【SS】ユニゾン 第2話



 ネルフの廊下をミサトとアスカが並んで歩いていた。アスカはシンジのプラグ
スーツを着て、ぷりぷり怒っている。
「ほんっと信じらんない!なんでわたしがこんな目にあわなくちゃなんないのよ」
『いい加減、機嫌直してよ、アスカぁ。誰のせいでもないだろ、これは』
「何、もの分かりのいいこと言ってんのよ、ばかシンジ。そうだ!そういえば、
 あんたってわたしの心覗いたのよね。この変態!エッチ!覗き魔!」
『仕方ないだろ!別に見たくて見たんじゃないよ、アスカの心なんて。それにア
 スカが大騒ぎするから、大して良く分からなかったし』
「そうっ!わたしが何を考えてるかなんてどうでもいいってわけね。そうよね〜、
 シンちゃんはこの世紀の美少女より、地味女の綾波レイの方がお気に入りなん
 だもんね」
『な、なにを言い出すんだよ、アスカぁ。綾波は関係ないだろ!それに、アスカ、
 ホントは見て欲しかったワケ?』
「ひ、人を露出狂みたいに言わないでよ、ばかシンジぃ!あんた、体があったら
 ぶっとばしてるところよ」
『なら、こうなったのはボクには幸いだったな。少なくともアスカに殴られるこ
 とは無くなったわけだし。もうアスカなんか怖くないや』
「…………碇司令を後ろから思いっきりけっとばしてから、あんたにバトンタッ
 チしてやる。変身は精神力の強い方の意志が優先されるから、あんたに勝ち目
 は無いわ」
『あ、アスカ……それ、冗談になってないよ。分かったよ、ボクが悪かったから』
「分かればいいのよ。これに懲りたら、もうわたしに逆らわないことね」
「アスカ、いい加減黙ったら?すれ違う人たちが変な目で見てるわよ。あんた、
 ハタから見てると一人言、叫んでるようにしか見えないんだからね」
 アスカは真っ赤になった。
「ばかシンジぃ〜〜!おかげで恥かいちゃったじゃないのぉ!!!」

 アスカは更衣室の前でミサトと別れ、プラグスーツから制服に着替えるため、
自分のロッカーを開けた。制服を取り出すアスカにシンジは言った。
『あのー』
「なによ、ばかシンジ」
『ボクは今、アスカが見るものはみんな見えるんだけど……』
「だからなによ。はっきり言いなさいよ」
『そのぅ、このままだとアスカが着替えてるところ、全部見えちゃうんだけど』
「!? ばかっ! シンジ、あんた、見たらどうなるか分かってるんでしょうね」
『そんなこと言ったって、アスカが目をつぶってくれないかぎり、見えちゃうん
 だよ』
「なんてこと……これじゃトイレにも行けないじゃないのぉ。このばかぁ!」
『ばかばか言わないでよ。そんなのお互いさまだろ』
「なにがお互いさまなのよ。あんたは男でわたしは女なのよ。あんたは恥かいた
 っていいけど、わたしはキレイな体で加持さんのところにお嫁にいけなくなっ
 ちゃうじゃない」
『……ホント、自分のコトばっかりなんだから』
「仕方ないわね……シンジ、交代するわよ」
『ええ?』
 ヴヴヴヴヴヴヴン
『じゃ、シンジ、プラグスーツ脱いで』
「へっ?」
『あんたが着替えるのよ』
「ボクにこの制服に着替えろって言うの?」
『そうよ』
「……い、嫌だぁ!!ボクにスカートをはけって言うのかよぉ」
『早くしないと誰か来るかもよ。そうね、ファーストとかにここで会いたいの?』
「……アスカの悪魔」

「こんなちっちゃいの、ホントにはけるの」
『ばか。人のショーツをジロジロ見ないでよ。あとプラグスーツを脱ぐ時はちゃ
 んと目をつぶってよね。わたしに気持ち悪いモノ見せないで』
「……気持ち悪いモノ」
 泣きながら、ショーツをはくシンジだった。
『ああ、ばか、そうじゃない。ブラのひもがちぎれちゃうじゃないの』
『ソックスは少したるませて、その方がいまの流行だから』
 ぎゃあぎゃあ言うアスカにすっかり諦念のシンジだったが、その甲斐あって、
見事に制服を着ることができた。
『ふふん、なかなか可愛いじゃない、碇シン子ちゃん』
「トウジたちには見せられない姿だ……」
『そうだ!さっそく、ミサトやリツコにこの勇姿を見てもらいましょう』
「ええええっ!ああっ、足が勝手に動く?」
『ふふん、表に出なくても、ある程度は動かせるみたいね。さっ、早くここから
 出ましょ。そうだ、司令室に行けばまだファーストもいるかもねェ』
「い、嫌だぁ。それだけは嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ヴヴヴヴヴヴヴン
「きゃあああああああ。あれっ、戻った。シンジぃ、あんた、わたしに逆らおう
 って言うの?」
『…………………………』
「返事が無い。ふん、また自閉症になっちゃったのか。ま、いーわ」
 アスカはロッカーから自分のカバンを取り出し、更衣室から出た。そとにはシ
ンジの荷物を持ち、ミサトが待っていた。
「長かったわねぇ」
「仕方ないでしょ。シンジに女の服の着方を教えなきゃならなかったんだから」
「し、シンちゃんが着たの?それ」
「だって、女の着替えを覗かせるわけにはいかないでしょ」
「なるほどねぇ。どうせなら、シンちゃんのままで出てくれば良かったのに」
「ほーら、シンジ。ミサトだって見たがってるじゃないのぉ」
『…………………………』
「返事くらいしなさいよ」
『……アスカの鬼ババ』
「なんですってぇ」
『…………………………』
「あんた、わたしにそんなこと言ってただで済むと思ってんの?」
『…………………………』
「返事しなさいってば」
『…………………………』
「分かったわよ。わたしがふざけすぎたわ。悪かったわよ。ホント辛気くさい男
 なんだから」
『……誠意が感じられない』
「……あんたね。わたしがひいてあげてるうちに機嫌直した方がいいわよ」
『ゴキブリ、素手で触ってやる』
「いやぁ、シンジさまぁ。わたしが悪かったわぁ。どうかお許し下さい〜〜」
『分かればいいよ』
「うううっ、シンジのくせに。シンジのくせにぃ」
 悔し涙にくれるアスカだった。

「さぁて、家に着いた。じゃ、さっそくご飯作って、アスカ」
「嫌ぁよ。それはシンジの仕事じゃない。わたしはテレビ見るんだから」
「アスカがテレビ見てたら、シンジくんがお料理できないじゃないの」
「わたし、テレビも見れないのぉ!」
 とんとんとんとん。
『シンジ、もっとテレビを見なさい!』
 キッチンのテーブルの上にテレビを持ってきたアスカだった。
「無茶言わないでよ。包丁使ってるのに」
『今いいシーンなのにぃ。お願い、シンジぃ』
「仕方ないなぁ」
 手を休め、テレビを見やるシンジ。テレビの中ではラブシーンの真っ最中であ
る。
「(あれ?胸がドキドキする。これってアスカの鼓動かなぁ。テレビドラマなん
 かに夢中になっちゃって。ホント子供だなぁ)」
『ねえ、シンジぃ。シンジがキスしたのってわたしが初めてよね』
「え?あ、そうダケド」
『わたしもあの時が初めてだったの』
「ホントに?でも、どうしてボクにキスしたの?」
『あの時はシンジの横顔がなんだかキレイに見えたの。だからかしらね』
「あっ、アスカ」
『でも、コーカイしてるわ。あんたなんかとキスするんじゃなかった。こんなド
 ラマみたいにキスしてくれるわたしの王子様を待てば良かったわぁ』
 くるっ、シンジはテレビに背を向けて、ふたたび包丁をふるいはじめた。
『ちょ、ちょっと、シンジ。まだ、ラブシーンが終わってないのにぃ』
「そんなの知らないよぉ」
『シンジのばかぁ!』

 ジャッジャッ、ジュー
 焼肉の焦げる匂いがする。
『(うーん、いい匂い。それにシンジってやっぱり料理はうまいわね。手際もい
 いし。普段ボケボケっとしてるのにな)』
 小さな肉を一切れつまんで、口に入れるシンジ。
「アスカ、味はいいかな」
『うん、おいしい』
「そう、良かった」
『(なんだか、いっしょにお料理してるみたいね)』
 なんとなく幸せな気分のアスカだった。

「ミサトさん、ご飯できましたよ」
「はいはーい、あれ?三人分作ったの?」
「あっ、そうか?二人分で良かったのか?」
『でも、私たち二人いるんだし、カロリーだって二人分要るんじゃない?』
「どうかなぁ。片方は体動かしてないしなぁ」
「ま、いーじゃない。一人分で足りなければ、その時に食べれば?」
「そうですね」
「で、シンジくんが食べるの?」
「どっちが食べても同じですよ。味覚は共有してますから」
「そうなんだ。じゃ、いただきましょ」
「いただきます」
 ぱくぱく、もぐもぐ……
「なんか、アスカがいないと食卓が静かねェ」
「えっ、いつも通りしゃべってますけど」
『あんたばかぁ?わたしの声はあんたにしか聞こえないのよ』
「あっ、そうか」
「でも、シンジくん、返事してなかったじゃない」
「アスカっていつも一人でしゃべってますから」
「そういえばそうねぇ」
『なによぉ。わたしがまるでばかみたいじゃないの』
「あはは、ごめんよ」
「いない方の声も聞こえるといいのにね。あんたたちどうやって会話してるの」
「さぁ?そういえば、耳から聞こえるってわけじゃないですね」
『頭のどっかから聞こえてくるみたいな感じね』
「あんたたち、心がどこかつながったままなのかしらね」
「でも、なにもかも伝わっちゃうわけでもないですよ。相手に伝えたいことだけ
 です」
「けっこう、便利じゃなーい。離れてもこのまんまだと良いわね」
『(シンジと心がつながってる?あれ?ちょっとうれしいかも……)』
「ええ?アスカの罵声が聞こえっぱなしっていうのも辛いですけどねぇ」
『ばかシンジぃ!どーいう意味よぉ!』
 バキィっ
 シンジの左手がシンジの頬に炸裂した。イスから転げ落ちて目を回すシンジ。
「結局、こうなるのね」
 ミサトは微笑みながら、ごきゅごきゅとエビチュを飲むのだった。

                         <続く
return