【SS】異説・命の選択を
暴走をつづけるEVA参号機の前に零号機、弐号機はすでに機能停止寸前に
追いやられ、初号機も満身創痍であった。
能力的には、変わらないはずだが、参号機は人の制御から離れ、その持てる
力を全て出していた。アンビリカルケーブルはとうに外れていたが、それすら
参号機の暴走を止めることは無かった。
初号機はまだ参号機の前に立ちふさがっていた。
「トウジ、トウジ、しっかりしてよ。EVAを止めるんだ!」
シンジの叫びにも参号機からは何の応答もなく、ただひたすら、獣のように
初号機に襲いかかる参号機だった。
「ミサトさん!どうすればいいんだよ。このままじゃいつまでもつか、分かん
ないよ」
ミサトはシンジの叫びに、厳しい顔で応えた。
「シンジくん、他の2人もよく聞いて。作戦を伝えます。まずはレイ、アスカ。
零号機、弐号機で参号機の動きを止めて」
「2体でやれば、しばらくは押さえておけると思うけど長続きはしないわよ」
地面に横たわったボロボロの弐号機の中でアスカは言う。彼女は相手の力を
正確に見極めていた。
「それでいいわ。次、シンジくん」
「はい」
ミサトは何の感傷も見せずに言う。
「参号機の動きが止まったら、エントリープラグのある胸部をプログナイフで
突き刺して。プラグさえ破壊すれば参号機は止まるわ」
「!!・・・ミサトさん、それじゃトウジは」
「命令よ。参号機を殲滅。これ以上、参号機を暴走させておくことは出来ない。
なんとしても止めなければならないのよ」
「そんな、トウジを殺すなんて」
「シンジ、これはミサトの言うとおりよ。参号機を破壊するのよ」
「アスカ!アスカまでそんなこと言うなんて。アスカはトウジが死んでも平気
なのかよ」
「バカ!平気なわけないじゃない。でも、参号機は止めなきゃならないのよ。
・・・いいわ、あんたが出来ないというなら、私がやる。あんたは参号機を
押さえるのよ」
シンジはアスカが涙を流していることを知った。
「・・・僕がやるよ。トウジを殺さなければならないならば、せめて僕の手で
トウジを殺す!」
「では、作戦を開始します。シンジくん、零号機、弐号機が倒れてるところま
で、参号機を誘導するのよ」
「了解」
ミサトは通信を切り、そして、ヘッドフォンを床に叩き付けた。
「なんて、わたしは無力なの。いったい何故こんなことになったのよ」
このように作戦を立てている間も参号機の猛攻は止まず、初号機はますます
傷ついていた。しかし、シンジはそんな初号機を駆り、少しずつ他の2体のE
VAがいる方へ後退していった。
参号機はもう、初号機以外は倒したと思っているのか、零号機、弐号機には
あまり注意を払わず、作戦地点に簡単に入ってきた。
「いまよ」
ミサトの合図で、2体のEVAが起き上がり参号機に襲いかかる。零号機、
弐号機によって、拘束され動けなくなる参号機。
「シンジ、やって。そう長くはもたない」
「うぉぉぉぉー」
初号機は肩からプログナイフを取り出し、参号機に突っ込むと、その胸にナ
イフを突き立てる。
しかし、プログナイフは参号機の装甲で止まっていた。
「ダメだ。僕にはトウジは殺せない」
「あのバカ!」
フォォォォォォーン
参号機は動きをしばる2体のEVAを振り払う。吹き飛ばされる零号機、弐
号機。
「綾波、アスカぁ」
意識が2人に向いた隙を逃さず、参号機のけりが初号機の胸に炸裂する。初
号機もまた吹き飛び、倒れかけたビルに叩き付けられた。シンジは一瞬意識を
失い、それが運命を決める。
参号機は間合いをつめ、初号機にラッシュをかける。背後のビルに動きを制
限された初号機にそれを避けることはできなかった。
「初号機、制御神経断線していきます」
「ダメージ大きすぎます。活動停止は時間の問題です」
「零号機、弐号機に救援に向かわせなさい」
「ダメです。さっきの衝撃から2人とも回復してません」
「し、シンジくん!」
「ごめん、トウジ。助けられなかった。ごめん、ミサトさん。勝てなかった。
ごめん、アスカ、綾波。もう会えない」
攻撃を受けつづける初号機のなかでシンジはつぶやいた。
「もう、ここまでか・・・父さん」
参号機の攻撃はつづき、とうとう初号機の胸部装甲板に亀裂が入った。その
とき・・・
グォォォォーン
初号機の瞳が光り、その手が参号機の腕をつかみ、そのまま握りつぶす。
「まさか・・初号機まで暴走したの?」
参号機の腕をつかんだまま、ゆっくりと立ち上がる、初号機。そのまま参号
機にけりをはなつ。
参号機はふっとび、半壊したビルに突っ込む。ビルが崩れおち参号機の姿を
隠す。初号機はガレキの山にゆっくりと近づいていく。そのガレキのなかから
起き上がる参号機。その腕はもう修復していた。
しずかに対峙する2体のEVA。10秒の空白の後、互いに突っ込んでいく。
ウォォォォォン
次の瞬間、EVA参号機の抜き手は初号機の腹を貫通していた。が、初号機
は参号機の頭部をつかみ、引きちぎっていた。そのまま、2体のEVAは動き
を止める。
シンジは初号機のなかで、茫然とし、起こったことを理解できないでいた。
そのとき、初号機に通信が入る。それは参号機からだった。
「センセイ。聞こえるかぁ」
「トウジ!生きてるの」
「ああ、もうじき死ぬみたいやけどな」
「そんな」
「気にすんなや。これはわしのドジや。センセイには感謝しとる。参号機を止
めてくれてな」
「そんな話してないで、早く脱出するんだ」
「だめや。イジェクション装置はもうおしゃかになっとる。わしはここまでや。
センセイ、ケンスケによろしゅうゆうてくれや。・・・それと、委員長に謝
っといてくれ。弁当食えなくてスマンてな」
「そんなこと、そんなこと自分でいいなよ」
「センセイ、そろそろアカンようや。センセイらと会えて楽しかったでぇ・・
あーあ、委員長の弁当食いたかったなぁ」
「トウジーーーー」
ズズーーーーン、参号機は爆発四散した。
「初号機の確認急いで」
「初号機の反応有りました。パイロットの生存を確認」
煙のなかから、初号機の巨体が現れた。その手にはエントリープラグの残骸
が握られている。
「シンジ、大丈夫!」
「碇君」
2人の呼ぶ声はシンジには届かなかった。
「・・・うそだ。こんなことはうそだ。こんなことがあっていいはずはない。
こんなことが起こるはずはないんだぁぁ!!」
シンジは慟哭し、EVAも再び、咆哮しはじめた。
「大変です。初号機のシンクロ率あがっていきます」
「初号機パイロットとの通信とぎれました」
シンジは全てを憎んだ。自分を、その運命を、EVAを、そしてNervを。
初号機は再び、暴走を開始した。こんどは搭乗者を守るためでなく、搭乗者自
身の当ての無い怒りに反応し、全てを破壊するために。
爆発のときにアンビリカルケーブルはちぎれ、もう活動限界は過ぎていたが、
そんなことはもう初号機には関係なかった。初号機は止まらない。なにより、
シンジがそれを望んでいたから。
「・・・葛城三佐。初号機の反応・・・『青』です」
咆哮をあげ続ける初号機を見ながら、二人の少女は声も無かった。そんな二
人にミサトから通信が入る。
「アスカ、レイ、まだ動ける?」
「ミサト三佐、碇くんはどうなったんですか」
「見てのとおりよ。2人とも、初号機は廃棄されました」
「!!」
「もう、あれはEVAじゃないわ。・・・私達の敵、使徒よ」
アスカはなげやりに言った。
「・・・どうすればいいって言うの。もうプログナイフすらないのよ」
「作戦はただひとつ。一体が初号機の気を引き、その間にもう一体が初号機に
とりつくの。そして・・・自爆するのよ」
ミサトの作戦に顔色を白くするアスカ。しかし返す声にはなんの感情もこも
っていなかった。
「・・・さっきの作戦とあまり変りないみたいだけど、成功するのかしら。シ
ンジもそれほどバカじゃないと思うけど」
「今の初号機にはそんな判断力はないわ。参号機と同じよ」
レイもまた、感情のこもらない声で言う。
「三佐、どちらが自爆するんですか」
「弐号機の方がダメージが大きいから、陽動は零号機にやってもらうわ」
「つまりわたしが自爆するわけね。あーあ、シンジと心中なんてさえないなぁ」
「これしか方法がないの」
「分かってるわ、じゃあ、ファーストうまくやってよね」
「・・・了解」
零号機はゆっくりと立ち上がり、初号機に対峙した。
「・・・碇くん」
レイの脳裏には、笑っているシンジの姿がフラッシュバックした。
エントリープラグに半身を乗り入れて、泣き笑いするシンジ。
エレベーターのなかで恥ずかしそうに笑うシンジ。
レイの部屋でゴミ袋を持ちながら笑っているシンジ。
レイはいままで、他人に対して関心を持たず生きてきたつもりだった。しか
し、それが間違いであることを悟った。いつしかLCLには、レイの涙が交じ
っていた。
零号機が初号機に食い下がっているのを弐号機の中で見つめるアスカ。
「シンジ・・・」
アスカもまた、シンジのことを考えていた。
世紀の美少女と同居しているという幸運をあまり分かっておらず、身の程し
らずにも、自分に逆らうシンジ。
なのに、自分が危険になったときには、おのれの危険を考えず、フォローに
入ってくれるシンジ。
意外と家事ができて、おいしいご飯を作ってくれるシンジ。
「いっしょに死んであげるんだから感謝しなさいよね」
いつしかアスカの顔には、透明な微笑が浮かんでいた。
初号機が零号機を追い、弐号機のそばを通過する。アスカは弐号機を動かし、
初号機を抱きしめる。
「ファースト、あんたは下がりなさい。早く」
その時、零号機もまた初号機に抱きついた。
「レイ、何してるの。早く下がりなさい。命令よ」
「嫌です」
「ファースト、これじゃあんたまで巻き込まれちゃうわ」
「碇くんを死なせないで。あなたも死なないで。あなたたちが死ぬのは嫌。私
はあなたたちから離れない」
「ファースト、・・・分かったわ。このままシンジに呼びかけつづけましょ。
駄目だったらそのときは・・・3人で自爆ね」
シンジはその時、自らの闇のなかに閉じこめられていた。自らに対する怒り
が大きすぎて、他へ意識を向けることが出来なかった。
しかし、いつしかシンジはかすかな光を感じていた。そちらに意識を向ける
と、それは2人の近しい者であること、そしてそこへ自分を導くものがあるこ
とを知った。
「母さん・・・」
「シンジ、行きなさい。あなたを待っている人達のもとへ。私があなたを導い
てあげるわ」
シンジは2人の少女の声を聞きながら、目を空けた。初号機の暴走は止まり、
電源を失っている初号機はゆっくりと膝をつく。
「シンジ!しっかりしなさい」
「碇くん、碇くん」
「アスカぁ、綾波ぃ」
「意識がもどったのね。碇くん」
「あんた、大丈夫なの」
「2人のおかげで、戻ってこれた。ありがとう。君達は僕より強いんだな」
「なに言ってるのよ。まだ寝てんの?」
「2人はぼくを止めてくれた。なのに、僕はトウジを止められなかった。初号
機を止められなかった。もっと僕が強ければあんなことには・・」
「私達はあせりすぎたのかしら。そのあせりのためにフォースチルドレンを失
ってしまったわ」
「失ったのは、フォースチルドレンだけじゃないわ。チルドレン全てよ」
<Fin>
return