【SS】アスカの一日 A面



 わたしは、惣流アスカラングレー。エヴァンゲリオン弐号機パイロット。
わたしの一日は優雅に始まる。
 
 
 朝日の光のなか、わたしは目覚める。おもいっきり伸びをして、起き上が
る。壁の時計をみると 7:00 am. いつも通り、そろそろね。
「アスカ、起きた?入るよ」
 シンジが微笑みながら、朝食を乗せたトレイを持って入ってくる。わたし
も飛びっきりの笑顔で彼を迎える。彼はわたしの横で体をかがめ、わたしの
額にそっとキスをする。
「おはよう、アスカ。朝ご飯だよ」
「おはよ。シンジ、わあ、おいしそう」
 トレイに乗っているのは、バターロールとドレッシングのかかったサラダ。
スクランブルエッグにハーブティ。バターロールはシンジが通販で買ったパ
ン焼き器で作った焼きたてパン。なかなか馬鹿にしたものじゃない。ドレッ
シングもシンジ特製。おいしいのでレシピを聞いてみたことがあるけど、教
えてくれない。ボクがいれば、いつでも食べられるだろってさ。
「うん、おいしい、シンジありがと」
「アスカのその笑顔が見られるなら、作った甲斐があったよ」
「もう、シンジったら・・・バカなんだから・・・」
 
 
 お腹も心もいっぱいになったところで、わたしはお風呂に入る。もちろん
ちょうどいい湯加減になっている。シンジはわたしのことは全て分かってる。
 まずは、ひそかに自慢にしている長い髪をしっかりとすすぐ。シャンプー
やリンスは良い香りのするものを選んである。シンジはわたしを抱きしめる
とき、わたしの髪に顔をうずめてきたりするんだもの。次はボディシャンプ
ーでせっせと玉のお肌をみがく。いつシンジが求めて来たりしてもいいよう
に。もっとも、まだシンジにはそんなの早いみたいだけど・・・。わたし?
わたしはシンジなら・・・なにを言わせるのよ。
 バスタオルを体に巻いて、お風呂から出る。まずはキッチンに行って、冷
蔵庫からパックのミルクを取り出し、パックの口から直接飲む。
 ゴクッゴクッゴク・・・ミルクはしっかり飲んで、もっと出るとこ出るよ
うにしないとね。
 シンジは朝食のあと片付けで、お皿を洗ってる。お皿を洗ってても、意識
がわたしの方を向いているのを感じる。わたしの喉が動くをの見てる。彼は
ぎこちなくこっちを向きながら言った。
「あ、アスカ。またそんな格好で。それに直接パックから飲むなんて」
「いいじゃない。だって体がほてっちゃって暑いんだもん。それにミルク飲
 むの、わたしとシンジだけなんだから問題ないでしょ」
 うふふ、赤くなっちゃって。ちょっとは刺激しないと、全然進展しないも
んね。ほんとお子様なんだからぁ・・・
 
 
「おはよう、二人とも。またアスカ、そんな格好でシンジくんの前に出て」
 ミサトが、ようやく起きてくる。あたまはボサボサ、お目めはギラギラ。
だらしない格好だ。まあ、わたしにとっては良い引き立て役になってくれて
るわけだけれど。
「シンジの前だからよ。そんなことも分かんないの、ミサト」
「子供のくせに言うようになったじゃない」
 真っ赤になったままで、シンジがおずおずと口をはさむ。
「アスカ、そろそろ着替えないと。学校遅れちゃうよ」
「いっけなーい。じゃあ、着替えてくるわ」
 わたしは慌てて、部屋に戻る。けど、キッチンの出口でちょっと立ち止ま
り、振り向いた。わたしはいたずらっぽく笑う。
「ねぇ、シンジ。真っ白いパンティと水玉のとどっちがいい?」
「ええ!? ど、どっちがいいって、そんなこと言われたって」
 真っ赤な顔でどもっちゃって・・・かわいい。ミサトがあきれたような顔
をしている。
「アスカ、いい加減にしたら。シンジくんが可哀想じゃないの」
 わたしは笑って、部屋に戻る。ちょっと考えて真っ白いのにする。やっぱ
シンジは清潔な感じのが好きそうだもんね。学校の制服を身につけ、鏡の前
に立つ。よし!完璧。アスカ行くわよ。
 
 
「いってきまーす」
「二人ともいってらっしゃい」
 ミサトに見送られて、わたしとシンジは玄関からそとに出る。最近はヒカ
リたちも迎えに来なくなった。なんでも、ヒカリは鈴原と二人っきりで登下
校してるらしい。ヒカリも積極的になったもんね。初めはあんなにいじいじ
してたのに。相田はかわいそうに独りになってしまったらしい。まあ、あい
つにはカメラという恋人がいるから大丈夫でしょ。
 わたしはシンジの隣りにならんで歩く。カバンはシンジが持ってくれてる。
別に頼んだわけじゃないわよ。でも、まあ当然のことよね。
「それからね・・・」
 駅までの十分間わたしはシンジにいろんなことを話しつづける。おかげで、
シンジにはわたしのこれまでの生活をみんな知られちゃった。昔は、こんな
こと話せるような人、そばにはいなかった。初めて船の上で会ったとき、さ
えない男の子だと思ったけど・・・そばにいてくれることがこんなに安らげ
るなんて・・・こんな気持ちを教えてくれただけでも、シンジにはお礼を言
いたい。
 シンジも最近は少しずつわたしに自分のことを教えてくれるようになった。
わたしと同じくらい、いやそれ以上につらい人生を送ってきたと思う。それ
でいて、わたしを支えてくれるだけの力を持っている。シンジに負けたのも
当然だったのかなって、近ごろは思える。
 駅からはモノレールで学校のある町へ。最近、このモノレールは結構混雑
する。でもわたしはあまり気にしない。シンジが守ってくれるから。ドアの
横の隙間にわたしを置いて、自分はしっかりドアに手をついて身を支える。
「アスカ、苦しくない?」
 はたから見ればシンジに抱きしめられているように見えるだろう。もっと
もわたしの心はずっとシンジに身動きもできないくらいに抱きしめられてい
るわけだけれど。
 モノレールを下りると、もう周りは学生でいっぱいだ。知り合いもいっぱ
いいるので、シンジに甘える事はもうできない。シンジはそういうのを人に
見られるの嫌うんだもの。見せつけてやればいいのに・・・特にあの女には。
 そう、あの女、綾波レイ。シンジのことなんて関係無いって顔しちゃって
さ。ホントはシンジが欲しいくせに・・・正直でないところが気に入らない。
そのくせ、わたしのシンジの気を引こうとするんだから。もっと正々堂々と
挑戦してくれば、ちゃんと受けてたってあげるのに。まあ、わたしの完勝に
決まってるけどね。ともあれ、今のまんまじゃライバルにしてあげるわけに
はいかないわ。
 
 
 教室に入るとヒカリと鈴原、相田、そしてあの女がもう席についていた。
シンジはまっすぐ鈴原たちのもとへ、わたしはヒカリたちのところへ行く。
「おはよう、ヒカリ」
「おはよう、アスカ」
 朝の情報交換はきのう見たテレビドラマのこと、友達の恋愛に対する助言
(なにしろわたしはシンジと同棲?しているので友人からは一目おかれてい
るのだ)など。考えてみればドイツでは、こんな話しができる友人はいなか
った。わたしと同じくらいの年をした人は周りにいなかったしね。学校の授
業はつまらないけど学校に行くこと自体は嫌いじゃない。日本に来て本当に
良かったと思う。
 ふと気付くと、シンジがあの女と何か話している。全く油断もスキもない。
何を話しているのか耳をすませる。
「今日の初号機と零号機の相互互換テストは中止だって赤木博士が言ってた
 わ」
 そういえば今日だったっけ。色気のない話しでホッとする。でも、あとで
シンジには自分が誰のものかしっかりと教えておかないとね。
 
 
 授業中、つまらない講義。だから、シンジを見ている。シンジは一生懸命
授業を聞いているようだ。でも、当てられると答えられない。ゆっくり考え
れば分かることなのに、気ばかりあせってますます分からなくなっていく。
 ピッ!シンジの端末にメールが届く。送ったのはもちろんわたし。シンジ
はその通りに答える。先生の顔が和らぐ。シンジは座るときにこっそりこっ
ちを見て、手を振る。わたしは幸せな気分になって微笑む。気付くと先生も
意味有りげにこっちを見て笑っている。ばかシンジ、ばれちゃったじゃない。
 
 
 体育。男子はサッカー。女子は先生がお休みで自習。もちろんみんなで男
の子の応援にいく。シンジは結構逃げるのがうまい。ボールを持つと、相手
チームのデフェンスをかいくぐり、敵チームの奥深くまで進む。敵を引き付
けておいて、センタリング。フォワードの鈴原がきれいに決める。
「やったあ、鈴原ぁ」
 ヒカリが黄色い歓声をあげる。結局、そのゲームはシンジのチームの勝ち。
鈴原のハットトリックにヒカリは大喜びだけど、全てシンジのアシストがあ
ったればこそだ。そのシンジも鈴原をねぎらいながら帰ってくる。もっとシ
ンジは目立ってもいいのに。あれ?目立たないといえば相田はどこだろう。
え?チームの監督?なるほど・・・確かに邪魔にはならないわね。
 
 
 体育が終わるとようやくお弁当だ。鈴原はこの時間のために学校へ来てる
って言ってるけど、わたしもそうかもしれない。シンジの席へ行って、向か
い合わせに座る。ヒカリたちもやってくる。シンジがお弁当を出す。3人分
だ。最近はあの女もシンジのお弁当を食べる。一緒には食べないけれど気に
いらない。肉を食べないから、シンジも献立に苦労してる。止めちゃえばっ
て言ったら、シンジはとても悲しそうな顔をしたので、なんだか悪いことし
たみたいで何も言えなくなった。どうしてシンジはあの女を気にするんだろ
う。シンジが好きなのはわたし。自信を持ってそう言える。でも、あの女と
シンジとの絆を感じる。それはわたしとシンジとの絆とは違ったものだ。一
体それはなんなのだろう。シンジにこの不安、気付いてほしい。
「どうしたの、アスカ。なんか嫌いなものでも入ってた?」
「違うの、何でもないのよ、シンジ。シンジのお弁当大好きよ。とってもお
 いしいんだもの」
 わたしは笑って言った。そしたらシンジも嬉しそうに笑いかけてくれた。
とりあえず、シンジがわたしに向けてくれる想いは本物だ。わたしはシンジ
のことを信じよう。シンジがわたしのことを信じていてくれるように。
 
 
 午後はいつも、シンジは寝てる。まあ、朝早いし、しょうがないわね。こ
の時間、先生は独りでセカンドインパクトの話ししてるだけだし。ゆっくり
寝かせておいてあげよう。それにしてもシンジの寝顔って無防備な感じでな
んだかかわいいな。わたしもぼおっとシンジの顔を見ながら、そんなことを
考えてるうちに寝てしまった。よく覚えてないけど夢のなかにもシンジがい
たみたいだ。寝言でシンジの名前を呼んだってヒカリに冷やかされちゃった。
 
 
 放課後、いっしょに帰る。今日はテストが中止になったので、シンジと二
人っきりで帰れる。嬉しい。
「アスカ、帰りにスーパーに寄っていくから先に帰って」
「わたしも付き合うわ。いっしょにいきましょ」
「え?でも、スーパーなんかおもしろいものなにもないよ」
「あんたバカぁ?少しの間でもシンジといっしょにいたいって言ってるの」
 笑っていうわたしにシンジはまたも真っ赤になってしまった。我ながらい
まのは言い過ぎかな。
 スーパーでは、二人仲良く買い物かごを押して、お買い物。
「これなんかいーじゃない」
「アスカ、奥の方から取った方がいいよ」
「なんで」
「そっちの方が新しいから」
 シンジはなんでも知ってる。なんだか嬉しくなる。
「こんにちは、いつも兄妹仲がいいわねぇ」
 同じマンションに住むおばさんだ。わたしとシンジを兄妹だと勘違いして
いる。まぁ、そう思っててくれた方が面倒がないんだけど、ちょっと不満。
軽くあしらって、とっとと離れることにした。
「ねぇ、シンジ。これ食べたい」
「ねぇ、シンジ。あれ欲しいの・・・ダメ?」
 おねだりするとシンジは困ったような顔をするけど、結局言うとおりにし
てくれる。わたしはシンジの困った顔が見たくていっぱいおねだりしてしま
った。持ち帰るのが大変だ。
 
 
 家に帰ると早速、シンジは夕食の支度。一方わたしはドラマの再放送を見
る。これだけは見逃せないんだもの。一時間後、ドラマが終わって、キッチ
ンに行くと、もうあらかたの料理は完成してる。シンジって料理の鉄人よね。
なにもしないのも申し訳ないので、ご褒美をあげる・・
「あ、アスカ・・ング」
 真っ赤になっちゃって・・かわいい。
 料理をテーブルの上にならべる。これはわたしも手伝う。夕食の準備完了。
そろそろミサトも帰ってくるかな。
「ただいまぁ」
「おかえり、ミサト」
「おかえりなさい、ミサトさん」
 早速、夕食にする。おなかペコペコだ。一口食べる。おいしい。とても嬉
しくなる。
「今日のテスト。どうして延期になったんです」
「リツコが急に出張でね。まあ、別にいなくてもテストはできるんだけど。
 いま、そんなに急がないしね」
「そうなんですか?」
「テストは3日後になると思うわ」
「ねぇ、ミサト。弐号機との相互互換テストはないの?」
「あら、アスカが弐号機以外に乗る気あるの」
「零号機はごめんだけど、初号機ならいいかな・・なんて」
「残念だけど。互換性があるのは零号機と初号機だけなのよ。弐号機からは
 量産化のためにちょっと方式が変わっててね」
 ちぇ、なんだか悔しい。いーわよ、わたしにはやっぱり弐号機が似合うの。
 
 
 夕食のお片付けはわたしも手伝う。ミサトはビールを五本も飲んで、ちょ
っといい気持ちみたい。あ、六本目。こんな女のどこがいいのかしら、加持
さんたら。こんなところにいられると邪魔なんだけどな。もちろん、わたし
は全然気にならないけど、シンジがねぇ。
「あ、アスカ。もっとそっちに離れて」
「なによ。いいじゃない」
「だって、ミサトさんが見てるよ」
「気にしない、気にしない。カボチャだと思えばいいのよ」
「なんか、お邪魔みたいね。邪魔なカボチャはリビングに退散するわ」
 あはっ、いっちゃった。これでシンジと二人きり。もっと接近。シンジは
ますます赤くなったけど、今度は何も言ってこない。なんかキッチンに二人
でいると新婚みたい。
「なんか、わたしたち新婚みたいね」
 会心の一撃!シンジの顔は弐号機より真っ赤。千鳥足でふらふらだ。やっ
ぱりわたしは無敵よね。
 
 
 夜はテレビの前に陣取って、ドラマを見る。前はミサトとわたししか見な
かったけど、最近はシンジもつれてきて、一緒に見ることにしてる。おかげ
でシンジの経験値もちょっと上がってきたみたい。たまーに気の効いたこと
を言ってくれるようになった。今日のドラマはキスシーンがあった。ステキ
なシーンだった。頭の中で配役をシンジとわたしに代えてみる・・・まだま
だシンジには無理ね。もっと教育しなくちゃ。
 
 
 8時から10時までドラマを見続けてから、アスカ先生の家庭教師の時間。
要するにシンジと宿題をするのだ。シンジは決してバカじゃない。一度理解
すれば、その後応用問題もできる。ただ、最初理解するまでに時間がかかる
みたい。細かいところまで理解しようとするからだと思う。もっとうわっつ
らだけ理解してれば学校の宿題を解くのには困らないのに。シンジらしいと
思う。
 
 
 宿題が終わるともう寝る時間だ。睡眠不足はお肌の大敵。シンジのために
も早く寝ることを義務にしている。自分の部屋の前でシンジと別れる。
「ねえ、シンジ。一緒に寝ようか」
「な、何言ってるんだよ、アスカ。そんなのまだ早いよ」
「ふーん、『まだ』早いのね」
「あ、その、それは」
 クスクス、シンジってば。もう逃げられないわよぉ。
「シンジ、お休みのキスして」
「あ、アスカ」
 目をつぶり、顔をこころもち上向けて、シンジを待つ。そのまま辛抱強く
待つとシンジは根負けしてわたしの肩に手をかける。短い時間。
 ベッドに入って、今のキスを思い出す。シンジからしてくれたってのが貴
重よね。おやすみ、シンジ。あなたの夢をみるわ・・・zzz・・・
 
 
 アスカはわなわなと肩を震わせるとヒカリに言った。
「なによ、これェ」
「言ったじゃない、文芸部で本を作るからアスカを主役に小説書くって」
「わたしはスーパーヒロインがでる話しだと思ってたわよ。こんなの本にし
 ちゃって誰かに誤解されたらどうしてくれるのよぉ」
「大丈夫よ。多少オーバーに書いてるけど誤解じゃないから」
「ひ、ヒカリ?」
 目がすわってしまっているヒカリにアスカはおびえた。
「いい加減、素直になりなさいよ。このアスカ可愛いでしょ」
「そ、そりゃ可愛いけど、でも、そんな・・」
「さて、碇くんたちにも見せてこよう」
 アスカは真っ青になって、ヒカリを追いかけた。
「ま、待ってェ。それだけは許して、お願い〜〜」
 
                        <Fin>
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