待つ待つって、これじゃ堂々巡りじゃないですか! 抗がん剤を使えば体が弱くなる! 弱った体を治せば、白血病細胞が増えてくる! 一体どうすればいいんですか! 中村先生は本当に精一杯の治療をしてくれてるんですか! 優太の目のことにしたって、中村先生がもっと気を付けて見ていてくれれば両目を取らずに済んだんじゃないんですか? 化学療法だって、もっと弱い薬を使ってくれれば、目だって悪くならなかったんじゃないんですか!」

中村「・・・・・・」

美智子「これは、医療過誤じゃないんですか・・・。中村先生に何か落ち度があったからじゃないんですか! 中村先生がちゃんと治療をしていてくれれば、こんなことにならなかったんじゃないんですか! どうなんですか! 中村先生!」

中村「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

美智子「(ナイフキャップを外し)優太、お母さんがすぐに楽にしてあげるからね。一緒に死のう・・・」

中村「何考えてるんですか!」

美智子を止める中村。

美智子「死なせてください! 優太を殺して私も死にます! お願い死なせて!」

中村「お母さんがそんな弱気になってどうするんですか! 優太君は苦しみの中、必死で生きようと頑張っているんじゃないですか! お母さんがしっかりしなくてどうするんですか!」

優太の声「お母さん・・・」

皆、優太を見る。

ぐったりとしながら話し出す優太。

優太「お母さん・・・。ボクなら、大丈夫だよ。ボク、絶対病気に負けないから・・・。中村先生が、ボクの病気、絶対治してくれる。ボク、中村先生を信じて、中村先生と一緒に病気を治したいんだよ・・・。だから・・・、だからボクを殺さないで・・・。ボク、生きていたいんだよ・・・」

美智子「優太・・・」

美智子、ナイフを落とし、うわぁーと泣き崩れる。

中村、涙がこぼれ落ちる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

7話・小児がんとの闘い

 

 

番外編2・プライド

 

 

桐子「しかし日本の医療って素晴らしいわよねー。これだけ検査しておいて、タダ同然の検査料ですものね。これがアメリカだったらいくら取られるかしら。ホント良かったわー、日本で検査して頂けて。これで診断が付けば、言うことないんですけどね(嘲笑)

美乃里「・・・・・・」

桐子「ねえ女医先生、これだけ検査して頂きましたけど、日本での検査の意味って、結局訴訟問題を避けるための逃げ道なんでしょう? 過剰な投薬だってそうよね。少々無駄でもやっておいた方が訴えられた時の言い訳になるものね。精一杯患者に尽くしてましたってね。それが日本の医療の首を締めているっていうのに」

美乃里「・・・・・・」

桐子「医者なんて、所詮地位や名誉のために働いてんのよね。自己満足な仕事。だってそうでしょう? そうじゃなかったら、こんな過酷で責任の重い仕事、やりたいだなんて思わないものね」

美乃里「・・・・・・」

桐子「あなただってそうなんでしょう? 患者の為にとか何とか言っちゃって、所詮自己満足のために医師になった。違う?」

美乃里「寂しい考えを持っているのね・・・」

桐子「あなた、血液内科医って言ったわよね」

美乃里「ええ」

桐子「あなたみたいな未熟な医者に、私が治せるわけ?」

美乃里「・・・・・・」

桐子「どうせまた、主治医が変わるのが落ちでしょうけど」

美乃里「私が治すわ、あなたの病気」

桐子「へぇー、言ってくれるじゃない。同世代の若い女医さん」

美乃里「・・・・・・」

桐子「やれるものならやってもらおうじゃない。お手並み、拝見させて頂くわ」

鼻で笑っている桐子。

桐子をじっと見ている美乃里。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

桐子「ねぇ、いつになったら主治医を変えてくれるの? ちゃんと上司に話したの? あなたみたいな無能な医者に担当されてたら、私は殺されるわ」

美乃里「・・・・・・」

桐子「さっさと医者を変えて」

美乃里「・・・・・・」

桐子「変えなさいって言ってるの!!」

桐子、床頭台の一輪挿しグラスを、美乃里に向け投げ付ける。

『ガチャーン』と割れるグラス。

桐子「変えなさいって言ってるのよ!!聞こえないの?!」

美乃里、動じず桐子を見ている。

看護師Eと山下、そして石崎医長が駆け付け、病室に入って来る。

熱い視線を交している桐子と美乃里。

石崎医長「これは一体どういうことなんだね、篠原君」

美乃里「・・・・・・」

石崎医長「篠原!」

美乃里「いい加減にしなさいよ・・・」

桐子「(驚く)・・・」

石崎医長「(驚く)・・・」

皆驚いている。

美乃里「人が下手に出てればいい気になって・・・」

石崎医長「篠原!」

美乃里「私が何も知らないとでも思ってるの? 何もかも分かってるのよ、初めから」

桐子「え・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

飯島「彼女、医者だったの?!」

山下「そうなんですよ。私も驚きましたよ」

飯島「それじゃ篠原は、何もかも分かってて彼女と向き合ってたわけだ」

美乃里「ええ」

・・・()・・・

山下「何かあったのかもしれませんね、留学先のアメリカで」

飯島「もしかして彼女、色々あって医師の仕事をリタイアしてたりして」

山下「あり得ますね」

浜口「実はね、篠原には伝えてなかったんだけど、彼女、アメリカのペンシルヴェニアの病院でレジデントとして働いていたらしいんだけど、突然病院を辞めて消息不明だったらしいんだよ」

山下「消息不明・・・」

浜口「優秀な人材で将来を嘱望されてたらしいんだけど、突然姿を消したらしくて・・・」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

院長「(美乃里に)改めて紹介しよう。今日からこの病院で働くことになった河野桐子君だ」

美乃里「えっ」

院長「実は彼女、私の友人の娘さんでね・・・。例の件があってから知ったんだけど・・・。しばらく私のところで預かることになったから」

美乃里「・・・・・・」

中村「(美乃里に)河野君はね、卒後ペンシルヴェニアの病院に臨床留学していてね、クリニカルフェローとして勤務してきたそうだ」

美乃里「クリニカルフェロー・・・」

中村「うん。ペンシルヴェニア州で医師免許を取得して、小児血液を専門にしてきたそうだ」

美乃里「小児血液・・・」

中村「彼女、小児科医だったんだよ」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

桐子「どうして寛解が見込めないって決めつけるんですか?」

美乃里「・・・・・・」

桐子「アメリカの病院では、こうした患児には叩くだけ叩いてきました。こうした治療法で何人もの患児が回復しているんです」

美乃里「・・・・・・」

桐子「寛解が見込めないのは、篠原先生が穏やかな治療をしているせいだと思いますけど」

美乃里「でもね、こんな治療では彩乃ちゃんが苦しむだけでしょう」

桐子「病気を治す為だったら、そのくらいのこと、ほんの一時期我慢すればいいことだわ」

美乃里「体が弱りきってる彩乃ちゃんに、あなたは更なる苦痛を強いるんですか。苦しい状態のまま、寛解に至れないことも考えられるのよ。その確率の方がずっと高いわ。こんな強引な治療をすれば、感染症だって引き起こすでしょう」

桐子「やってみなければ分からないわ」

美乃里「やってからでは遅いことだってあるのよ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

美乃里、薬袋から錠剤を取り出し、口に入れる。

桐子「あら、篠原先生、ご病気ですか?」

美乃里「・・・・・・」

桐子「そう言えば、2年前に入院していたとかって言ってましたよね」

美乃里「・・・・・・」

桐子「病気って、そもそも本人の自己管理がなってないから、引き起こすものだと思いませんか?」

美乃里「・・・・・・」

桐子「自分の管理もできない人が、医師として患者さんを管理できるんですかね?」

美乃里「・・・・・・」

桐子「その脚にしたって、きっとご自分の不注意か何かで怪我をされたんでしょう?」

美乃里「・・・・・・」

桐子「篠原先生は、患者さんの心配をするより、もっとご自分の管理をしっかりされた方がいいんじゃないですか?」

嘲笑している桐子。

黙ったままの美乃里。

沈黙。

桐子「ハッキリ言わせてもらいますけど、この病院の血液疾患の治癒率が低いのは、篠原先生の治療法が甘いからだと思います。篠原先生に任せていたら、助かる患児も殺されるわ」

美乃里「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

美乃里「私にはもう無理です・・・」

中村「何が?」

美乃里「河野さんへの指導です」

中村「・・・・・・」

美乃里「私には、河野さんの暴走を止めることができません。そもそもフェローの河野さんが、私の意見など受け入れるはずもなかったんです。河野さんと私とではレベルが違いすぎます」

中村「・・・・・・」

美乃里「私には自信がありません。人を指導することも、小児血液に関しても、小児科医としても・・・」

中村「・・・・・・」

中村「河野が暴走するだろうということは、はじめから分かってたよ」

美乃里「えっ」

中村「レベルが違うお前に、従うはずもないだろうということも分かってた」

美乃里「・・・・・・」

中村「すべて分かってた上で、お前に託した」

美乃里「どうしてですか・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「どうして・・・」

中村「・・・・・・」

美乃里「・・・・・・」

中村「考えてみるんだな・・・。俺がなぜ、河野をお前に託したのか・・・」

美乃里「・・・・・・」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

桐子「私、責任を取ってこの病院を辞めます」

中村「・・・やめてどうする」

桐子「医師の仕事を、辞めようと思います」

中村「・・・・・・」

桐子「・・・・・・」

中村「それが、君の責任の取り方か」

桐子「はい」

中村「それは違うな」

桐子「・・・・・・」

中村「それは責任を取るっていうんじゃなくて、逃げるっていうんじゃないのか?」

桐子「・・・・・・」

中村「君はこうした問題に出くわすたびに、現場から逃げていくのか」

桐子「・・・・・・」

中村「君がアメリカの病院を辞めて日本に戻ってきたのも、そういうことが原因だったんじゃないのか?」

桐子「・・・・・・」

中村「・・・・・・」

桐子「・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

中村「篠原のあの足はね、13年前、リンパ腫を叩くために、ガンガンぶっ叩いた放射線治療の後遺症なんだ。篠原はね、良く分かっているんだよ、患者の苦しみを。障害や苦しみを残すようでは治療じゃない。命を救うだけが医者じゃない。あいつはそう思ってる・・・」

桐子「・・・・・・」

中村「あいつだってね、いつも穏やかな治療をしている訳じゃないんだよ。叩かなければならない時には、ガンガンぶっ叩いているよ。ハラハラする程にね」

桐子「・・・・・・」

・・()・・・

中村「そこが、君と大きく違うところなんじゃないのかな」

桐子「・・・・・・」

中村「確かに、技術や知識を磨くことは大切なことだ。医師としての向上意欲や誇り、プライドを持って治療に当たることは素晴らしいことだと思う。だけど、本当に大切なことは、違う所にあるんじゃないのかな・・・」

桐子「・・・・・・」

 

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番外編2・プライド

 

 

 

 

 

 

 

 

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