開けて・・・

 

れは私が祖父から聞いた話しです。
祖父は昔、ある中学校で用務員をしていました。昔の事で、祖父は用務員室に止まる事もあったのだそうです。すでにそのとき六十歳を過ぎていましたから、そろそろ退職しようと考えて入たそうなのですが、引き継げる人がいなかったため、続けていたのでした。
その学校には、夜になると「出る」と言ううわさがありました。
先生たちでさえ、帰る時には、祖父に向かって、「夜中はあまり校舎の中を歩かない方が良いですよ、気をつけてくださいね」と言ったそうです。しかし、祖父はそんな話しは笑って聞き流していました。
そしてある日の事です。
学校中の人が帰ってしまったあと、祖父は校舎の戸締りをしてまわりました。古い木造の校舎で、立て付けの悪い窓もあり、ときどき、思いきり力を入れないと閉まらない箇所もありました。
1時間くらい掛かって見まわりをすませた祖父は、用務員室で夕食をすませ、テレビを見ていたそうです。
すると、校舎の方から「ガタガタッ」と大きな音が聞こえてきました。耳をすませましたが、それは一回きりで、後はシーンと静まり返っています。
もう午後十一時を過ぎ、誰かが戻ってくる時間ではありません。もしかして泥棒かと思った祖父は急いで校舎に向かって見る事にしました。
誰もいない真っ暗な校舎の廊下は、一歩歩くたびに「ギシギシ」と君の悪い唸り声をあげます。一回を点検し終わり、二階に行きました。と、そのとき、冷たい風がスッと窓から入ってきました。祖父が風の入ってきた教室の中を見ると、窓だけ一つ開いていたそうです。
「閉め忘れたか・・・・・・」
独り言を言いながら、祖父は窓のそばに行きました。
そして、窓に手をかけたのですが、立て付けが悪いのか、なかなか閉まりません。力いっぱい引っ張ると、窓は鈍い音を立て、やっと閉まりました。
「やれやれ」
ため息をつきながら、教室を出ようとした時、祖父の背後から奇妙な音が聞こえてきました。
「コツコツ・・・・・コツコツ・・・・・」
それは、まるで誰かが指の先で窓をたたいているような、祖父に向かって合図を送っているような音だったそうです。驚いて振り返ってみると、さっき閉めたはずの窓が、また開いています。
祖父は勇気を振り絞って窓のそばに立ったのです。そして、窓辺に手をかけたとたん、その場に凍り付いてしまいました。窓の外にセーラー服姿の女の子がいて、祖父をにらみつけながら窓を引っ張っていたのでした。女の子は、髪も服もびしょ濡れでした。
祖父は心の中で懸命にお経を唱えながら、廊下まであとずさりすると用務員室に駆け込み、しっかり鍵をかけました。ところが、しばらくすると、今度は「コツコツ・・・・・コツコツ・・・・」と、用務員室のすりガラスを指で叩く音が聞こえてきます。そして、やがてそれは小さな声に変わりました。
「・・・・・開けて・・・・・開けて・・・・・」
その声はまるで催眠術者の声のようで、聞いていると、つい開けたくなってしまいそうな不思議な力があったそうです。祖父は鍵を外してしまいたくなるような誘惑と懸命に闘いました。
祖父は耳をふさぎ、目を堅く閉じたまま、お経を唱えつづけ、しゃがみこんでいましたが、声はだんだん大きくなってきます。
「開けて・・・・・開けて・・・・開けて!」
もう気が変になりそうです。
我慢できなくなった祖父がふと目を開けると、急に目の前に女の子の顔が大きく浮かび上がったかと思うと、
「開けろって言ってるだろ!」
という男のような太い声とともに、祖父の首に冷たい指が絡み付いて、強い力で締めはじめました。
「きみは・・・・いったい・・・・」
祖父が苦しい声をあげた時、窓の外から朝日が差し込み、そのとたん、女の子の姿は消えていたそうです。
その日、祖父はいちばん古くから学校にいる先生から、昔、理由もわからず入水自殺をした女の子がいたという話しを聞き、その日のうちに辞表を出したそうです。

 

 

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