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自分の病歴を書こう






かかりつけ医もいいけれど
最近、日本医師会とか各地方の医師会では「かかりつけ医をもちましょう」といった内容のポスターを貼ったりパンフレットを配ったりという活動をしています。実は僕自身はこの活動の中身をほとんど知らなくて、何をしてるんだろうなあ、と他人事のように眺めていました。で、手元にあるパンフレットを読んでみました。

 「日本医師会では、かかりつけ医を、『医師と患者の信頼関係を中心に、住民のみなさんが平素から気軽に相談したり、診てもらったりする身近な医師』であると定義しています」となっています。「内科医でも他の医師でもかかりつけ医になります」「かかりつけ医は契約するのではなく患者さんが決めるのです」とか、どうもはっきりしない仕組みです。医師の側にも何の義務もなさそうです。

 かかりつけ医を決めたからといって、その医師が10年20年とカルテを保存するわけでもなく、かかりつけの患者だけ定期的な検査をするというわけでもありません。まあ確かに一軒の内科開業医を決めてそこにいつもかかっておけば、それなりに安心なのかもしれませんが、僕みたいに転勤と引っ越しの多い人間はとうてい長く通うかかりつけ医は作れません。いくらお医者さんががんばっても転勤する人を追いかけてはくれない。引っ越しの前に「これまでの病歴を書いて紹介状にしてください」と言っても2年くらいの病歴が残るだけです。だいたい開業医どうしとか、病院どうし、てのは商売がたきでもあるし、その患者の昔の記録をごっそり患者にわたす、なんてするとは限らない。良心的な医者だって、紹介状をたっぷり詳しく書くのは面倒だろうしカルテ全部をコピーしてくれるところはまだ出会ったことがない。すると「かかりつけ医」という仕組み、あまり頼りになるとは思えないなあ。そういえば医師会のポスターもどうも高齢者が対象みたいで、それ以外の年齢層のことはあんまり考えていないのかもしれない。

 僕の友人のイギリスでの体験談では「イギリスでは専門の医師にかかりたい時は、まず総合医というのに診察を受けないとだめだ。法律できまっている」とのことです。こういうはっきりした仕組みなら安心かもしれません。大学病院に患者がわんさと押し掛けている日本の病院事情も少しはよくなるかもしれません。だけど日本医師会が提案してるだけじゃあどうかなあ。医師会も法制化を目指すんでしょうか?なんだか医師会の唱えてる「かかりつけ医推進」てのは個人開業医に患者を呼び戻そう、という狙いかなあ、とも感じますけどね。

カルテの保管のされかた
 では、患者の記録ってどれだけまじめに残されてるんでしょう?病院のカルテは法律で5年ほど保存する義務がありますが、それ以上は捨てられる運命がほとんどです。それ以上に保存している病院もあるんですが実際倉庫の奥に積まれたカルテがひっぱり出される事はめったにありません。昔のカルテをすばやく検索して取り出す、という仕組みが使われてる病院はまだ出会ったことがありません。長い年月の病歴をまじめに要約して記録している医者もいることはいるけど、そんなのは患者から見て見分けがつくわけではない。患者が診察に来たその場で10年前のカルテが出てくるなんてまずないことです。でも本当はその人の病気を治療する、という時にはその人の生まれた時からの病歴がみーんなわかった方がいいに決まってる。僕も仕事をしていて、カルテが5年以上保存されてなくて、病歴を探せなくて残念に思ったことが何度もあります。患者に昔の病気のことを質問しようとしても、高齢で本人がよく覚えていなかったり、ケガ人で意識がもうろうとしていたり、昔かかった医者から病名をはっきり知らされてなかったりして、まことにわかりにくい。

自分の病歴を書いて残そう
 さて。そこで僕がみなさまにおすすめするのが、「自分の病歴を書いておく!」ということです。これなら病院を何度か変わっても自分の身を守れる。10年前、20年前の病歴がメモに書いてあると、診る医者にとってもありがたい。患者側は、医者と看護婦によけいな質問をされなくてすむ。病気の見落としが減る。よけいなクスリはもらわなくてすむ。残念なのは昔とったX線写真とかをなかなか持ち歩けないことですね。病院によっては昔とったX線写真を渡してくれるらしいんですけど。

 たとえば「薬アレルギーは経験なし。食物アルギーは15才の時、青魚で一度だけ。輸血歴なし。7才で急性虫垂炎でたぶん局所麻酔で手術うけた。ふだん血圧低め。喘息なし、25才で胃潰瘍一度だけした。」とか書くと内科での診察には大いに役立ちます。他の科にかかるときも役立つ。そりゃまあメモを無視する医者もいるかもしれないけど、少なくとも僕は、自分の病歴をメモにして持ってきた患者さんにはお礼を言ってます。これまで何人か出会いました。そういう人は尊敬します。病院では問診用紙というのもあるけど、それだけじゃ不十分なことはよくある。高齢の人の場合は家族の人が病歴を書いてあげるともっと役立つかもしれない。いつも病歴を手帳に書いて持ち歩くのもよさそうだけど、もちろん人に見せたくない部分も多いだろうから、自分なりに伏せ字とかにしてもいい。一枚の紙に書いて薬箱とかに入れておくのもいいでしょう。

 眼科だけについて言えば、緑内障とか糖尿病は特に病歴が大切です。「10年前、ここの病院で緑内障を発見された。8年前、あっちの病院で薬をこれこれに変えた。2年前にそっちの病院で手術をうけた」なんてのが記録に残っているととってもありがたいし、無駄のない治療ができる。糖尿病手帳というのを持ち歩いている人は眼科医にとってもありがたい。若い人についていえば、眼鏡とコンタクト歴もメモしていてもらいたいですね。「中学生のころ眼鏡つくったけど眼鏡をしても左目は視力0.8くらいだった。高校2年でコンタクトにしたらよく見えた。大学の頃たしかヘルペスとかいう病気で皮膚科と眼科に行った。最近右目が赤くて痛い。」なんて病歴があれば、目の病気もむだのない検査で早く発見されるかもしれない。

 銀行の話ですが、もう数年したら日本でも、銀行がつぶれたら預金者も損をする、という風になるようです。日本も「おせっかいで甘えた社会」から「自分で責任を負う社会」に変わっていくんだから自分の健康も自分で守りましょう。自分の体を守るためには、病名をちゃんと医者にきいて、薬の名前もちゃんときいて、自分の病歴を自分でメモしていきましょう。自治体も医者も最後まで面倒を見てくれるわけじゃありませんからね。医者である僕がこういう投げやりなことを言うのも気がひけますけど、ほんと医者個人の力ではなかなかできない部分なんですよ。

(98.2.15作成、2003.11.27更新)[目次へ]