【SS】サイコダイバー
ビカァァ〜〜〜
エヴァ初号機の前で使徒は強烈な光を放ち消滅した。その光が収まった
後には、傷一つない初号機の姿があった。
「な〜に?あれ。勝手に自爆しちゃったわよ。今度の使徒・・・」
「シンジくん、怪我はない?」
「・・・・・」
「シンジくん?」
「シンジ、ちょっとどうかしたの」
「・・・・・」
「碇くん?」
「ちょっとシンジ!」
「シンジくん、大丈夫なの!」
シンジは3人の心配そうな声にようやく反応した。いつもとはちょっと
違った口調ではあったが。
「大丈夫に決まってんだろ、ボケ。この俺がこんなことでやられっかよ」
シンジはまるでデビルマンのようにアブない目つきになり、その口調は
いつもの情けないシンジとはうってかわっていた。
「シ、シンジくん?」
「シンジ、あんたどうかしたの?」
「どうもしやしねーよ。心配すんな、アスカ」
「・・・あんただれ?」
「・・・碇くんとは違うわ・・・」
「何言ってんだ、2人とも。愛するシンジさまのことが分からねーのか」
「な・な・な・何言ってるのよ。誰があんたなんかを」
「無理すんな、アスカ。俺にゃ、ちゃーんと分かってるんだ。綾波のほう
は文句ねーよな」
「・・・分からない・・・」
「俺さまがそう言ってるんだからいーんだよ。綾波は俺のもんだ」
「・・・ちょっといいかも」
レイの顔は無表情のままだったが、少しほおが紅潮しているのをアスカ
は見逃さなかった。
「バカ、ファースト。何赤くなってんのよ。シンジ、あんた何様のつもり
なのよ?私があんたを愛してるって?ふざけないでよ!!」
「俺ぁ、シンジさまよ。アスカが俺のものになりたくねぇってんなら、別
にいーんだぜ。俺にゃ綾波・・いやレイがいるからよ。レイ、今日お前
の部屋行くかんな。あの部屋、ちゃんと掃除しとけよな」
「・・・分かったわ」
「こらこらこらぁ〜、優等生ってば、何その気になってんのよ。駄目よ、
こんなシンジを女の子一人の部屋に入れるなんてとんでもないわ」
むきになって、怒るアスカにシンジは言った。
「へん、俺が綾波のところへ行くのは嫌かよ、アスカ。無理しねーで俺が
好きだって認めろよ。俺は2人とも平等に可愛がってやるぜい」
「ウグッ・・・・・」
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にして、声も出せないアスカに代わり、
ミサトは言った。
「シンちゃん、いったいどうしちゃったの」
「シンちゃんだぁ。ガキ扱いはやめろよなぁ、この年増!」
ピクッ・・・
ミサトの顔は能面のように無表情になった。しばらく固まった後、ミサ
トは、にやぁっとブキミに笑った。
「葛城さん、それはLCLの濃度調節レバー・・・」
ムギュゥ・・・
「シンちゃんには安静にすることが必要みたいねぇ」
ミサトはにっこり言ったが、目には殺気がこもっていた。意識を失った
シンジはネルフ内の病院に運ばれた。
点滴を受けて眠るシンジを部屋の外から観察しながら、ヒロインたちは
騒いでいる。
「一体、シンジはどうしちゃったの?」
「パターン青、使徒ね。あの使徒は爆発したんじゃなくて、シンジくんの
精神の中に侵入したんだわ」
「そんなことできるの、リツコ」
「ディラックの海を覚えているでしょう、ミサト。ATフィールドを使え
ば何でもアリなのよ」
「どうすれば、碇くんは直るんですか」
レイはリツコの方を見て、言った。その顔はなんだか不安そうに見えた。
「方法はただ一つ、誰かがシンジくんの心の中に入って使徒と戦うのよ」
「使徒とエヴァなしで戦えっていうの」
「これは精神力の戦いよ。要するに気合の勝負ね」
「ふーん面白そうね。私が行くわ、シンジに貸しを作るのも悪くないし」
アスカは凶悪そうに笑った。そんなアスカを頼もしげに見て、ミサトは
言った。
「どうやらアスカの方が適任のようね」
その時、レイが言った。
「私も行きます」
「レイは、別の使徒の襲来に備えて待機してもらうわ。一人もエヴァを動
かせる人間がいなくなると困るのよ」
「・・・・・分かりました」
レイはしばらく沈黙した後、固い顔で言った。
「残念ねぇ、愛するシンジさまの心に入れなくて」
意地悪アスカをレイはジロッと見つめた。
「な、なによ。文句あんの?」
「別に」
プイッとレイはそっぽを向き、部屋から出ていった。
「ふん、文句あるならはっきり言えばいいのよ」
「まあまあ、アスカ。人それぞれなんだからね。それより、シンジくんよ。
用意でき次第行ってもらうから、しばらく待機しててちょうだい」
「うん!(悪く思わないでよ、ファースト。この役はあんたに取られるわ
けにはいかないわ。シンジは私の下僕なんだから)」
「これをかぶって、ベッドに横になってくれる、アスカ」
「ええ〜〜、こんなカッコ悪いのぉ〜」
それは特撮番組に出てくる洗脳装置のような、いっぱいとげとげのつい
たヘルメットだった。とげとげの先には赤・黄・青のまめ電球が付き、ぴ
かぴか光っている。
「我慢しなさい、機能第一で作ってあるんだから。ね、リツコ」
「えっ?ええ、もちろんよ(デザインには自信あったのに)」
「嫌なら、私がいくわ」
「じょ、冗談じゃないわ。誰も嫌だなんて言ってないじゃないの。あんた
は黙ってなさいよ」
「・・・惣流さん」
「な、なによ・・・やる気?」
身構えるアスカにレイは言った。
「お願い・・・碇くん、助けてあげて」
アスカはレイの顔がいつもみたいに無表情でなく、その目はすがるよう
にアスカを見つめていることに気付いた。アスカはレイに笑って言った。
「誰に言ってんのよ。わたしにぜ〜んぶまかせときなさい!」
ベッドは2つ並んでいて、一方には洗脳メットをかぶったシンジがすで
に眠っていた。アスカもヘルメットを着け、もう一方のベッドに横になっ
た。
「いいこと、アスカ。気を楽にしていてちょうだい。あなたの脳波をシン
ジくんの脳波にシンクロさせて、あなたをシンジくんの精神世界に送り
こむわ。いったん入ってしまうと、もう私たちは何もしてあげられない
から、その前にあなたに暗示をかけておくわね」
リツコはふところから糸のついた5円玉を取り出し、アスカの目の前で
振った。
「アスカ、あるキーワードを唱えるとあなたは目を覚ますわ。そのキーワ
ードは『あんたばかぁ?』よ。いいこと?、しっかり覚えておくのよ。
『あんたばかぁ?』、『あんたばかぁ?』、『あんたばかぁ?』・・」
「なんだか、無性に腹がたってきたわ」
「リツコ、ほんとにそんなので大丈夫なの?」
「大丈夫よ、この本でちゃんと勉強したから」
リツコが自信満々で示した本には『サルでもできる催眠術』というタイ
トルが付けられていた。マヤだけがそんなリツコを尊敬の眼で見ている。
「・・・まっ、いっか・・・じゃ、始めましょ」
「第一次接続開始、シンクロスタート」
「弐号機パイロットの脳波が、初号機パイロットのものと重なっていきま
す」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ちょっと、ちょっと、アスカは大丈夫なの?」
「まあ、脳をいじってるから、ちょっと苦しいかもね。大丈夫、死にはし
ないわ」
「そーいう問題じゃないと思うけど・・・」
「大丈夫よ。どーせ後で責められるのはシンジくんなんだから」
「なるほど・・・・」
「シンクロ率100%です!」
「双方向回線接続!アスカをシンジくんの心に送り込んで」
「アアアァァァ・・・・・・・・」
アスカの声は次第に小さくなり、ついには意識を失い、シンジの夢の中
に落ちた。
「頼むわよ、アスカ。シンジくんをお願い」
「うう〜ん、ヒドい目にあったわ。これもシンジのせいね。この貸しは十
倍にして返してもらわなきゃ。それにしても広いわね。見渡す限りなん
にもないわ。シンジはいったいこのどこにいるってのよ」
アスカは真っ白な空間のなかに浮かんでいた。そして自らが裸であるの
に気付くのにはそう時間がかからなかった。
「キャ〜、裸じゃないのぉ。どうなってるの、これ。これじゃシンジがい
ても、近寄れないわ」
アスカはパニックになって、自分の赤いプラグスーツを欲した。すると、
周りに赤い光がまとわり付き、プラグスーツを構成した。
「そうか、夢の世界なんだから、思うだけでいいんだわ。なかなか便利な
ところじゃない。それなら、こんなのはどうかしら」
いきなり、アスカのファッション・ショーが始まった。姿見も出して、
いろんな服を楽しむアスカ。
「うーん、どの服を着ても似合うわ。我ながら無敵の美貌ね。こんな美少
女のそばにいられるなんてシンジってばなんて幸せ者なのかしら。ん?
シンジ? そうだ!シンジ!」
ようやく本来の目的を思い出したアスカはこの広い世界でシンジを探索
するのを考えて、ドッと疲れてしまった。
「冗談じゃないわよ、こんなの。いったいどうすれば・・・そうだ!服と
同じようにシンジのことを考えればいいのよ!」
賢いアスカは一生懸命、シンジのことを考えた。
「(ばかシンジ、ばかシンジ、ばかシンジ、ばかシンジ・・・・)」
アスカの考えは間違っていなかった。気付くと目の前に青白い光の中で
眠るシンジがいた。ただし、1人では無かった。3人の裸の女がシンジに
寄り添って眠っていたのだ。アスカの頭はまっしろになった。
「シ・シ・シ・シ・シ・シ・シンジ!何やってるのよぉ!」
アスカの大声にもシンジは目を覚まさなかったが、周りの女たちがアス
カの方へ顔を向けた。それは『ミサト』『レイ』そして『アスカ』だった。
「ど、どーして私たちが・・・」
3人は狼狽するアスカを見て、笑った。3人のうち、『アスカ』が立ち
上がり、光の膜を通り抜けてアスカの前に立った。
「あ、あんた誰よ」
「わたしは『アスカ』よ」
「アスカはわたしよ。あんたはわたしの偽者じゃない」
「違うわ。わたしは碇シンジの中の『アスカ』よ。彼に優しい『アスカ』、
彼を大事にする『アスカ』、彼にとって、理想の『アスカ』よ」
「わ、わたしだってシンジには優しくしてるわよ!」
「いつもちょっとしたことでシンジを怒鳴りつけてるのは誰? シンクロ
率で負けたからって、ひがんでシンジに当たりちらしてるのは誰? 自
分からキスしておいて、うがいなんかしてシンジを傷つけたのは誰?」
「仕方ないじゃない。自分でも可愛くない性格だって分かってるわ。でも、
わたしだってシンジのことは大事に思ってるわよ」
「そうかしら? あんなにひどいことばかり言ってるのに? 本当はシンジ
なんか死ねばいいと思ってるんじゃない? だってそうすればあなたが
ナンバーワンだものね」
「そんなこと思ってない!」
「信じられないわ。本当はシンジを憎んでいるんでしょう? 本来あなた
のものだったナンバーワンの座を取ってしまうし、おまけに自分の気持
ちにも全然気付かないで、あんな優等生の方ばっかり見てるんだものね。
分かるわぁ、あなたの気持ち。そんなヤツ、憎んだって当然よ」
「わたしはシンジを憎んでなんかない。わたしは・・わたしは・・・・」
頭を抱えるアスカに、『アスカ』は笑いながら近づいた。
「そんなつらい思いをして、シンジのそばにいることないじゃない。お帰
りなさい、あなたの世界に。シンジのそばにはわたしがいるわ。あなた
なんか必要ないのよ」
アスカは『アスカ』から後ずさりながらも、相手を睨みつけ叫んだ。
「嫌だ!シンジはぜぇ〜ったいに連れて帰る」
「聞き分けがないわね。仕方ないわ」
『ミサト』と『レイ』が立ち上がり、『アスカ』と重なった。その瞬間、
『アスカ』は赤く光輝いた。光が収まった後も『アスカ』のお腹からは赤
い光が漏れだしていた。
「コア? あんた使徒なのね!シンジに何をしたの」
「別に。ただ、ほめてあげてるだけよ。『あなただけが大事よ』ってね。
これは本当のことよ、『わたし』達にとっても彼は特別なの」
「なんで、わたし達の姿をしてるのよ」
「シンジの心の中を大きく占めている存在だったから。あなたと話をして
いる『アスカ』も、彼のアスカのイメージをベースにしてるのよ。でも、
もう彼にとってのアスカはあなたでなく『わたし』になってるけどね」
「シンジを返して。シンジの心から消えて!」
「嫌よ。消えるのはあ・な・た」
『アスカ』から不可視のエネルギーが放出され、アスカはふっとんだ。
「どう? 効いたでしょ。所詮、あなたがわたしに勝てるはずないのよ」
苦しげな顔をして立ち上がるアスカ。
「ま、まずいわ。こんなの、気合だけじゃ勝てっこないじゃん。リツコの
うそつき」
「おや、立ち上がったわね。じゃ、も一度」
『アスカ』は再度、エネルギーをアスカに向けて放った。今度はアスカ
はなんとか耐えたが、夢の世界のアスカの『体』を構成している何かが自
分から抜け落ちていくのを感じた。
「なかなか、しぶといのね。さすが、わたしだわ」
「まずいわ。こんど食らったら、わたしは消滅しちゃう。この世界で『死
ん』だら、いったい現実のわたしはどうなっちゃうの? 悔しいけどひ
とまず、退却しなくちゃ。覚醒の呪文は・・・」
その時、『アスカ』の背後の光の玉のなかで眠るシンジが目に入った。
アスカの心のなかで何かがはじけた。
「そろそろ、しっぽ巻いて逃げた方がいいんじゃない。大丈夫よ。誰もあ
なたを責めたりしないわ。もともと、ただの人間が『わたし』にかなう
わけないんだし」
「わたしは逃げない!あんたなんかにわたしのシンジを渡すもんか!シン
ジ、あんたもいいかげん起きなさいよ!いつまで寝てんの、さっさと起
きないと後でヒドいわよ!」
「意地になってさ。それじゃ、さよならね」
前よりも巨大なエネルギーの奔流がアスカをつつんだ。『アスカ』はそ
の結果を疑わなかった・・・しかし、
「えっ、どうして。今のに耐えたの? そんなばかなことが・・」
光がおさまった後、そこには元の通りのアスカがいた。『アスカ』はも
う一度、今度は収束したエネルギーを放った。アスカに直撃する寸前、ア
スカの前に光の盾が現れ、光弾を防いだ。
「ATフィールド? ただの人間が? どうして?」
その頃、現実の世界ではリツコ達が騒いでいた。
「弐号機、突然起動しました。ATフィールド展開しています」
「そんなばかな、エントリープラグも挿入してないのに」
「アスカになにかあったのよ。弐号機はアスカを護ってるんだわ」
「そんなことが本当に起こるなんて・・・」
「待ってください、初号機にも反応あり。初号機、起動します」
「いったい、シンジくんの中でなにが起こっているの・・・」
「わたしにもよく分かんないけど、どうやらこれで条件は同じね。いろい
ろとやってくれたじゃない。この借りは10倍にして返すわ」
「ふん、ATフィールドをはれるようになっただけで『わたし』に勝てる
と思ってんの?」
『アスカ』はにくにくしげに笑うとアスカに光弾を連打した。しかし、
アスカは防御をATフィールドに任せて、まっすぐ『アスカ』に突っ込ん
だ。アスカと『アスカ』の間に光の壁が現れ、2人の中間点で拮抗した。
アスカと『アスカ』の顔を汗が流れていく。気合の劣った方にエネルギー
が逆流し、その結果、消滅が待っていることを2人とも悟っていた。
夢のなかで長い長い時間が流れ、とうとう拮抗が崩れるときが来た。人
間でしかないアスカの方がキャパシティに劣っていたのだ。ここまでもっ
ただけでも、気合の勝利だろう。次第に光の壁はアスカの方へ近づいてい
く。アスカの顔は苦しげだった。
「驚いたわ。ここまで持ちこたえるなんて、人間の力をみくびっていたら
しいわ。あなたはよくやったわよ、助けてあげたいけど、もう無理ね。
『わたし』はあなたのこと忘れないから、もう安心して眠りなさい」
「う、うるさいわね。話しかけないでよ、気が散るわ」
「もう、楽になりなさい。『わたし』はあなたの分までシンジを大事にし
てあげるわ」
「・・・シンジ? シンジ! シンジぃ〜〜〜!」
ずどん!
『アスカ』は不思議そうに自分のお腹を見た。そこにあるはずのコアが
無く、代わりに誰かの右手があった。そう、シンジの右手が・・・
『アスカ』の背後にはシンジが立ち、ATフィールドを中和して、右の
抜き手でそのコアごと『アスカ』の体を貫いていた。
「・・・どうして、『わたし』を・・・」
「お前なんかアスカじゃない。アスカは僕に優しい言葉なんかかけてくれ
ない。すぐに怒るし、ずいぶんきついこと言うんだ。けど、僕はその後
でアスカが自分で落ち込んじゃってることも知ってる。自分が人を傷つ
けたことで・・それにその後、アスカは僕に優しくしてくれる・・・・
ような気がする。そうじゃないかな。そうだといいな・・・ええと、と
にかくお前なんかアスカじゃない。僕の知ってるアスカじゃないんだ」
「そんな、『わたし』はシンジの願望の通りに・・・」
「それでも、僕は本当のアスカじゃなきゃ嫌なんだ!」
「・・・・」
光の壁が一気に『アスカ』とその背後のシンジを飲み込んだ。
「シンジ!!!」
光が薄れていくとそこにはATフィールドに包まれたシンジが立ってい
た。
「シンジ・・・」
「アスカ、ありがとう。こんなところまで来てくれて」
「シンジぃ〜〜!!」
アスカはシンジに駆け寄り、その頭に手を回した。
むに〜〜〜
「痛い、痛い、痛い!?」
「あんた、よくも好き勝手言ってくれたわねぇ」
アスカはシンジの両頬を思いっきりつねっていた。そのまま、両手を広
げ、限界まで引っ張ってから離す。
「痛いよぉ」
両手で頬を押さえ座り込んでウルウルするシンジに、アスカは両手を腰
に仁王立ちして言った。
「だいたいなに? どーしてわたし達が裸であんたに、はべってるわけ?
この変態!あんな願望持ってるなんて知らなかったわ」
「しょうがないじゃないかぁ。いつも、不用心なカッコでうろうろしてる
アスカたちが悪いんだよぉ。こっちの身にもなってよ」
「見なきゃいいのよ。今度からはあんた家じゃ目ぇつぶってなさい!」
「そんなぁ」
「ま、いいわ。思ってたより鈍感でも無かったって分かったし・・・」
アスカはシンジの手をつかんでひっぱりあげた。立ち上がったシンジの
顔はアスカのそれとあまり変わらない高さにあった。アスカはシンジの顔
を見てふと考えた。
「ね? そんなに傷ついたの?」
「え?なにが」
「うがいのこと」
「えっ、うん・・・」
「あれはあんたも悪いのよ。いくらなんでも『ぷはぁ』はないでしょ」
「うん、ごめん。でも息ができなくて苦しかったんだ」
「ふ〜ん・・・でも、ここなら息しなくても、問題ないわよね?」
「え?」
アスカはシンジの首に手を回し、シンジにくちづけた。シンジはビック
リして目を見開き、そして目を閉じた。それは長い長いキスだった。
アスカはゆっくりと身を離した。目を開けたシンジはアスカの目が潤ん
でいるのに気付いた。
「アスカ、泣いてるの?」
「泣いてなんかないわよ」
「でも・・・」
「うるさいわね。泣いてないったら」
アスカはシンジの胸に顔をうずめ、泣きつづけた。後から後から涙がわ
いてくるのが不思議だったが、いつもの涙とは違って、不快ではなかった。
「(おかしくなったシンジが言ったこと本当かもね・・・)」
シンジはおろおろして言った。
「アスカ、アスカ、泣き止んでよ。そんなにキスするの嫌だったの?」
「そうじゃない。嫌ならキスなんてしないわよ。ほんと鈍感なんだから」
「でも・・・」
「あんたばかぁ? 女の子が泣いてたら、しっかり抱きしめてればいいの。
あれっ、体がすけていくわ・・・しまった!呪文を言っちゃった」
次第にかすれていくアスカにシンジは狼狽した。
「アスカ、アスカどうしたの。しっかりしてよ」
アスカは苦笑して答えた。
「大丈夫よ。わたしの体に戻るだけなんだから、そんな顔しなくていいわ。
続きは現実に戻ってからね・・・・」
アスカは目を開くとそこは最初の実験室だった。
「お疲れさま、アスカ。シンジくんから使徒の反応は消えたわ。よくがん
ばったわね」
「わたし1人の力じゃないわ。シンジが助けてくれたのよ」
「それと弐号機とね」
「弐号機が?」
「そうよ、乗り手もいないのに、勝手に起動したの。今は元に戻ってるけ
どね」
「そう・・弐号機が護ってくれたんだ・・」
その時、隣りのベッドではシンジが目を覚ました。
「お目覚めね、シンちゃん」
「おはよう、シンジ」
「アスカ? なんだか長い夢を見ていたみたいだ。なんかアスカが2人い
たような・・・」
「そりゃあ、大変だったわねぇ、シンちゃん。1人だけでも厄介なのに」
「ミ〜サ〜ト〜、ど〜いう意味よ、それ。シンジも何も覚えてないの?」
「うん」
「そんなぁ・・・」
「仕方ないわよ。シンジくんにとってはただの夢なんだから。夢は起きた
ら忘れてしまうものよ」
部屋の扉が開き、レイとリツコが飛び込んで来た。
「2人とも起きたって?」
「碇くん、平気?」
「ありがとう、綾波。ぼくは大丈夫だよ」
「そう、良かった・・・心配したの・・・」
「綾波・・・」
見つめ合う2人を物騒な目で見ていたアスカはリツコに向かって言った。
「シンジが言ったことって記録にとってあるわよね」
「えっ? ええ」
「ここに流して!早く」
シンジはスピーカから流れる自分の声に真っ青になった。
「これ、本当に僕が言ったの?」
「そぉよぉ、シンジ様ぁ」
アスカはとても可愛く笑った。が、シンジにはとても邪悪に見えた。
「まさか、このわたしにこんなこと言っといて、ただで済むとは思ってな
いわよねぇ 」
「・・・・・・・・」
だらだらと滝のように汗を流すシンジにアスカは言った。
「今晩はシンジのおごりね。ラーメンなんかじゃ許さないからねぇ。チェ
ックしといたフランス料理店があるんだ」
「・・・・はい」
「ミサト、リツコも行こうね。優等生、あんたも来るのよ」
「わたしはいいわ」
「駄目!来るの。野菜のフルコースだってあるんだから」
「フ、フルコース・・・」
「なんか文句あんの?」
「・・・ないです」
シンジの一年分の小遣いはたった一夜できれいさっぱり無くなったので
あった。
<Fin>
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