僕と同棲する女は誰?
「おまえ、いつのまに女と同棲してたんだよ」
友人から突然そういうことを言われたとき、僕は驚いてしまいました。
僕は否定しましたが、友人は信じてくれません。その友人は、バイト先のレストランバーが僕のマンションの近くにあったので、僕の部屋の前をとおることが多く、そのとき、窓に女の影が映っているのをよく見かけると言うのです。
「俺の部屋じゃないよ、それは。おれ、女なんか連れこんでないって」
数日後に、僕は他の友人に同じようなことを言われました。
やはりマンションの前を通りかかったときに、同じように女の影が窓に見えたと言うのです。そのときは、部屋の中で洗濯物を干していたのだそうです。
そもそも、僕は恋人いない暦半年。半年前まで付き合っていた恋人にも、洗濯など一度もしてもたっらことはなかったので、どちらもかわいい恋人がしっかちいる友人たちにそんなことを言われると、不思議であると同時に、とても悔しい思いをしました。
ところが、僕自身も最近、確かに妙な体験をすることが多くなってきました。
ある夜、何かの物音で目を覚ました僕は、浴室で誰かがシャワーを使っているような音を聞いたのです。
浴室へ見に行くと、やはりシャワーのお湯が出しっぱなしになっていました。
さっきまで誰かが使っていたような雰囲気で石鹸の泡が床や壁についています。
(なんだよこれ、誰かが入ってたみたいだな・・・でも、まさかな・・・)
シャワーを止めながらふと排水溝を見ると、そこに約30センチくらいの長い髪の毛が落ちていることに気がつきました。僕の髪の毛は、十センチほども無い短いものだったので、明らかにそれは他人の髪の毛です。
僕は、しゃがみこんでその髪の毛を指先で摘み上げました。排水溝をよく見てみると、その長い髪の毛は何本もありました。
「おいおい、冗談じゃねえよ・・・いったい誰のだよ、これ・・・」
僕は、そう声に出して喋り、怖さを紛らわせようとしましたが、浴室に声が大きく響いたので、よけいにゾーッと恐怖が背筋に這い上がってきました。
ごみ袋にその毛を捨てながら、友人たちからは窓に女の影が映るといわれるし、浴室には女の髪の毛が落ちていたりするし、この部屋はもしかして何かに呪われているのではないか、でなければ、女の霊でも住み着いているのではないかと心配になりました。
しかし、それから数日間は特に気になるようなことは何も起きませんでした。
窓にも女の姿は映らなくなり、僕の恐怖心も次第に薄れていったのです。
さすがに、シャワーを浴びているときには、排水溝が目に入るたびに、長い髪が落ちていたことを思い出して、ゾクッとすることはありましたが、それも何日かすると、あれは気のせいだったのかもしれないと思うようになりました。
ところが、そんなある日のこと・・・。
大学の仲間とテニスをした後に、少し飲みに行って、夜遅く帰ってきた僕は、もうかなり酔っていたし眠かったので、歯を磨いて寝ることにしました。
そして、ふと洗面所の鏡を見たときです。僕は衝撃のために、思わず歯ブラシを口から落としそうになりました。
自分が映っているはずの鏡に、まったく知らない女性の顔が映っているのです。
少しやせ気味の神経質そうな女の顔は、ただ黙ってこちらを見つめていました。
僕は驚いて、歯ブラシをくわえたまま自分の手や身体を見てみましたが、どう見てもそれは自分自身の手と身体です。しかし、鏡の中には見ず知らずの女性が立っていてこちらをじっと見つめているのです。
手や肩がわなわなと震えだし、半開きの口からポトリと歯ブラシが床に落ちました。
鏡の前から逃げるように部屋に戻った僕は、部屋の中でも、ガラスや金属の表面などに、すべて自分ではなくその女性の姿が映っているのに気づきました。
本棚のガラス、消えているテレビ画面、窓ガラス、ラジカセの金属部分、目覚し時計の表面、どこを見ても、その女性がこちらをじっと見つめています。
恐ろしさで足がガクガクとなり、たっていられないような状態でしたが、必死にその部屋から逃げ出そうと、椅子やテーブルにつかまりながら、玄関のほうへ行きました。ところが、そこで、僕は恐怖のために、その場にヘナヘナと坐りこんでしまいました。
玄関のドアの前に、その鏡に映っていた女性がこちらを向いて立っていたのです。
まるで、玄関から外には出さないわよといっているような表情で・・・。
床にしゃがみこんだ僕は、どうすることもできずに、目を硬く閉じました。
そして、再び目を開けたとき、その女性の姿はどこかに消えてしまっていました。
這うようにして部屋に戻った僕は、あちこちのガラスに映っていた女性の姿も消えて無くなっていることに気づいて、ホッと全身の緊張が解けるような気がしました。
僕は、翌週には、別のマンションに引っ越しました。
引越しするときに、僕はそのマンションの管理人に、なぜ自分の部屋でそんなことが起こったのか訊いてみましたが、管理人もそんな話を聞いたのは初めてだ、理由もよくわからないと言いました。
その後、その部屋に新しい住人が入ったかどうかは知りませんが、バイトのためにときどきそのマンションの前を通る友人によると、いまでもたまにその女性の影が動くことがあるそうです。