【SS】ユニゾン 第3話



 だれもいないキッチン、テーブルの上には食べた後の食器が散在し、2ケタに
のぼるビールの空缶が転がっている。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴン

 静かなキッチンに奇妙な音が響くと、床からゆっくり身を起こすものがいた。
「うーん、あいたたた。シンジを殴ると自分にもダメージがくること忘れてたわ」
 アスカ、まだそんなところに倒れてたのか。
「もう!ミサトったら、居間まで運んでくれればいいのに・・・」
 居間をのぞくと、ミサトは空いたビールの缶を片手に大の字になって寝ている。
そこからは猛烈ないびきが聞こえてくる。

 ぐおおおおっ、ぐおおおおっ

「・・・なんで、加持さん、こんな女が良いって言うのかしら。加持さんといい、
 シンジといい、すぐそばのこんなイイ女に気付かず、変な女ばっかり見てるん
 だから。やんなっちゃう。あ!シンジ、あんた、起きてないでしょうね」
『・・・・・・・』
 シンジの返事はない。まだ気絶しているようだ。
「まだ、起きてないみたいね。そうだ!今のうちにお風呂はいろっと。トイレは
 シンジの係にしとけばいいけど、お風呂はわたしの体で入りたいモンね」
 いそいそと着替えを持って、バスルームに入るアスカ。一応、バスルームの中
の鏡のたぐいを全て取り外す。
「まあ、これで万一シンジが目を覚ましても安心ってモンよね」
 賢いぞ、アスカ。

「ふんふんふんふーん」
 ご機嫌で、泡だらけの体をみがいていくアスカ。長い髪にもよくシャンプーを
馴染ませて、ゆっくりと汚れを落としていく。
 きゅっきゅっ
 蛇口をひねるとシャワーがアスカの全身にかかり、白い泡が流れ落ちる。全て
の汚れを落とすとアスカは言った。
「さーて仕上げだ」
 湯の方の蛇口を止め、シャワーから流れる冷水がアスカの肌をひきしめる。
『(ヒッ、つ、冷たい。なんだ、なんだぁ?)』
 おお、何ということだ。冷水の刺激がアスカの中のもう一つの人格を起こして
しまった。
『(ここは、風呂場?ま、まさか、アスカ・・・裸?駄目だ、起きたことに気付
 かれたら殺される。バレないようにしなくちゃ)』
 アスカが前もって鏡を外していたおかげで、青少年には強烈な光景が目に入っ
てくることは無かったが、それでも、視界の端には悩ましいものがかすめていく。
『(見ちゃ駄目だ。見ちゃ駄目だ。見ちゃ駄目だ。アスカぁ、早く浴槽に入って
 くれェ)』
「さあてと、ゆっくりあったまろうっと」
 シャワーを止めるとアスカは浴槽に入ろうと身をかがめる。しかし、その水面
にはしっかりアスカの全てが映っていた。
『(ブーーー、はらほろひれはれ)』
「あれ?は、鼻血が出てきた。なんで?・・・・・・・シンジ!!」
 アスカは全身真っ赤になって、慌てて浴槽に飛び込むと怒鳴った。
「ぶわぁかシンジぃ!あんた、起きてんのねぇ!」
『・・・・・・・・・・』
「とぼけても無駄よ。さっさと返事なさいってば!」
『・・・はい、起きてます』
「いつから起きてたのよ」
『冷たい水を浴びた時』
「だったら、なんで、何も言わないのよ。あんた、わたしの体、ただ見する気だ
 ったのねぇ。一体、どのくらい見えたのよ」
『あまり、見えなかったよ。鏡も無くなってるし』
「あまり?じゃ、ちょっとは見えたわけよね。それにこの鼻血はなによ」
『し、仕方ないじゃないか。水面に映ってたんだから』
「水面!?・・・・・・う、うわぁぁぁぁん(;_;) 全部見られたぁ」
『あ、アスカ?』
「ひっくひっく、あ、あたし、もうお嫁にいけなぁい。うええええん」
『アスカ、な、泣かないでよ。落ち着いて、アスカぁ』
「うるさい、バカぁ。ひぐっ、えぐっ」

 ヴヴヴヴヴヴヴン

「ああ!戻った。アスカ、ねえ、アスカぁ」
『・・・・・・・・』
「返事してよ。ボクが悪かったから、ねえ」
『・・・・・・・・』
「ごめんよ。もっと早く、起きたの教えれば良かった。でも、アスカを怒らせた
 くなくて・・・」
『・・・・・・・・それだけ?』
「え?」
『それだけなの?』
「それにその、アスカ・・・・・・きれいだったし」
『・・・・・・・・きれい?』
「うん、あまりよくは見えなかったけど、きれいだったよ」
『・・・・・・・・どうしてくれるのよ』
「え?どうしてくれるって何が?」
『あんたのおかげでお嫁にいけなくなったじゃないの』
「そ、そんなこと・・・・」
『責任取ってよね』
「ええっ!?責任って」
『取りあえず、今度の日曜日に水着を買いにいきましょ。お風呂で着るヤツ。も
 ちろん、お金はあんたが出すのよ』
「なんだ。そんなことか。分かったよ。そんなことでいいなら」
『(なんで安心するのよ。この鈍感)・・・その後で、婚約指輪を買いにいきま
 しょうね。マイ ダーリン』
「ななななな、なんだってぇ」
『もうファーストなんか見ちゃだめよ。5m以内に近づくのもダメ』
「あ、綾波は関係ないだろぉ」
『ダーメ、あんたはわたしだけ見てりゃいいのよ。幸せにしてよね、シンジ』
「終わった。ボクの人生はもう終わってしまった。どうしてこうなるんだ・・」
『クスクス。シンジなんかホントはどーでもいいんだけど、とりあえず、キープ
 くんにしといてあげるわ。それでもあんたには幸せすぎるってもんよ』
「どーでもいいなら解放してよぉ」
『ダーメ』

 風呂の中で人生の悲哀を噛みしめたシンジ。泣きながらバスルームから出る。
「アスカの着替えしか無い・・・・仕方ない、部屋で着替えるか」
 体にタオルを巻き付けて、洗面所から出ようとするシンジにアスカは言った。
『ちょっと待ってよ。わたしの着替えも持っていってよ。こんなところに置きっ
 ぱなしにしないで』
「女の子の下着なんか、持っていけないよ。後で自分でやってよ」
『いまさら、シンジに下着を見られたからってどうってこと無いわよ』
「うううっ、男扱いされてない。ボクだって男なのに」
『(そんなこと分かってるわ、ばぁかシンジ)』

『さぁてと、今日は疲れたから、もう寝ましょ』
「そうだね。どっちの部屋で寝ればいいかな」
『あんたバカぁ?あんたの姿で寝るんだから、あんたの部屋でいいのよ』
「・・・分かったよ。もう、そんなにバカバカ言わなくてもいいのに」
『あんたがバカだからよ。そんなことも分かんないの?』
「・・・・・・・」
 シンジはあきらめて、何も言わず、ふとんに入った。
『おやすみ、シンジ』
「うん、おやすみ、アスカ」
 シンジはしばらく目をつぶってじっとしていたが、いつも夜更かししているせ
いかなかなか寝付かれない。
「ねえ、アスカぁ。もう寝ちゃった?」
『・・・・・・・・・』
「寝ちゃったか。まったく今日は大変な一日だったな。アスカはいつも以上にぎ
 ゃあぎゃあ言うし」
 それは違う、シンジ。今日はアスカの被害が君に集中しただけだ。アスカにと
ってはいつもとあまり変わらないだろう。それはともかくシンジの独り言は続く。
「ボクの中にアスカがいるってなんだか変な感じがする。でも、別に嫌じゃない。
 いつもボクを見てくれてる人がいるってちょっと嬉しい。それに合体したのが
 アスカで良かったと思うよ。あははっ、こんなこと、アスカが起きてる時に言
 うと、あんたバカぁ? だろうけどね」
『(ばぁかシンジ。声かけらんなくなったじゃないの。まぁ、わたしもこれがあ
 んたで良かったって思うわ。まぁ、ファーストなんかと合体するよりは、他の
 誰でも良かったけどね)』
「アスカは嫌がるだろうけど、ボクはしばらくはこのままでもいいな。アスカの
 こともっと知りたいし」
『(そうね。しばらくはこれもいいかもね。でも、このままじゃキスもできない
 んだからね)」
「じゃ、おやすみ、アスカ」
『おやすみ、シンジ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・起きてたのぉ!!」
『あっ、しまった』
 最後までやかましく、夜は更けていくのだった。

 ピピピピピ、チュンチュン。鳥の声が窓から聞こえてくる。
『うーん、朝なのぉ。あれ、体がうまく動かない。あっ、そーか。シンジの中に
 いるんだっけ』
 とりあえず、体の主導権をもらおうとしたアスカは下腹部に変な感触を覚えた。
『ん?なにこれ・・・・・・・・ばかシンジぃ!!!!!!』
「わぁ、なんだなんだ。あれ?アスカ、おはよう」
『なにがおはようよ。こ、これはなんなの? このエッチ、ばか、変態、信じら
 んない』
 みるみるうちに真っ赤になるシンジ。
「あ、朝なんだから仕方ないじゃないかぁ」
『なにが仕方ないのよ。この変態。ああ、やだやだ。あんたと一つでいるのもい
 いかな、なんて思ったのはやっぱ気の迷いだったわ』
「ぼ、ボクだって、うるさいアスカなんかと一つになって良かったなんて思った
 のは間違いだったよ」
「『リツコ(さーん)!、早く元に戻してよぉ』」
 チャンチャン。

                         <続く
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