【SS】ユニゾン 第4話


 エヴァ弐号機の二人乗り実験にのぞんだシンジとアスカ。しかし、実験中に起
きた事故が元でアスカはエントリープラグから消えてしまう。状況を聞くために
シンジの病室を訪ねたミサトとリツコが見たものは二心同体となったシンジとア
スカだった。しかし、彼らは平然と状況を受け入れる。それは異常現象に慣れて
しまった悲しい性か、それとも愛ゆえか。それはともかく二人(主にシンジ)の試
練は続くのである。

『ばかシンジ、納豆は止めてよ。どうして、日本人はこんな腐った豆食べるのか
 しら。ほんっと信じらんない』
「うるさいなぁ。納豆好きなんだからいいだろ。ほっといてよ」
『わたしはキライなの!ずえったい、食べさせないから!』
 突然、シンジの腕がひらめき、納豆のパックがまっすぐ窓から飛び出していく。
シンジとミサトは茫然と納豆が消えていくのを見送った。
「あああっ、ボクの納豆がぁ。あ、アスカ、なんてもったいないことするんだよ」
『うるさいわね。あんたが悪いのよ。あんな気持ち悪いもの食べようとするから』
「分かったよ。じゃあ、アスカの好きなもの食べるよ。それでいいんだろ」
『はじめっからそうすればいいのよ!』
 シンジは冷蔵庫にいって、中を物色する。そこで紫色をしたものがシンジの目
に止まった。
「アスカ、ブルーベリージャム好きだったよね」
 シンジは冷蔵庫からジャムを取り出す。
『そうだけど、今日の朝ご飯は和食じゃない?』
「こうするのさ」
 ほかほかご飯にたっぷりとジャムをかけるが早いかシンジはそれを口の中にか
きこんでいった。
『うええええ。な、なに考えてんのよぉ。このバカぁ』
「うぐぐ、こっ、これがアスカの好きな食べ物だろ。たっぷりと味わってよね」
 さらに味噌汁にも、ジャムをどっぷりと入れるシンジ。
『ひーん、や、止めてえ。わたしが悪かったからぁ、シンジ様ぁ』
 半泣きのアスカの声を聞き、ようやくシンジの憂さは晴れたが、すっかり胸焼
けしていた。
「うー、勝ちはしたけど、こっちも被害甚大だな。気持ち悪い」
『ほんとにバカなんだから。うー、気持ち悪くなっちゃったじゃないの』
 そんな二人のやり取りを見ていたミサトはシンジの味噌汁を取り上げるやいな
や、一口すすった。
「ふーん。これがアスカの好きな食べ方なの。けっこう、いけるじゃなーい。今
 度はマーマレードでやってみようかな」
「ま、マーマレード?」
『げ、そこまで、ひどい舌だとは』
 想像してしまった二人は慌てて、トイレにかけこんだ。

 シンジが洗面所でうがいをしていると玄関の方から人の声が聞こえてきた。
「碇君、アスカ、学校行きましょう」
「シンジぃ、学校行くでェ」
 委員長とトウジ、ケンスケが迎えに来たのだ。シンジは慌てた。
「ああっ、委員長達が来た。どうしよう、ミサトさん。学校なんか行ってる場合
 じゃないのに」
 シンジはミサトに言ったが、楽天的な保護者はあっけらかんとして言った。
「別にいいんじゃないの。家にいたって治るわけじゃないし」
「そんなぁ」
 情けない声をあげるシンジにアスカは言った。
『ねえ、シンジ。分かっているとは思うけど、このことは秘密だからね。わたし
 は今日シンクロテストで出かけて、もうここにはいないのよ。いいわね』
「え?なんで、そんな嘘つくのさ」
『あんたバカぁ?一心同体になっちゃったことバレたら、なに言われるか分かっ
 たもんじゃないでしょ。特に相田にはぜったいに内緒よ』
「そうだね。また夫婦だなんだとからかわれるのはゴメンだよね。分かった」
『分かればいいのよ(・・・でも、なんか腹の立つ言い方よね)』

 そういうわけで、シンジは3人に今日はアスカはお休みだと伝えた。
「ほーか、今日は惣流は休みか。静かでええのう」
「まったく、まったく」
『しっかりと聞かせてもらったわ。鈴原、相田、あとで覚えてなさいよ』
 シンジはアスカの物騒なセリフを聞き、青くなって2人を止めた。
「駄目だよ、二人とも。ほ、本人の居ないところで陰口は良くないと思うなあ」
「そうよ。アスカのいないところで悪口言うの止めなさいよ」
 しかし、トウジの反論はシンジの立場まで悪化させる。
「何いい子ぶっとんねん。いつもワイらに愚痴こぼしとんのはシンジやないか」
『ふーん、そういうことぉ。これはぜーんぶ聞かせてもらわないとね』
「えー?例えば、どんなこと言ったっけ?よく覚えてないなぁ」
「(ああっ、く、口が勝手に・・・)」
 怒りゲージの上がったアスカの支配力は口の動きにまで及んでいた。しかし、
トウジはシンジの内部の葛藤には気付かない。
「例えば、世界一のワガママ女だとか、乱暴でガキ大将みたいな女だとか」
「そうそう、意外とおだてに弱くて、誉めると扱いやすくなる単純な女だとか」
「(ひぃぃ、それ以上言わないでぇぇ)」
「ふ・・・ふーん。他には?」
「そやな。あんな食い意地のはった女、他にはいないとか言うとったな」
「性格は陰険、性悪、高飛車で3拍子そろってるとか言ってたな」
「・・・そんなことまで言ってたんだ・・・」
 だんだんアスカの口調が元気の無いものになっていく。
「考えてみりゃぁ、碇が一番好きなこと言ってるじゃないか」
「そやな。センセイに比べりゃ、ワイらはほとんど惣流の悪口は言うてないな」
 シンジはアスカの支配力が消えたのを感じ、小声でアスカを呼んだ。
「あ、アスカ?」
『・・・・・・・』
「ねぇ、アスカ。返事してよ。黙ってないでさ」
『・・・・・・・』
 一方、トウジたちはシンジの声には気付かず、会話を続けていた。
「まぁ、惣流の悪口言うと、いつも碇が鼻息荒くして否定してたからね」
「自分では無茶苦茶言うくせに、人が言うと怒るんやからな」
「なんやかや言っても、惣流にベタ惚れなんだよな。碇は」
『・・・・・・え?』
「せやせや。ほんま、いつも犬も食わない夫婦喧嘩を食わされて迷惑な話や」
「そ、そんなこと無いよ」
 慌てるシンジに比べ、とたんに元気よくなるアスカ。
『ふーん。なーんだ、そういうことだったのぉ。でも、わたしには加持さんがい
 るからなぁ。まぁ、シンジが泣いて頼むなら、付き合ってあげようかなー』
「僕は、アスカのことなんかなんとも思ってないってば」
「ほんと、知らぬは本人ばかりなりってか」
『無理しないでいいわよ。シンジの考えてることなんかお見通しなんだから』
「違うってばぁ」
『ホント美しいって罪よねぇ。またも迷える子羊をつくってしまったわ』
 シンジの言うことをまるで聞かず、暴走を始めるアスカ。しかし、それを止め
たのは意外にも委員長だった。
「アスカだってそうよ。いっつも碇くんの方ばっかり見てるくせに、それを指摘
 すると必死で否定するのよね。ほんと可愛いんだから」
「え?そうなの?」
『ひ、ヒカリぃぃぃぃ。なんてこと言うのよおおおおお』
「そうだな。ホント惣流も分かりやすい行動するよな」
「シンジが綾波とか他の女とかと話してると必ず邪魔するしな」
「そっ、ジェラシー丸出しの顔してな」
「そ、そうなの?」
『あんたらまで、なにを言い出すのよおおおお』
「気付いとらんのはお前らだけや。周り中はみんな気付いとるて」
「くくくっ、でも、こんな話、惣流の前でやったら、殺されるな」
「けけけっ、全くや」
『心配しないでもあんたらは死刑決定よ。今度、わたしの姿で会う時までの命な
 んだから思い残すことの無いようにしておくことね。それよりシンジ!こいつ
 らの言ったこと真に受けるんじゃないわよ。わたしがあんたのこと好きになる
 なんて、天地が逆転しても起きないことなんだから』
「わ、分かってるよ。アスカが僕のこと好きだなんてことあるはず無いもの」
『(・・・・この鈍感野郎!)』

 学校へ着き、シンジが下駄箱を開けるとそこには一通の手紙が入っていた。目
ざとく見つけるケンスケ。
「なんだ、碇ぃ。またラブレターかぁ?」
 なんと、シンジはけっこうラブレターをもらっていたのである。なにしろ、世
界(第3新東京市のみ)を守って戦うヒーローであるし、繊細な顔立ちはなかなか
女生徒たちにウケている。さらには(本人の主張によると)フリー。シンジのこと
(また、アスカのこと)をあまり知らない人たちが目を付けないはずが無かった。
『あんたラブレターなんかもらってたんだ。物好きな人もいたもんね』
 不機嫌なアスカの声にシンジは反発した。
「アスカには関係無いだろ。僕に来た手紙なんだから」
『分かってるわよ。どーせ、わたしには関係ありませんよ。ふんっ』
「どれどれ、えーと大切なお話があるのでHR前に学校裏の樫の木の下に来て下
 さい・・だってさ」
「ああっ、勝手に読まないでよ、ケンスケ」
「そんなことより、早く行かないとHR始まってまうで」
「そうだよ。待ちぼうけを食わせちゃいけないだろ。鞄は教室に持っていってや
 るからさ」
「あ、ありがと。じゃ、行ってくるよ」
「がんばれやあ」
 二人から離れ、学校裏の樫の木に急ぐシンジ。それは中学校に伝わる「伝説の
木」であり、その下で告白すると、その二人は永遠に幸せになれるという。
 シンジはその木の下に女の子が一人たたずんでいるのを見つけた。優しそうな
顔をした少女で、シンジが近づいていくとその娘は嬉しそうに話しかけてきた。
「碇シンジさん、はじめまして。1年B組の間宮ショウコといいます。呼び出し
 たりしてすみませんでした」
「いや、別に気にしなくてもいいよ。それより話って・・・」
「わたしと付き合ってもらえませんか。わたし、碇先輩に憧れてて、いつも先輩
 のこと見てたんですけど、先輩ってなんだか寂しそうにしてて・・・わたし、
 先輩がいつも笑っていられるように、先輩のことを暖めてあげたいなって・・」
 予想通りの愛の告白。しかも、その言葉はシンジの急所を見事についていた。
『シンジ、さっさと断りなさいよ』
 シンジの心がぐらぐらぐらっと揺れているのを感じて、口を出してくるアスカ
にシンジは小声で反論した。
「うるさいな。どうしてこんないい娘を断らなきゃならないのさ」
『あんたバカぁ。あんたはエヴァのパイロットなのよ。しかも、あんたはヘボだ
 から、いつ使徒にやられてお陀仏になるかも分かんないわ。その時、この娘が
 どんなに悲しむと思うの。今のうちに縁を切っておくべきよ』
「そ、それは・・・そうかもしれないけど・・・」
『とにかく断りなさい。それがあんたのためよ』
 内面世界で堂々巡りに入ったシンジが何も言わないので、不安そうな顔でショ
ウコは言った。
「先輩、わたしじゃ駄目ですか。先輩のそばに置いてはもらえませんか」
「えっ?いや、その」
「・・・やっぱりうわさはホントなんですね」
「え?うわさ?」
「はい、碇先輩は、惣流先輩と実は付き合ってるって」
 シンジは慌てて力いっぱい否定した。
「そ、そんなこと無いよ。それは嘘だ。でまかせだ。僕は誰とも付き合ってはい
 ないよ。特にアスカなんか冗談じゃないよ」
 沈んでいたショウコの顔はとたんに明るくなった。
「それなら、わたしと付き合って下さい。お願いします」
「付き合ってるというのは嘘だよ。だって、僕が土下座して必死でお願いしてる
 のにアスカさまは僕のことなんか相手にしてくれないもの」
「へ?」
「僕の心はとっくにマイ・スイートエンジェル、惣流アスカラングレーのものな
 んだ。悪いけど君が入り込む余地はこれっぽっちも無いんだよ」
「(ああああああっ、またアスカが僕の口を勝手に動かすぅ。何を言うんだよぉ。
 止めてくれぇ、アスカぁぁぁ)」
 呆然と見つめるショウコの前でシンジ(の体)はどこか遠いところを見つめて、
叫びはじめた。
「おおっ、我が愛しのアスカさまぁ。アイ・ウォンチュー!アイ・ニーヂュー!
 この碇シンジ、あなたのためなら千回でも死ねます。どうか犬と呼んで下さい、
 アスカ女王さま。L・O・V・E・A・S・U・K・A・ラブアスカぁぁ!」
 いつの間にか、その場からショウコの姿は消え、一人でアスカラブラブ音頭を
踊り狂うシンジの姿だけが残された。

「なにやっとるんや。あいつ、とうとう頭がおかしくなってまったんか」
「・・・・・・これはスクープだ」
 このことで、告白シーンを記録に収めようと後をつけてきた2人とシンジの間
に深いみぞができたかどうかはさだかではない。が、少なくともアスカの下僕と
しての調教が一歩進んだのは確かである。


                         <続く
return