風呂場に現れる女
貸家アパートを借りたOLの話。
彼女は引越しして二日たって、奇妙なすすり泣きに気がついた。風呂場だ!風呂場から、すすり泣く女性の声がするではないか。それも自分の家の風呂場なのだからたまらない。恐怖におののいた彼女は、その夜、布団をかぶって過ごした。
すすり泣きは、次の日にも起こった。決まった時間になると、すすり泣く声が聞こえる。そして不思議なことに、そのすすり泣きを聞くと、彼女はなぜか、ふらふらと風呂場の前に来ているのだった。はっと我に返ると風呂場の前。
たまらなき恐怖にかられた彼女は、また一目散にベッドのある部屋に戻ると、また布団をかぶって一晩を過ごした。
次の日また、すすり泣く声がする。どういうわけか、吸い寄せられるように彼女は風呂場の前に来てしまう。そして、はっとなると、今度は風呂場のドアに手をかけていた。
「きゃぁっ!」
自分の不可解な行動と恐怖で、思わず叫んだ彼女だったが、次の瞬間、自分の意思とは関係なく、手が勝手に風呂場のドアを開けようとしているではないか。
「開けないで!」
そう思ったが、手はゆっくりとノブを回し始めている。ドアは開いた。
が、そこには何もなかった。ただいつもの風呂場があるばかり。彼女は風呂場の電気をつけ、浴槽の中も見てみたのだが、何もなかった。
ほっとした、次の瞬間だった。
「シクシクシク・・・・」
彼女はギョッとした。
風呂場を覗く自分のすぐ真後ろで、すすり泣く声が聞こえるではないか。
「ひっ」
彼女がはじけるように振り向くと、そこには自分と同じ年頃の女性が、髪をバサバサに伸ばして立っていた。女性は恨めしそうな表情をこちらに向けたまま、額から血を流して立っていた。その目は切なく悲しげな、なんともいえない視線を送っていたという。
彼女は気絶した。気がつくと朝になっていた。風呂場の床に倒れたまま目を覚ました。
額が痛い。ぶつけたのだろう。洗面所に立って鏡を覗く。すると昨日見た幽霊と同じところから血が出ている。
「やだ」。そう思ったときだった。
鏡の奥に、恨めしそうな視線を送る昨日の霊が映っているではないか。その霊は、鏡越しに彼女を見ると、ニッと不気味な笑みをこぼし、「私と同じ・・・・」といったそうだ。
半狂乱寸前になった彼女が、その日のうちに引っ越したのはいうまでもない。