【SS】幼なじみ



「バカシンジ!起きなさい。起きなさいってば!」
 シンジが目を開けると、そこには制服を着たアスカの姿があった。
「うーん、朝ぁ? なんだよ、アスカかぁ」
 アスカはキツネ目になって、シンジに抗議した。
「あんた、それがわざわざ遅刻しないように起こしに来てくれた幼馴染みへの
 感謝の言葉ぁ?」
「ありがとうアスカぁ。いつも感謝してるよぉ。だから、あと5分・・」
「このバカシンジ。さっさと起きろって言ってるのに・・・」
 あっちを向いて、再び眠りにつこうとするシンジの布団をはいだアスカの目
になにやら怪しげなものが映った。みるみる頬を紅潮させるアスカ。
「このバカぁ。乙女になんてもの見せるのよぉ」(パンッ!)
「何するんだよ。朝なんだから仕方ないだろ!」
「何が仕方ないのよ。レディの前だってこと忘れてんじゃないの」
「へぇ〜、どこにレディがいるんだって?」
 アスカはものも言わずにシンジをぶっとばした・・・
 
 
「上がうるさいな、ユイ」
「いつものことですわ、あなた。シンジもアスカちゃんが迎えにきてくれるん
 だから早く起きればいいのに。悪いとこばかりあなた似なんだから」
「(シンジ、14才で、すでに女の尻にしかれているとは不憫なヤツだ)」
「あなた、聞いてるんですか。新聞ばかり読んでないで早く支度してください。
 冬月先生に怒られるのはわたしなんですからね」
「うむ、分かっているよ(シンジ、やはり少し考えた方がいいかもしれんぞ)」
 
 
 シンジとアスカは学校に向けて走っていた。
「シンジがまた寝ちゃうからぁ・・・わたしまで遅刻じゃない」
「ごめん・・・(別に寝たワケじゃない。気絶したんだ・・・)」
 胸中に湧いてくる抗議の言葉を押さえつけ、シンジは話題を変えた。
「そう言えば、今日転校生が来るんだよね」
「ここも、もうすぐ首都になるからね。人はこれからどんどん入ってくるわよ」
「ミサト先生は女の子だって言ってたよね。可愛い娘だといいなぁ」
 アスカの顔がみるみる不機嫌になっていくのを見てシンジは自分の失言に気
がついたが、言ってしまった言葉は取り戻せないのだった。
「くぉの、バカシンジ。すぐそばにいる可愛い女の子になんか不満なワケ?」
「そんな、アスカが可愛いってことは知ってるよ。これで性格がマトモなら完
 璧さ」
 フォローしたつもりで墓穴を掘るのがシンジだろう。後ろから突き飛ばされ
たシンジは曲がり角から出てくる人影を避け切れず、押し倒してしまった。
 それは印象的な赤い目をした端正な少女で、シンジはその目と近距離で見つ
めあう。
「・・・・」
「・・・・」
 そして、見つめあうこと数十秒。
「・・・・どいてくれる」
 我に帰り、慌てて少女の上から身を起こすシンジ。
「あっ、ごめん。わざとじゃないんだ。ちょっと止まりきれなくて」
 必死に弁解するシンジを無視して、その少女は言った。
「気にしなくてもいいわ。それより早く行かないと遅刻するわよ」
 少女はさっさと走り去る。少女の後ろ姿を魅入られたように見送り、シンジ
がため息をつきながら振り向くと、そこには青い目をした鬼がいた。
「シンジぃ、今のはどういうことかしら」
「あ、アスカ・・元はと言えばアスカが突き飛ばすから・・・」
「問答無用!お仕置きよぉ!」
 ・・・・・・・合掌 
 
 
「おっはよー、みんな」
 元気よくアスカが教室に入ってくる。その後ろにいるシンジを見て、教室の
誰もが言葉を失ったのは何故だろうか・・・
 よろよろと机に着くシンジにトウジとケンスケが心配そうに話しかけた。
「センセイ、また余計なこと言うたのか」
「いいかげん、惣流の操縦法覚えないと命にかかわるぞ」
「ほっといてよ」
「ホンマ、あんな乱暴な女を彼女にしとるセンセイの気がしれんわ」
「別に彼女じゃないよ。ただの幼馴染みさ。でもアスカにだっていいところは
 あるんだからそんな言い方しないでよ」
「おやおや、惚れた弱みってヤツかぁ」
「アバタもエクボやな。まあ、余計な心配やったらしいな」
「そんなんじゃないったら」
「無理しなさんなって」
 3バカの会話はもちろん、アスカやヒカリにも聞こえていた。
「バカトウジ。あとで覚えてらっしゃい」
「いいじゃない、碇くんはアスカのこと、ちゃんと分かってるみたいだし」
「な、なんで、シンジの言葉で喜ばなきゃなんないのよ。アイツはただの幼馴
 染みってヤツよ」
「あら、それにしてはずいぶんと嬉しそうじゃない。あたしはアスカが羨まし
 いな。あたしも鈴原にあんなこと言われてみたい」
「ヒカリぃ・・・自信持ちなさいよ。あんたはホント可愛いんだから」
 キィィィィィ、その時、真っ赤な車がブレーキ音を響かせて駐車場に急停車
し、なかからサングラスをかけた女性がさっそうと現れた。第一中のアイドル
ミサト先生である。
 校舎に手を振りながら歩いていく姿を一目見ようと、窓という窓には男子学
生の顔がすずなりだった。もちろん、3バカも例外ではない。
「やっぱ、ミサト先生はええのう」
「うんうん、やっぱ大人の魅力だよなぁ」
「あれを見ちゃうと女子が子供に見えるね」
 アスカとヒカリはさっきまでの会話を忘れ、ハモッて言った。 
「なによ、バッカみたい!」 
 
 
「男子諸君喜べ。今回の転校生はなかなか上玉だぞ」
「綾波・・・レイです」
 ミサト先生の紹介で、教室に入ってきた少女を見て、シンジは驚いて立ち上
がった。
「ああー、さっきの・・・」
「あなたはさっき、わたしを押し倒した人ね・・・」
 単純明快な少女の言葉は教室に嵐を巻き起こした。
「えぇぇぇぇぇーーーー!!!!」
「シンジ、お前はなんちゅうことを・・・」
「そんなうらやましい・・・もとい非常識なことをするやつだったのか」
「碇くん、不潔よ。見損なったわ。アスカちゃんのことどうするつもりなの」
「そんな、あれはただの偶然だよ。事故だよ、事故。そうだ!アスカ、なんか
 言ってやってよ」
 しかし、ニヤリと笑ったアスカの顔を見て、シンジはさらに厄介なことにな
ることを知った。アスカはいきなり突っ伏すと、うそ泣きし始める。
「ひどいわ、シンジ。わたしというものがありながら・・うわぁぁぁん」
「あっ、アスカ。何言ってるんだよ。みんなが本気にするじゃないか」
 しかし、教室の空気はすでに可哀想なアスカの味方になっていた。シンジは
いまさらながら、アスカの恐ろしさを知った。
「いーかーりーくーん」
「シンジ、見損のうたで」
「シンジくん、綾波さん、ちょっと職員室まで来てくれるかしら」
「誤解だ。これはアスカの陰謀だぁ〜〜」
 
 
「そういうことだったの」
「そういうことだったんです」
「ふーん、惣流さんも仕方ない娘ねぇ。でも、いいわね、シンジくん。あんな
 可愛い娘にそんなに想われてさ」
「そんなんじゃないですよ。アスカはボクをからかって遊んでるだけです」
「それはどうかしらね。ま、いいわ。これも何かの縁だし、シンジくん、しば
 らく綾波さんの面倒みてくれる。綾波さんがこの学校に慣れるまでね」
「え? まぁいいですけど・・・」
「じゃ、お願いね。綾波さんもそれでいいわね」
「はい」
 教室に戻るシンジの後ろに、何も言わずについてくるレイ。シンジは勇気を
だして話しかけてみた。
「ホントにさっきはごめんね。それにこんなふうに職員室に呼び出されること
 になっちゃってさ」
「別にいいわ。気にしないで」
 口数の少ないレイに対し、反動からか、いつも以上にしゃべりまくるシンジ。
教室につくまでに学校のこと、この街のことをほとんど教えてしまった。
 レイは自分からは何も言わないが、質問すると答えてくれるし、その答えか
らすると自分の話を聞いてないワケでもない。シンジはなんだか気が休まる娘
だと好感を持った。
 
 
 その頃、教室では・・
「おい、碇があの娘の世話係になったらしいぞ」
「ちぇっ。うまいことやりやがって」
「おい、静かにしろよ。惣流の逆鱗にふれたいのか」
「げっ、惣流のヤツ、すごい顔してるな。くわばら、くわばら」
 その時ヒカリは必死でアスカをなだめていた。
「ねぇ、アスカちゃん、落ち着いて。ねっ」
「なに言ってるのよ。わたしは落ち着いてるわ。おかしなヒカリ、くすくす」
 口は笑いを形作っているが、顔の上半分は笑っていない。
「(エーン、こわいよぉ)」
 それをみながら、トウジとケンスケは聞こえないようにコソコソと言った。
「碇を完全な下僕にするための大芝居だったのにな」
「アホやなぁ、それで墓穴ほっとるんやから世話ないわ」
 忍び笑いする二人のそばに影がおちた。
「なに話してるの?」
 にっこりと可愛く笑うアスカに硬直して、ふるふると首を振る二人。
「べ、別に何も」
「そう? それじゃね」
 去っていくアスカの背を見ながら、命拾いした二人は滝のように汗を流しな
がら同じことを思っていた。
「(シンジってすごいヤツなんじゃないか?あんなの彼女にしてるなんて)」
 その時、シンジとレイが教室に入ってきた。途端に教室内の緊張は高まった
が、そんなことに気付くようなシンジではなかったし、そんなことを気にする
ようなレイでもなかった。
「おかえりぃ、シンジ」
 にこにこしているアスカにシンジはなぜか背中が寒くなるのを感じたが、気
のせいだと思い、シンジはさっきのことで文句を言った。
「ひどいよ、アスカぁ。全部見てたくせになんてこと言うんだよぉ」
「ごめんなさい、シンジ。悪かったわ。どうか許してね。お・ね・が・い」
 シンジはアスカが簡単に自分の非を認めるのを不思議に思ったが、しおらし
いアスカの姿に増長し、またしても失言した。
「おかげで綾波にまで迷惑かけちゃったじゃないか。彼女にも謝りなよね」
 いつのまにか、教室からは誰もいなくなっていた。あたかも沈みかけた船か
ら、ネズミが逃げ出すように。そして、シンジは引き金を引いてしまったのだ。
 教室に嵐が吹き荒れた・・・・
 静かになった教室をのぞいた人間は妙にさっぱりした顔をしたアスカと、相
変わらず平然としたレイ、そして床に横たわるシンジの姿を見た。
 
 
 昼休みになった。
「シンジぃ、おべんと食べよ」
 アスカはシンジの席までいそいそと来て、言った。シンジは見事に復活して
いる。だてに毎日折檻を受けているワケではない。シンジは無類の打たれ強さ
を獲得していた。アスカもさっきまでの不機嫌はどこへやら。すっかりご機嫌
である。
 シンジの弁当はアスカが作ってくる。ゲンドウとユイは共働きなので、シン
ジの弁当まで作っているヒマがない。でも最初、ユイはアスカのママに頼んだ
のだが、アスカが自分の弁当を作る"ついでに"と言い張って今にいたっている。
こうなる前は自分の弁当も親任せだったにも関らず・・・
 シンジはレイに言った。
「ええと、綾波、お弁当は?」
「パンを買うわ」
「購買の場所分かる?」
「分からない」
「じゃあ、連れてってあげるよ」
「ちょ、ちょっと、シンジ、お弁当どうするのよ」
「ちょっと待ってて、綾波を購買まで連れてくから」
 アスカが何も言えないうちにさっさと出ていく二人。アスカはしばらく茫然
とした後、叫んだ。
「シンジのぶぁか〜〜」
 
 
「碇くん、いいの?」
「えっ、何が」
「惣流さんと付き合ってるんでしょ。あまりわたしにかまわない方がいいわ」
「アスカとは、ただの幼馴染みだよ。向こうだってそう言ってる」
「そうは見えないわ」
「綾波は前の学校では誰か付き合ってる人とかいたの?」
「・・・いいえ、いないわ・・・なぜそんなこと聞くの?」
「えっ?なぜかな・・なんとなく知りたかったから」
 レイは足元を見ながら、つぶやいた。
「・・・わたしに近づいてきた人はいたわ。でも、みんな離れていった。つま
 らない娘だって。何も話さないから張り合いがないって」
 シンジは悲しげに言うレイをしばらく見つめ、静かに言った。
「・・・そんなことないよ。綾波はボクの話をちゃんと聞いてくれてたじゃな
 いか。話しかければちゃんと答えてくれるしね。ボクはなんだか綾波といる
 と心が落ち着くような気がするけどな」
 微笑みかけるシンジから目をそらし、レイは言った。
「ごめんなさい、こんなときどういう顔すればいいのか分からないの」
「・・・笑えばいいと思うよ」
 
 
 教室に戻ってきたシンジは、アスカの席の方へ行った。
「アスカ、ボクのお弁当」
「ないわ」
「えっ? だってさっき・・」
「捨てちゃったわよ。そんなもの」
「そんな嘘だろ」
「なんでこんなこと嘘つかなきゃならないのよ。とにかく無いものは無いんだ
 から、あっち行ってよ」
「そんなぁ」
 トボトボと席に戻ったシンジの机にパンが一つ置かれた。
「碇くん、これ食べて。なんかわたしのせいで迷惑をかけたみたいだから」
「でも綾波は?」
「もう一つあるから」
「ありがとう、綾波」
 いっしょに食べ始めたシンジとレイ、そしてそれをじっと見ているアスカ。
教室の誰もが何も起きないことを天に祈るのだった。
 
 
 しかし、なにごともなく授業は終わり、下校時間となった。
「アスカ、帰ろう」
「愛しの綾波さんと帰ったらぁ?」
「な、何言ってんだよ。アスカぁ」
「イーだ。帰りましょう、ヒカリ」
「いいの?アスカ」
「いいのよ。こんなヤツ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、アスカぁ」
 ヒカリを引っ張ってさっさと行ってしまうアスカを茫然と見送るシンジに
ケンスケとトウジが声をかけた。
「シンジ、ご愁傷さまやの」
「いつかこういうことになるんじゃないかと思ってたけど」
「なんだよ、それ」
「なぁ、惣流ってこの学校じゃ、けっこう人気あるって知ってるか?」
「そうそう、性格はともかく見栄えは最高やからな。はたから見とるとシン
 ジにぞっこんに見えるから、これまで誰も手ェ出さんかったけど、これで
 惣流を狙う男どもが小躍りしとるやろな」
「そ、そんなことボクには関係ないよ。だってアスカはただの幼馴染みだし」
「本当に幼馴染みだと思ってるならいいけど、そうでないなら早く仲直りし
 ないと、戻れなくなるぞ」
「悪いことは言わん。とっとと謝っちまえや」
 落ち着かないように周りを見回すシンジの目にレイが映った。レイは悩む
シンジを見つめていた。
「綾波、まだこの辺の地理に慣れてないだろ。送っていくよ」
「お、おい、碇ぃ」
「・・・・碇くん、いいの?」
「うん」
 帰っていく二人を見送り、トウジは言った。
「バカなヤツやな。きっと後悔するで」
 
 
 アスカとヒカリは公園のぶらんこに座っていた。
「ねえ、アスカ」
「・・・」
「いいの、このままじゃ、碇くんと離れちゃうわよ」
「シンジはただの幼馴染みよ。それ以上の関係じゃないわ」
「お弁当だって捨てたなんて嘘ついて」
「シンジに食べさせるお弁当なんかないわよ」
「このままじゃ絶対後悔するわよ。お昼の綾波さんの顔を見たでしょ。碇く
 ん取られてもいいの?」
「うるさいわね。いいからほっといてよ!」
「ほっとけないわよ!!・・・だって友達なんだもの・・」
 泣き出したヒカリを慌てて慰めるアスカ。
「ご、ごめん。わたしが悪かったわ。泣き止んでよ、ヒカリ」
「いいの、ごめんね、アスカ。泣いたりなんかして。あっ!」
「どうしたの?わたしの後ろになんかあるの?」
「ダメ。振り向いちゃ」
 振り向くアスカを止めようとするが間に合わない。公園の外をシンジとレ
イがツーショットで歩いていくのが見えた。二人の姿が見えなくなるまで動
かなかったアスカがヒカリの方を振り向いた時、真っ青な顔をしていた。
 しばらく、アスカは何も言わなかったが、おもむろにカバンからシンジの
弁当箱を取り出すと、公園のごみ箱に放りこみ、ヒカリを置いて駆け出して
いった。
 
 
 一方、シンジとレイは二人並んで、レイの家の方へ向かっていた。今度は
シンジも何も話そうとしなかったので、二人の間には会話が無かった。
「碇くん・・・」
「・・えっ、なに? ごめん、何か言った?」
「ここまででいいわ。この辺は見覚えがあるから」
「ここでいいの? 綾波。家まで送った方がいいんじゃない?」
「あまり優しくしないで。つらくなるから」
「え?」
 レイはじっとシンジの顔を見つめる。シンジもまたレイを見つめた。その
まま無言でしばらく動かずにいたが、ついにシンジが言った。
「ごめん、綾波」
「いいの、ありがとう。さよなら」
 レイは一度微笑んで、そしてきびすを返すとシンジから離れて行った。
 
 
 次の日、シンジが目覚めるともう9時だった。シンジは飛び起きて学校へ
向かう。
「なんで、起こしてくれないんだよ。アスカぁ」
 一時限は当然、遅刻である。教室におそるおそる入っていったシンジの前
にいたのは物理のリツコ先生である。
「シンジくん、どうして遅刻したの」
「すいません、寝坊しちゃって」
「そう、例えどんな理由があっても特別扱いはできないわ。分かってるわね」
「(だったら理由なんて聞くなよ)分かってます」
「じゃあ、廊下に立ってなさい」
 うらめしそうにアスカを一瞥したシンジはぞっとした。アスカはまるでシ
ンジのことを知らないみたいに無関心な目で見ていたのだ。シンジは心に、
ひびが入る音がしたように思った。
 
 
 なかなかアスカの方へ近づく勇気がでなかったシンジだった。しかし、昼
になってシンジはお弁当をダシにアスカに話しかけることにした。
「アスカぁ、ボクのお弁当」
「無いわ」
「冗談だろ、アスカ」
「もう、わたしはシンジのお弁当なんかつくらないわ。迷惑だから、もうわ
 たしに近づかないで」
「なんだよ、これまでボクにうるさく付きまとってたのはアスカの方じゃな
 いか」
 アスカはシンジから目をそらして言った。
「そう、シンジも迷惑だったワケね。だったらもう何も問題ないじゃない。
 わたしはシンジが嫌い。シンジもわたしが嫌い。全てノープロブレムね」
「そんなこと言ってないだろ。おかしいよ、アスカ」
「うるさい、わたしは気がついたのよ。あんたはわたしにとって、ただの幼
 馴染みでしかないことにね」
「そんな、嘘だろアスカ。ボクはやっと気付いたのに。アスカがボクにとっ
 て、ただの幼馴染みなんかじゃなかったことに」
 そういうと、シンジは振り返り、教室の外へ走り出していった。
「えっ、シンジ。いまなんて・・・」
 アスカの問いかけはシンジには届かなかった。茫然とするアスカにレイが
近づいていった。
「惣流さん。碇くんはあなたのことが好きなのよ。追いかけてあげて」
「えっ、でも、だって、シンジはあなたのことが」
「ううん、それは誤解よ。碇くんの心はあなたのことでいっぱいだもの。わ
 たしの割り込む隙なんかなかったわ」
「あなた、やっぱりシンジのこと・・・」
「いいの。これでいいのよ」
「あなた、いい人ね。わたしたち友達になれそう」
「・・・ありがとう」
 にっこりとレイは微笑んだ。その瞬間、それを見ていた教室内の人間全て
がレイを仲間として受け入れたのだった。
 
 
 シンジは屋上からぼうっと街を見ていた。そんなシンジに後ろから呼びか
ける声があった。
「バカシンジ」
 シンジはその声で全てが良いようになったことを知った。
「泣いてるの、シンジ」
「泣いてなんか無いさ、アスカ」
「ねえ、シンジ。さっきの言葉ホント?」
「ホントさ」
「ねえ、シンジ。もう一度はっきりと言ってくれる」
「ええ?なんで」
「ずぅっと待ってたんだから、もう一度ちゃんと聞きたい」
 シンジは振り向いて微笑んで言った。
「アスカはただの幼馴染みなんかじゃない。ボクはアスカが好きだ」
 アスカは天使のように笑って言った。
「シンジはただの幼馴染みなんかじゃない。わたしはシンジが好きよ」
 アスカはシンジに抱きついた。シンジもそんなアスカを抱きしめる。アス
カはシンジの顔を見て、ゆっくりと目を閉じた。
 
 
「ねぇ、アスカぁ、目を開けてよ。ねえってばぁ」
「うーん、なによぉ。シンジぃ、早くキスしてよぉ」
「ええっ?なに言ってるのさ、アスカぁ。早く起きないと遅刻しちゃうよ」
「ん?ここはわたしの部屋?きゃあぁぁぁ、なによあんた。女の子の寝起き
 を襲うなんてどういうつもり」
「仕方ないだろ。ちっとも起きてこないんだから。昨日は夜遅くまでシンク
 ロテストがあったけど、それにしたって目覚ましくらいかけておきなよ。
 それにいったい何の夢みてたのさ?キスってなんのこと?」
「え・・・・・どーして?どーしてわたしがあんたなんかとキスする夢見な
 くちゃなんないの?冗談じゃないわ。朝っぱらからさんざんな気分。それ
 もこれもあんたのせいよ」
「どうして、アスカが勝手に見た夢のことでボクが責められなくちゃならな
 いのさ。だいたいそんな夢見たってことは、実はアスカはボクのことが好
 きなんじゃないの?」
 現実世界のシンジもやっぱり一言多かった。 
 アスカはものも言わずにシンジをぶっとばした・・・
 
 
 シンジとアスカは学校に向けて走っていた。
「シンジがまた寝ちゃうからぁ・・・わたしまで遅刻じゃない」
「ごめん・・・(別に寝たワケじゃない。気絶したんだ・・・)」
 
                        <Fin>
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