【SS】Glasses
「アスカぁ、援護して」
ダダダダダダダッ、パレットガンを乱射する弐号機だったが・・・・
「うわぁぁぁぁ、いったいどこ狙ってんの。使徒はあっちだよぉ」
「う、うるさいわね。そんなこと分かってるわよ」
ダダダダダダダッ、再び乱射する弐号機。弾は使徒を外れ、隣りに立っ
ていた兵装ビルに着弾した。格納されていた弾薬が誘爆し、その爆風で使
徒は吹き飛ばされ、初号機の前にベチャッと倒れた。
「いっ、いまだ!」
ブスッ、初号機はプログナイフで倒れた使徒のコアを破壊した。殲滅完
了である。
初号機と零号機が弐号機を見つめるなか、弐号機は両手を腰に当てて、
おおいばりのポーズをとった。
「ね、狙いどーりよ。やっぱりわたしって天才ね」
「・・・・・本当に狙ってやったワケ?」
「あっ、あたりまえじゃない。わたしを誰だと思ってんの」
シンジはスクリーンに映るアスカの顔に一筋の汗が流れるのを見逃さな
かった。
「・・・・・うそだ」
「・・・・・うそね」
「シンジ!優等生!聞こえてるわよ」
「聞こえるように言ったもの・・・」
「あんた最近、明るくなったんじゃないの。ちょっと生意気よ」
エヴァから降り、帰ろうとする3人のパイロットの前でミサトは言った。
「ちょっとアスカ、あんたは居残りよ」
「ええー、なんでぇ?わたしの活躍でちゃんと使徒は倒せたじゃない」
「アスカ、この指いったい何本に見える?」
ミサトは自分の右手を示し、アスカに言った。
「バッカねぇ。人間の指は5本に決まってるじゃない」
「とぼけないで、立てた指は何本か聞いてるのよ」
「・・・・・・2本」
「正解は3本よ。やっぱり、視力検査をする必要があるわね」
「かなり、悪くなってるわね。思い当たる原因はあるかしら?」
「そんなものないわよ」
「アスカって、いつも行儀悪い姿勢でテレビみてたじゃないか。だからい
つも注意してたのに、言うこと聞かないんだから」
つきあいのいいシンジはアスカを待って残っていた。なぜかレイも検査
を無表情にながめていた。
「うるさいわよシンジ。過ぎたことでグタグタ言うのは男らしくないわ」
「まぁ、原因はともかく、コンタクトでもはめないといけないわね」
「嫌ぁよ。あたし、目、弱いんだもの。プールとか行った後でも、すぐに
目薬ささないと真っ赤になっちゃうの。コンタクトなんか入れたらまる
でファーストみたいな気味の悪い目になるわ」
「・・・碇くん、わたしの目って気持ち悪い?」
「ええっ?いや、そんなことないよ。綾波の目って印象的できれいだよ。
ボクは好きだな」
「・・・そう、良かった」
「アスカ、そんなこと言うなんてヒドいよ。綾波に謝りなよ」
「そうね。今のはアスカが悪いわ」
「なによ、なによ。どーせ悪いのはみんなわたしよ。バッカじゃないの」
「やれやれ。それはともかくコンタクトがダメなら眼鏡をかけるしかない
わね」
「眼鏡はもっとイヤ、ずぇ〜ったいイヤ!」
「なんで、眼鏡はダメなのさ?」
「決まってるじゃない!眼鏡なんかかけたらこの美貌に傷がつくわ」
「言ってることがよくわからないんだけど」
「ほんと、お子様ね。あんたス○パーマン見たことないの。あのかっこい
いスーパ○マンだって眼鏡をかけるとダッサいク○ークケントになるの
よ。それに日本のコミックにだって、ブスの眼鏡っ娘が眼鏡を外したら、
実は美少女だったってストーリーはいくらだってあるわ。逆に言えば、
眼鏡をかけるとブスになるのよ」
「・・・それって偏見じゃないの?ミサトさんもなんか言ってやってよ」
その時、ミサトの脳裏にはなぜかゲンドウやキール議長の姿が浮かんだ。
「なるほど、そうかもしれないわね・・・」
「何、言ってるのさ、ミサトさん!」
「え?いやその・・・あのねぇ、アスカ。そんなこと言ってる場合じゃな
いでしょ」
「とにかくイヤ」
「ねぇ、アスカぁ」
「イヤったらイヤ!」
その日の夕食は、ミサトが残業でシンジとアスカの2人きりだった。し
かし、そこでシンジは大失敗したことを悟った。
つるっ、ころころころ・・・・
つるっ、ころころころころ・・・
つるっ、ころころころころころ・・
アスカは執拗に煮豆をつまもうとしていた。が、どうしても煮豆はアス
カの口には入ってくれない。箸から逃げていくばかりである。アスカの顔
からどんどん表情が消えていき、その場の空気はどんどん重くなっていっ
た。
「ア、アスカ、スプーン持ってきてあげようか」
「いらない」
つるっ、ころころころ・・・・
「でも、それじゃいつまでたっても食べられないだろ」
「いい、いらない」
つるっ、ころころころ・・・・
「・・・・」
つるっ、ころころころ・・・・
「・・・・フウッ、アスカぁ、やっぱり眼鏡・・・」
ガタッ、アスカはいきなり席を立つと憤然として言った。
「ごちそうさま!!!」
「えっ、まだ全然食べてないじゃないか」
「もういらない。わたし寝るわ。おやすみ!」
アスカはきびすを返すとドタドタと自分の部屋へ行き、ドアを大きな音
を立てて閉めた。シンジは茫然として言った。
「いったい、なに怒ってんの?」
一方、アスカは閉めた扉を背につぶやいていた。
「シンジの鈍感バカ・・」
次の日、学校へ向かう2人だったが・・・・
今日はアスカはシンジの前を歩いている。最近、いつもアスカはシンジ
の後ろについて歩いていた。それは視力の落ちたアスカがシンジの背中を
目標にして歩いていたからだったが、珍しく前を歩くアスカはなんだかふ
らふらとしているようにシンジには見えた。
「ねぇ、アスカぁ」
「眼鏡のことなら聞かないわよ」
「だって、なんだか危なっかしいよ」
「うるさい、聞かないって言ってるでしょ」
「でも・・・」
「いいかげんにしてよね!」
「危ない、アスカ!!!」
赤信号の交差点に入っていくアスカに抱きついて押し倒すシンジ。すご
いスピードの車が倒れた2人のすぐ横を通り過ぎていった。
「危なかったぁ。大丈夫、アスカ」
下から見上げるアスカの顔がみるみる紅潮していく。シンジは自分の手
がアスカの胸をつかんでいるのに気付き、びっくりして飛び起きた。
「ご、ごめん、わざとじゃないんだ」
「・・・いいのよ、シンジ。それより助けてくれてありがとう」
アスカはシンジの方を見ないように、両手で胸を押さえながら言った。
「うん・・・さぁ、立って。遅刻しちゃうよ」
シンジの差し出す手をおずおずと取って、立ち上がるアスカ。
「ボクが手をひいてあげるから、アスカはボクの後をついておいでよ」
「うん、そうする」
しばらく手をつないだまま歩きつづけてから、シンジは言った。
「ねぇ、やっぱり眼鏡いるよ。今のアスカを見てると心配だもの」
「・・・でも、わたしシンジにはみっともない顔見せたくない・・」
悲しそうにアスカは言った。
「ええ?・・・大丈夫だよ、アスカに似合う眼鏡がきっとあるから」
しおらしいアスカの言葉に驚いたシンジだったが、すぐに笑ってアスカ
に言った。アスカは少し明るい顔になって言った。
「・・・うん、分かった・・・シンジの言うとおりにするわ」
ここは第3新東京市の眼鏡ショップ、そのお店の前にアスカとシンジが
やってきた。
「ねぇ、ほんとうに入るの」
「なに言ってるのさ?眼鏡つくるの納得しただろ」
「うん、そうだけどさ。でもぉ」
「ほらほら、入って、入って」
情けない顔をしたアスカの背を押して、シンジは店のなかに入った。
「いらっしゃいませ」
「ほら、アスカ」
「あのぉ、初めて眼鏡つくるんだけど、わたしに似合う眼鏡が欲しいの。
とにかく、わたしの美貌がひきたつようなヤツが」
女店員さんはクスクス微笑みながら、アスカを店の奥に導いた。
「それなら、こちらへどうぞ。お客様ならどんな眼鏡でもお似合いになる
と思いますわ」
「アスカ、ボクはここで待ってるから、ゆっくり選んでおいでよ」
シンジを置いて、店の奥へ行くアスカと店員は置いてある眼鏡を選び始
めた。
「どのようなデザインがお好みですか?」
「なんでもいいわ。ただし、みっともない顔にならなければね」
「分かってますわ。わたしも女ですから。あの男の子が惚れなおしちゃう
くらいの眼鏡を用意しましょう」
「あっ、あいつは関係ないじゃない。変な誤解しないでよ」
「ふふふっ、分かりました」
店員さんがシンジの方へやってきた。アスカはその背中に隠れている。
「お待たせしました。さあ、お客様、ちゃんと前に出てくださいな」
うらめしそうな顔をしたアスカが店員さんの背中から出てきた。その顔
を見たシンジは硬直して、口をぱっくりと開けた。
「・・・・」
「わ、笑いなさいよ。おかしいんでしょ。それなら笑いなさいよ」
「・・・・」
「な、なんとか言いなさいよ、シンジ」
「きれいだ」
「・・・えっ?」
「おどろいたな。すっごくよく似合うよ。それになんだかおとなっぽく見
える」
「・・・ほんと?シンジ」
「うん」
「・・・ありがと。シンジがほめてくれて、とってもうれしい」
真っ赤になってモジモジしている2人を見て店員さんは微笑むのだった。
「あら、よく似合うじゃない、アスカ。かわいいわよ」
「えへへ」
「ほらほら、シンジくんも何か言ってあげたら?」
「いいの、もうシンジはもうほめてくれたから。すっごくよく似合うって
言ってくれたんだ」
「そうなの? 意外とシンちゃんもやるわねぇ。ヒューヒュー」
「・・・そんなボクは別に・・・」
レイは赤くなったシンジをじっと見つめていた。
ビー! ビー! ビー!
その時、ネルフに非常警報がなり響く。
「どうしたの!?」
「パターン青、使徒です」
「エヴァンゲリオン全機発進!」
「綾波ぃ、援護して!」
ダダダダダダダッ、パレットガンを乱射する零号機だったが・・・・
「うわぁぁぁぁ、いったいどこ狙ってんの。使徒はあっちだよぉ」
「碇くん、わたしも目が悪くなったみたい。いっしょに眼鏡買いに行って
くれる」
「ええ?今それどころじゃ・・」
「なに言ってんのよ。なんでそんなことにシンジが付き合わなきゃならな
いのよ」
ダダダダダダダッ、再び乱射する零号機。弾は使徒を外れ、その向こう
に立っていた弐号機に着弾した。
「きゃああああ、なにすんのよぉ!」
「ごめんなさい。使徒を狙ったんだけど、目がよく見えなくて」
「う、うそ言いなさい。よくもわたしの弐号機に傷をつけてくれたわね」
弐号機は反撃し、零号機に向かってパレットガンを撃った。
「わたしは急所は狙わなかったのに・・・」
「言ったわよね。今、狙ったって言ったわよね」
「ちょっと、2人とも落ち着いてよ」
むなしい戦いは2機の間に立っていた使徒が流れ弾で殲滅され、2人を
止めようと間に飛び込んだ初号機が大破するまで続くのだった。
「しっかりしてぇ〜、シンジぃ」
「大丈夫? 碇くん」
「あんた、シンジをこんな目にあわせておいてよく言えるわね」
「当たったのはあなたの撃った弾よ」
「も、元はといえば、けんか売ってきたのはあんたじゃないの」
ぎゃあぎゃあわめく2人の口ゲンカを聞きながら、ボロボロのシンジは
ため息をつくのだった。
「・・・なんでボクはいつもこんな目にあうの?」
<Fin>
return